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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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17. 暗号と勉強会の話

「もー!!習ってないものは知らないよー!!」


昼休み、リュカ達は食堂に集まっていた。久しぶりにアランも含めた6人での昼食である。

1限の魔法数学の合同授業での話を一通りした後、リュカは()えた。


「何その先生!!むかつくー!!」

「魔法数学上級の先生・・・たしかノーアの男爵家の出身だね。いよいよかな」


一緒に吼えてくれたのはメイで、冷静なのはフィリアだ。


「そもそも魔法数学などという、魔法実践としても数学としても中途半端な科目を設けていること自体が時代遅れだと思いますが・・・」

「合同授業で、中級の履修者を上級の履修者と比較して貶めてみせる姿勢の方が問題だ」


セレスとアランも教師への批判に加わる。

二人とも舌鋒(ぜつほう)が鋭い。まったくその通りだ、とリュカは頷く。


「あの場で助けに入れなくてすまない。教師の意図はわかっていたのに・・・」

「ううん、むしろ私がアランが書いてくれてた途中式見て、すぐ理解できたらよかったんだけど」

「初見で解くのは無理だよねぇ」

「僕も教師に気づかれないよう、魔族式MSⅧ型暗号で答えを送っていたのですが・・・よく考えたら、リュカさんもあの暗号は知らなかったですよね」


全員が一斉にセレスを見た。


フィリアは飲んでいた紅茶を吹きそうになったらしく、ハンカチで口元を押さえている。


「魔族式・・・なんて?」

「ごほっ、ごほっ、そういうズルはダメだよ!」

「その暗号初めて聞く・・・セレス、詳しく!!」


レイが珍しく前のめりになっている。


「やはりそうだったのか・・・」


つぶやいたのはアランだ。

どうも彼はその暗号を知っていたらしい。色々と気になる。


「えっ!?ごめん、気づいてなかった・・・でも、どうやって暗号送ってたの?」


そもそもセレスが助けようとしてくれていたこと自体、リュカにとっては意外だった。


「瞬きの回数と瞳孔の開閉の組み合わせで・・・」

「あっ、それは気づけないわ・・・」

「何それめっちゃ魔族!!」


なお、今日もレイの盗聴防止魔法は絶好調なので、教師批判やセレスの暗号の話は6人以外には聞こえていない。


「視力めちゃくちゃ良い人じゃないとわからないやつだね」

「そういうズルをしたってなったら、余計にリュカの立場が悪くなっちゃうから、ダメだよ」

「す、すみません・・・あの場を切り抜けるためだけだったので、もちろん試験等ではやりませんよ」

「私も瞳孔の開閉を別の何かで代替できれば・・・セレス、あとで対応表ちょうだい」

「レイも、やろうとしないで・・・」


フィリアとリュカが止めようとするが、レイはまだ諦めていないようだ。


「もちろん不正には使わないけどさ。いざという時のために、魔力に頼らない暗号を覚えておくのもいいじゃん」

「それは一理あるな・・・」

「えぇ、アランくんまで?!」

「代わりに耳ピクピクさせるのとかどう?」


精霊族の長い耳は、自分の意志である程度動かせるという。

目をぱちぱち、耳をピクピクしているレイを想像し、なんだか野うさぎみたいで可愛いな、とリュカは思った。


「やはり魔力に頼れない状況下での情報交換であれば、暗号は有用ですね。

魔族式MSⅧ型暗号は複雑な情報伝達にも適していますが、手数がかかるのが難点で・・・」

「複雑な情報伝達なら、やっぱり魔法で暗号化する方が手っ取り早くない?」

「いえ、そこは術者の力量依存となるので・・・」

「ねぇ、今回の魔法数学みたいなことって、きっと今後増えるよね?」


みんなで使う合図として「肯定」「否定」をさしあたり決め、話がひと段落した後、リュカは不安に思っていたことを口に出した。


セレスとレイはまだ暗号の話を続けているが、そちらは放っておくことにする。


「増えるだろうね・・・あの王女なら、単に嫌がらせっていうより、高魔力の異種族に有利な現状を変えるための動きになるはず」

「おそらく、異種族の特別生の不適格事例を集めて、認定方式改正の必要性を訴える方向だろう」

「異種族の不適格な特別生・・・じゃあ、これからも私が狙い撃ちかぁ・・・」


