第41話 ヤバそうな魔法のカード……。
目を閉じて両腕を開いた女神さまから光があふれてるような……そんなカード。
ボクは自分の部屋で、今日のエリンとのお出かけ中に神殿の女神像のところで手に入れたカードをみつめていた。
「……どう考えても、すごい効果がありそうなカードなんだよなぁ。まあ、使わなくても魔力の本で調べられるんだけど……」
おそらく、癒し系の回復魔法にあたるカードだと思う。予想では。
……7ページ目を使えば、どういうカードなのかはすぐに理解することができる。
ボクはいつものように魔力を動かして、本を出す。
そして、7ページ目を開く。
このページには、上の方にひとつだけカードの枠がある。もちろん取り外し可能な方の枠だ。
カードの枠の下には大きな枠がページの4分の3くらいに広がってる。
女神のカードをその枠にピタリとはめ込む。
「……『仕様』」
自然と頭に浮かんでくる起句を小さな声で口にする。
そうするとカードの下の大きな枠の中に、文字が浮かんでくる。
もちろん、それは読めない。なぜなら、古代神聖文字だから。
でも、同時にボクの頭の中には、このカードの解説が……ボクにわかるように流れ込んでくる。
「……『女神の抱擁』……広範囲、重傷および重症、怪我や病気……治癒……または単体、瀕死状態、治癒……うわぁ、ヤバすぎる……。それ、もはや奇跡と呼んでもいいものなのでは……?」
予想通りの回復系の魔法で……かつ、予想以上の回復効果があるヤツ。これはもうヤバすぎて逆に使えそうにない。
……こんな魔法が使えたら、国内各地をぐるっと治癒の旅とかさせられそう。
いや、王都のどこかに監禁されて、おえらい貴族たちの治療をずっとさせられるかもしれない。
怪我だけじゃなくて病気にも効果があるってところもヤバい。
伝染病とかが発生したら、どう考えても扱き使われてしまう。
もちろん、そうなったらこの魔法は使うべきだから……ボク個人のために隠し続けるってわけにはいかないだろうけど……女王陛下に頼まれたら断れそうにないし。今は知られてないから頼まれることもないとはいえ。
どっちにせよ、強力すぎる魔法が使えたとしても、ろくなことにはならないということは理解できる。サラマン・イスクの雷の魔法と同じだ。
もし、このカードをあの時……領都シュタインズゲートの神殿でジョブを授かった時に手にしていたとしたら。
あの時のボクなら、何も考えずにこのカードのことを口にしていたような気がする。掃除の魔法が使えるようになった時みたいに……。
そうなってたら……いきなり『なんとか魔術師』はやっぱり強力な魔術師なんだって思われてた可能性が高い。あ、いや……。
そういえば……女神像のところで、カウントダウンの数字はみえなかったはず。
そうだとすると……このカードの入手はこの一枚だけか、もしくは各地の神殿を巡って手に入れるしかないのか?
だとすると……下手したら最初の掃除のカードみたいに1ページ目にはめ込んで何もできなかったりとか、してたかもしれない。
もしくは、最初の1回だけ使って、二度と使えないみたいな感じで……役立たず認定とか?
まあ、現状でも今のボクは魔法使いとしては役立たず認定なんだけど……。
怖いな、やっぱり。
この『なんとか魔術師』としての力は……どう使うかがすごく重要な気がする。
……できるだけ隠し続けるとしても、いつかはバレる可能性だってあるわけで。
バレた時には……あの人、サラマン・イスクのような人生にはならないように、しっかりと準備しておかないとダメだ。
もしくは、バレたとしても問題がないような生き方を探すか。
とりあえずは……このカードの処理だな。
今は雷撃関係のカードは足りてるから、8ページ目のひと枠を使って保存した上で、明日には『子葉』でまず複製して……とにかく『枝葉』で効果を弱めておかないとダメだろう。
弱められるよね?
それができないとしたら本当に使い道がないかも?
……一応、『止揚』で合成できるかどうかは試してみるけど、もし合成できたらさっきの説明以上の効果って、それはもう死者の蘇生とかになるのでは?
そうだとしたらもうヤバすぎて何も口にできないよな?
でも、もしそうだったら……エリンやソードアーク、アリスティアお嬢さまやイセリナ先生にもしものことがあった時のために準備はしとくべきだし、その瞬間には使うしかないから隠すことはできなくなってしまう……。
それはこのカードだとしても同じだろう。
ああ、詰んでるよなぁ……。
……ボクがもし、ソードアークみたいな性格だったとして。
自分の魔法をどんどん使って、みせびらかして……それでいて、使いたいように使えるんなら、その方がよかったんだろうか?
