第35話 ゴブリンなんて簡単に倒せるけど……?
「水よ、集え、水よ、集え、集いと玉を成し、その圧で敵軍を裂け、『アクアボール』」
アリスティアお嬢さまの魔法が放たれた。
でも、詠唱と同時に、ゴブリンも気づいてる。
そして、バラけるように動いた。
……あれ? 6匹じゃない? 9匹いるような?
ドンバッシャッン!
弾け飛んだ水の勢いで、3匹のゴブリンが倒れて、消えていく。
想定していた6匹だったのなら、残りは3匹だけど……数が、ちがう。
残ったゴブリンのうち、2匹はボクたちとは反対方向へと逃げ出した。
もともとアリスティアお嬢さまの魔法を避けるためにそっちへ走ったのだから、そのまま逃げたんだろう。
4匹のゴブリンがボクたちの方へと敵意をむき出しにして襲いかかってくる。
「ナイスクマリー!」
「土よ、土よ、集い、尖れ、一筋の矢となり、我が的を射よ、『アースアロー』」
今度はナイスクマリーが魔法の土の矢を放った。
しかし、その矢は走ってるゴブリンには当たらない。
「しまった!」
「ちっ! この騎士崩れが!」
ナイスクマリーに悪態をつくヌーヴォルス。
……この人、本当に騎士見習いなんだろうか? 人間性、終わってない?
確かにナイスクマリーは騎士の息子だけど、ジョブは『土の魔術師』だ。
別に騎士崩れというわけじゃないし、そういういい方は最悪だろう。
「シーアルド! 前に! 時間を稼いで!」
「はい」
アリスティアお嬢さまの指示でボクが前に出ると、その一歩先でヌーヴォルスはゴブリン2匹と接していた。
ボクは残り2匹を引き受けなければならない。
でも、まあ、問題ない。
ゴブリンなんて……ソードアークと比べたら……雑魚も雑魚だ。
ボクは半歩だけ踏み込んで、ゴブリンの振り下ろす棍棒のような木を避けつつ、そののどを剣で貫く。
「グギャガっ……」
「ぐっ……」
……なんか、ゴブリンの断末魔と同時に変な声が聞こえてきたけど、そっちを見てる場合じゃないし。
もう1匹のゴブリンは錆びた剣を振り回してくる。
もちろん、そんないい加減な振りなんて、当たらない。
最初のゴブリンののどから剣を抜きつつ、もう1匹のゴブリンのかかとを蹴り上げる。
「グギャっ?」
ゴテンっと背中から転んだゴブリンが地面で頭を打つ。
何が起きてるのかもわかってない感じだけど、言葉が通じないから……。
そのまま大地に縫い付けるようにして、心臓を刺し貫く。
ここまで、3秒もかかってないと思う。
ゴブリン2匹がほぼ同時に消えていく。ダンジョンではこれが普通だ。
倒せば消えて、ドロップだけが残る。
「がっ……」
また何か聞こえるなと思って、そっちを振り返る。
そしたら、なんと……2匹のゴブリンに斬りつけられてるヌーヴォルスがいた。
……え?
この人、弱くない?
血を流しながら、必死にゴブリン2匹を戦ってるヌーヴォルス。
何か慌ててるみたいで、剣筋もバラバラだし、あれじゃあ力も入らない。
ボクは助けに入るべきかどうか、一瞬だけ迷った。
変なプライドだけはありそうなタイプだと思ってたから。実際、口がすごく悪いし。
アリスティアお嬢さまは詠唱に入っていて、指示は出せそうにない。
さっきはボール系の魔法だったから、今度はアロー系だろう。
ナイスクマリーが杖での接近戦で援護するのかと思って確認すると、その動きもない。
ヌーヴォルスは2匹を同時に止めるために、その真ん中に立っている。結果として、左右から攻め立てられてる。ゴブリンごときに。
それに……そのままだとアリスティアお嬢さまのアクアアローの射線に入ってしまうだろう。
「アリスティアお嬢さまの詠唱が終わる! よけろ! ヌーヴォルス!」
「くっ……」
ナイスクマリーからの指示で、ヌーヴォルスが大きく身を引いて射線をあけた。
2匹とも、だ。
……こいつ、バカなのか?
「『アクアアロー』」
アリスティアお嬢さまから放たれたアクアアローはゴブリンの片方を見事に刺し貫いた。
でも、もう1匹、残ってる。
そいつが、まっすぐ道が開いたことでアリスティアお嬢さまへと走り寄っていく。
さすがに指示を待つ場面じゃない。
「きゃあああっ!?」
悲鳴を上げるアリスティアお嬢さま。
その目の前でボクはゴブリンの首を後ろから跳ね飛ばした。
もちろん、アリスティアお嬢さまに怪我はさせない。そんなヘマはしない。
でも、怖い思いはさせてしまっただろうと思う。
「なんでアリスティアお嬢さまの前を全部あけたんだ!」
「おまえがよけろっていったんだろうが!?」
「普通は1匹分だけよけるに決まってるだろ!」
「そんなことは聞いたこともない!」
「1匹は引き受けておくものだろう!」
巫女見習いのオーロラが『ライトヒール』を使って、ヌーヴォルスの傷を治療したけど、完全にはふさがらなかった。
そこで、丁寧に包帯を巻いてくれてるというのに、ヌーヴォルスとナイスクマリーは激しい口ゲンカをしてるという。
実にみっともない状態だ。
「それならそういう指示を出せよっ!」
「そういう指示まで細かく出せるものか! 戦闘中なんだぞ!」
「こっちだって戦闘中で夢中だったんだ!」
「ふざけるな! アリスティアお嬢さまを危険にさらしたんだぞっ!?」
「……ナイスクマリー。もうおよしなさい。わたくしは大丈夫です」
みかねたアリスティアお嬢さまが仲裁に入る。
仲裁というか、ナイスクマリーを止めたというべきか。
「シーアルドがちゃんと守って下さいましたので」
その一言で。
ヌーヴォルスの顔が一瞬で青ざめた。
でも、青ざめつつも、なんでかボクの方をにらんでる。
いや……ボク、悪くないよな?
この中で一番ちゃんと仕事をしたと思うんだ、ボクが。
「……シーアルドさまはとてもお強いのですね。驚きました」
ヌーヴォルスの腕に包帯を巻きながら、にこりと微笑んでオーロラがそんなことを口にした。
「ゴブリン3匹を……それもみな剣の一振りや一突きでお倒しになってしまわれるなんて……本当に驚きました。見事な剣技としか……」
ぽっと頬も赤くしたりなんかして、オーロラが上目遣いでボクの方を見てる。
いや、ヌーヴォルスの治療のためにしゃがんでるからそうなるだけなんだけど。
ますます表情を歪めるヌーヴォルス。
だからなんでボクがにらまれるんだって!?
ヌーヴォルスが弱いのが全部悪いはずなのに!?
もう早く魔石を回収して戻りたいです……。




