第38話 泣きたい時もある
「わはははは! どうだ! いった通りだろうが!」
「……アリスティアお嬢さま。ご迷惑をおかけしました」
「シーアルドのせいではありませんわ」
なぜかボクたちの東寮にいたホワイトナイト学園長が審判をして、ボクとソードアークたち騎士見習いの模擬戦が実施された。
アリスティアお嬢さまが学園都市の神殿に併設されてる治療院から神官さまを数人、呼んでくれたということで……寸止めでも手加減なしの戦いになった。
……絶対にこの模擬戦って、ホワイトナイト学園長の仕込みだろうな。
ソードアークとは5戦5勝。
ネルソンって騎士見習いが3戦3勝。
残りの6人の騎士見習いからは1勝ずつで、模擬戦は終了。
「……ただ、死屍累々という感じではありますわね……」
「本当に、すみません……」
アリスティアお嬢さまのいう通り、呆然自失な状態で座り込んでる騎士見習いたちの目は死んでる。
ソードアークだけは少しちがった目になってるけど。
ボクとの再戦を強く望んだのはソードアークとネルソンだけだったから、こんな回数になってる。
もちろん、ボクの全勝だ。
「……おまえ、本当に……ずっと手加減してたのかよ……」
「……」
ソードアークのつぶやきになんて答えればいいのか、迷う。
もちろん「ソードアークに勝つとめんどうだから」なんてことはいえないし、いわない。それは真実だったとしても失礼すぎる。
でもなぁ……やっぱり何もいわないのが正解なんじゃないかな……。
ソードアークにしてみればボクからの5連敗なんてはじめてのことになる。
本気でやれって話だから、これはもうどうしようもない。
本気かどうかを見抜けるホワイトナイト学園長がいたし。
手は抜けなかった。
「……クソ。シーアルド……」
「……」
「……明日の朝も……本気でやりやがれ……」
「っ!? ソードアーク……ボクは……」
「うっせぇ……サボんじゃねーぞ! オレはいつか……シーアルドを倒すっ」
強い意思を感じる、ソードアークの目。
こんなことになってしまって、ボクとソードアークの関係は壊れてしまうだろうと思ってた。
でも、ソードアークは……それでも、ボクとの朝の訓練を続けようとしてる。
……ボクはちょっとだけ、ソードアークのことを見直した。
ぱんぱんぱん、と大きな音で拍手したのはホワイトナイト学園長だ。
「これだけの強さをみせつけたんだ! これでシーアルドも心置きなく騎士学園に移れるな! がははは!」
「いえ。ボクは騎士学園にはいきませんよ? 学園長室ではっきりとお断りしましたよね?」
「なっ、なんだと!? ここまでの強さがあって……」
「ボクは魔術師見習いですから。騎士学園には興味がありませんので」
そういい捨てて、ボクはぺこりと頭を下げた。
そのまま視線だけでアリスティアお嬢さまに詫びると、寮の方へと戻った。どうしても高位の人間の相手はアリスティアお嬢さまがするしかない。
騎士見習いがこの状態なら、ボクが護衛につくべきだろうけど……そこはナイスクマリーにもう任せよう。
体じゃなくて、精神的にすごく疲れた。
ホワイトナイト学園長は侯爵さまだから、かなり失礼だとは思うけど……脳筋だから別にいいんじゃないか、なんて思う。
この事態を引き起こした元凶だから腹が立つっていうのもあるし。
ソードアークたちをたき付けたのはホワイトナイト学園長だ。
今はこの場にいたくなかった。
こんこんこん。
ドアがノックされる。
「……シーアルド。入ってもいい?」
「エリン……いいよ……」
ボクはベッドに座ったままで、ドアの方をみた。
エリンがおずおずとドアを開いて、中へ入ってくる。
そのまま、エリンはいつものようにベッドに座って……いや。いつも以上に、ボクの近くに座った。
そして、そっとボクの腕に触れる。
小さな子どもの頃。
孤児院でのお使いで領都シュタインズゲートの町をうろうろする時、よくこんな感じでエリンはボクの腕をちょこんと掴んでいた。不安そうに。
そのまま、エリンは黙ってる。
何も、いわない。
しばらく時間が経っても、エリンはそうしたままだ。
ボクの腕にほんの少しだけ、温かさがある。
「……ボクは、ね……」
「……うん」
「チャンバラでソードアークに勝つとめんどうくさいなぁ、なんて、そんなことをずっと……思ってたんだ」
「うん。知ってる」
「……そっか」
どうやらエリンにはわかってたらしい。
「……ソードアークが、ね。明日の朝も訓練しようって」
「うん」
「……正直にいえば、本気でやったら……ソードアークとは二度と話せないくらい、関係が壊れるって思ってた」
「うん。わかるよ」
「やっぱり?」
「うん。昔はそうだったと思う。でも、ソードアークもね、こっちにきて、変わったんだよ、きっと」
「そっか……」
エリンには、ボクとはちがってソードアークの成長がみえていたらしい。
ボクはちょっと恥ずかしいと思った。
別々の学園になってソードアークとの交流はほとんど朝だけだったとはいえ、あれでも同じ孤児院で育った幼馴染みだ。
それなのに……ソードアークのことをものすごく見下してたってことだし。
自分だって、それほど大した人間だというわけでもないのに。
エリンの方がよっぽど……人として立派なんじゃないかって。
そんなことを思った。
「……明日のお休み、約束、覚えてるよね?」
エリンがきゅっとボクの腕を掴んでる指に力を入れた。
「もちろん。覚えてる。何か、ごちそうするって。エリンが領都でごちそうしてくれたみたいに」
「……よかった。それじゃ、あたし、そろそろお嬢さまの夕食の準備にいかないと」
エリンが立ち上がって、ボクの部屋を出ていく。
ボクの方は振り返らない。
ボクが泣いてるのを……みないように。
そんなちょっとしたエリンの気遣いに、ボクは感謝するしかなかった。




