0775・試合観戦
妙なダメージを受ける昼食も終わり、せっかくなので2人も一緒に試合を見ていく事にした。
正直に言って大した事の無い者ばかりなのだが、暇潰しにはなろう。
という事で午後からの本戦が始まる前に観客席に戻ってきた。
妾は2人と共に見ておるので掲示板を読んではおらぬ。
とはいえ2人と話しておるので暇ではない。
そこは助かるところじゃの。
一人なうえに大した事の無い連中ばかりで飽き飽きしておったし、ウンザリもしておった。
だからこそ話し相手という意味では助かるのだ。
この2人もそれなりの実力者。
である以上は妾と同じ怒りと脱力を持つはずだからの。
「なにこれー? ……試合が始まったのはいいけど、酷すぎる。こんな連携も何も無いのが、武術大会ー?」
「流石にこれは酷いね。ここまで低レベルだとは思わなかったよ。と、いうか、彼らはこの程度の実力で恥ずかしくないのかい? 私なら恥ずかし過ぎて出場なんてしないよ。あり得ないだろう、これは」
「後衛が攻撃しようにも、前衛が邪魔をして射線が通らない。あるいは前衛が攻撃しているタイミングで後衛が撃ってくる。前衛同士でもお互いの立ち位置が悪くて邪魔にしかなっていない」
「【暴食】の語尾が伸びない程に酷いとは……。これはあれか? 素人用の武術大会かい? それなら百歩譲って分からなくはないが……」
「酷い言われようだ、とはいえ間違っていないところが何とも言えないけれど」
そう言って近付いてきたのは、剣の決勝戦で戦った<孤独のユイファ>という者であった。
こやつだけが唯一というくらいにまともなのだ。
他の出場者が酷すぎるとも言えるのだがの。
もちろんまともなのも僅かにはおるのだが……。
「彼女は武術大会の剣術部門、その決勝戦の相手だよ。唯一この大会の中でまともと言える人物だね」
「………そ、そうー。よ、よろしくー……」
「あ、ああ。こちらこそよろしく。何故顔が引き攣っているのかは分からないけど、これ以上は言わない事にしよう」
あれじゃろ。
引き攣っとるのは妾が珠のように喋っとるからであろうよ。
しかし、そんなにおかしな事か?
妾とて珠の影武者っぽい事はできるでな。
それぐらいはやらねばならぬし。
「それにしても、今戦っている者達は大した腕じゃないだろう? それが分かっている君達だからこそ言うんだけど……」
「う、うんー? 分かってるよー?」
「そ、そうだな。私も、分かっているさ。うん」
なんじゃ、こいつら? 妾の話し方で……ああ! そういう事か!
こやつら青年の見た目なのに可愛い声だから戸惑っとるんじゃな!
なるほど、なるほど。確かに知らねば顔が引き攣るのも分からんではない。
妾も初めて見た時に精悍な顔つきの青年だと思ったからのう。
そのギャップで驚いたが、最初から声を聞くと頭がバグるんじゃろうの。
どれ、助け舟を出してやるか。
「2人とも納得し辛いんだろうけど、そちらの人物は女性だよ」
「「………」」
「よく言われるんだけど、そんなに女性に見えないものかな?」
「「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!」」
うんうん。分かるぞ、その驚き。どう考えても精悍な顔つきの青年なんじゃ。
よく言えばヅカじゃが、中性的ではないのだ。
むしろ男性寄りなので、普通はパッと見る限りにおいて男性にしか見えん。
ところが口を開くと非常に可愛い声が出てくるのだ。
しかも女性の中でも高めの可愛い声がな。
だから男だと思うておると、脳が理解を拒否するとでも言うか、そういう状態に陥るのじゃよ。
妾は戦闘中であったし、掛け声を一回聞いただけじゃ。だからこそまだマシだったと言える。
戦闘の方に比重が寄っておったからの。
ただし気を張っておらなかったら、2人と同じ衝撃を受けておったであろう。それは間違いない。
ある意味で強敵じゃ。
「ゴホン。とにかく話をさせてもらうと、彼らは正直に行って上手くない。その理由は幾つかあるけど、最も大きいのは彼らは零れた者なんだよ」
