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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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20. 崩せない相手

更新遅くなってすみません。

リュカとアランの訓練回ですが、思ったより微糖になりました。

昼からは、小訓練場を借りて武術と魔法の訓練である。

どうせなら同じ日に一度訓練もしておくべきだと、セレスが予約しておいてくれたらしい。


6人は訓練服に着替えて、職員棟にある小訓練場Eに集まった。

小訓練場Eは武術と魔法両方に使える部屋で、セレスは「かなり強力な魔法障壁を備えているので安心して魔法を使える」といい笑顔である。


「とりあえず、武術の方から先にやるんだよね?」

「うん、わたし達はのんびり見物してるから、ごゆっくり」

「あとで魔法教えてね」

「はーい」


リュカが訓練場の中央にやってくると、アランが静かについてきた。


(・・・やっぱり訓練服姿もカッコいいなぁ・・・)


アランの姿につい見惚れてしまうリュカである。


メイなどに言わせれば「たしかに目鼻立ちは整ってるけど、目がちょっと鋭いし無表情じゃない・・・?」とのことだが、リュカにしてみればそこがいいのだ。


「あれ、セレスはやらないの?」

「僕はさしあたり見学しておきます。武術の指導はアランさんの方が得意そうなので」

「・・・そう?」


離れたところに立ったままのセレス達から視線を外すと、リュカはアランと向き合った。


「じゃあアラン、よろしくお願いします!」

「ああ・・・じゃあ、まずは動きを見せてくれるか?」

「うん!」


武術上級は、初級・中級で習ってきた技術を実戦ーー特に護衛向けに運用するものだ。

初級では身体の使い方の基礎と護身術を学び、中級では実戦の基礎と対人制圧の技術を学んだが、リュカはこの“対人制圧”が()()だった。


リュカが緊張しつつも一通りの動きを終えると、アランはかすかに首をかしげた。


「基礎はいいと思う。ただ・・・もう一度構えて、右手で打撃を繰り出してみてくれるか?」

「えっと・・・うん」


リュカが構えると、アランはその横に静かに立った。


(・・・ち、ちょっと近い・・・)


気恥ずかしさを感じつつも、身体に身体強化の魔法をかけて、しっかりと拳を繰り出す。

リュカの拳がシュッ、と軽く風を切った。


「・・・やはり、少し重心が高い。腰をもう少し落とした方がいい」


アランはリュカの腰にそっと手を当てると、肩を押さえて腰を落とさせた。


(っ・・・わー!わー!!)


リュカは叫びそうになったのを、危うくこらえた。

・・・心の中では大声で叫んでいたが。


どうしても、肩と腰に触れている手を意識してしまう。

近くに感じるアランの気配が、とても熱かった。


「上半身は倒さずに。そうだ、今のこのバランスで・・・」


アランの説明を聞きながら、お腹や下半身に力を入れ、姿勢を保つ。


顔が熱くなるのを感じつつも、姿勢だけは意地でも崩すまいと誓う。


「・・・どうかしたか?」

「っっ、うぅん!大丈夫!」


アランが顔を覗き込んできて、耳元で話される。


完全に飛び上がってしまったが、なんとか彼の方を見て返事ができた。


間近にアランのいつもどおりの静かな目を見て、ふと我に返る。


(アランは全然、意識してない・・・せっかく協力してくれるんだから、私も集中しなきゃ)


ドキドキと高鳴っていた心が、急激に落ち着いていく。


そうだ。アランはあくまで、対等な友人として協力してくれているだけなのだ。


リュカは心を沈ませようとしてくる虚しさを、頭を振って振り払った。

一つ息をつくと、身体の姿勢や身体強化魔法に集中する。


「さっきより、だいぶよくなった。あとは・・・対人制圧が苦手だと言っていたな。今の修正を踏まえて、一度実践してみるか?」

「うん!・・・お願いします!」

「わかった。では、魔法有りで全力でかかってきてくれ」


アランが“犯罪者役”で構えた。

彼の手には、おもちゃの短剣が握られている。


リュカは彼を“騎士役”として制圧するため、身体強化魔法を最高レベルに引き上げた。


(アランに()()()()()()()()()から、最初から、全力全開で・・・!!)


バチバチッ、と激しい音がする。

リュカが手に纏わせた、電撃魔法の音だ。


リュカは一瞬でアランの懐に潜り込むと、武器を持った腕を両手で掴んで引き寄せて体勢を崩しーー追い討ちのように電撃を流し込んで、怯んだ彼を投げ飛ば・・・そうとした。


(えっ!?)


アランは体勢を崩さないばかりか、電撃にも全く怯むことなく、リュカの両手を左手で払いのけた。

一度は掴んだはずのアランの腕が、あっけなくすり抜けていく。


身体強化を最高までかけた動きに的確に反応されたことにも驚いたが、それよりも何よりも。


(電撃、効いてない!?・・・なんで!!!?)


アランは素早くおもちゃの短剣をリュカの首に当てた。

驚きで動きが止まってしまったリュカは、防御することすら忘れて、呆然と短剣を見つめた。


「どうした?」

「だ、だって・・・」

「・・・?

魔法を防がれることもあるだろう。その前提で動くべきだ」


そんなはずはない。

これまで、こんなことは一度もなかったーーリュカはそう叫びたくなった。


魔法の打ち消しは、人間族にとってはかなりの高等技術である。

教師ならば使える者もそれなりにいるだろうが、たとえ特別生であっても、成人もしていない少年が軽々と使えるような技術ではない。


「続けるぞ。次こそ、気を抜かずにかかってきてくれ」


しかも、リュカの身体が耐えられるギリギリまで強化魔法をかけ、速度を高めての動きに乗せた電撃魔法をそれで防ぐなど、正直言って人間技ではない。


(どっちが異種族なんだか・・・)


どの方向からかかっていっても、見事にリュカの動きを読んで、正確に手を払いのけてくるアランを見ながら、ふとそんなことを思った。


そして急に、普段の周囲の反応を思い出す。

「あり得ない」「そんなことができるはずがない」・・・そういう驚きが恐れに変わる瞬間を。


(・・・みんなきっと、こういう気持ちなんだね・・・)


リュカは一度ギュッと拳を握りしめると、呼吸を整え、気合を入れ直した。


(今度こそ!!)


その後、攻守交代もまじえながら訓練は続いたが、結局リュカは一度もアランを“制圧”できずーー完封負けだった。

ちなみに、リュカが対人制圧を苦手なのは本当です。

次はメイ視点で、訓練の続き(コミカル→ちょいシリアス)です。

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