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野草食堂 春の芽  作者: やしゅまる


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第XVI話 ネジバナの約束

春乃の“師”である鹿乃子から手渡された、小さな紙包み。

中には、淡いピンク色の乾燥した花びらが、くるくると螺旋を描くように並んでいた。


ネジバナ――別名“もじずり”。

野原や道ばたで控えめに咲く、けれど見る者の心に残る、小さな花。


「これは“約束の草”って、先生がおっしゃってました」


店じまいのあと、美咲はその包みを手に、春乃に話しかけた。


「誰かと再会したいときに飲むって……そんなおまじない、あるんですか?」


春乃は片付けを続けながら、少し微笑んだ。


「草の効能はね、薬効だけじゃないの。想いを託すための“かたち”にもなる」


「想い……」


「ええ。だから草は、心の鏡でもあるのよ」


美咲は小さく頷き、紙包みをそっとエプロンのポケットにしまった。


その夜、自宅に戻った美咲は、久しぶりに古い引き出しを開けた。

中には、高校時代の写真や、色あせたノート。

その奥から、丁寧に折りたたまれた手紙が一通出てきた。


差出人の名は、〈山岸なつみ〉。


小学校から中学まで、ずっと一緒だった友人。

自然が好きで、週末はよく一緒に空き地で草花を摘んだ。

けれど高校に入ってから、美咲は都市の暮らしに憧れ、なつみとは疎遠になっていった。


「私は、ずっと自然とつながっていたい。美咲は街に行くんだね。なんだか少し、さみしいよ」


手紙の言葉が胸にしみる。

あのとき、どう返事を出したのか、もう思い出せなかった。


美咲は小鍋に湯を沸かし、ネジバナの花を一輪、そっと浮かべた。


ほんのり甘く、牧草のような香りが立ちのぼる。

一口、口に含むと、懐かしさと後悔が混ざったような味がした。


「……なつみに、会いたいな」


ぽつりと呟いたとき、スマートフォンが震えた。


表示された名前を見て、美咲は息を呑む。


〈山岸なつみ〉。


――まるで、草がおまじないのように繋いだかのようだった。


「久しぶり、美咲。今日、たまたま“野草の店”って看板を見かけて。思い出して、検索してみたら……もしかして、あの“春の芽”って、美咲がやってる?」


美咲は電話を取り、震える声で答えた。


「うん、私。いま、野草の店にいる。なつみが教えてくれた、あの時の草たちを思い出しながら」


しばらく沈黙があったあと、なつみは言った。


「……じゃあ、今度、行ってもいい? 春の草、また一緒に味わいたい」


「うん。絶対来て。スミレも、ヨモギも、ドクダミも、ぜんぶ揃えて待ってる」


その晩、美咲は久しぶりに夢を見た。

子どものころ、なつみと駆けた草原。

笑いながら摘んだネジバナが、春風に揺れていた。


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