たとえ効果の高い回復魔法でも、あいつは嫌いだから使わないぜ、ってソードアークならそういう方向でもめちゃくちゃなことをやりそうだし。
ま、悩んでも仕方がない、か。
とりあえずボクは秘密のノートに、7ページ目に浮かんできた古代神聖文字の文章とその意味を書き写しておくのだった。
……いつの日か、古代神聖文字の研究者であるシェンエント先生に、嫌な思いをさせるために。
「ぐ……ま、負けねぇぞ……ぜ、絶対にエリンは……取り、戻す……」
それを遺言のように吐き出すと、ソードアークは膝をついて荒い息を続けた。
ボクの一撃を首すじに受けた直後の言葉。
朝の訓練で、今朝もボクはソードアークに3連勝だ。
「エリン……? 取り戻す……?」
ソードアークと同じように、荒い息を整えようとして座り込んでいる騎士見習いのネルソンが首を傾げた。
ちなみにボクはネルソンに対しても今朝だけで3連勝だ。
「……エリンは、アリスティアお嬢さま付きのメイドで、ボクたちと同じ孤児院の出身の女の子だよ」
「ああ、彼女か……取り戻すってことは、シーアルドがソードアークから……その子を寝取ったのか?」
「ねとっ……!? そんなわけないっ!?」
ボクは慌てて否定する。
そもそもソードアークとエリンは!?
ボクと同じで、ただ同じ孤児院で同い年だったってだけで!?
そういう関係ではないから!?
「だが、彼女は時々、ソードアークの部屋に掃除にきていたと思うんだが……出入りする姿をみた記憶があるぞ? ちがうのか?」
「それはボクの部屋にもきてたよ……部屋割りの関係でボクは魔術師見習いの方だから知らないだけじゃないかな?」
なんでボクはネルソンとこんな話をしてるんだ……?
だいたい全部ソードアークが悪いだろう……?
朝の訓練に、ネルソンも参加するようになったのは……ネルソンの向上心がすごいからだと思う。
あと7人のシュタイン伯爵領出身で同学年の騎士見習いのうち、ひとりはまだ入院中だけど……ボクとの模擬戦でボコられた6人は今のところ朝の訓練に参加する気はないみたいだし……。
ボクとしても、ソードアークだけを相手にするよりはいろいろと勉強になる。
ネルソンはアリスティアお嬢さまのシュタイン伯爵家に仕える騎士の息子だから、剣さばきがとても綺麗なんだよな……英才教育というやつなのかもしれない。
「確かに、魔術師見習いたちとは部屋が離れてはいるな……そうか。シーアルドの部屋にも出入りしていたのか」
そうネルソンが納得したタイミングで――。
「シーアルド~! ソードアーク~! タオル持ってきたよ~……あ。ネルソンさま。おはようございます。ネルソンさまもご一緒でしたか?」
――いつものように元気よくタオルを届けにきたエリンが、ネルソンに気づいて話しかけた。
ネルソンに向かってにっこりと微笑むエリンは、とてもかわいらしい。
しかも、ちゃんとネルソンの名前も覚えてるとか……エリンは立派だなぁ。
「あ、ああ……」
エリンに話しかけられて、なぜか、ドギマギしてるネルソン。
顔が赤くなってるのはなんでだ……?
ひとりだけ立ってるボクに、エリンはふたり分のタオルを押し付けるようにして渡してきた。
タオルを落とすわけにはいかないから、当然、受け取るしかない。
「では、ネルソンさまのタオルも取って参りますので、少しお待ち頂けますか?」
「あ、ああ……た、助かるよ」
「では、すぐに」
ぺこりと一礼したエリンが、たたたっと駆け足で戻っていく。
そんな走り方もかわいい。
「……なんと可憐な……彼女がエリンさんか……彼女とシーアルドが……くっ……なんとうらやましい……」
ネルソンの不気味なつぶやきがきこえてくる。
いやいや。タオルを取りに戻ってくれただけだろう?
そんな目になるか? 普通? ハート目じゃないか、それ???
「……ソードアーク」
「なんだよ、ネルソン……」
「……いつの日か、シーアルドを必ず、叩きのめすぞ」
「お、おう!? 絶対にだ! そしてエリンを取り戻す!」
「いや、エリンさんは……いつか俺が……もらい受ける……」
「な、なにぃっ!? ふ、ふざけんな!? ネルソン!?」
「ふざけてなどいない。俺は本気だ……」
……エリン。なんて罪深いかわいさなんだ。ネルソンが完全に惚れたみたいだし。
でも、ネルソンのやつ、ちょろすぎないか?
確かにエリンはかわいいけどな!
こうしてボクはソードアークだけでなく、ネルソンからも執拗に訓練を頼まれるようになるのだった。




