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種族チート持ちなのに無双できないヒロインは、静かに居場所をつくる  作者: 東雲 小百合
第一章

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13. 遠回り

今回は結構甘め(当社比)です

食堂の前の廊下に出ると、リュカはようやく息がつける気がした。


「アラン・・・えっと、ありがとう」

「・・・礼を言われるようなことは何もしていない」

「そう?ノーア貴族の子達といる時に話しかけちゃったし、困るかなって思ってたから」


アランの無表情が、少しだけ(かげ)った。


「俺は困らないから、大丈夫だ。

だが、彼らも友として近づいて来るのなら、その建前を貫いて欲しかったな・・・」


いかにもアランを慕って仲良くしている風でいても、彼らが政治的な意図を持っているのは明らかで、アランもそれはわかっていたはずだ。


ただ、あの場面でアラン自身の意志を尊重しないのであれば、少し意味は違ってくる。

単なる接近ではなく、ノーア貴族勢力がアランを囲い込んで、行動を管理しようとしているということになるからだ。


平等な友人としてはもちろん、本来の身分からしても、それはやり過ぎだった。

たとえ王女や上位の貴族から行動管理を命じられていたとしても、アランの意志は尊重しなければならなかったのだ。


「・・・貴族って不便だね。あの子達も、本当ならもっとちゃんと、アランと仲良くしたかったと思うよ」

「そうだな・・・たしかに、祖父のことをとても慕ってくれていて、嬉しかった」


アランの声がほんのわずかに弾んでいるのを聞いて、リュカは微笑ましい気持ちになった。


「おじいちゃん、大人気だね。私も、英雄バルダシルの絵本持ってたなぁ」

「・・・俺も、祖父によく読まされた」

「あははっ、そうなの?」


歩きながら、自然と歩調がそろう。中等部棟から出て、石造りの回廊をまわった先に高等部棟がある。


「・・・最近話せてなかったね」

「ああ」


普段なら中庭を抜けて近道するところだが、リュカはそのまま回廊を歩き続けた。

吹き抜ける風が、とても心地良い。


「えーっと・・・あ、名前で呼んでもよかったんだよね?」

「もちろんだ」

「ありがとう。前から思ってたけど、アランって綺麗な名前だよね」

「・・・そうか?」

「うん、音の響きが綺麗だなぁって。澄んだ音と柔らかい音が並んでて、なんか魔法言語的」


魔法言語というのは、魔法の詠唱等で使う言語のことだ。

リュカにとっては母語に等しい、とてもなじみのある言語だった。


「あっ、褒め言葉、だからね!」

「そうか・・・母が、つけたらしい。共通語の名前の中で、一番好きな名前だと言っていた」

「そうなんだ」

「・・・リュカという名前は、エオルテ語か?」

「うん、エオルテだと男の人の名前らしいけど・・・魔法言語的には女らしくて可愛い名前だから、私は気に入ってるんだ」

「そうだな」


アランの柔らかい表情を見て、リュカは自分の胸の鼓動が跳ねるのを感じた。


(・・・そうだなって、そうだなって、もう!!)


やはり、アランはこうして話している時の方が、表情がある気がする。

ノーア貴族の中にいる時は、こんなに柔らかい空気ではなかった。


と、その時だった。

突然、一際激しい風が吹き抜けた。


「っ!」


風のあまりの強さに、リュカは思わず立ち止まる。


制服のスカートがめくれ上がってひどいことになったが、下着の上にスパッツーー丈の短い黒の下穿きを重ねてあるから問題はないだろう。


「っ、びっくりしたー!!すごい風だったね」

「っ、そうだな・・・」


リュカはすっかり髪がぐちゃぐちゃになってしまったことにため息をつくと、いつものように髪に魔力を集め、サァッ、と魔力を流す。


パチチッ、という軽い音と共にリュカの髪が虹色に強く光ると、髪がふわりと軽くうねりーーいつの間にか、元通りの髪型になっていた。


「っ?!」


アランは驚いた様子で固まっている。


「あっ、ごめん、えっと・・・朝とか、時間がない時いつもこうやってて・・・」


リュカは、初めてこの魔法を友人達の前で使った時を思い出した。

メイが「中等部の女子が、鏡も櫛も持ち歩いてないの!?信じられない!!」と絶叫していた気がする。

レイには「人間族の前で急にそれ使ったら、ドン引きされるからやめな・・・」と生温かい眼差しを向けられた気もする。


「ごめん、急に魔法使って。びっくりしたよね。行儀も悪いし・・・」

「いや、便利そうな魔法だな。俺の髪には・・・必要なさそうだが」


アランの言葉と目線につられて彼の髪を見る。

短めの黒い髪が軽く逆立っている。元の髪質が硬いのか、風で乱れた様子もない。


真顔のアランだが、目だけは少し悪戯っぽくキラキラしている。彼なりに冗談を言ったつもりらしかった。


「ふっ、あははっ、たしかにそうだね」


リュカは笑いながら、ふとアランの髪にさわってみたくなった。自分の髪とどのくらい違うのだろう、と思ったのだ。


だが、さすがにそんなことをするのはおかしいだろう。

なんとなく、自分の手をすりすりと握りしめてみる。


「アランも冗談を言ったりするんだね」

「ああ・・・笑ってもらえてよかった」


そのまま二人は並んで回廊を歩き、高等部棟の中へと入って行く。

上階から自分達を見つめる視線に、リュカだけが気づいていなかった。

次話は一気に不穏になります。

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