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なんとか魔術師かーど〜しよう?  作者: 相生蒼尉
第2章 なんとか魔術師のセンパイ

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第30話 大切な人を守るんだ……(目そらし)



「まずは体内魔力の変質ですね」

「変質、ですか……?」


 ボクはイセリナ先生の研究室で魔力の偽装について教わっていた。


 イセリナ先生が学園長の許可を得て、ボクに魔力の偽装を教えることになったらしい。

 そもそもイセリナ先生は学園長からこの技術を教えてもらったとか。


 秘伝の技らしい。

 イセリナ先生と学園長の関係が少し気になるけど、貴族と王族だから遠縁みたいな血のつながりがあってもおかしくない。


「はい。シーアルドくんはすでに魔力を体内で分割することができます」

「はい、できますね」


 それは初日に教わった。懐かしい。

 今ではかなり小さく切り取ることができていると思う。


「分割した魔力を変質させた魔力で覆い隠すようにする、というのが魔力偽装の基本ですね。それを体内でおこなうところに難しさがあるのです」

「変質した魔力で……隠す……?」


「そうですね。あまり具体的に教えてしまうのは……まあ、いいでしょう。シーアルドくんなら」

「ボクなら?」


「ええ。シールドくんならわたしの魔力偽装の秘密を知ったとしても、悪いことには使いませんよね?」

「そ、そんなことは絶対にしません!」


 ボクの返答に、にこりとイセリナ先生が微笑む。


「はい。信じておりますよ」


 ……これは、心にくる。


 かわいいイセリナ先生からの信頼は……裏切れない……。


「わたしの場合は赤く染めた水のような魔力……例えるなら血のような魔力へと変質させて、それで分割した魔力を隠しているのです」


「血のような……?」


「人の体には血が流れていますもの。それと誤認させるような色ですね」

「誤認させる……」


「これはシーアルドくんの適性とも関係してくるでしょうから……わたしの場合は水の属性が得意だったことと関係しています。シーアルドくんにとってもっとも扱いやすく、それでいて他の魔術師にうまく誤認させる方法を考え出すとよいでしょう」


 ボクの場合……『雷撃の魔術師』が全属性っていってたから、その中でも得意な属性でアイデアを出してうまく隠す、のか……。


 ……イセリナ先生がやってる血のような水属性の魔力で隠すっていうのはちがう気がする。


 うーん。

 どういう方法がいいんだろうか……?


 カンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカン! カンカンカンカン!


 ボクが考え込んでいると、大きな鐘の音が鳴り響いた。


「三四の鐘、ですね……」

「ええと講義で教わった時はダンジョンのスタンピードって話だったような……」


 カンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカン! カンカンカンカン!


「ええ、そうです。でも、まだスタンピード訓練の時期ではないはずです」

「スタンピード訓練?」


 カンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカン! カンカンカンカン!


「1年目の学園生もみな戦えるようになっている春頃に行われるのですけれど……訓練ではないとすれば本当に?」


 カンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカン! カンカンカンカン!


