第52話 聖女の聖夜を予約させていただきます!
「俺、義姉の聖夜の予定をもらいます……!」
俺は一種の覚悟を持って宣言した。
こうやってシスターさんに言っておくことで、自分が尻込みしないように逃げ道を塞いでおくする目的もある。
「え、えと……本気、ですか……?」
「もちろん」
「そ、そうですかぁ……ふ、ふぅん……なるほどぉ……」
カーテンで覆われた格子状の壁の向こう側からシスターさんの動揺が伝わってくる。
無理もない。
まずは陽葵にただの家族じゃなくて一人の男子として認識してもらおうとして、これまではさりげないアプローチ方法を一緒に考えて実行してきた。
正直、それなりに手応えはあったと思う。
褒めたり頭を撫でたりすれば嬉しそうにしてくれたし、不意に手を取ったり軽いスキンシップを試みれば恥ずかしそうにしながらも拒絶する素振りはなかった。
少なくとも、一般的な姉弟間のやり取りでは見られない表情を引き出せるようになっているとは思っている。
しかし、距離感はつかず離れずの曖昧なもの。
このまま思わせぶりな態度を続けていても、明確にこの恋心を陽葵に伝えることは出来ない。
だから――――
「多分、もう薄々俺の気持ちに気付いてるかもしれない中で、俺が露骨にイブの予定をくれって言ったら、流石に確信されると思うんですよ。『あぁ、やっぱり私のこと異性として好きになっちゃったんだな』って。でも、それでいい」
やれることはやった。
もし今までのアプローチで俺をまったく異性として見ることが出来なかったなら、これからも続けたところで意味はないし、既に異性として見られる域に達しているなら、勝負時だろう。
「俺の気持ちを知ってもらって、異性として付き合えるのか、それともやっぱり家族以上には見られないのか……確かめます」
「泣いても笑っても、と言うやつですね?」
「泣いたときは慰めてください」
「あらあら、女に泣かされた途端他の女に泣きつくつもりですか?」
くすくす、と笑いながらからかってくるシスターさんだったが、ちょっとその指摘は刺さるものがあるので笑えない。
「だって、前に失恋したら一生支えてくれるって言ったのはシスターさんですよ?」
シスターさんに陽葵へのこの恋心を懺悔しに来たとき、確かにそう言われたことを俺は忘れていない。
あと、シスターさんに実は意中の相手がいることと、それを聞いて何だかショックを受けてしまったことも忘れない。
「確かに言いましたね。えぇ、もしそうなったら迷える子羊くんを一生支えてあげますよ。神に誓います」
「神はその誓いをお認めになるでしょうか」
「さて、子羊くんが直談判すればもしかすると?」
「父なる神、シスターさんをボクにください!」
「きちんと本命の相手と決着をつけてからじゃないと、天罰が下りますよ?」
それは怖い、と俺とシスターさんは壁越しに笑い合った。
「ですが、子羊くん」
「はい?」
「お姉さんのイブの予定が空いていることを前提に話が進んでいたのですが……その辺りは大丈夫なのでしょうか……?」
「……あ」
かんっぜんに、失念していた。
俺と違って陽葵は交友関係も広いし、生徒会活動やボランティア活動で忙しい。
流石にクリスマスイブやクリスマスに生徒会があるとは思えないが、友人間で集まって遊んだり、何かクリスマスイベント関連のボランティアをする可能性は充分あり得る。
「と、取り敢えず、家に帰って来たら確認してみます。ま、まぁ、大丈夫ですよ! ハハハ……!」
◇◆◇
「ご、ゴメンね、司くん。その日はクリスマスイベントのボランティアがあるんだぁ……」
はい、この通り。
全然大丈夫じゃなかった。
ハハハ……!
「そ、そっか……そっかぁ……」
あ、あれ?
結構覚悟を決めていた反動か、想像以上にダメージがデカいぞ?
無理矢理に口角を吊り上げるのが精一杯で、多分全然笑えていない。
そんな俺の様子を見た陽葵が、慌てて顔を覗き込んでくる。
「あっ、でもでもイベントは夕方までだから、それからで良かったら空いてるよ? ちょっと遅くなっちゃうかもだけど……」
「け、けど、ボランティアしたあとにって疲れないか?」
確かにクリスマスイブという特別な日に想いを伝えたい気持ちはあるが、陽葵に無理をさせてしまうのは嫌だ。
予定とは少し違うが、また別の日にでも改めて時間を取ってもらうことにしようかと考えたが…………
「ううん、大丈夫だよ。そんなに大変なお仕事じゃないし、それに……」
陽葵は横髪に手櫛を通すようにサッと掴むと、気恥ずかしそうにはにかんだ。
「このあと司くんとお出掛けするんだって思ったら、ボランティアももっと頑張れると思うから」
「そ、そうか……?」
「うん」
こちらに気を遣って無理をしているということではなさそうだった。
屈託のない笑顔。
多分、俺と出掛けられるのを本心で楽しみに思ってくれているのだろう。
もし告白に失敗すれば、こんな表情をもう向けてもらえることはなくなるのだろうか。そう考えると物凄く怖くなる。
しかし、それでも俺は想いを伝えると決めた。
こんな可愛らしい表情が、今後俺にだけ向けられる表情であってほしいと思ってしまったから。
「ちなみに、さ。司くん」
「ん?」
「どうしてその日か、聞いて良い……?」
「……っ!?」
小首を傾げた陽葵が琥珀色の瞳で真っ直ぐ見詰めてくる。
こちらを探るような、それでいて何かを期待するような表情に、俺は指数関数的に心拍数を跳ね上げていった。
制御不能な震えを起こす唇でまともな言い訳を返すことなど出来るワケもなく、動揺を隠すために顔を背けるので精一杯だった。
「き、聞いたらダメだ……」
「……ふふっ、そっかぁ。ダメかぁ」
陽葵は追及することはせず、可笑しそうに目を細めていた――――




