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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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29. 少しだけ遠い

ドレスケル先輩による“呼び出し事件”以降、アランが変わったような気がする。

ーーリュカが最初に感じたのは、彼の視線の変化だった。


元々、リュカと話す時は穏やかでやさしい目をしていたアランだったが、最近は特にしっかりとリュカに視線を向けている気がする。

何か言いたげなような、視線に熱があるような、そんな目をしている気がするのだ。


それでいて、会話中にふと表情が曇ったり、質問した時に答えをはぐらかされるようなこともまた、増えていた。


(特訓の回数も減っちゃったし・・・)


いつからか、二人での特訓は週に3〜4回から、週2〜3回に減っていた。

もちろん、元々アランの好意で始まった特訓であり、二人きりでたくさん話せるのは変わらないのだから、文句を言うほどではないはずだ。


それでも、“太陽(ザフラト)の日”の午後ーー休日の中でも一番自由なはずの時間ーーに特訓に誘うと、いつも「外せない用事がある」と言われ、何の用事か尋ねると、顔を曇らせて「大切な用事だ」とだけ言う。

そんなアランに、寂しさを感じてしまうのも確かだった。


(そんなに太陽(ザフラト)の日にばっかり予定があるなんて・・・何してるんだろ)


それに、特訓ではほとんど武術をやらなくなって、代わりにリュカが魔法を教えることが増えた。

それ自体も、約束していたことではあるのだが。


(・・・なんか、距離が遠くなった気がする・・・)


リュカが質問すれば武術を教えてくれることもあるが、その時も型を見せたり口頭で指導するだけで、以前のように身体に触れて型を直したり、実際に組み合ったりはしなくなった。


武術上級クラスでの内容が集団戦での戦術等になってきたため、身体の動かし方ではなく口頭で考え方を教えるようになったのは自然なことではある。

しかし、それでも。


(・・・私のこと、避けてる?)


そう不安になる程度には、アランとの身体的接触は皆無になっていた。


それでも、今日のように平日に特訓に誘うと、授業のない時間であれば必ず来てくれる。


むしろ、いつでも使えるようにと、先生に許可を取って小訓練場Eを平日ほぼ貸切にしてあるくらいだ。


「リュカ、もう来てたのか」


小訓練場Eにやってきたアランは、いつもの穏やかな笑顔だった。

やさしい目でこちらを見つめる彼を見ると、とても避けられているとは思えないし、自分との特訓を楽しみにしてくれているように感じる。


(魔法の特訓の時は、いつものアランなのにな)


色々気になることはあるが、お互いに魔法制御のコツや知らない魔法を教え合ったりするのは、やはりとても楽しい。


そのうえアランは魔法言語で話しても通じることがわかったので、二人で魔法言語の練習もできるようになった。


「《身分、国、種族を全部》・・・《平等にする》、《学園の理念は素晴らしい》」

「えーっと、《あらゆる身分や国籍、種族の者を平等に扱うこの学園の理念は素晴らしい》かな」


母語は共通語とマナ語、他に東方語、イスヴァル語、そして古代神聖語と、五つの言語を修得しているアランだったが、そんな彼でも魔法言語での会話はかなりたどたどしい。

それでも、難解な魔法言語での会話を試みてくれること自体、リュカにとってはとても嬉しいことだった。


「《あらゆる身分や国籍、種族の者を平等に扱うこの学園の理念は素晴らしい》・・・今ので合ってるか?」

「うん!」


聡明な彼は一度正解を教えるとすぐ覚えてくれるので、とても教えがいがある。


リュカが嬉しくてニコニコしていると、アランの表情がまた少し曇った。


(あれ?・・・またこの表情だ。どうしたのかな・・・)


さっきまではたしかに、楽しげな表情だったのに。


「・・・えっと、ひょっとしてさっきの例文、なんか嫌だった?」

「?・・・いや、アルダーワースの理念はとても素晴らしいと思う」


リュカが尋ねると、いつもの不思議そうな無表情で、そんな返事が返ってくる。

首をかしげるのは彼の癖なんだろうか。可愛すぎてちょっと困る。


「そ、そっか・・・それならいいんだけど」

「?・・・マナ国から出て学ぶとなった時に、イールワード家の者としてではなく、なるべく一人の個人として扱ってくれる学校を探していたんだ。

アルダーワースの平等は、教育の中での平等の元祖だから、ここならと思って来た」


その話は、以前にも少し聞かせてくれた話だ。

素晴らしい理念が形骸化していることが残念だ、とも言っていた。


「そうだったね・・・今のノーアはちょっと、平等って感じじゃなくて残念だね」

「そうだな・・・学園生活は楽しいが、“バルダシルの孫”扱いはむしろ祖国より強い。これほどまでとは、思わなかった」


アランの表情が、また少し翳った。


「以前祖母に、本当に個人としての扱いを望むなら身分を隠すかエオルテの学校に行けと言われたが、やはりあの人の言葉は正しかったな・・・」

「エオルテに来る可能性もあったんだ?」


たしかに、エオルテの方があらゆる点で自由な国である。


「ああ・・・学園に来る時、身分を隠してもどうせすぐに知れてしまうだろうと思ったが、表向きだけでも隠しておけばよかったかもしれない」

「身分を隠してるアランって、なんか想像つかないね・・・」


アランは、少なくともリュカといる時はいつも真っ直ぐな言葉を使うし、嘘を嫌っている印象がある。


「ふふふ、アランが学園に来てくれてよかったよ。

・・・でも、本当に、どうしてわざわざノーア王国を選んだの?」


リュカは「そんなに学園の理念を評価していたのかな」と、何気なく聞いたつもりだったが、アランの表情を見て、自分は何かマズいことを聞いたらしいと悟った。


アランが硬めの表情のまま、完全に固まってしまったからだ。


「アラン?」

「・・・あ、ああ、すまない。そうだな・・・どうして、だろうな」


何か理由はあるようだが、どうもまたはぐらかされたらしい。


(・・・答えたくないんだね)


今までのアランなら、あっさりと「それは言えないんだ」とか「それほど深く考えていなかった」とか言いそうなところだ。

すぐ目の前にいる彼が、少しだけ遠く感じられた。


その後はまた魔法言語で会話しながら、魔法の練習に戻った。

アランはおおむねいつもの彼に戻り、魔法についての会話も弾む。


(あっ・・・そういえば、組み紐ってどうなったかな?)


あれから三週間ほど経つが、アランから組み紐の話が出ることはなかった。

そう思って聞いてみると、「すまない、もう少しかかりそうだ」と申し訳なさそうな顔をされたので、まだ時間がかかるのかもしれない。


(楽しみだな〜、どんな組み紐があるんだろ。お返しも準備したけど、アランは気に入ってくれるかな?)


実はいつでも“お返し”できるように、準備したものを制服や訓練服のポケットーー空間拡張魔法がかかっており、かなりの容量があるーーに入れて常に持ち歩いているのだが、今日も出番はなさそうだ。


ふと窓の外に目を向けると、強い陽射しに照らされた石がギラギラと光っている。


ノーアの夏は、かなり暑さが厳しい。

迫り来る夏を思いながら、リュカはなんとなく腕をさすった。

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