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0800・本日の指導の終わり




 妾達は野太い声の連中に<瞬足>や<瞬撃>を教えておるが、やはり上手い者と下手な者に分かれておる。

 これは仕方ないとはいえ、各々の感覚に頼る部分が大きい。

 感覚の鈍い者は下手じゃし、感覚の鋭い者は上手いのだ。


 とはいえ練習によって幾らでも挽回できるものでしかないので、励めば済むだけであるがな。

 そして野太い声の多い艶女(えんじょ)組において、一番身体感覚に優れておるのはマールであった。



 「てぃっ!!」


 「グバッ!? ……ガッ! グボッ!」


 ドスーン!!


 「グブゥ! ゲハッ! ヒュッ!!」


 「これは上手くいったんじゃないかしら? 武器もいいけど、こうもあっさり切り裂けるようになるとは思わなかったわ。やっぱりちゃんとした技術だと違うのねえ。私自身が一番驚いているけれど」



 ウェルズベアー・エリートは喉を切り裂かれ、苦しんだ後に死亡した。

 そしてどうやら無事に皮が出たらしい。

 喉を切り裂かれた時点で、致命傷判定だったようじゃな。

 一応そうだと分かっておるが、皮が出るまでは安心できぬ。



 「マールも出来るようになりやがったか。オレも出来るようになりてえが、なかなかどうして難しいな。あれか? オレは完璧を目指しすぎなのか?」


 「その部分はあるんじゃない? テツオはもうちょっとアバウトというか、成功判定の部分を先に目指すべきだと思うわよ。ついでに体の動かし方の矯正なんてしてるからでしょ。それは一朝一夕では直らないと思うし」


 「とはいえなぁ……。悪いと分かったら直したくなるじゃねえか。しかも模範というか答えが目の前にあるんだぜ? 今の内に直しておきゃ、この先ぐっと楽になると思ったら直すだろ」


 「まあ、言いたい事は分かるけどね。それにテツオが強くなるとウチとしても助かるし。でも今は<瞬足>と<瞬撃>が先でしょ。目的を見失っては駄目よ」


 「確かにそうか。なら真面目に<瞬足>と<瞬撃>のみに絞って練習するかな。長柄の斧とはいえ、上手く使えるようにならないといけないし」



 そうじゃの。

 そもそもそなたらは、ウェルズベアー・エリートを一撃で倒せるようになるのが先じゃろ。

 動きの修正など一朝一夕どころではなく、そうそう簡単には終わらん。

 そもそも己で動きの失敗を修正できるようにならねばならんのだ。


 それは(すなわ)ち正しい動きが己の中にしっかりとあるということ。

 そこまで己の体に覚え込ませるのには、結構な年月が掛かる。

 なんとなくでよいなら、そこまで時間も掛からんがのう。

 本格的なら年単位じゃな。


 となると今すぐなどという事は不可能じゃし、本道から外れとる事でしかない。

 しかし学びたいというヤツを邪険にするのもアレじゃしのう。

 マールのツッコミはちょうど良かったと言えるわ。

 妾も教えてほしいと言われて、ほいほい教えすぎであったか。


 その後も教えておったが昼に近くなってきた為、妾達は家へと戻る事にした。

 艶女(えんじょ)組はこの後も引き続き狩りを続けるようじゃ。

 全員で団結して、お金を稼ぐのだと言うておった。

 今後の武具などを考えれば、お金を大量に持っておかねばならん。


 そしてウェルズベアー・エリートの皮で、稼げるだけ稼ぐつもりらしい。

 妾達は既にどうでもよいので、特に乱獲されようと気にはせん。

 最悪は瘴気属性耐性の装備を売れば済むしの。

 それに鉄などはずっと使う為、地味に必要であり続ける。


 もちろんその鉄を組み合わせる上位素材も売れるからのう。

 逸早(いちはや)く暗闇ダンジョンの70階に到達したものの特権もある。

 妾達のお金稼ぎの元は大量にあるので、慌てる必要などは無いのだ。

 先行者利益というものが得られるでな。


 家に戻り、ソファーの部屋からマイルームへ。

 ラスティアとキャスティ以外も戻したら、倉庫にアイテムを詰めてソファーの部屋へ。

 そしてファルを呼び出したら昼食の準備に行かせる。



 「それにしても、昨日も見たが濃い連中じゃのう。彼奴(きゃつ)らは」


 「艶女(えんじょ)組のこと? あの人達はそもそもそういうキャラで売ってるし、そういう風に見られてもいい人達。批判はあるけど頑張れるし、それなり以上には強者。だからこそ好かれてもいる」