せっかく頑張って特別生になったのにと、ため息をつくリュカである。


「リュカは選択必修で取ってなかったやつとかあるもんね」


Aランク、つまり卒業に必要な科目はいくつもあるが、大きく分けると必修科目と選択必修科目に分かれている。

必修科目は文字通り、必ずすべての単位取得が必要なもの。選択必修は一定数の科目を履修し、合計点が何点以上必要と決まっているものである。


基本的に、全ての科目は100点満点中60点以上で単位が取得できる。さらに優秀者には加点があり、100点満点以上の点を取ることもできる。

リュカは得意科目の大幅な加点によって、選択必修科目の履修は最小限で特別生となっていた。


「まぁ、ちょっと裏技というか、ズルい感じのなり方だとは思うけど・・・ちゃんと学園の制度で認められてるんだけどなぁ」


先の魔族との戦争時に、人材育成を早める目的から設けられたのが、選択必修科目の合計点制度や大幅な加点制度だった。

当時は優秀な生徒を早期卒業させて、一人でも多く魔族と戦える人間を増やしたかったのだろう。


リュカはただ、戦後も残っていたその制度を有効活用したにすぎない。


他にもこの方法を使って特別生になる生徒はそれなりにいて、たしかチャールズも同じやり方で特別生を目指していたはずだ。


「苦手科目で狙い撃ちはキツいなぁ・・・」


来年度末でのAAランク取得を目指すリュカは、今年と来年はどちらかといえば苦手寄りな科目を多く履修する構成になっている。


「・・・あ、そうだ!じゃあさ、勉強会しようよ!」

「今後のリュカの狙い撃ちに備えて、だね。楽しそう!」

「えっ!ありがとう・・・でも、私の履修科目って、メイやフィリアが取ってないやつもあるけど」

「そこは、アランくんとセレスくんにも協力してもらうよね」

「そうそう!ねっ、二人とも、いいよねっ」

「ああ、もちろんだ」


メイの明るい問いかけに、アランが即答する。


セレスとレイも暗号談議を終えていたらしく、先ほど決めたばかりの合図で「肯定」の意を伝えてくる。


「ありがとう・・・えーと、私の対策だけじゃなくて、みんなでの勉強会にしようよ。そしたら私もみんなの力になれるかもしれないし・・・」

「ああ、魔法学系を教えてもらえると助かる」

「うん、魔法学なら任せてよ」

「僕も代わりに()()と教えていただきたいことが・・・」


セレスが目を輝かせている。

色々、という部分に若干不安を感じていると、横からレイがセレスを小突いた。


「ねぇ、協力してくれるなら、私が盗聴防止魔法のアレンジ教えようか?」

「ぜひ!!!」


セレスもレイの交換条件のおかげで、喜んで協力してくれそうだ。


「じゃあとりあえず、今週末に図書館のグループ自習室を予約するよ。まずはそこで対策会議だね」

「実技対策もするなら、そのうち小訓練場の予約が必要になりますね。先に申請書をもらっておきます」

「お菓子と飲み物も準備しよっか」

「ノーア貴族達の情報は集めとくよ」


みんなの頼もしさにちょっと泣きそうになる。


「えーと、私は・・・」

「まずは魔法数学の予習・復習じゃない?」

「あと今年受けてる科目書き出して、突っ込まれそうな部分をまとめてきてね」

「それから、去年取った魔法学系の上級授業について、要点まとめて教えてよ」

「私だけ分量エグくない・・・?」


涙が一瞬で引っ込んだ。


リュカが少し不満げに友人達を見回すと、自分を見つめていたらしいアランと目が合った。


いつもの無表情のまま、アランは先ほど決めた合図で「否定」を伝えてくる。

「そんなにしなくてもいい」とでも言ってくれているのだろうか。

いや、まさか、リュカの方を否定で「全然多くはないから頑張れ」ではないと思いたい。


いい方に解釈することにして、アランに「肯定」の合図を返すと、彼の口角がかすかに上がった。


(・・・はぁ、もう・・・可愛い・・・)


胸がギュッとする。


目が合うだけで幸せな気がするし、無表情な中にわずかな変化を見つけると嬉しくなって、どんどん心が彼に落ちていく。


もう完全に、アランのことが好きになっていた。


(・・・アランも協力してくれるんだし、がんばらないと!)


リュカが気合いを入れたところで、昼休み終了を告げる鐘が鳴った。



次回は勉強会の予定です。

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