0087・真剣にプレイする意味
2000年 8月19日 土曜日 AM8:17
昨日は本当に驚いたなぁ。まさかあんな基礎的なスキルが存在しているなんてさ。本当にこの<レトロワールド>はやってくれるよ。あの後、掲示板なんかも検索して確認したけど、基礎的なスキルの事なんて誰も書いてなかった。
秘匿しているのか、それとも気付いてないのか。どちらにしたって、そういうスキルがあると考えていなければ習得は難しいだろうね。僕も普通にプレイしている分には得られなかったスキルだ。知らなきゃ分からないだろう。
ログインした後でお知らせが目に入る。読んでみると<闘技場>を実装したとの事。なんでこんな中途半端な時期に? と思ったけど、どうもバグか何かで遅れたらしい。謝罪の言葉が載ってたからね。
それにしてもPvPをする気の無い僕からしてみれば、わざわざ<闘技場>を使ってまで……と思ったけど、よくよく考えたらそこに集まってくれるんだから都合がいいか。ちなみに僕は<闘技場>に行く気は無い。
理由は、<闘技場>内ではブラックリストに入れてる者も無条件で解除されるからだ。ただし<闘技場>の戦闘フィールド以外では戦闘行動自体が禁止されてるみたい。まあ、それでも行ったりはしないけどね。面倒臭いし。
そろそろお腹の上で丸まっているギンをどけて、と。ファルは既にスケルトン・クラフターの所に居るみたいだし、他の皆は適当に休んでるみたいだ。フィーゴは……ラスティアに【憑依】中? 別に好きにすればいいけど。
まずはプレイヤーマーケットの売上金を木箱に入れてっと……そしてギンを取り出して蓋を閉めるとファルに呼ばれた。何故かお玉でフライパンを叩いて呼ばれる不思議。今までそうじゃなかったよね?。
「ほう、基礎スキルを身につけたか。やっと気付いたと言うべきか、それとも独力で気付いた事を褒めるべきか……。愚か者ほど基礎を蔑ろにするからのう、だから強くなれんのだというのに」
「基礎スキルは通常スキルと違って何かが出来る訳じゃないものねえ。ひたすら地味だけど、その地味な部分で大きな差になっていく。それが基礎というものだし、だからこそ練り上げる必要があるのよ」
「【握り】【体幹】【重心】【体捌き】に【足捌き】かぁ。ある意味でとても大事な基礎って感じねえ……。コトブキみたいに模倣力が高いか、本当の素人が1つずつ教えてもらって学ばないと身につかないでしょうよ、コレ」
「僕もそう思うよ。スキルってこんな感じだってイメージしてたけど、そういうイメージで決め付けたら駄目だね。他にも基礎的なスキルっていうのはあるかもしれない。特に魔力関連で」
「それはないの。言い換えれば、それは【魔力操作】に集約されておる。魔力を正しく扱わねばいつまでたっても上達せん。だからこそ妾はコトブキにスキルとして使う事を一度も言うておらんのだ。自力で使わねば上達せんからの」
「魔法の素人が陥る罠よね。魔法が使えるから問題ないっていう思い込み。魔法が”使える”事と、魔法を”使い熟す”事は同じじゃないんだけど、分からない連中は永遠に分からないままよね。私達も教えてやる気は無いし」
「「………」」
「コトブキもトモエも、いちいち口にするでないぞ? 阿呆に教えてやる必要なぞない、無視しておけ。知り合いに教えるくらいであれば構わんが。しっかり口止めしておくようにの」
「「分かりました」」
「うむ。妾はここ最近忙しかったでの、少しゆっくりする。神め、闘技場を作るからといって妾達を扱き使いおって。<深淵>のは嬉々として魔法を使っておったが、余計な諍いになりかけたのだぞ、まったく」
「どうせ<深淵>が広範囲魔法をブッ放して<業炎>がキレたんじゃないの? あいつらって、いっつも似たような事で喧嘩してるじゃない」
「まあ、そうなんじゃがの。壁や床の強度を調べる段階で、あの阿呆がブッ放しよったのだ。それがフラムを巻き込んでの、それでまた喧嘩よ。結局、威力を抑えさせての喧嘩に止めたがの、そうするとグダグダじゃ」
「ああ……それはそうでしょ。<業炎>と<深淵>って細かな制御が不得意なツートップじゃない。逆に<氷獄>なんかはマニアックなくらい細かな制御を好むのよねえ。結果的にその方が強いんだけど」
「まあのう。とはいえ<氷獄>は大火力の制御が苦手なので何とも言えんわ。嬉々として大火力をブッ放す阿呆2人は、何故かしっかりと制御するからのう。大火力だけは……」
どうにも魔女それぞれにも好みがあり、自分の好きなものは得意らしい。まあ、当たり前だとは思うけど、師匠達だとそのレベルも相当高いんだろう。僕達にとっては細かいと思うものでも、師匠達からすれば大雑把としか言えないだろうしね。
朝食後、僕は昨日の錬金術の続きを、トモエは修羅スケルトンから基礎スキルを学ぶそうだ。その前にトモエにクラン丸ごとブラックリストに入れられる事を教えておいた。やはり僕と同じで知らなかったらしい。なので今度会ったら丸ごと放り込んでおくと言っている。
連中を好む者も多くないし、PKばかりの配信は<レトロワールド>では難しいんじゃないかな? そういう意味では<教導委員会>もこのゲームには合ってない。連中はゲーム開始地点から”見回り”と称してPKKをするけど、このゲームは開始地点がバラバラだ。
いつもなら新人の救出とかを配信してるけど、開始地点がバラバラのゲームではそれも難しいだろう。いろんな意味で合ってない気がするけど、プロとしてどうするんだろうね? ま、僕が考えることじゃないけど。
もはや流れ作業みたいになってるけど、それがレベルが上がり難い理由なんだろうか? もう一度、師匠がやっていたのを思い出しながら集中して作ろう。
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サブ職業:錬金術師・下級のレベルが上がりました
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………なかなか良いのが出来たな。それにレベルも上がった。昨日からの持ち越し分もあるので何とも言えないけど、真剣にやるのは間違っていないと思う。<遊びこそ真剣にやれ>という言葉もあるし、ちょっと真面目にやろうか。
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<槍> 石と木の十文字槍 品質:8 レア度:1 耐久240
穂先が十字の形をした槍。左右に伸びた枝と呼ばれる刃を引っ掛けたり叩きつけたりする
攻撃力9 破壊力2
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攻撃力や破壊力は上がってないが、耐久が相当上がっている。石を使って作った物の特性は、品質が低くても攻撃力や破壊力は高いって事かもしれない。攻撃力や破壊力が高くても早く壊れたら意味が無いし、モンスターによって耐久の減りが違うみたいだしね。
掲示板の近接戦闘職のスレに書いてあったんだけど、同じ武器でもモンスターが違うと大幅に耐久が減るらしい。天使の星に出てくるグリーンタートルがそれに当たるらしいけど、びっくりするほど耐久が減るんだって。木の棍棒じゃ戦えないくらい厳しいみたいだ。
悪魔の星には今のところ亀系の敵は見つかってないそうだけど、何れは出くるだろう。その前に角製の武器になったのは、良かったのか悪かったのか……どっちかな? 少々判断に困るところだ。
今のところは耐久が一気に減るようなモンスターは居ないけど、仮に出てきても魔法で倒せば良いだけか。あっ!? 鉄のメイスを修理に出しておかないと。最近使ってるのに、すっかり忘れてたな。
ま、覚えてたら修理に出そう。




