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【懺悔室のシスターさん】に悩み相談すると決まって聖女な『義姉』が全肯定で甘々に甘やかしてくるけど、俺はその理由をまだ知らない~スクールカースト最底辺からのやり直し~  作者: 水瓶シロン
第五章~筒抜け恋愛相談編~

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第50話 変なところで張り合おうとするんだから……

「あぁ、なるほど。それでこうなるのか……あ、だったらここの立式も同じ要領で……」

「うんうん、流石司くんだね。一回基礎を理解したらそこからはあっという間に応用出来ちゃうなんて~」


 凄いね~、と優しい微笑みを浮かべる陽葵にポンポンと頭を撫でられる俺は今、寝る前に陽葵の部屋で数学の参考書でわからなかったところを教えてもらっていた。


 こうやって褒められるともちろん嬉しいのは嬉しいが、それ以上に気恥ずかしいのと、やっぱりどこか年下扱いされていて男子として見られていないように思えて悔しくなってしまう。


「ま、まぁ、それは陽葵の教え方が上手いから……」


 そう答えながら、俺は居たたまれなくなって陽葵の手から逃れるように頭を傾ける。


 陽葵はクスッと笑うと、俺の頭を逃した手を引っ込めて頬杖をついた。


「聖先輩、じゃないんだぁ?」

「うっ、まだご機嫌斜めなのか……?」

「さぁー?」


 学校での先輩後輩関係の徹底。

 俺が天羽と密着したこと。


 それらのせいでしばらく拗ねていた陽葵だったが、てっきりもう機嫌は直してくれたんだと思っていた。


「な、何度も説明したけど、別に呼び方や話し方を変えたからって距離置いてるワケじゃないし、天羽とのこともあれは状況的に必要だったからで……」

「……ふふっ、ゴメン。わかってるよ」


 焦って説明を重ねた俺が馬鹿みたいだ。

 陽葵の顔には悪戯っぽい微笑みが浮かんでおり、からかっていたんだと見てわかる。


「でもまぁ、ちゃんとご機嫌は取ってほしかったなぁとは思ってるけどぉ……」


 唇を尖らせてボソッとそう呟いた陽葵だったが、すぐに困ったような笑みを作った。


「あぁ、ううん……今のナシナシ。凄く面倒臭いこと言っちゃったぁ~、あはは……」

「いや、別にめんどくさいとかは思ってないぞ?」


 俺の言葉に、陽葵が「そ、そう……?」と意外そうに琥珀色の瞳を丸くして瞬きする。


 陽葵が思わず呟いてしまったその言葉こそが本音なのは間違いなだろうし、それを言ってしまうことで俺にどう思われるかを気にして誤魔化そうとしたこともわかる。


 もちろん俺はそんな陽葵の本音を面倒臭いとは思わないし、それどころか――――


「可愛いとしか、思えない……」

「か、かわぁっ……!?」


 ボンッ、と実際に音こそ鳴っていないが、爆発したかと錯覚するように陽葵の顔が赤くなった。


 ただそれは決して他人事ではなく、俺は俺で恥ずかしことを言ってしまったという自覚はあるので顔が熱くなってしまっている。


 だが、恥を忍んででもここは言いたい。

 いつまでも義姉弟という間合いを超えることに尻込みしてはいられない。


「拗ねてる陽葵も可愛いし、本当はしてほしいことがあるのにそうやって誤魔化して隠そうとするのも、凄く可愛い」

「ちょ、わ、わかった! わかったからぁ……!」


 陽葵は亜麻色の髪を両手でわしゃっと掴んで、紅潮した顔をちょっとでも隠そうとするように持ち上げた。


 ふぅ、と呼吸と精神を落ち着かせるように細く息を吐いた陽葵が、恨めしげに見つめてくる。


「急にそんなこと言って……司くんは、私を羞恥死させるつもりなのかなぁ……?」

「思ったことを言っただけだな」

「ふ、ふぅん……思ってるんだ……?」

「思うだろ、普通」


 沈黙、沈黙、沈黙。

 テーブル越しに、顔を真っ赤にした二人が向かい合っている構図。


 な、何だこの状況。

 居たたまれなさすぎる……!


