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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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27. わからないまま

リュカは、アランに手を引かれて歩いていた。

二人とも無言だ。


小訓練場が並ぶ廊下を過ぎ、階段を降りていく。

道中誰とも会わなかったのは、そろそろ夕食の時間だからだろうか。


まだ頭の中がぐるぐるしている。

ドレスケル先輩はどうしてあんなことを言い出したんだろう。

アランはなぜあそこに来てくれたのだろう。


ふと、つないでいる手が気になった。

特訓でお互いの腕をつかんだことはあっても、こんな風に手を握るのは初めてだ。


(・・・誰かに見られたら、また変な噂が立つのかな・・・)


ただでさえ、自分とアランが二人きりで特訓していることで、色々誤解されているのに。


武術クラスの先輩に聞かれた時は焦ったが、ちゃんと否定したらわかってくれた。

友人達にそのことを報告すると、なぜかメイが頭を抱えていたが。


アランもノーア貴族の生徒と話す際に、真面目に武術の訓練をしているのだと説明してくれたらしいので、これ以上変な誤解は広まらないと思う。


(・・・アランは迷惑じゃないのかな)


先日、特訓で妙な噂が立っていて迷惑じゃないか、とアランに聞いた時には「迷惑じゃない」とどこか硬い表情で返されたのだったが。

手をつなぐのは、大丈夫なのだろうか。


エオルテであれば付き合っている男女か、あとは子供同士か親子くらいしか手をつないだりはしない。

ノーア貴族であればエスコート扱いになるのだろうか?

マナ国ではどうなのだろう。


「あの・・・」

「どうした?」


リュカが呼びかけると、アランは立ち止まってこちらを向いた。

いつもよりもどこか硬い表情に、妙に緊張する。


「えっと・・・手・・・」

「っ・・・すまない」


アランは今気づいたという風に、焦って手を離した。

やはり、手をつないでいるのは大丈夫ではなかったらしい。


「・・・リュカ、その・・・大丈夫、か?」

「???・・・うん、大丈夫だよ」


逆にアランから大丈夫かと聞かれてしまった。

とっさに答えた後、ひょっとして先ほどの出来事について聞いていたのではと思い至る。


どちらにせよ、答えは同じだったが。


「・・・・・・あの、ドレスケルとかいう先輩とは、親しいのか?」


アランがこちらをじっと見ながら、また聞いてくる。

なんだか、胸が痛くなる問いだった。


「結構仲良くなれた、と思ってたんだけど・・・あんなこと言ってくるんだから、やっぱり嫌われてたんだよね・・・」

「っ!!?」


リュカが答えると、アランが目を剥いた。

何かを言おうとし、しかし何も言えず口を閉じる・・・という動きを繰り返している。


「あ、あの・・・えっと、ノーア貴族達にも色々思惑はあるだろうし、純粋に仲良くなれたって思ってた私がのん気過ぎたんだとは思うんだけど・・・」

「・・・」


アランが無言なので不安になって、言い訳めいた言葉が次々と口をついて出てくる。


「でもドレスケル先輩は最初の時と比べたら本当に優しかったし、まさかあんなに嫌われてるとは

「本当に、わからないのか・・・?」


アランの目は信じられないものを見るかのように見開かれていて、妙に必死だ。

なんだか責めているような言い方に、悲しくなる。


「この時間帯に、訓練場で二人きりで・・・その意味が、本当にわからないのか?」

「だ、だって、他の先輩達と一緒にって話だったし・・・それに、アランとだってよく、このくらいの時間まで特訓してるでしょ?」


リュカがそう言った瞬間、アランの顔から表情が抜け落ちた。

青い目はリュカを見続けているが、その視線もなんだか揺らいでいる気がする。


(えっ・・・どうしてアランまで、そんな顔するの?)


何か大切なものを壊してしまったような、ひどい失敗をしてしまったような違和感を覚える。

なのに、それがなんなのかわからない。


ドレスケル先輩の悪意を見抜けなかったことで、呆れられてしまったのだろうか。

それは他の人から見れば、そんなにもわかりきったことだったのだろうか。


自分だけがいつも、周りのことを理解できない。

努力して、ようやく理解できたつもりが、またこれだ。


(・・・やっと、まともに話せるようになったのに・・・)


無視されても、嘲笑されても、物を壊されても。

それでもなんとか乗り越えてきて、最近はノーア貴族の真似事までしているのに、まだ自分は足りないらしい。


(そんな目で、見ないで・・・)


アランの目が、沈黙が、悲しかった。

この人には失望されたくない。


なんだか、上手く息が吸えない。


「・・・ごめんね、私が・・・私が、また間違えたから・・・」


喉の奥がヒュッ、と鳴った。

目が熱くなり、涙がこぼれ落ちる。


「またアランに迷惑をかけて、ごめんね・・・もっとがんばるから、だから

「っ!!!」


だから赦してほしい。どうか、嫌いにならないでほしい。

そう言葉を重ねる前に、身体を強く引き寄せられた。


・・・アランが、自分を抱きしめていた。

柱の陰に引き寄せ、自身の身体で周囲から隠すようにして。


(・・・・・・えっ???)

「あ、あの

「すまない・・・責めるつもりはなかったんだ」


アランの身体は、やはり熱い。

それに、なんだか彼まで泣きそうな声をしていた。


「俺こそ、すまなかった・・・さっき危ない目にあったばかりなのに・・・俺が、泣かせてしまうなんて」


肩に回された手が、そっとリュカの頭を撫でる。

その手はなぜか少し震えていた。


でも、アランに頭を撫でられるのは、とても心地がいい。


「えっ、あの、それは私が・・・」

「違うんだ・・・リュカは、悪くない・・・あのドレスケルという男が異常で、特殊過ぎただけだ。

ずっと・・・リュカは、がんばってきたんだろう」


耳にアランの声の熱さを感じる。

言葉が、心に沁み入ってくるようだった。


「・・・本当に?」


先ほどとは違う涙が溢れてくる。


「本当に、私が悪いわけじゃ、ないの?」

「ああ・・・リュカは悪くない」

「・・・私がノーア貴族の常識をわかってなかったから、じゃなく?」

「あれは“常識”じゃない。それに、知らないことがあるのは当たり前だ。

()()()はノーア貴族ではないし、彼らを知ろうと努力もしている。

()()()のことを知ろうともしないで、勝手に勘違いする方が悪い」


なんだかやけに言葉に力が入っているが、彼も何か誤解されて嫌な思いをしたのだろうか。


リュカがこれまでずっと言いたくて我慢していた、そして誰かに言って欲しかった言葉だった。


「リュカがずっとがんばってきたことを、否定しようとした訳ではなかった。

・・・すまない」

「う、ううん・・・だ、だいじょうぶ・・・」


謝らないで、アランは悪くないよ、などと続けたかったが、言葉よりも先に涙が溢れてきた。


いつも誰かと戦っていたような、これまでの日々。

やっと手に入ったと思った平和が、また壊れた今日。


「っ・・・アラン、は・・・っ・・・悪く、ないよ・・・」


そういう日々の重さが、かつて感じた苦しさが、アランの言葉で溶けていくような気がする。

もう限界だった。


「・・・っ、ぅっ・・・うぅ〜っっ」


アランの胸の中で、リュカは泣いた。


リュカが泣き止むまで、アランはずっと頭を撫でてくれていた。

そのやさしい手に、ようやく安心して息ができる気がした。

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