第37話 身体強化魔法論争? 馬鹿なの?
「……それで、その……結局、今回の件はいったいどういう経緯で?」
「ふむ……」
学園長室でボクはカーインド学園長に質問した。
すでに騎士学園のホワイトナイト学園長はいない。ちゃんとお断りしたから。
「……シーアルドくん。キミは、自分が騎士学園の騎士見習いたちよりも強いという自覚はあるかね? これはもちろん剣技においての話だが?」
「はあ……まあ、騎士見習いの全員というわけではありませんけど……昨日のダンジョン実習で同じパーティーにいた騎士見習いは正直なところ、ボクよりも弱いな、と思いました……」
ゴブリンとの戦闘であんなに怪我をするとか、ちょっと理解できない。
本当に騎士見習いとして訓練を積んでるのか、と思ったのは事実。
でも……まさか……ボクが第1学年最強のソードアークよりも強いのか?
いや、ソードアークよりは強いだろうとは思ってるけど……あれで最強なの? 本当に?
「キミはおそらく、その彼だけでなく……今の騎士学園の第1学年生の誰よりも強いのではないかと思うのだが?」
学園長はボクが最強だろうと考えているらしい。
これはホワイトナイト学園長の言葉を信じているということだろう。
「さっき、ホワイトナイト学園長がソードアーク……ボクの孤児院の友人が第1学年で最強といってましたから、もしそれが本当ならおそらくは……」
本気でやればボクは……おそらくソードアークに負けることはない。
いつも、ソードアークを気持ちよく勝たせてるだけで……ボクの目的は体を鍛える方がメインだ。勝ち負けには興味があんまりなかった。
あと、魔法を使えない……ということになってるから、剣技でアリスティアお嬢さまを守らないといけないという事情もある。
だからずっと、ソードアークに付き合ってるようでいて、自分のために朝の訓練をしてる。
「ダンジョン実習ではゴブリン3体を瞬殺したという報告が入っているが、これも事実なのかい?」
「瞬殺……というほど、すばやく倒したかといわれると自信はありませんけど……まちがいなくゴブリンを3匹、倒してます」
「ダンジョン実習の後で、騎士学園でシュタイン伯爵領の騎士見習いが決闘をしたことは聞いているかい?」
「はい、それは今朝、ソードアークから聞きました」
うむうむ、と学園長が2回、うなずいた。
「決闘後、決闘に至った理由を騎士学園の先生方が確認して、キミの剣技がとても優れていると判断した。これはわかるかね?」
「……理解したくないですけど、わかります……」
「実際に確認してみないとわからない部分があるということで、キミたちの東寮へとホワイトナイト学園長は出向いた訳だ」
「なる、ほど……? 朝から? えぇ……?」
「朝ではなく、昨夜から泊り込んだと聞いている。そこでみたキミは……騎士学園第1学年最強の『剣豪』をまるで子どものようにあしらっていた、と」
「そんなつもりはありませんでしたけどね……」
「それに……キミはまだ、魔法が使えない……ということになっている。そこも……関係している」
「あ、そうでしたか……」
「魔法が使えるようになるまでは騎士学園で鍛えるべきだ、という意見は、まあ、否定しづらくはあるのだよ……」
つまり、ダンジョン実習でゴブリンを3匹殺したから?
えぇ……? そのくらいのことで……?
確かにソードアークとは毎朝、訓練を続けてるけど……別にボクは騎士見習いになりたくてやってるわけじゃないし……。
「ホワイトナイト学園長がここへやってきた経緯は理解できたかい?」
「おおよそは」
「ふむ……」
そこで学園長は一度考え込んだ。
「……キミはもう『身体強化魔法論争』については学んだのだろうか?」
「『身体強化魔法論争』ですか? いいえ、まだ知りませんけど?」
「そうか……少し長くなるが、かまわんかね?」
「あ、はい」
どうやら学園長の特別講義が始まるらしい。
長くなりそうだ……。
この国だけでなく、周辺諸国で『身体強化魔法論争』というものがあるらしい。
騎士などの剣や槍、その他の武器を用いて戦う人たちは……己の体を極限まで鍛える。
でも、一部の者は……人間が鍛えてできる限界を超えた速さや強さで剣を振るう。
それは『身体強化魔法』によるものである。
各国の魔法学園を中心にそれはもはや事実として認識されているんだけど……。
これまた各国の騎士学園は全面的にこれを否定してるって話。
いわく『我々は己の肉体を極限まで鍛えているにすぎない。魔法などには頼っておらん! バカなことをいうな!』ということらしい。
実に脳筋な返答だ。
これが『身体強化魔法論争』といわれてる。
……いや、どうでもよすぎて考えたくもない。
騎士たちが使う『身体強化魔法』は無意識化でコントロールされていて、呪文の詠唱はいらないし、当然起句を発することもない。
もしそれに起句を認めるとしたら『うおおおおっ!』みたいな雄叫びが起句になるそうだ。もう意味がわからん……。
無意識だから、騎士たちは魔法を使ってるなんて認めないということ。
明らかに魔術師たちが使う魔法とは異なるものなので、それを魔法と呼ぶかどうかについては魔法学園の方でも議論はあるらしい。
カーインド学園長によると……ボクの場合は、膨大な魔力を保有してるため、それが身体強化魔法として活用されていれば……剣技において世界最強に至ることも不可能ではないとか。
……『なんとか魔術師』として魔術師の最高峰になるんじゃなくて、剣技の方で世界最強とかいわれてもなぁ。実感はない。
そんなことを思いながら寮まで帰ってきたんだけど――。
「おい。シーアルド。おまえ……オレとの訓練でずっと手加減してたって本当かよ?」
――なんでかソードアークにバレてるし、ソードアーク以外の7人の騎士見習いも一緒にボクの帰りを待ってるっていう。
あの脳筋学園長!?
絶対、ソードアークにしゃべっただろ!?
嫌がらせか!?
ボクが騎士学園いきを断ったから!?
「ソードアークだけじゃなくて、オレたちも含めて……全員と手合わせしてもらいたい。もちろん、本気で、だ」
そう丁寧にいってビシっと頭を下げたのは、確か……ネルソンって騎士見習いだ。
ネルソン以外の6人はしぶしぶという感じで、ネルソンのように頭を下げてる。
……いやいやいや。今朝のソードアークの話だと、ボクみたいな魔法学園の学園生に挑むのは恥って話じゃなかったっけ?
誰かの……あまり好ましくない思惑を感じるような気がする……。
ソードアークはめちゃくちゃボクの方をにらんでて……そのずっと後ろの方の柱の影でエリンがあわあわしてる。
いや、エリン。できれば今すぐにでもアリスティアお嬢さまを呼んできてくれないかな……。
本当にこれ……どうしたらいい?
めちゃくちゃめんどうくさいことになってきた……。




