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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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16. 解けない数式

前半はほのぼの、後半はストレス回です。

翌日の朝、リュカは魔法数学の合同授業が行われる大教室にやって来ていた。

大教室は黒板と教壇を一番下として階段状に座席が並んでおり、誰がどこに座っているかとても見えやすくなっている。


魔法数学初級・中級・上級は、それぞれ中等部一年、中等部三年、そして高等部二年での履修が推奨されており、教室内にはそれらの学年の生徒が多い。

推奨学年でなくても履修は可能だが、魔法数学に苦手意識のあるリュカは、推奨どおり今年中級を履修している。


「リュカ、おはよ。こっちだよ〜」

「レイ、おはよ」


先に座っていたレイを見つけ、リュカは手を振った。


レイは長机の真ん中辺りの席に堂々と座っている。異種族の彼女がそこにいれば、その列の席には大抵誰も座らないので「席取りにちょうどいいよ」というのが彼女の言だった。

リュカは通路側の席を通り抜け、レイのすぐ隣の席に座る。


「今日は早いね?」

「ん?・・・うん、まぁ、ちょっと」


リュカは言葉を濁したが、昨夜レイにはある程度話しているので、きっと彼女なら察しているだろう。


なお、レイも推奨どおり今年中級を履修しており、フィリアとメイは昨年中級の単位を取得済のため、今年は魔法数学を履修していない。


「あ・・・あいつ、こっちに来るね」


レイの言葉より早く、リュカはアランに気づいていた。彼が教室に入った瞬間に気づき、目で追っていたからだ。

アランもこちらに気づいているらしく、真っ直ぐにリュカ達の席へと歩いてくる。


「リュカ。俺もここに座っていいか?」

「アラン、おはよう!もちろん、一緒に座ろう」


アランが自分の方に来てくれたことが素直に嬉しく、リュカは満面の笑顔で笑いかける。


「ああ、おはよう」


アランはいつもの無表情をかすかに和らげると、コクリと頷いて、静かにリュカの隣に座った。


(・・・っっ隣っ!!一個空けるとかじゃなくて、隣・・・!!)


普段の教室では座席は一つずつ独立しているが、大教室は机がつながっており、隣の席との距離が近い。


隣にアランが座ると、なんだかそちら側が熱い気がする。

リュカが気にし過ぎているだけではなく、実際に熱を感じるのだ。

人間族の男性は女性より体温が高いという話を聞いたことがあるから、きっとそのせいだろうとリュカは思う。


「リュカさん、レイさん・・・アランさんも来たんですね。おはようございます」


セレスがやってきた。

彼はアランから一つ席を空けた隣、一番通路側の席に座った。


これが彼らの距離感なのか、それともこれ以上は誰も座らせないという意思表示なのか、どちらだろうとリュカは思う。


ちなみに、いつも自分達と座る時も、セレスは席を一つ空けた隣に座っている。


「・・・もういいんですか?ノーア貴族達は、まだこちらを窺っているようですが」

「自分の意志で来たいなら、来ればいい」

「そんなに意志の強い者がいるとは思えませんね・・・もしいれば歓迎してやりましょうか」


セレスとアランがぼそぼそと話している。


彼らは二人とも、魔法数学上級での履修だ。

転入で特別生認定を受けた場合、一定期間内に転入時のランクに見合った単位を全て取得する必要があり、魔法数学上級はAランクならば選択必修科目の一つ、AA ランクならば必修科目となっている。


なお、各科目の最上位科目さえ取得できれば、下位科目は取得できたものと見なされるので、魔法数学の上級さえとれば初級・中級は履修しなくてもいい。

特別生用の授業がある科目なら、その単位さえ取得できれば問題ないので、彼らの授業数はそれほど多くはない。


「・・・来た」


突然、嫌そうな顔でつぶやいたのはレイである。

セレスとアランはまだ話を続けており、レイの言葉は聞こえていないようだ。


「えっ?」

「あっち」


レイの指差す方にいるのは、ユミア王女を筆頭としたノーア貴族達のグループだった。

ユミア王女や中心近くにいる貴族達はこちらを一切見ていないが、グループの外周付近にいる生徒が何やらニヤニヤとこちらを見ている。


教室の前方の席に座ってからも、彼らは時折チラチラとリュカを振り返っては、何やら言葉を交わし合っている。


「リュカが髪を乱して、下穿きを見せつけた?身体を武器にして、櫛を使う知性もない?・・・リュカ、あんた何したの?」

「えっ!?」

「昨日の話、ちょっと省略したとこがあるよね・・・説明して?」


リュカはオロオロと、風で髪やスカートが乱れた経緯を説明した。


「ぷっ・・・風でスパッツ見えたくらいで大騒ぎしてるんだ、あいつら。ウケる」

「めちゃくちゃ悪く言われてるね・・・そもそも、誰が見てたんだろ」

「おそらく、俺を待っていた高等部の生徒達だろう。昨日、高等部棟の方から視線を感じていた」

「ノーアは服装の制限が異様に厳しいですよね。前時代的な服装とでもいうか・・・成人女性にロングスカートの着用を義務付けている国なんて、今や世界で見ても相当少数派なのですが、これも多様性なのでしょうか」


