第43話 身分を偽る……特に貴族だと偽るのはダメ
「……シーアルドくん。キミは……貴族だと、身分を偽ったのかね……?」
「し、してません!?」
「だが、騎士学園から3人の先生方がその確認にきているのだが……?」
副学園長ってボクのこと、信じるつもり、ないよな?
どうしてこのタイミングで学園長がいないんだ!?
学園長ならとりあえずボクを守る方で動いてくれたと思う。
やっぱり副学園長には敵視されてるのかも……。
「……貴族だと身分を偽るような真似はしていない、というのがキミの主張、ということでいいかい?」
騎士学園の先生が、まっすぐにボクをみつめながらそう確認してくる。
「はい。してません。絶対に」
「絶対に、か……ふむ」
騎士学園の先生は微妙な表情になった。そして、ちらりとアリスティアお嬢さまの方へ視線を移す。
「……そちらのお嬢さんは?」
「アリスティア・シュタインと申します。シーアルドを預かっている家の娘ですわ」
「なるほど、シュタイン伯爵家が彼の後ろ盾か」
ひとつうなずいてから、騎士学園の先生が再びボクの方をみた。
たぶん、アリスティアお嬢さまがそういう立場だろうってことはわかっていて話しかけたんだろう。そういう感じがした。
「絶対に身分を偽るような真似はしていないといったな? それはシュタイン伯爵家に誓えるのか?」
……伯爵家に? 誓えるか? そういわれても?
ボクはアリスティアお嬢さまの方をみた。
アリスティアお嬢さまがにこりと笑う。
「シーアルドが絶対だといえるのなら、誓えばよいのです。シュタイン伯爵家が全責任を負いますわ」
重っっっ!?
めちゃくちゃ重いんですけど!?
それをこの笑顔で!?
いつの間にか、シュタイン伯爵家に全責任を負わせることに!?
ボクの背中に大量の汗が流れる。
嘘をついてるわけじゃないのにその汗が止まらない。
「あ、あああ、アリスティアお嬢さま!?」
「それとも、絶対に、というのは嘘なのかしら?」
「い、いえ!? 絶対に身分を偽ってなどいません!?」
「ならば誓えばよいのです。シュタイン伯爵家はいかなる責任も負いますわ」
そういって、騎士学園の先生方へと微笑みを向けるアリスティアお嬢さま。
こういう時の度胸は……女の子とは思えない。これが伯爵令嬢として育ったアリスティアお嬢さまの貴族としての強さなんだろう。
「伯爵……お父上から彼に関する全権を与えられている、と?」
「そういうことです」
騎士学園の先生に問われて、アリスティアお嬢さまは平然と答える。そして、ボクの方を向く。
「さあ、シーアルド。誓いなさい」
「わ、わかりました。ボクは……貴族だと身分を偽っていません。そう、シュタイン伯爵家に誓います」
「その、根拠は? どういう状況でしたのかしら?」
質問は騎士学園の先生たちでも、副学園長でもなく、アリスティアお嬢さまから出てきた。
責任をとるからには、ちゃんと確認するんだろう。
……どういう状況? 昨日の、あの時のことだよな?
「ええと、エリンと出かけていたんですけど……」
「まあ、エリンと? ふたりで?」
「は、はい……」
なんで、そこで笑顔に!?
「それで? 続きを」
「あっ、はい。ふたりで歩いていたら、4人組の……騎士学園の2学年だと名乗る人たちにからまれて、その人たちがエリンを連れていこうとしたので……」
「まあ!?」
アリスティアお嬢さまは騎士学園の先生方に向けて、目を細める。
「……ずいぶんと質の悪い学園生がいらっしゃいますのね……」
「……こちらがきいている話とは多少、くいちがっているようだ」
どうやら騎士学園の先生たちは、ちがった話をきいてるらしい。
……あんなことする連中だからな。平気で嘘もつくだろう。
ボクとしてはボクの話を信じてほしいけど、どっちかの話だけで決めつけてないだけマシなのかもしれない。
「それで、シーアルド。どうしたのです?」
「エリンを守るために、4人のうちの2人を気絶させて……残りの2人に気絶した2人を連れて帰るようにいいました」
「あら。そうなの?」
あの時はエリンが顔を赤くして、カッコいいっていってくれて……いや、それは今はどうでもいいか。
……あっ!?
そういえば!?
