0796・昨日の話と今日のウェズベア森
ファルが来たので食堂に行き、朝食を食べる。
その席で珠の師から昨日の事を問われたので答えた。
なかなかに厄介というか、数がたくさん要る事を話すと笑っておるがな。
「はははははは、それは仕方あるまい。どのような物でも品質を上げようと思えば数が要るのだ。それに瘴塊はよりたくさん要る。仕方がない事ではあるが、そうやって作らねばならぬのだからして、浄化に励むしかないの」
「それは分かりておる。されど物を作る為に瘴塊と浄塊が必要だとは思わんかったわ。割と簡単に出来るので全て浄塊にしてしもうてのう、後で気づいたら遅かったというわけよ。まさか両方必要だとは……」
「それもまた経験よ。とはいえ個数が必要な物はどうしようもない。そういうものだと諦めよ。そもそも必要なのだからして、減らす事など出来ぬのだからの。それに品質を上げようとすれば、さらに苦しむ事になるぞ」
「分かりておるが、今は品質10で十分じゃ。それ以上を作製する気にはならん。したところで、そもそも現時点で必要かも分からんのだ。今までと比べて瘴気に対する防御は増えるのじゃ。それで十分であろう。それに品質10以上は大変じゃしな」
「それはのう。とはいえ最高品質である品質Aは相当に強力になる。とはいえ数が膨大に必要になるし、そこまで無理をする必要性は薄いがの。妾でさえ数回しか作った事が無い。それほどに面倒でかつ厄介な代物だ」
「品質Aという物すら私達は見た事ないわよ。メチャクチャな物を作るわね? それに、そこまでの品質の物が必要なのか謎よ。誰かに頼まれたの? それとも自己満足?」
「すべて自己満足じゃの。ハッキリと申せば、あまりに面倒で誰の依頼であっても絶対に請けぬよ。力の無い錬金術師が無茶振りされて仕方なくやるならまだしも、なんで妾が自分のため以外にせねばならんのだ。そう思えるほどの面倒さなのだぞ?」
「言いたい事は分かりますが、そこまで面倒なのですか……。よくもまあ、そんな面倒なのを数個とはいえ作りましたね。何か理由があるのですか?」
「とある物を品質Aにまでした場合、どうなるのかという答えを知りたかった。単純にいえば知的好奇心じゃの。それ以外には無いし、むしろそうだからこそ、やり遂げる事が出来たと言えるじゃろう。半端な心だと挫折するほど面倒だからな、アレは」
そこまで面倒なのか。
一度作りてよいかと思っておったが、止めておいた方が無難じゃな。
なにより、そこまでの品質の物を必要としておらぬ。
どうしても必要だとなったら考えなくもないが、今は放置で構うまい。
そもそも必要ないのだからしてな。
朝食の終わった妾達は家を出ると、ユウヤとオウカを伴って魔隠穴へと行く。
その中で昨日の事を話すと、何故か呆れられた。
まあ、疲れておったにも関わらず、結局戦闘をしておったのだからのう。
分からぬではない。
「本当にそうです。昨日はとても疲れていて戦闘などする気にもならなかったのに、よくもまあ戦う気になったものですね。私には理解できません」
「ユウヤは分かるはずだけど、別の場所で戦っている以上は別腹。あの苦しかった戦いとは違う。戦闘としては同じだけど、急かされたり追い詰められたりという戦闘じゃない。だから気分は別になる」
「まあ、そうだな。そもそも俺が呆れたのは戦闘をしてた事じゃなくて、疲れたのにも関わらず、次の日に新エリアに行ってる事だからな。普通はいつも行ってるような所に行かないか?」
「むしろ新エリアだからこそ気分よく行けたってところはあるよ? 敵もどんなのか分からないし、緊張とワクワクがあるからさ。新しい場所って気分も一新するし」
「ですね。それにレベルが高かったので経験値も多かったですし、昨日だけで3つもレベルが上がりました」
