第40話 女の子がふたりいると幸せ……とは限らぬ!?
「……シーアルド? ……誰?」
なんか!? エリンの目が怖いんだけど!?
すごく怖いんだけど!?
「え、ええ、えっと、この前のダンジョン実習の時にアリスティアお嬢さまのパーティーで一緒だった巫女見習いのオーロラさんだよ、うん。アリスティアお嬢さまのパーティーの!」
ボクは「アリスティアお嬢さまのパーティー」であることを強調した。
なんか、そうした方がいいと思ったから。
「……ふうん。お嬢さまと一緒のパーティーだった人かぁ……」
エリンからのよくわからない圧みたいなものが消えていく。
どうやら正解を導けたらしい。
「クッキーはいかがですか? 美味しいですよ?」
オーロラさんはエリンに試食のクッキーがのった皿を差し出した。
エリンは手を伸ばしてクッキーを食べる。
「……あ、これ、美味しい」
「シーアルドさまもいかがですか?」
「あ、はい。頂きます」
ボクもエリンと同じようにクッキーを1枚、食べた。
確かに美味しい。
でも、試食をもらったらこれはもう買うべきなんだろうな……。
クッキーは袋入りで売っている。
ひと袋、銅貨5枚ならそこまで高いとも思えない。
「ふた袋、買わせて頂いてもいいですか?」
ひとつはエリンの分だ。
もうひとつは今度のイセリナ先生の講義の時にでもみんなで食べたらいいだろう。
「お買い上げ、ありがとうございます」
にこりと微笑むオーロラさん。
商売上手なのかもしれない。
「これはわたくしたち巫女見習いが作っているのですよ」
「へー、そうなんだ。なんでクッキーを作るの?」
エリンが興味をもったらしい。
巫女見習いの人たちが何をやってるかなんて、ボクも知らないし、興味はある。
「今回はクッキーでしたが、他にもパンやドーナツなどを作ることもあります。わたくしたちが卒業後に派遣される神殿や修道院などでも、そういうものを作ることがあるので、その練習なのです」
「あ、そうなんだ」
そうすると……たぶん、小麦は修道院とかの畑から作ってるんじゃないかな?
ただのお菓子作りって話ではないんだろうと思う。神学校ってそういうところからやるらしいし。
「本日は、礼拝でしょうか?」
「あ、うん。女神さまにお祈りしたいなって」
「シーアルドさまも?」
「これはデートでっす!」
エリンはボクの腕に自分の腕をからめて、にっこりと笑った。
全部エリンが答えるから、ボクが言葉を返す隙がないんだけど……やっぱりエリンの中ではデートでしたね、うん。
「ふふふ。女神さまも恋人のおふたりを祝福なさると思います。どうぞ、神殿の門はいつでも開かれております」
オーロラさんが神殿の入口を指し示して、一礼する。
入口で売ってて、しかも試食させるという作戦なのか……礼拝にくる人を完全に狙ってるよな?
ボクも一礼を返しつつ、エリンに引っ張られるように神殿の中へと進んだ。
「恋人っていわれちゃったね!」
「そ、そうだね」
「ふふん。ちゃんとそうみえるんだね! よかった!」
「あ、あはは……」
エリンが嬉しそうに笑ってる。絡めた腕をほどくつもりはないらしい。
まあ、悪い気はしないけど……またソードアークがうるさくなるんだろうな。
まあ、そのソードアークとの模擬戦ではもう痛い思いをすることもないだろうから別にいいけど……。
それよりも……ボクの魔法の秘密がどういう風にバレていくかによっては……ボクの恋人だなんて思われてしまうと命の危険もあるかもしれない。
そっちの方が大問題だと思う。
だからってエリンに強く否定とかできないけど!?
すごく嬉しそうにしてるし!? 無理だよそんなの!?
……こんなことをサラマン・イスクも思ったんだろうか?
