0798・艶女組との雑談
首を落とせば終わる。
その言葉に絶句しておる連中が多いが、そもそも敵の弱点を狙うのは当たり前の事よ。
首を突くのでも構わんし、心臓を穿つのでも構わん。
やっておる事はそれらと何ら変わらんのだ。
別に驚く事でもなんでも無い。
「そうは言うけどよ、それでも初めて聞いたら唖然とするぜ? 流石に首を落とすと言われても分からねえだろうよ。オレやマールは前に見たから分かるけどよ、それでも首が落ちるのを見ると驚いたしな。目の前で見てもそれだからなぁ……」
「そうね、アレはもう驚くしかないわ。ウェルズベアー・エリートが目の前に出てきたと思ったら、いきなり首を落とされて終わりだもの。一瞬の早業すぎて何も思わなかったぐらいよ。で、落ちてからビックリなのよね」
「貴方達はここの熊程度で驚いてるけど、私達はクリムゾントータスや火炎龍樹が一撃で斬り殺される様を見せつけられてるのよ? その方が唖然とするわよ。そもそも私達、つまり悪魔や天使でさえ、このレベルでは不可能なの。それを目の前で見せつけられたからね」
「ええ、本当にそうです。クリムゾントータスは百歩譲って生物だから分かります。ですが火炎龍樹は木ですよ? それを幹ごと一刀両断にするのは流石におかしい。にも関わらず「出来るからやった」と言われたのですよ」
「いや、それしか言いようが無いんだけどね? 出来る事しか出来ないし、出来たという事は出来る事なんだよ。単純だけど、そうとしか言えない。実際に目の前で見たじゃないか」
「そうだけど、そうだからおかしいって言ってるのよ。未だにアレを見てもおかしいとしか思えないし、そもそもやろうとすら思わないわよ。普通は」
「そうかな? 出来るならやると思うけどね?」
「それ以前に、コトブキはアーククラスのヴァンパイアですら一刀両断にした。クリムゾントータスと火炎龍樹の武器ですら弾いてくる相手に対して、一撃で終わらせてる。アレも十二分におかしい。もちろん理由は知ってるけど」
「あの武術大会のエキシビジョンみたいなものだったけど、あの試合も十二分におかしいんだよな。そもそも死なない試合のはずが、特別試合で殺し合いだしさ。女王のお墨付きで貴族をブチ殺してるし」
「武術大会? もしかして、この国でも武術大会があったのか?」
「あれ? 他の国でもあったの?」
「オレ達が拠点にしているサキュリアでもあったんだよ、武術大会。オレとドリラーと鉄棒が個人の部門に、そしてチーム戦にはマール達が出た。んだが、意外と言ったらなんだけどよ、決勝で負けて終わりだ」
「そっちでも決勝に強いのが出ましたか?」
「そうなんだが、そっちもか。オレ達の方も決勝だけ、やたらに強いのが出てきて負けたぜ。結構自信があったんだが、まさか殴り合いで負けるなんざ、思ってもみなかったからなあ。ショックだったぜ」
「テツオさんが負けるなんて思ってもみなかったしねえ。私達もまさかでしかなかったわ。そもそも総合格闘技もやってるのに、そのテツオさんが負けるんだもの……」
「総合格闘技かぁ……。多分だけどコトブキとやったら殺されるんじゃないか? コトブキってあれ系の人をカモにするからさ」
「懐かしの首折り? 昔ボクシングの人が居て、ガード固めて掴んで投げ飛ばした後、馬乗りになって首を圧し折って殺してた。コトブキは格闘の場合、投げ、関節、締め、折る、という事を平然とする」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「それって、格闘というのかしら……?」
「姉さんの言いたい事は分かるけど、コトブキの場合は組討術になる。武士が戦場で敵の首を獲るやり方」
「本当にな。欠片の容赦もなく殺るんだけど、それが一番正しいからどうしようもない。そもそもコトブキって殴り合いの必要なんて感じてないし、それすると怒る事が多いしな」