「……その時に、衛兵にきてもらうか、ホワイトナイト学園長に話を通すか、と口にしました。騎士学園の生徒でしたし、やってることは犯罪に近いと感じたので。そういう風にいえば大人しく逃げ帰るだろうと考えていったんですけど……」
「……ふむ。その時に、キミは貴族だと名乗ったのでは? 貴族でなければホワイトナイト侯爵との面識など普通はないのだが?」
アリスティアお嬢さまではなく、副学園長が口をはさんだ。
やっぱりこの人、敵なんじゃないだろうか?
「いいえ。貴族だとは名乗っていません。あくまでも、個人的にホワイトナイト学園長とは面識があるので」
「そうですわね。シーアルドは確かに……ホワイトナイト学園長と面識がありますわ。そのことはわたくしも存じております」
寮で模擬戦をさせられたからな……その時はアリスティアお嬢さまも一緒にいたし。
あと、学園長と一緒にホワイトナイト学園長と面会したこともある。今、ここに学園長はいないけど、あとからでも確認してもらえばいい。
あの一件ではアリスティアお嬢さまにもいろいろと迷惑をかけてる。
本当にすみません。ボクのせいじゃないとは思うけど、アリスティアお嬢さまのせいでもない。だから、いろいろとごめんなさい。
でも、ボクは貴族だと名乗ってない。それはまちがいない。
ただ、あの瞬間……『おまえ、貴族か!?』みたいなことはいわれた気がする。
「……向こうが勝手に、ボクのことを貴族だと勘違いしたかもしれません。でも、ボクは、絶対に自分から貴族だなんて名乗ってません」
そういい切ったところで、こんこんこん、とノックの音がした。
「……入りたまえ」
「失礼します」
副学園長の許しで、イセリナ先生が入ってくる。
「遅くなりました。シーアルドくんが呼び出されたとききまして。学園で彼を担当しているイセリナ・デレシーロでございます」
そういって微笑むイセリナ先生は女神。
「それで、いったい何があったんでしょうか?」
「なるほど、状況は理解しました」
主にアリスティアお嬢さまが状況を説明してくれた。
ボクの両サイドに、アリスティアお嬢さまとイセリナ先生が座っている。
元々は副学園長が座ってたけど、イセリナ先生と場所を代わった。ボクとしてはその方が嬉しいし、安心できる。
たぶん、ナイスクマリーはドアの向こうに立って待ってるんだろう。
「シーアルドくん」
「はい、イセリナ先生」
「デレシーロ侯爵家にも誓って下さい」
「え?」
「シュタイン伯爵家だけでなく、デレシーロ侯爵家もシーアルドくんの後ろ盾なんですよ?」
にこりと微笑んでるけど、イセリナ先生からみえない圧を感じる。
「あっ、はい。誓います。デレシーロ侯爵家にも誓います。絶対に、貴族を名乗ったりしてません」
嘘はいってないから、誓うのは問題ない。
さらににこにこと笑顔になったイセリナ先生が、騎士学園の先生方をみる。
ごくり、と騎士学園の先生たちがつばを飲み込む音がきこえた気がする。
かわいいイセリナ先生の視線に失礼なのでは?
「……ということですので、そちらの騎士学園の学園生は、同じように誓いを立てていますか?」
「こちらも、必ず確認しよう」
「では、確認できましたら、場を整えてくださいませ。それでは失礼しますね。いきますよ、アリスティアさん、シーアルドくん」
ゆっくりと立ちあがるイセリナ先生。
……え? もういいの? これで?
アリスティアお嬢さまも迷いなく立つ。
そうなると、ボクも立つしかない。なんか、副学園長が空気だけど……。
とりあえずボクはイセリナ先生の後ろに続いて、応接室から出た。
そのままドアの外にいたナイスクマリーも合流して、講義室へとゆっくり戻る。イセリナ先生のペースに合わせつつ、先生がつまずいたらそっとサポートする。
「あの……あれで終わりなんですか?」
「今は、あそこまで、ですわね」
「そうですね。終わりとはいえませんよ。……あちらも誓いを立てるのなら、シーアルドくんが勝てばいいだけです。そうすれば終わりです」
「……ボクが? 勝つ……?」
……それはいったい? どういう意味なんだろうか?
「決闘、頑張って下さいね、シーアルドくん」
「シーアルドなら負けないとは思いますけれど、しっかり頼みますわ」
イセリナ先生も、アリスティアお嬢さまも、何でもないことのようにそういった。
え……?
ええええええっっっ!? 決闘って? ボクが……!?
なんでそんなことに……。




