25. 理解できたのだろうか
ガッツリ下品で不穏な回です。
下ネタ苦手な方はお気をつけください。
髪型とスカート丈を変えてから、一ヶ月以上経った。
特別生授業のために一人で高等部棟へ来ても、以前ほど緊張しなくなった気がする。
この一ヶ月と少し、アランと特訓したり、みんなで勉強会をしたり、結構色々がんばってきたと思う。
(大変だったけど、楽しかったな〜・・・)
特に勉強会では、新たに“ノーア貴族について詳しく知ろう作戦”として、みんなが持っているノーア貴族の情報を色々教えてもらった。
例えば、ノーア貴族は大きく分けると二種類いる。
古くからの貴族と、魔族との戦争での功績等で貴族になった“新興貴族”達だ。
新興貴族は軽んじられがちだったり、古くからの貴族にも色々と派閥があったりで、同じノーア貴族でも一枚岩ではないのだ、とか。
新興貴族の筆頭がドレスケル子爵で、初代ドレスケル子爵はノーア国内では“最も多くの魔族を葬った英雄”と呼ばれていて、平民には結構な人気があるらしい。
古くからの武家の名門であるブライトン侯爵家はそれをよく思っておらず、両家の関係は悪い、とか。
(・・・覚えきれたかどうか怪しい・・・)
ノーア王国や貴族の歴史は、意外にもアランやセレスが詳しくて、何百年も前の当主の名前等まで知っているから驚いてしまった。
そういう情報に詳しいレイですら「さすがにその代の当主の名前までは知らなかったわ」と舌を巻いていたほどだ。
(・・・私からすれば、みんなすご過ぎるんだけどね)
リュカは各家の領地の特産品や過去に上げた功績について、ざっくりと教えてもらっただけだったが、それでもなかなかに覚えるのが大変だった。
しかし覚えた甲斐はあって、そうした情報をノーア貴族との会話で出すと、びっくりするほど喜ばれた。
自分の愛する領地について語り出す先輩もいれば、尊敬する先祖に追いつきたいと目標を語る先輩もいた。
特に新興貴族や下位貴族の先輩達は、そうやって話すようになってから明らかに態度が変わって、ものすごく優しくなったように思う。
(・・・ノーア貴族、って一括りで見てたのは、私も同じだったんだよね)
ノーア貴族達が“異種族”を一括りにするように、リュカも“ノーア貴族”を一括りにしていたことに気づけた。
一人一人を個人としてよく見ていったら、ただの「異種族を排斥してくるヤツら」だとはもう思えなかったし、向こうも自分を個人として見てくれるようになった・・・気がする。
「よう、エリュアール!!」
「ドレスケル先輩・・・おつかれさまです」
気配を消して、突然後ろから肩を組んできたのはドレスケル先輩だ。
この先輩は特に態度の変化が大きい。
初代ドレスケル子爵の功績や先輩自身の実力を素直に褒めたところ、敵対的な言動が減って、一気に距離が縮まった。
言葉がキツいのは変わらず、縮まった距離感というのがまただいぶ近いので、やはり苦手な部類ではあったが。
「この距離で気づかねえとは、鍛錬が足りてねえんじゃねえか?あぁ?」
「そうですね・・・すみません」
接近には気づいていたが、かわしたらかわしたで「このオレの攻撃をかわすとは生意気だ」と不機嫌になるので、かわさない方が面倒が少ない。
こんな巨漢に肩を組まれると非常に重いのだが、「重いです」と言っても「鍛錬が足りねえ」と余計に体重をかけられる始末だ。
それなりに親しくなった他のノーア貴族達も彼については多少苦労があるようで、「格上の家だから気を遣う」とか「機嫌を取らないと訓練でキツく当たられる」とかぼやいていた。
貴族達の人間関係は複雑で大変そうだと改めて思う。
自分も少しは彼らを理解できたのだろうか。
「武術上級は来週中間査定だろ。ちゃんと準備しとけよ」
「はい!」
「・・・お前、今回の査定の対策も、イールワールド様とやんのか?」
ドレスケル先輩は、ちょくちょくこうしてアランの話題を出してくる。
「同じ“英雄の孫”」という言い方をしていたこともあるから、ちょっと対抗意識があるのかもしれない。
「えーと・・・そうですね。そのつもりでした」
「・・・ふうん。イールワード様はノーアの武術にもお詳しいってワケか」
「そうですね、先輩方ほどではないかもしれませんが・・・アランにはいつも色々教えてもらってます」
こういう時、アランだけを褒めると機嫌が悪くなるので、先輩方への尊敬も忘れずに伝える。
話術とはそういうものです、というセレスの教えを上手く活かせただろうか。
「色々、ねえ・・・しかも名呼びか」
ドレスケル先輩はそこで一旦言葉を切ると、声のトーンを少しだけ落とした。
こういう時は大抵、周りに聞かせたくないようなキツい言葉を言ってくるので、少しだけ身構える。
「なぁ、正直に言えよ・・・イールワールド様と二人っきりの特訓でよ、何時間もヒイヒイ言わされてんだろ?」
「・・・?