アランとセレスが自然に会話に混ざってきたので、リュカは急激に恥ずかしくなった。


昨日の件は何も問題ない・・・はずなのだが、アランに「スパッツが見えても俺は気にしない」とか「スカートがめくれることの何が問題なんだ?」とか言われるのは、また何か違うことのような気がする。


それに何より、このまま放っておくと、セレスが女性の下着の歴史について語り始めかねない。


「な、なんか変な話になっててごめん・・・あの時見られてたんだね」

「いや・・・俺のせいでリュカが悪く言われて、すまない」

「えっ、全然、アランのせいじゃないよ!」


アランが珍しく申し訳なさそうな表情をしたので、リュカは余計にオロオロしてしまう。


と、その時、魔法数学の担当教師が教室に入ってきた。


「揃っているな」


少し神経質そうな教師は、鼻を持ち上げるようにして教室内を見渡すと、そう言った。

彼は普段、魔法数学上級を担当している教師だ。中級と初級の担当教師は、教室後方に控えている。


「さて、先週までの2回の授業で、諸君らは魔法数学の各級で身につけるべき知識の概要を知ったはずだ」


魔法数学での合同授業は、今日が今期初めてである。合同で魔法数式の魔法への応用を行うとのことで、リュカは密かに楽しみにしてきていた。


「今回は合同授業ということで、まずは初級・中級の履修者が将来到達すべき目標を見せることにしよう。

数式を巧みに操る者達に圧倒されることも、あるいは期待外れに失望することもあるかもしれないが、彼らも(ヒト)だからな・・・。

では、特に優秀と思われる者達に、数式を解いてもらう。イールワード、前へ出ろ」


突然アランが指名され、リュカは思わず彼の方を見た。

視線に気づいたアランは、リュカの方を見て軽く頷き、教室の前方へと歩いて行く。


通路に出てアランを見送るセレスが、小声で「露骨ですね・・・」と言ったのが、妙に耳に残った。


「知っている者もいると思うが、彼は中等部三年ながら、Aランク特別生として転入してきたアラン・イールワード・・・そう、あの英雄バルダシル様の孫だ。

バルダシル様は魔法数学の天才だという逸話があったな・・・()()には簡単過ぎる問題だが、これを解いてもらおう」


“以下は魔法陣の安定条件である。魔法陣の安定発動に適した魔力値x を求めよ。

3 x² - 11x - 4 = 0 ”


教師が黒板に書きつけたのは、リュカにはなじみのない数式だった。


アランは特に迷うこともなく、教師の書いた式の下に、さらさらと途中式らしきものと答えを書いていく。


“ = (3x + 1)(x − 4)

x = 4

x = -1/3 ”


「・・・その通りだ。復習はしっかりしてきたようだな」


上級履修者らしき生徒達は納得の表情だが、リュカは全く共感できなかった。

とは言え、それは初級・中級履修の生徒も同じなようで、多くの生徒の顔に疑問符が浮かんでいる。


「まぁ、特別生ならばこのくらいの問題は解けてもらわなくては困るな。イールワードはもう席に戻っていいぞ。

では、次はエリュアール、前に出て問題を解け」

「ぇっ!?」


焦りつつもリュカは席を立ち、黒板の方へ向かう。

普段こういう場面ではリュカは指名されず、存在を無視されることも多いのだが、今日はどういう風の吹き回しだろうか。


セレスに気遣わしげな視線を投げられて不安になってくる。

通路ですれ違ったアランがこくりと頷くのを見て、少しだけ癒される。


“ x² − 5x + 6 = 0 “


教師はアランが解いた式の下に、新たにこのような式を書いた。


「彼女は()()()()()()と呼ばれ、イールワードと同様、中等部三年にしてAランクを取得した特別生だ。

さぁ、エリュアール。先ほどよりも少し簡単になってしまったな。()()()()すぐに解けるだろう?」


リュカの全身から、血の気がザァッと引いていく。


(えっ、いや、待って・・・これ、予習とかにも出てなかったよね。

とりあえず6が右側に移動して・・・x² − 5x = −6 かな?)


リュカは途中式を書こうと一旦チョークを持った。

しかし、そこでまた固まる。


(でも、x²ってどうすれば・・・それに、なんかアランの書いた途中式と違う。

アランはどうやってあんなに早く解いたの・・・?)