いや、あの人は別に魔法を秘密とかにしてたわけじゃないか。
エリンのためにもボクの魔法は秘密の方がいいにちがいない……。
エリンは礼拝堂の中をきょろきょろと見回してる。
「……シュタインズゲートの神殿の方が大きいような気がする……」
「学園都市は王都のおまけみたいな都市だからね。シュタインズゲートは伯爵領の領都だし、ここより大きくなるのも当然かも。それに……王都にはシュタインズゲートよりもっと大きな神殿があるんじゃないかな」
「そっかぁ……でも、落ち着いた雰囲気なのに、なんか綺麗だよね、神殿って」
「そうだね」
エリンが神殿にいこうっていい出したんだから全部偶然だと思う。
でも、神殿ってデートのコースとしても悪くないのかもしれない。礼拝の行列には男女のペアが何組かいるし。
そういえば……領都シュタインズゲートの神殿でジョブを授かった時に、司祭さまの後ろで女神さまの像がなんか……って。
女神さまの像の足元が、キラン、キランと光ってる!?
この光は……まさか……。
エリンと一緒に礼拝の列に並ぶけど、ボクの頭の中はそれどころじゃなかった。
……そうだ。そうだった。あの時も……女神さまからジョブを授かって司祭さまと話してた時もこんな風に光ってた覚えがある。
今なら、わかる。
この光は……カードが手に入る時の光……。
カードが手に入りそうな状況にドキドキしていると、しばらくしてボクたちの順番がくる。
ボクは女神像に頭を下げつつ、そっとその足元に触れる。
カードがぽとりと床に落ちて、それをボクは拾う。
ボク以外の誰にもみえてない魔法のカードだ。
気づかれることもない。
……ひょっとして、あの時に……もしも、ジョブを授かった時に女神像に触れてたとしたら。
ボクは最初から『カードの魔術師』だってわかっていたのかもしれない。
「……シーアルドは女神さまに何をお願いしたの?」
「魔法が使えるようになりますようにって」
「そっかー」
「エリンは?」
「うーん……ないしょ!」
ニシシと笑ってエリンはそういった。
その笑顔はよくみなれたものだったけど、ボクはすごくかわいいと思った。
串焼き肉をごちそうするだけだったのに、ボクとエリンはそのまま学園都市の商店街をうろうろと歩いて――。
「よう、なんか仲よさそーじゃねーの」
「楽しそうだなー、オレたちもまぜてくれよー」
「ははっ、うらやましいっていえよ、うらやましいって」
「いやいや、これからオレたちとも楽しんでもらおうぜー」
――なんでか4人組の男の子たちに絡まれた。
エリンがぎゅっとボクの腕を掴んでる手に力を入れた。
怖がってるんだろう。
でも、ふたりで腕を組んだ状態だと、まともに戦えない。
ボクは魔力を循環させて魔力の本を出すと、エリンを背中にかばいつつ絡めていた腕を抜いた。
「へぇー、そんな態度かよ?」
「こいつ、生意気じゃねーか?」
「4人相手に何かできるとでも思ってんのか?」
「バカじゃねーの? オレたちゃ騎士学園の第2学年でも強ぇっていわれてんだぜ?」
あ、騎士学園か。
それなら遠慮はいらないかもしれない。
「『資用』」
カードを戦闘用の1ページに移す。
サラマン・イスクから手に入れた雷のカードを分解して、分解して、分解した……威力を弱めた雷魔法のカードだ。
ボクは一瞬で間合いを詰めると、手刀をひとりの首にトンと当てる。
そのタイミングに合わせて――。
「『使用』」
――カードの魔法を使う。
バチンという音ともに、ひとりの騎士見習いが膝から崩れ落ちる。
「なっ……」
驚いてる人にも、即座に手刀を当てる。
「『使用』」
バチン。
「うっ……」
ふたり目も膝から崩れ落ちる。
起句はささやくように口にしたから、バレてないだろう。
雷撃によって気絶させただけだし、みた感じでは手刀で意識を奪ったようになってるはず。
「な、なんだてめぇは!?」
「いっ、一瞬でふたりも……!?」
「……気絶させただけなので、連れて帰ってもらえると助かりますね? それとも、そちらのおふたりも同じようにしてから、衛兵にきてもらいましょうか? ああ、ホワイトナイト学園長にも話を通しておいた方がいいでしょうか?」
「なっ!? 学園長と知り合いだとっ!?」
「貴族かよっ!?」
……ボクは別に貴族ではないけど、そっちが勝手にそう勘違いしたんなら問題ないだろう。
慌てたふたりは、倒れたふたりを引きずるようにして逃げていく。
せめて、脇に抱えるとかしてあげればいいのに……。
「……シーアルド……すっっっごく……カッコよかった……」
その声に振り返ると、手を合わせてボクを祈るようにみつめてくるエリンが立っていたのだった。