「マジかよ……。それはちょっとズルいんじゃないか? というか<屍人の森>の深層が全4層もある事に驚きだけどな。まさかぐるっと回らないと中心に行けないとか。ここに来て面倒臭さがアップしてるじゃん」
「面倒臭さもそうだけど、瘴気攻撃が一気に出て来た感じね。カーススケルトンは自分を中心に瘴気を放ってくるし、カースゾンビは手足に瘴気を纏って攻撃してくる。グレイフラワーに至っては、花の癖に瘴気ブレスを吐いてくるのよ」
「うわぁ、面倒くせえタイプか。よく瘴気攻撃を喰らって無事だったな? アンデッドはマズいんじゃないのか?」
「まともに喰らったのはセナだけかな? それもすぐに浄化されたし、一撃でアウトっていう濃度じゃなかったんだと思う。運が悪かったら一撃で野良アンデッドになってたかも。だからこそ素材を集めて瘴気属性耐性のついた防具をつけないと駄目」
「瘴気属性耐性のついた防具ねえ。どんなのにする気なんだ? 全身を守るならプレートアーマーか? アンデッドは呼吸の必要がないし、それなら蒸れても暑苦しくても問題はないだろう。意外と合ってる気がするがな」
「確かに防御は格段に優秀になるであろうが、かわりに動きが悪くなるのは確実じゃ。そのうえガシャガシャ五月蠅いしの。現実的に考えてプレートアーマー系は無い。アレを作るぐらいであれば、妾は大鎧を作るわ」
「大鎧ですか。同じように音がするとは思いますが、一度本当の大鎧を見てみたい気はしますね。本気で作るならば簡単には作れませんし、プレートアーマーより時間が掛かりそうですが」
「掛かるじゃろうのう。だからこそ作らんがの。もし作るのであれば、戦国期の鎧ぐらいじゃの。あちらの方が作りやすいし手間も掛からん。特に古い物は小札の大きさが違うからのう。その分だけ優秀なんじゃが、作る方からすれば面倒極まりない」
「小札が小さく数が多いと、それだけ体にフィットして動きについてくる。でもそれだけたくさんの小札を作らなきゃいけないし、メンテナンスが大変。それならプレートアーマーの方がまだ楽」
「室町とか戦国だと小札一枚の大きさが大きくなって簡略化されるんだよな。まあ、あの時代の戦は農民を動員するものだから当たり前だけどさ」
「たくさん作らなきゃいけないのに、緻密な鎧なんて作っていられないもんね。陣笠って言うんだっけ? あの足軽の兜なんて簡単に作ってあるのが分かるものだし。兵士の装備なんてあんな物だよね」
「陣笠で煮炊きしていたっていうのも、嘘だって話と本当だって話があって判然としないんだよな。実際に煮炊きに使えそうなのが困るというか、始末に悪いというか……」
「実際どうなのですか?」
「正しくは煮炊きをしておった者達もおる、というところじゃな。当たり前だがな、煮炊きをするには薪や炭が要る。数万もの軍勢に配るだけの薪や炭が本当にあったと思うかえ?」
「やっぱりそういう現実的なところにブチ当たるよなぁ……。あの時代は農民を動員してるんだ。そいつらが煮炊きするってなったら、莫大な薪や炭が必要になる。しかも長対陣となれば数か月だ。そんな長い期間の薪や炭なんてあるわけがない」
「幾ら日の本が山と森と沼地の国だからといって、それだけ長い間の薪や炭の消費を考えれば自ずと分かろうというものじゃ。もちろん当時も普通に植林はされておったがな」
魔隠穴は既に終わっており、バイゼル山も終わった。
次はウェズベア森じゃが、昨日の2人は装備を見つけてきたのかのう?
それとも面倒になって皮の取得は諦めたか?
そう思いながら行くと、何故か色々な見た目の者がおって驚く。
というか艶女組の奴らが大量………とまでは言わぬが、結構おるのう。
そやつらがバラバラになって戦っておる。
狩場を占拠しておる訳ではないので構わんがな。
とりあえず女装ゴリラがおるので、話を聞きに行くか。
何故こんな事になっとるのか、とかな。