リュカが固まっていると、教室がにわかにざわつき始める。


自席に戻ったアランは何か言いたそうに口を開きかけ、しかし、言ってもリュカの立場が悪くなるだけだと悟ったのだろう。そのまま黙って、リュカと黒板を見つめている。


セレスは何度も瞬きをしながら、リュカの方をじっと見ている。

レイは一度拳をギュッと握りしめると、リュカから目を逸らし、周囲の様子を観察し始める。


誰かがクス、と笑うのが聞こえた。


「さっきの問題より簡単だろ?」

「あれが解けないの?なんで?」

「・・・はっ、所詮は異種族。魔力頼みで特別生になれただけか」


先週までは概要の説明と式の展開の復習などが行われていたが、このような形式の問題はまだ習っていない。

おそらくは中級のどこかで習う問題なのだろうが、そもそもリュカは今年中級を履修し始めたところなのだ。


「・・・わかりません」


リュカは悔しさでうつむきつつ、声を絞り出した。


「おいおい、エリュアール?中級で習う問題だぞ。特別生なのに、この程度が解けなくてどうする?」


教師は困惑したかのような声音で、しかしはっきりとリュカを嘲った。

ノーア貴族の中でも比較的()()()()者達が、声を上げて笑うのが聞こえる。


異種族だと蔑まれ、高魔力バカだと罵られていても、基本的にはできる側に立ってきたリュカである。

大勢の前で、できないことを実際に晒され、笑われた経験はなかった。


「でも・・・先生、私は今年中級を履修し始めたので、この問題はまだ習っていません」


リュカが思わず言い募った瞬間。


教師の口が、裂けるように弧を描いた。


「そうだったか?

では、特別生のエリュアールには解けないという問題を、別の者に解いてもらうとしよう。

・・・ブライトン、前に出ろ」


呼ばれて前に出てきたのは、リュカと同学年で、ノーア貴族のリーダー格である男子生徒だ。

アッシュブロンドにエメラルドのような冴えた瞳の彼は、整った目鼻立ちと恵まれた体格をしており、女子生徒から非常に人気が高い。


リュカは一瞬席に戻ろうとして動きかけたが、教師はそれを目で制した。

まだそこに立っていろ、ということらしい。


「チャールズ・ブライトン・・・名門ブライトン侯爵家の貴公子を知らぬ者は、この国にはおるまいな。彼は特別生でこそないが、中等部三年にしてBランクを取得している逸材だ。

さぁ、ブライトン。()()()()すぐに解けるだろう」

「もちろんです、先生」


当たり前だ、とリュカは叫び出したかった。

チャールズは昨年魔法数学の中級を取得済みで、今年は上級を履修しているのだから。


彼は、リュカと同様に中等部三年で特別生になることを目指していた非常に優秀な生徒だ。

特に理系科目が得意な彼なら、昨年習った問題を解くことなど造作もないだろう。


“ x=2

x=3 ”


実際、チャールズは一瞬で答えを導き出した。


「さすが、ブライトン様だわ・・・」

「一瞬ですわね・・・素敵・・・」


一部の女子生徒が、チャールズをうっとりとした目で見つめている。


それ自体はいつもの光景だが、リュカはジリジリとしたものを感じていた。


「ふむ・・・いいだろう。では、ブライトン。よりレベルの高い問題を出してやる。これらの問題も解いてみせろ」


その後、教師は上級の前半で習うらしい問題を何問か黒板に書いたが、チャールズはそれらを全て迷いなく完璧に解いてみせた。


リュカはまだ、黒板の横に立たされたままだ。


「素晴らしい。ブライトンは今年上級を履修し始めたばかりのはずだが、先々までよく予習できているな」


教師がチャールズに軽く拍手を送る。


「・・・全く、ブライトンが特別生でないことが、不思議でならない。

エリュアールもそう思わないか?」


チャールズが今年特別生になれなかったのは、魔法系の実技や魔法言語学での加点が足りなかったせいであると、リュカは知っている。


しかしさすがにそれをこの場で口にできるはずもなく、かと言って教師に追従(ついしょう)するのもためらわれて、黙り込むことしかできない。


「推奨年次前に単位を取得し、予習復習を抜かりなく行い、難度の高い問題にも果敢に挑む・・・それが特別生のあるべき姿であろう。

さぁ、ブライトンは席に戻れ」


席に戻ろうとするチャールズと、一瞬だけ目が合った。

勝ち誇るでもなく蔑むでもない冷たい目が、リュカを見下ろしている。


彼はすぐに視線を外すと、自分の席へと戻っていった。


「エリュアールも席に戻って、反省するがいい。お前には後で追加の課題を与える」


一体何を反省しろというのか。

履修している授業の、数ヶ月先で習う内容を予習していなかったこと?

さほど得意でない魔法数学を避け、他の授業で加点を取って、特別生としての単位を取ったこと?


リュカは教師に言い返したい衝動に駆られたが、ぐっと我慢して席に戻った。

誰とも目が合わないよう、うつむいて歩く。


「では、次に・・・」


教師は次の説明を始め、そこからは普段通りの合同授業となった。


楽しみにしていた魔法数式の実践も行われたが、リュカはほとんど楽しめずに終わった。

この世界の数学の水準については、活動報告でふれようと思います。

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