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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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31. 青天の霹靂

ストレス回注意です。

ドレスケル先輩による“呼び出し”事件から一ヶ月ほど経った。

週の初め、“月影(ネフラト)の日”の二時間目は国際礼法の時間で、中等部三年の生徒が教室に集まっていた。


事件の後、なぜかドレスケル先輩は驚くほど大人しくなり、リュカや他の生徒に対しての態度が少しだけ丁寧になった。

他の先輩達によると「心境の変化があったのだろう」とのことで、とりあえずリュカとしては一安心である。


(・・・武術クラスの人達、みんな優しくなったなぁ)


元々仲良くしていた先輩達以外も、なんだかあの事件以降、妙にリュカに優しくなった。


武術クラスだけではなく、他の授業のノーア貴族生徒達もおおむね優しくなって、今では何かと授業のことを質問してくるようになった。

リュカとしてはありがたいので、魔法の情報提供をしたりして、なるべく仲良くなろうと頑張っている。


(・・・またこの人と同じグループか・・・)


ただ、どうしても仲良くなれない生徒はいる。

その中の一人が、キャサリン・セルウィックだった。


礼法に則ってお茶を飲みながら談笑するはずの時間も、彼女と同じグループだといつも台無しになる。


新興貴族を含む下級貴族達のリーダーである彼女は、ユミア王女の側近の一人でもあり、たとえ礼法の授業中であっても、リュカに対する敵対的な態度を一切変えようとしない。


しかも、上位貴族のように無視したり遠回しに嫌味を言うのではなく、明らかに悪意のある言葉を全力で投げつけてくるのだ。


「見た目を取り繕っても所詮は異種族・・・礼法を身につける知性もないようですわね」


例えば、今のように。


彼女はノーア貴族達によるアランへの囲い込みがリュカのせいで失敗したと思っており、そのことでリュカを恨んでいるらしい。

リュカからすると、見当違いもいいところなのだが。


(そういうあなたこそ、王女の側近なのに礼法をわきまえた話し方もできないのですか・・・なんて言ったらダメだよねぇ・・・)


国際礼法の授業では、新年度の最初にまずテストがあり、国際礼法ーー国同士が交流するために定められた、世界共通の礼法を身につけていると判断された者は、そのまま単位取得が認められ、以後の授業を免除される。

中等部三年でいえば、アランやセレス、フィリア、それにユミア王女やチャールズなどが既に単位を取得していた。


「どう足掻いても、生まれの違いは変えられないのではなくって?

やはり、お前などイールワード様にはふさわしくありませんわ!」


こうして授業を受けている時点で、国際礼法が身についていないのはお互い様のはずなのだが、それでもこうしてリュカを見下してくる。

彼女の発言には他の生徒も困惑しているし、これを笑顔で流していると、どちらが貴族だという気になってくる。


そのうえ、セルウィックは妙にアランと親しいようなアピールが多いので、余計に腹が立つ。

アランに誰がふさわしいかなど、決めるのは彼女ではなくアラン自身だろうに。


(・・・ふさわしくないことくらい、私だってわかってるよ)


他にもセルウィックは、リュカとアランが小訓練場で二人で特訓していたことで妙な噂が広まった時には「イールワード様はお前とは何ら特別な関係ではないと仰せだったわ!」と、わざわざリュカに言いに来たりしている。


もちろん現実はその通りなので「そうだよ」と流すのだが、特別な存在になりたい身としては胸が痛むし、非常に腹も立った。


(・・・でも、この人、ちょっと話が大げさというか・・・)


先日「お前なんて、アラン様が異種族の手懐け方を示すためのサンプルでしかない」などと言ってきたのには、さすがに「何言ってるの?」と思わざるを得なかった。


アランと自分は特別な関係でこそないが、それなりに信頼関係のある、仲の良い友人ではあるはずだ。


「最近は先輩方に優しくされてつけ上がっているようですけれど、皆様がお前に優しくするのは情報を得るためですわ。魔法についての情報がなければ、誰がお前などに構うものですか!」