「怒るというか、無駄な事が嫌いなだけだよ。殴り合いってルールがあってやる事だし、ルールが無いところなのに勝手にルールを設けるのはおかしいでしょ? ……おっと、出て来たね」
妾はウェルズベアー・エリートが出て来たので、<瞬足>を使って一気に近づき太刀で首を刎ねた。
あっさりと首が落ちて倒れるウェルズベアー・エリート。
それを見て唖然とする艶女組の連中。
やはり驚くんじゃのう……。
「首を落とすのはコトブキとかしか無理だが、俺みたいに頭をカチ割るっていうのは難しくない。そっちの方を狙ってもいいんじゃないか?」
「そもそもユウヤのやってる事も簡単じゃないでしょ。適切に【身体強化】を使って、しっかりと体全体で振ってカチ割ってるんだしさ。それに適切な体の動かし方で攻撃するって、キッチリ反映されてるのよね」
「それはそうですね。しっかりとした武器の使い方をすれば、ダメージはしっかり出ているみたいですし。その辺りが超一流だと、ああなるんですよ」
「コトブキの場合は、そのレベルがちょっと高すぎるだけ。私達がやっても、ウェルズベアー・エリートの首は落とせる。まして致命傷ぐらいなら、もっと楽」
「それを楽と言える時点でメチャクチャだが、よく考えりゃウチにも出来るのが何人か居るから、そこまで難しい事じゃねえのか?」
「テツオ、あなた混乱してるわよ。ウチでもクランの数人がやってる事と、さっきの一撃は違い過ぎるでしょ。ようやく、というレベルじゃなかったじゃない。あっさりとポロリしてるんだから、圧倒的な差があるわよ」
「あ、ああ……そうだな。オレはなんで難しい事じゃないって考えたんだ?」
「目の前であっさりとされると、簡単なんじゃないかって錯覚するのよ。昔の私達もその錯覚からやってみて挫折したしね。気持ちは分かる」
「それでもムキになって練習したのは無駄じゃなかったけどな。その時の練習が今活きてるわけで、だったら挫折するまでの練習は無駄になってないんだ。本当」
珠の記憶を見ると、確かにこやつらムキになって練習しておった時期があるのう。
球は物真似が上手いからか簡単に身につけたが、本来はかなりの修行を必要とする事が多い。
それをすっ飛ばすのが珠の才じゃから仕方ないのだがな。
あれと高い記憶力に関しては、完全に珠本人の才じゃからな。
誇ってよいのじゃが、本人は微妙に信じ切れておらなかったみたいであるのう。
仕方がないのであろうが、それは山雷の持たせたものではない。
「ヤァァァァァァァァァッ!!」
ドゴンッ!!
「グブェァッ!?!?」
ドスーン!!
「あーあー、セナでさえ一撃で倒してるじゃない。綺麗に頭をカチ割ったわね。ああやって見てると、やっぱり<瞬足>と<瞬撃>は使えた方がいいって改めて分かるわ」
「使えればだけどね。練習すれば誰でも使えるけれど、正確に確実に使いわけるのは、それなりに大変だからさ」
「<瞬足>? <瞬撃>?」
「私達もアルゼルから教えてもらったり、そこから皆に教えてもらったりしたもの。なんだけど……?」
「別にいいんじゃないー? 一定より上の者なら、誰だって知ってるものだしねー」
「ようは使い熟せるか否か、という技術ですしね。教えたところで使い熟す練習をしなければいけません。それ自体は難しい技術ではありませんが……」
「いや、それ以前にそんなのがあるのかよ……。教えられなきゃ分からねえし、ズルいとは言わないが、天使や悪魔に習わないと駄目なのがあるなんてなぁ……」
「そんな事は無いんじゃない? ある程度の技術を持つ者なら教えてくれるわよ。たとえ聖人とかじゃなくてもね」
「…………それって、もしかして町の道場かしら? あそこに行けば教えてもらえる?」
「あー………そういえば、そんなのあったな。今の今まで忘れてたぜ」
そういえば、そんなのを随分昔の掲示板で読んだのぉ。
珠も記憶の彼方に押しやっておったようだし、妾もそうじゃが関わりが無いからな。
今の今まで思い出す事も無かったわ。