えーと、そうですね。アランは動き続けても平気みたいなんですけど、私はすぐ息切れしちゃうので・・・体力が足りないとはよく言われます」
思っていた方向と違う話題に拍子抜けする。
てっきり、王家への批判が飛び出すかと思っていたからだ。
英雄である祖父は子爵位しかもらえず、領地やその他の褒賞がほぼなかったーーそういう不満を、ノーア貴族には聞かせられないような汚い言葉で語るのが、普段のドレスケル先輩である。
それにしても、やはり先輩も自分の体力や筋力のなさには気づいていたのか。
この一ヶ月と少し、アランとの特訓でリュカは自分の“生身の肉体”の弱さを痛感してきた。
体力も筋力も、まだまだつける必要がある。
「へえ・・・イールワールド様は何でもすげえんだな。で、お前は特訓中ずーっとやられっぱなしなわけか?」
「うーん・・・最初はたしかに、そうでした。アランは結構容赦なくて、一方的にやられちゃうことも多いんですけど・・・でも、最近は私も対応できることが増えてきたんですよ」
先輩の意図がイマイチわからないので、頑張っていることをアピールしてみる。
「やられてばかりじゃねえってことか・・・ふうん」
ドレスケル先輩は立ち止まると、いつものようにニヤッとした笑みを浮かべた。
どうやら先輩の教室はここらしい。
「なあ、あとでオレ達とも、一緒に特訓しようぜ」
「えっ?・・・はい!ぜひ、よろしくお願いします!」
仲良くなったとはいえ、先輩達の個人的な訓練に誘われるのは初めてで、ちょっとうれしい。
ドレスケル先輩は特別生でこそないが、リュカの知る中ではかなりの実力者だし、他の先輩達からも学ぶことは多い。
最近の武術クラスの様子を思うと、先輩達との訓練も楽しそうな気がしてきた。
「どこでするんですか?」
「・・・小訓練場Bにしとくか。あそこならいつも空いてるしな」
先輩が小訓練場Bを借りてくれるらしい。
そこは武術向けに特化した訓練場で、比較的利用者が少ないそうだ。
今日はアランとの特訓もないため、先輩達が集まる時間に合わせられる。
そう伝えると、先輩の授業が終わる夕方に小訓練場Bに集合ということになった。
「えーと・・・他の先輩方を誘うのは、ドレスケル先輩にお願いしてもいいですか?」
「・・・ああ、任せとけ」
教室の中には知っている顔も見えるが、大半は全く面識のない高等部生だ。
ある程度仲良くなった先輩もいるとは言え、さすがにこの中に入って他の先輩に話しかける勇気はなかった。
「ありがとうございます!
・・・あ、そろそろ授業始まりますよね。失礼します」
「おう、あとでな」
リュカは足早にその場を離れる。
「・・・オレがしっっかり教えてやるよ」
去り際、ニヤニヤとこちらを見送るドレスケル先輩が、妙に上機嫌そうに見えた。
リュカはそっち方面はピュアピュアです・・・。




