第31話 ボクの人生は新たなページへと……(進むのかな?)
「カーインド学園長」
「ああ、イセリナくん……いや、デレシーロ先生。間に合ったようだね」
「イセリナで問題ないですよ。わたしはカーインド学園長の教え子なので」
外壁の上にのぼったイセリナ先生がゆっくり、ゆっくりと学園長に近づく。
転ばないように。
他の先生方もたくさん外壁の上に集まってる。魔法戦力だからかな?
前方に注視してる。モンスターがこっちに向かってるからだ。
イセリナ先生は階段をのぼる途中でつまづくこと3回、それまでの行程でも何度もつまづいているので心配だけど、これ以上はもう近づけない。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「いや、かまわんよ」
「それで、状況はどうなのでしょうか?」
「上空を埋め尽くしていたオオアゴコウモリが消えて魔石の雨になったあと、外壁へ急いだのだが、外壁の外にはトゲネズミのものと思われる無数の魔石が散らばっているようだ」
「それならば今回のスタンピードの大多数は……」
「いや。まだあまりよくはない状況に変化はない。おそらく第2階位と第3階位の魔石が複数、ダンジョン内で消化されたのではないかと考えられる。スタンピードの中心はオークの群れで、ゴブリンやコボルトの姿はないそうだ」
「……あきらかに人為的ではありませんか」
……人為的? スタンピードが?
「そこは調べようがないのだが……こちらに押し寄せてくるオークの数がとてつもなく多い上に、オークの上位種だけでなくオーガの上位種まで数体確認されている」
「そんな……」
イセリナ先生のびっくりした声が聞こえるけど、ちょっと遠い。
「偵察部隊の報告はどうやらまちがいないようだ。そろそろ目視可能範囲に……」
「え……?」
「……入ったようだな。この強さのモンスターたちでは学園生……特に騎士学園からは犠牲者が出る可能性が高いだろう。学園都市の外壁の高さでは魔法学園の学園生も危ういかもしれない……」
……え? ソードアークやアリスティアお嬢さま、エリンも危ないってことか?
それはさすがにちょっと……嫌なんだけど。
「わたしたちが全力で学園生たちを守らなければなりませんね……」
真剣でありつつも困ったようなイセリナ先生の声にボクは――。
「『使用』」
――離れた階段のところでささやくように起句を唱えた。
ボクはそのままこっそりと階段をおりていく。
ピカビカビカ! ドンドンドドーン! ドカドンドガグラガッシャーンっ!
「なっ!?」
「今のは……!? まさか『雷撃の魔術師』が使う……!?」
なんか勘違いっぽい言葉が聞こえてるけど好都合かもしれない。
スタンピードのモンスターがどうなったのかはわからないけど、とりあえずボクにできることはやったと思う。
……イセリナ先生も困ってるし、エリンたちも危ないんならボクがなんとかしておきたいと思う。
階段をおりて、そのまま魔法学園へとボクは逃げた。
イセリナ先生が戻る前に研究室にいないとダメだから。
……もうそろそろマスクのカードの魔法が時間切れになる。みつかる前に逃げるが勝ち。
戻ってくる時のイセリナ先生が転んでしまわないか心配だけど、今日はもうたくさんあのやわらかさと甘い香りを楽しんだのであきらめよう。
マスクのカードの予備も足りないし。
きっと学園長がイセリナ先生を支えるにちがいない。うらやましい……。
あれから2時間ぐらいしてイセリナ先生が戻ってきた時には、もちろんボクは研究室で待っていた。
何もすることがないと暇だから本の整理なんかもした。
本物の本だけでなく、魔力の本も、だ。
魔力の本の新しく開いたページの確認をしたのだ。
イセリナ先生がいつ戻るかがわからなかったから、かなりドキドキしながらだったけど。
今回のスタンピードは……突然放たれた強力な雷撃の魔法によってその中心的なモンスター群のほとんどが倒されてしまったらしい。
生き残ったモンスターも大幅に弱体化していて、魔法学園と騎士学園の先生方によって無事に殲滅できたという。
いやあ、驚いた。
まだキイマカリーの『雷撃の魔術師』がこの近くにいたなんて!
……そんな感じの誤解というか、勘違いが広まってる。
もちろん『雷撃の魔術師』の姿はどこにもみえない。
なぞの感謝状とかがあの人に届くかもしれないけど、まあ、いいだろう。
やっぱり雷10本のカードはとんでもない威力だった。
空が一瞬真っ白になって何もみえないくらいまぶしいと思ったら、轟音と振動であやうく階段から転げ落ちそうになったし。
……できれば二度と使わないようにしたいけど、カードそのものはこれからも準備はしとこう。スタンピードが怖い。
今は……寮のボクの部屋だ。
「それで……すごく素敵だったんだよ、その人」
「ああ、うん。よく知ってる」
「シーアルドの先生だったんだね……うらやましいなぁ、あんな素敵な先生に教わってるなんて」
ボクの部屋にはエリンが遊びにきていた。
いつもならエリンは休みの日に掃除にくるくらいしかここには入らないんだけど、今日は興奮気味にボクの部屋に押しかけてきた。
それで、買い物の時に助けてくれたイセリナ先生のことをボクに知らないかって質問しまくって、今はボクと並んでベッドに腰かけてる。
魔法で助けられたエリンは、イセリナ先生が絶対に魔法学園の関係者だと思ったらしい。
でも、さすがにアリスティアお嬢さまには聞けなくて、ボクのところにやってきたみたいだ。
「いつかお礼がいいたいなぁ……」
「じゃあ、ボクからイセリナ先生に聞いてみようか?」
「いいの……? 無理させてない……?」
「イセリナ先生は優しいから……でも、お礼を伝言で伝えてしまえばそれでって話になるかもしれない」
「それならそれでいいよ」
エリンは軽く体を揺らすと、ぽんっと飛び上がるように立ち上がった。
「スタンピードのこと、教えてくれてありがとう、シーアルド」
「ボクもまさかエリンが知らないとは思ってなかったから、先に教えられなくてごめん」
魔法学園や騎士学園で学んでるわけじゃない使用人のエリンはスタンピードと警報の鐘の音について知らなかったようだ。
年に一度の訓練スタンピードで覚えるらしいけど、ボクたちが学園都市にきてからはまだ訓練スタンピードは実施されてなかった。
エリンが警報の鐘が鳴る中で買い物をどうにかしようとしていたのは、単純にスタンピードとその警報のことを知らなかっただけだった。
……知らないって怖い。気をつけたい。ボクもいっぱい勉強して、必要だと思ったらエリンに伝えるようにしようと思う。
「じゃ、そろそろ戻るね!」
「ああ、そうだな。それに、男の子の部屋にうかつに入らないようにしろよ、エリン」
「シーアルドとソードアークの部屋くらいしか入らないってば!」
あはは、と笑いながらエリンはボクの部屋を出ていった。
パタパタパタというエリンの足音が聞こえなくなってから、ボクはそっとドアにカギをかけた。
それから魔力の本を開き、新しいページを確認する。
ボクは知らず知らずのうちに、ニヤリと笑った。
楽しみ過ぎる!