セルウィックはまた、リュカが密かに気にしているところを突いてくる。

耳も心も痛い言葉だった。


ノーア貴族達が急に優しくなり、教師からの「特別生ならこのくらいできるだろう?」という圧力も減った理由は、きっとそんなところだろうと思ってはいたのだ。


「・・・では、セルウィックさんだけは、私から情報を取らなくてもいいんですね」


つい、ポロッと言い返してしまったが、効果は抜群だったらしい。


セルウィックは顔を真っ赤にして、鬼のような形相でこちらを睨みつけてきた。

先ほどまではギリギリ談笑のていでいたのに、もうそれすら保てなくなったらしい。


周りの生徒達が顔を逸らして肩を震わせているが、あれはひょっとしたら吹き出すのをこらえているのかもしれない。


礼法の時間にその顔や態度でいいのか?と追い討ちをかけたくなったが、そこへちょうど教師がやってきた。


「セルウィックさん、表情の管理がなっていませんね。まずは二分の笑みから、友好的な表情を心がけてください」


セルウィックは教師が来ても表情を取り繕いきれなかったらしく、そのまま指導されている。

いい気味だ、と思ってしまう自分は心が汚いだろうか。


教師が去った後、黙り込んだセルウィックはとりあえず放っておいて、他の生徒と談笑し、そのまま国際礼法の時間は終わった。


(レイとメイは・・・あ、こっちに来るかな)


別のテーブルにいたレイとメイがこちらに来るのを待っていると、ずっと黙っていたセルウィックがふと、こちらに近づいてきた。

なんだか目つきが暗い。


「いいことを教えてあげますわ。お前の大好きなイールワード様が、誰をお慕いしているか」


また妙なことを言い出した彼女に、うろんげな視線を向けてしまうのも仕方ないと思う。


まさか、アランはセルウィックのことを好きだとでも言うのだろうか、とリュカが眉をひそめていると、彼女の口が裂けるように弧を描いた。


「イールワード様はもう何ヶ月も前から、ユミア様とデートを重ねていらっしゃるの。お二人は相思相愛の仲なのよ」

「はぁ?」


一体この人は何を言っているのか。

すっかり呆れ果てて、レイ達の方に向かおうとすると。


ーー真っ青になったレイの顔が、目に飛び込んできた。


(・・・・・・え?)


「お二人は毎週太陽(ザフラト)の日に、王都のカフェ『共存派』で密かに逢瀬を重ねていらっしゃるの。

毎回イールワード様が、私達側近の分まで奢ってくださるのよ」


セルウィックが言葉を重ねるたびに、なぜかレイの顔色が悪くなっていく。


(太陽(ザフラト)の日・・・まさか、本当・・・なの?)


「イールワード様がユミア様をエスコートする際なんて、いつも親しげに身体を寄せ合って、見ている方が恥ずかしくなるくらいですわ。

あのイールワード様も、ユミア様にはとろけるような笑顔をお向けになるのよ。知っていて?」


瞳をギラギラと光らせ、勝ち誇るように言うセルウィック。

こんな言葉も、いつもであれば一蹴するのだが。


(エスコート・・・とろけるような、笑顔?)


リュカには武術指導で触れることすらもしなくなったのに、ユミア王女のことは親しげに身体を寄せ合ってエスコートしているという。


それに、とろけるような笑顔とは。

自分の知らないアランの姿を想像しようとするが、全く想像がつかなかった。


リュカといる時のアランは大抵穏やかな無表情で、たまに微笑んだり笑ったりはするし、時々視線に熱さを感じる気がすることもあるが、「とろけるような」なんて言葉が似合うほどの表情は・・・。


むしろ、最近は・・・。


「昨日のデートではついに婚約が決まったとして、イールワード様からユミア様に記念の品が贈られましたの。

イールワード家とノーヘイン王家の親交の証として、お手元に置いていただければ・・・なんて表向きは仰っていたけど、どう考えてもユミア様への溢れる想いが込められたお品でしたわ。

ユミア様の瞳を忠実に再現された、それはそれは美しいフォレストグリーンの()()()でしたのよ!」


何かで頭を殴られたような衝撃だった。


アランが、誰に、何をプレゼントしたと?


ーー組み紐?


セルウィックが組み紐のことを、知っていて。

しかも、ユミア王女にわざわざ言及している。


さすがにーー嘘とは、思えなかった。


「ちょっとあんた、さっきから何をごちゃごちゃと

「言ったでしょう?お前なんて、イールワード様がユミア様に異種族の手懐け方をお教えするための、サンプルに過ぎないと!」


メイの言葉を遮って、セルウィックが吼えた。


「せいぜい泣き喚いて、イールワード様にお縋りなさいませ!

お二人とも寛大ですから、お前に利用価値があれば、愛妾にくらいはして下さるかもしれなくてよ!!」


そこまで言い切って、セルウィックは荒々しい足取りで去って行った。


呆然とその場に取り残されたリュカが、何か知っているかとレイの方を見ると。

頼れる親友は、もはや顔色を失って、凍りついたようにその場に立ち尽くしていた。

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