 「あの人達って面倒臭い事とかしないのよねえ。良く言えばオネエなだけの優良ゲーマーなのよ。攻略だってしてるから情報も出すし、意外と言ったら変だけど人気があるの。あのキャラってだけで叩く連中も居るけどさ」


 「それはプロゲーマーの宿命。でもゲームをつまらなくする奴らや、明らかに邪魔しかしない奴らよりマシ。犯罪紛いの事をする奴らは論外だけど」


 「そういう者達って本当に居なくならないんですよね。実際にどこかの会社に所属していると止めさせる事もできるんですが、個人的な集まりで配信していると……」


 「世間でどう言われていても気にしない連中なら、居直ってずっとやり続けるからねぇ……。しかもそれを支持するバカまで居ると、尚のこと好き勝手にするし」


 「本当ですよね。ああいうのは出てきてほしくないです。自分はバッシングされるのが嫌だからやりたくないけど、他人が嫌がらせをやっているのを見るのは好き。なんていう捻くれた人間が世の中には居ますから」


 「あれ、自分達は頭がおかしいです、って全方位にアピールしてるんだけどね。そんな事も分からず支持するヤツが居るのよ。バレたら一巻の終わりなのに、よくやるとは思うけどね」


 「歪んだ人間ってどこにでも居ますから、それに関しては仕方がないのだと思いますよ。狂っているという事を自覚するのは難しいですからね。政治家にだって狂った人達が居るじゃないですか」


 「そっちを考えると分かりやすいわね。ニュースによく出てる、国会でゴシップ誌の内容を質問するヤツとかは、本当に狂ってるとしか思えないし」


 「ああいうのは信者相手にやってるだけ。政治家じゃなくて、カルト宗教の関係者だと考えると分かりやすい。何故なら信者相手に、信者が好む事をやっていればさえ当選できる。だからずっとパフォーマンスしかしない」


 「確かにカルト宗教と変わりませんね。で、カルトだから一部が熱狂的に支持するわけですか……。そういう意味でもカルトと変わらないと言えますね」



 妾が潰しておる邪悪な思想の者どもも同じよ。

 あれらは自分達だけ幸福になれると思っておる。

 そもそもあの思想は、一部の特権階級のみが富を収奪できる仕様じゃからの。

 己がその特権階級になれると思っておるのだ。


 実際には、現在進行形で富を収奪されておるだけなのにのう。

 それにも気づかず、富を収奪されながら己は正しい、幸福になれるはずと思い込んでおるのだ。頭が悪すぎるわ。

 ずっと寄生虫に寄生され続けておるというのに、それにさえ気づいておらぬ。


 あまりにもマヌケに過ぎるし、あまりにも愚かに過ぎる。

 ずっと富を奪われ続ける愚か者など、救いようがあるまい? だから妾に殺されるのだ。

 左様な愚か者など要らぬが故にな。


 騙されておる奴らはそれで良いかもしれぬが、奴らは日の本を破壊する者であり、大陸の者どもと繋がっておる。故に息の根を止めるのだ。

 どのような考えであろうが構わぬが、妾のような日の本の神が、日の本を破壊しようとする者など許すはずもあるまい。



 「カンカン」



 おっと、ファルが来たので下らぬ思考は止めて昼食にするかの。

 午後からは<屍人の森>の深層二層目じゃからな、今日は瘴塊をしっかり溜め込まねばならん。

 昨日は全部浄塊にして痛い目をみたからのう。


 あれには参ったわ。

 なんか悪質なトラップのような気もするんじゃが、ああいうパターンもあるのじゃからして仕方なし。

 諦めて今日も励むしかないの。


64話の誤字報告、ありがとうございました

文芸・歴史カテゴリの「式神と霊兵」が160話を超えました。宜しければご一読下さい。

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