 ボクとイセリナ先生が話してる間も、鐘は鳴り響いてる。


「そ、それは危ないんじゃ……」


「ええ、そうですね。わたしたち魔法学園の教師はこういう場合の中心戦力です。学園生も可能な範囲で戦うことになります。けれど……シーアルドくんは……」


「あっ……」


 ……ボクは魔法が使えないことになってるし、使えるのも掃除の魔法だ。


 本当は掃除の魔法以外にも使えるけど、それはまだ秘密にしてる。


 あの人……『雷撃の魔術師』と話して、ボクはボクの力をどう使うべきかを考えなきゃダメだと思ったから、だ。


 でも、イセリナ先生のことは信じてる。

 だからここで告白すべき……なのかどうか、すごく悩む。


 ……大切な人を奪われていく人生。『雷撃の魔術師』サラマン・イスクから聞いたあの人の人生を経験したいとは思えない。


「わたしは急ぎます。とりあえず、魔法学園の校舎内にいれば安全でしょう。シーアルドくんはここに残っていてください」


「でも、イセリナ先生……」

「いいですか? 立派な教え子は教師の言葉に従うものですよ? わたしたちがスタンピードを終わらせてきますので、ここで待っていてください」


 そういって、イセリナ先生は笑顔で研究室をゆっくりと出ていった。


 急ぐとたくさん転んでしまうからあのスピードなんだよな。

 うん。心配すぎる。


 でも、イセリナ先生の指示には従うべきだろう。


 スタンピードについては訓練もしてるみたいだし、きっとイセリナ先生は慣れてるんだろうと思う。


 ……それでもやっぱり心配なのは心配だ。


 イセリナ先生だけじゃない。

 エリンやアリスティアお嬢さまだって心配だ。


 エリンが戦いに出ることはないとしても、アリスティアお嬢さまは魔術師だから戦うことになるだろう。


「……うん。いくしかない」


 ボクは魔力の本を開いて、マスクのカードを2ページ目にセットする。


「『使用ウピヨーグ』」


 昔の王さまが仮面舞踏会とかいうイベントで身につけたとされてる仮面から手に入れたカードだ。


 ……なぜかこの仮面のカードを使うとボクの姿がみえなくなる、らしい。


 実験で使った時、エリンが掃除のために寮のボクの部屋に入ってきたけど、ボクがいるのに全然気づかなかったことで効果が判明した。


 隠密的な魔法だ。ヤバい効果すぎてちょっとビビった。


 でもこの魔法のお陰でこっそりイセリナ先生についていくことができる。


 たぶん何度も転びそうになるだろうから……守りたい。


 ボクは音を立てないように……と思ったけど、さっきからカンカンってうるさいから気遣う必要もない感じだ。


 急いでイセリナ先生のところへ――。


「きゃっ!?」


 ――ささっ。とん。


 さっそく転びそうになっていたので、転ぶ前に支えて姿勢を戻した。


「あ、あら……シーアル、ド、くん? い、いない……? っ!?」


 きょろきょろしたイセリナ先生がまるでオバケでもみたような表情になって、それからゆっくりと前を向き直した。


 ……確かにオバケっぽいかもしれない。今の状態だと特に。


 次からはできるだけ早く支えよう。

 イセリナ先生の体勢が大きく崩れるよりも早くに。






 ボクが十数回ほどイセリナ先生をこっそりと支えつつ外へと向かってきたところ、ようやく街中に到着した。


 他の先生方よりもずっと遅れているのはまちがいない。


「まさか、こんな数のオオアゴが学園都市までくるなんて……」


 空の色がなんかおかしいと思ったら、あれは全部オオアゴコウモリらしい。

 実習用ダンジョン浅層の中でも1層に奥地にいるはずの雑魚モンスターだ。


「きゃーっ!?」


 女の子の悲鳴が響く。


 エリン!? なんでこんなところに!?


 買い物袋を持ったエリンに向かって、何匹かのオオアゴコウモリが急降下してくる。


「『アクアニードル』」


 真剣な目でエリンの方をみたイセリナ先生が詠唱省略で軽く右手を振るった。

 何本もの細い水の針が飛び、エリンを狙っていたオオアゴコウモリが魔石へと変わる。


 すごい。あの数をそれぞれの針で狙い撃ちにしてる。


 さすがはイセリナ先生だ。

 強力で範囲の広い魔法を使えるだけでなく、こういう繊細な魔法も使えることがすごいのだ。


「あ、いたたっ、いたっ!?」


 エリンは落ちてきた魔石から頭を守るように腕を上げた。


「大丈夫かしら?」

「は、はい……なんか頭に当たったような気はしますけど……」


「あなたはどこかの使用人ですね? 早くお屋敷に戻りなさい」

「は、はい。で、でも買い物が……」


「買い物は後回しですよ。今は……『アクアボール』」


 今度は上空へとイセリナ先生が水の球を放った。

 上空ではじけた水の球は広範囲にいた無数のオオアゴコウモリを次々に魔石へと変えていく。


 ばらばらと雨のように魔石が降ってくるけど、一瞬だけみえた空の色がすぐに灰色で埋め尽くされていく。


「……キリがありませんね。しかし、他に方法もないですし……」


 ボクはとっさに雑魚殲滅カード(弱さは罪なり)を1ページ目にセットした。


 うかつには使えない。

 でも、イセリナ先生が魔法を放ったタイミングなら……。


 再びエリンとイセリナ先生を狙って上空のオオアゴコウモリが蠢く。


「っ……『アクアボール』」


 イセリナ先生の放った水の球が上空で破裂するタイミングに合わせて小声で……。


「……『使用ウピヨーグ』」


 その瞬間、上空が晴れ渡った。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドっっっっっっっ!!!!!


 しかし、次の瞬間には豪雨のような音が学園都市中の建物の屋根を襲った。


 原因は上空から落ちてきた大量すぎる無数の魔石だ。

 屋根だけでなく地面でも音が響いてる。


 ……しまった!? 範囲指定を忘れてたから最大範囲になった!?


「えっ……? あ、いたたっ……」

「あわあわあわわわ……いたたたたっ!?」


 呆然と上空を見上げたイセリナ先生が慌てて両腕で自分の顔をかばう。

 それと同時にエリンも下を向いたまま頭を両手でかばってる。


 わたわたとしてる感じがいつも通りエリンはかわいいし、イセリナ先生はいつもとちがってこれまたかわいい。

 いいものをみせて頂きました。


 オオアゴコウモリの魔石はとても小さいとはいえ、石は石だ。

 噛みつかれるよりはマシかもしれないが落ちてきたものがぶつかれば痛みはある。


 魔石豪雨のせいで、ボクの存在や魔法には気づいてないようだ。偶然ってすごい。


 申し訳ないけどボクもちょっとは痛いので許してほしい。


「……さっきのはいったい? いえ。とにかく、あなたはお屋敷に戻るべきですね」


 落ちてくる魔石がなくなると、冷静になったイセリナ先生がエリンをみた。

 オオアゴコウモリがいなくなった今ならエリンも安全に東寮には戻れるだろう。


「は、はい。で、でも……」

「この状態ではお店もやっていませんよ。魔法学園のイセリナ・デレシーロに屋敷へ戻れといわれたと主人に伝えれば大丈夫です。さあ、おいきなさい」

「はい……」


 エリンは何度もイセリナ先生を振り返りながらぺこぺことお辞儀をして、東寮の方へと戻っていく。


 ……やっぱりイセリナ先生は優しいな。自分の責任でエリンをかばおうとしてくれてる。


 もちろん、この状況でアリスティアお嬢さまがエリンを叱ったりはしないだろうけど。って、あれ?


 なんか、イセリナ先生がちらっとボクの方をみたような……? 気のせいか?


 イセリナ先生は、ボクの方を向いたと思った瞬間には上空を見上げて、そこから城壁の方へと視線を移した。


「……今はとにかく他の先生方に追いつかなければなりませんね」


 そんなひとりごとをつぶやいたイセリナ先生がゆっくりと歩き出す。


 エリンも無事っぽいので、お供しますよ、イセリナ先生!


 ボクは尊敬するイセリナ先生を守るようについていった。

 決してイセリナ先生のやわらかさを求めてるわけではない。


 ……みえない状態で触るのはさすがにバレたら人としてマズい気がするけど、イセリナ先生が怪我するのはよくないはず。うん。






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