「「零れた者?」」
「今年は特に酷いけど、毎年それなりの者は出てくるんだ。そしてその中でも光る者達は軍にスカウトされる。そして大会には出なくなるわけさ。そうして毎年繰り返されると……」
「才能のある者はどんどん軍へ行き、落ちこぼれだけが残るという事か。そして大会のレベルは悪くなる。しかし、このレベルでは……」
「そう。国としては、もうちょっと高いレベルの試合をして、それを国民に見せる事で技術力向上を目指したいんだ。でもね、どうしてもレベル優先主義がね、あるんだよ。レベルさえ上げれば強くなるから」
「あー……バカどもが嵌まる罠かー。あれってどこかで頭打ちになるからー、あんまり意味無いのにねー」
「そうだな。レベルを上げたところで一定以上は強くなれない。そこから上は技量の世界だからだ。技術が上の者が絶対に勝つ。そういう自分が積み重ねたものが試される領域なんだよ」
「どっかに一人ー、レベルが低いのに技量がおかしいのが居るけどねー。それは例外かなー……」
アルゼルがそう言うと、ユイファという者は妾をチラリと見た後で溜息を吐いた。
なんでじゃ? 妾は普通に勝っただけであろうが。
あれもよくある技の一つぞ。
「私もね。長い間ずっと優勝ばかりでつまらなかったんだ。それは認める。でも、何をされたか分からないままに切り殺されるのなんて初めてなんだよ。あの時にいったい何をしたんだ? お願いだから教えてくれないか? 謝礼なら十分に支払う」
「別に要らないけどね? 簡単に言うなら相手に殺気と殺意をぶつける。そうする事で視野狭窄、つまりこちらに強制的に集中させる。そして攻撃の前にそれら全てを止めたら?」
「それは酷いな。その瞬間、気を張っていたのが抜けるじゃないか。まあ、私達も使ったりする手ではあるけどね」
「それでも違うはずー。こいつの持つ殺気と殺意は色々とおかしいし、私も離れた所で感じた事があるけど、何かが違う。同じだと思わないほうがいいー」
「女王陛下は私が莫大な気を浴びた所為だと仰っていたが……?」
「殺気と殺意を急激に霧散させると、相手は張っていた気が滑るというか抜ける。その瞬間、莫大な気を一気に当てる。すると相手の頭は真っ白になり硬直するんだ。僕はそこを狙って切ったということ。それがあの時の真相」
「そこまでやるー? やらなくても勝てたんじゃないのー?」
「勝てたよ。ただ王都で剣術道場を営んでいるというのと、よくそこまでの技術を磨いたなと思ってね。だったら一つ、見本を見せようかと思っただけさ」
「ふふふふふ、私相手でも一つ見せるという程度か。やはり私はまだまだのようだ。それが分かっただけでも良かった。私は強いという自惚れを持つほど愚かではないが、自分の強さが分からなくなっていてね。そういう意味では本当にありがたかった」
「それは、まあ……彼なら十分な相手だろうさ。冗談でも何でもなく、<破滅>殿と引き分けたらしいからね。そして殺し合いを楽しめる相手なんだから、それだけの実力があるという事さ」
「本当だったとは思っていたけど、改めて聞くと凄いな。ところで本戦一戦目のアレも同じなのかい?」
「本戦一戦目………ああ、<無拍子>の事か。あれは相手の呼吸のタイミングを掴み、さらには瞬きのタイミングも見計らうものだよ。呼吸と呼吸の間には隙間があり、その一瞬の隙間では、誰しも意識が無い。あるようでいて無いんだよ。そこを狙う技さ」
「………普通はそれって、奥義というんじゃないの?」
アルゼルが真剣な顔で聞いてきたの。随分と珍しい事もあるもんじゃ。
「かもね。とはいえ僕にとっては使える技でしかないよ」
「「「………」」」
黙られても困るのう。
<無拍子>に関しては、妾だけではなく珠も使えるのだがな?
だから不思議な事では無いんじゃが……。
流石に<燕返し>は使えんがの。
まあ、正しくは使えんのではなく知らないのと、あえて使ったりはせんのだ。
何故なら無駄なく斬った方が速いからじゃ。
あれ、曲芸に近いからのう。




