第34話 自信満々の騎士見習いと
「アリスティアお嬢さま。今回のパーティーに選んで頂き、大変嬉しく思います。どうか護衛はこのヌーヴォルスにお任せ下さい」
今から始まる2回目のダンジョン実習も、ボクは嫌な予感しかしなかった。
このヌーヴォルスって騎士見習いは……ボクと同じ孤児院で育ったソードアークを見下してる人だから。
当然、ボクのことも見下してくるのはまちがいない。
「今回、は、ヌーヴォルスの番です。期待しています」
「はっ!」
ぴしっと背筋を伸ばす姿は立派だけど、絶対にアリスティアお嬢さまに対してだけなんだよな。
しかも脳筋っぽい。アリスティアお嬢さまが言葉に込めた意味を……たぶん理解できてない。
シュタイン伯爵領から学園都市までの移動の時には、ボクとソードアークに馬の世話を押し付けてきた主犯格だし。
……騎士の人たちにこっそり報告して、あとでめちゃくちゃ叱ってもらったけど。
あんなことをやってたら叱られるってことすら考えられないタイプなんだろう。
まあ、アリスティアお嬢さまが決めたことだから、文句はいえない。
それよりも……。
「巫女見習いのオーロラです。本日はよろしくお願いします。どうか、アリスティアお嬢さまに女神のご加護がありますように」
……こっちはカンシドレー神学校からの巫女見習いさんだ。オーロラっていうらしい。
家名は名乗ってないけど、あるのか、ないのか。そこは分からない。
とりあえず出身は、ボクたちと同じシュタイン伯爵領とのこと。
基本的に学園都市では出身地域を中心に班分けがされてる。
班分け以外も、だ。
そうしないと「守るべき責任」を学ばない高位貴族が出るから、ということらしい。
これは学園長に教えてもらった。
……そういうのも含めて、高位貴族が最優先になってるって話ではある。
今回、神官見習いではなく巫女見習いがこのパーティーに配置されたのは、アリスティアお嬢さまがいるからってことだろう。
女の子同士の方がいいって考え方だ。
それは前もってアリスティアお嬢さまから聞いてる。
でも、神学校の人たちは学校に併設された寮で生活してるから、基本的に関わることがない。
このダンジョン実習が貴重な機会になる。
聞いた話では、祈りを中心とする集団生活で、畑作業なんかもやってるらしい。貴族の出身でもそこは同じというのが神学校の特徴だという。
神官見習い寮と巫女見習い寮は神学校の校舎をはさんで反対側にあるから、男女の不適切なむにゃむにゃもボクたちの寮よりはるかに少ないらしいし。
……そういうのがゼロではないっていうのが、人間ってダメだなと思う部分かもしれない。
ちなみにボクたちの寮では、普通にエリンがボクやソードアークの部屋に出入りしてるのでわかると思うけど、そういう男女のむにゃむにゃは発生しやすい。
ボクとエリンがそうなってるって意味ではない。
ちなみにそうなった場合は自己責任です。
そんなことを考えながら油断していたわけではないけど……。
「……おい、役立たずの孤児。せめて命がけでお嬢さまを守れよ……」
……ヌーヴォルスがボクの耳に、そうささやいた。
ぼそっと。
本当に小さな声で。
……本当に、嫌なヤツなんだよな。残念なことに。
ナイスクマリーとか、親が騎士さんだってのにボクのことをちゃんと友人扱いしてくれる。
孤児だからとか、そういうのを気にしない人もちゃんといるのに。
この前も別の騎士見習いに注意されてたけど、変わってないんだな。この人は。
まあ、今回の実習限りで……最終的にはアリスティアお嬢さまがまともな護衛を選ぶだろうけど。
この人やソードアークはたぶん、選んでもらえないだろう。
そんな感じで、2回目のダンジョン実習は始まった。
1層のトゲネズミは基本的に逃げるので、そのまま放置する。
このあたりはソードアークよりヌーヴォルスの方が普通にできたと思う。ソードアークなら逃げるトゲネズミを追いかける可能性もあったし。
先頭は護衛兼斥候役としてヌーヴォルス。
2列目にナイスクマリーがいるのは、不意打ちをヌーヴォルスが止めきれなかった場合の、アリスティアお嬢さまの盾として、だ。
3列目にアリスティアお嬢さまと巫女見習いオーロラ。
そして、最後尾がボクになる。
正直にいえば、ヌーヴォルスの近くにいなくていいというのは気が楽だった。
実は、逃げたトゲネズミをこっそりほうき1枚のカードで始末してる。
カードの魔法で魔物を倒すといつの間にか魔力の本の新しいページが使えるようになるから。
今まではそうだったという話だけど。
アリスティアお嬢さまに聞こえないように、ぼそっと「『使用』」ってささやくのが隊列の関係でちょっとだけ難しい。
気づかれたらどういういいわけをするかは、考えとかないとな。
残念ながら魔石の回収はあきらめてる。
そっちで稼げる小銭は確かにもったいないけど、有り余ってるほうき1本のカードで魔力の本のページを増やす努力の方が優先だと思う。
……ダンジョン実習を終えたあとの休日は、エリンと町に出る約束をしてるから本当は小銭もほしいんだけど。
シュタイン伯爵領でメイドの給金からいろいろとごちそうしてくれたエリンにお返しをしたいって話で、出かけることになった。
いつも、掃除とか、洗濯とか、してくれようって気持ちもありがたいし。
ダンジョンに話を戻そう。
1層の奥地には行かずに2層へと入るので、そこからが今回の本番だ。
2層は1層とはちがってフィールド型と呼ばれる階層だ。
不思議なことに、1層の洞窟を抜けると空が広がってるという。
ボクたちは地下に降りたはずなのに。
ダンジョンというのは、そういう理解の範囲外の存在でもある。
2層は森と草原で、草原の草がふとももくらいまである。
ゴブリンなら隠れられるのが、注意点だ。
他のパーティーのうち、先行しているところは……かなり遠くに見える。
「……左の方には他のパーティーがいない。そっちへ進みます。よろしいですか、アリスティアお嬢さま」
「ええ、もちろん」
ヌーヴォルスの判断をアリスティアお嬢さまも認める。
他のパーティーと同じ方向はよくないだろうから、それでいいとボクも思う。
今回の実習では、ゴブリン、もしくはコボルトの魔石を人数分、回収する。
前回とちがって、戦闘に関する指示は特にない。
まあ、ゴブリンとかコボルトくらいに負けることはないから。
そんな理由じゃないかと思ってる。
そもそも、回復を担当する巫女見習いが本当に必要なのかどうか、ボクは疑問なくらいだ。
「……いました。ゴブリンです。6匹ですから、全て倒せば課題は終わりです」
ヌーヴォルスの斥候としての能力は十分らしい。
彼が指差す方向には確かにゴブリンがいる。6匹だというけど、ボクにはそこまでは分からないくらい距離がある。
「……わたくしがアクアボールで可能な限り倒します。残りがこちらに向かってくるのなら、ナイスクマリーのアースアローで倒しつつ、接近戦になったらヌーヴォルスに任せます。シーアルドは後方の警戒とオーロラの護衛を」
それが一番妥当な作戦だろうとボクも思った。
6匹くらいのゴブリンで、それが1カ所に固まってるのなら、アリスティアお嬢さまの一撃で終わるかもしれない。
……草が邪魔で魔石探しが大変そうだけど。
こうしてボクたちは魔法が届く距離までゆっくりと近づいていくのだった。