 勉強も教えてもらいたいところはもう教えてもらったし、今日はこの辺にしておこう。


「……じゃ、じゃあ俺、そろそろ部屋戻って寝るから――」

「――ま、待って?」


 テーブルに開かれていた参考書とノートを閉じた俺の手の上に、陽葵がそっと手を重ねてきた。


 触れ合った陽葵の手は、やけに熱かった。


「私のご機嫌、取らずに帰っちゃうの……?」

「えっ……」

「それともやっぱり、面倒臭い?」

「いや、それはないけど……」

「ふふっ、良かったぁ」


 陽葵は安心したようににへらと笑うと、立ち上がって自分の隣を指し示した。


「陽葵?」

「司くん、ここに立って?」

「あ、はい……」


 俺は何をさせられるんだ?

 よくわからないが、取り敢えず言われた通り陽葵の隣に立つと、互いに向かい合った状態になる。


「これで良いのか?」

「う、うん。良い感じだよ? じゃあ……」


 陽葵が両手を持ち上げたかと思うと――――


「えいっ……!」

「んなぁっ!?」


 ぎゅうぅ~! と、正面から陽葵が突然抱き付いてきた。


 俺の背中に回された腕にはそれなりに力が入っていてそう簡単に脱出は出来ないし、それだけ陽葵の身体が俺の身体に密着しているので、女性的な膨らみが確かな存在感を訴えてくる。


 天羽のときと同じような格好になってはいるが、何せ俺も陽葵も着ているのは制服ではなく寝間着。


 当然制服と比較して布も薄く、その分身体の凹凸や柔らかさ、体温などがありありと伝わってくる。


 おまけにふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐってきて、気が気ではない。


「ちょっ、ひ、陽葵……!?」

「うぅっ~! 持ち上がらないよぉ……!」

「……ほえ?」


 陽葵は先程から必要以上に力を入れて俺を抱き締めている。


 どうしてだろうとは思っていたが、なるほど。

 陽葵はハグがしたいのではなく、天羽がしていたように俺を持ち上げてみたかったのか。


「って、いやいや。別にそんなところで張り合わなくても……」


 陽葵には陽葵の得意や強みがある。

 それは確かに天羽とは異なる部分かもしれないが、だからといって比較して優劣をつけられるものでもない。


 というか、そんなことより。


「ひ、陽葵、そろそろ……」

「う、うぅ……!!」


 すでに密着している状態であるにもかかわらず、更にグイグイと身体を近付けてくる。


 頑張って持ち上げたいのはわかるが、そのせいで変に身体同士をくっつけたまま擦っているような具合になってしまい、何と言うか……大変よろしくない。


 そろそろ俺も腰を引いてスペースを確保しないと危ないかもしれない。何がとは言わないが。


 だが、陽葵に諦める素振りはなく――――


「仕方ない、かっ……!」

「えっ? ひゃあっ……!?」


 俺も陽葵に腕を回した。

 片方の手は背中に、もう片方は膝の裏に。


 そのままグルンと陽葵の身体の向きを変えるようにして、横抱きに抱え上げた。


「つ、司くん……!?」

「陽葵じゃ俺を持ち上げられそうにないからな」


 いや、陽葵に限らず女子なら普通不可能だろう。

 あれは天羽がおかしいのだ。


 陽葵は突然抱え上げられてビックリしたようで、赤くなった顔に真ん丸の瞳を二つ作っている。


「お、重くない……?」

「筋トレしてて良かったぁ~」

「もぉう、イジワルだなぁ」

「あはは、冗談冗談。ゴメンって」


 とはいえ、ある程度身体を鍛えていないと人間一人を抱き抱えるのは難しいのは確か。


 陽葵が同性代の女子と比較して特別体重が軽いということなら話も変わってくるが、いくら細身とはいえ健康的に生活しているわけだからそれなりだ。


 まぁ、引っ込むところは引っ込んでいても、出ているところが出ているのだからその分重さが増すのは必然か……っと、いかんいかん。煩悩退散。


「陽葵ももう寝ような」

「うん……」


 俺は横抱きに抱えた陽葵をベッドの上へ静かに下ろす。


 よくよく考えてみれば、いかにもこのあとに何か始まりそうな導入に見えなくもないが、流石に何もしないし、実際は導入ではなく一日の締め。


「ありがと、司くん……」

「んじゃ、おやすみ」

「うん、おやすみ……」


 陽葵は俺が部屋を出るまで目で追っていた。


 自室に戻ってきた俺はさっさと寝てしまおうと布団を被ったが、少なくともまともな夢が見れそうな精神状況ではなかった…………

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