0774・食事休憩
訳が分からぬ色の暴力とも言える食い物が目の前に在る。
そう、買ってきたのじゃ。
妾とて日の本の神である。
つまり何が言いたいかと言えば、食わず嫌いはいかんということ。
何故ならば、魔改造民族の祖とも言える神なのだからの。
それ故に文句を言うならば食うてからでなくばならぬ。
食わぬのに文句を言うなどという情けないこと、出来るはずも無し。
だからこそ、せめて一口食うてからでなくばいかん。
まあ、毒であらば食わずに文句を言うがの。
それは食い物ではないが故に。
とはいえ河豚の卵巣の糠味噌漬けなどもあるので、毒だからというて全て否定してはならぬところが難しいところよ。
………というか、何故に日の本の子は毒だと分かって食おうとするのであろうか?
もちろん飢饉などもあった故に分からぬではない。
飢饉の苦しみを知っておれば、少しでも食える物を増やそうという涙ぐましい努力は致すであろう。
それを妾は否定するつもりはない。
ないが………あからさまに毒ではないか。
なぜ無理矢理にでも毒を抜こうとする?
その努力は間違っておらんか?
もっと作物を増やす事を考える。
あるいは保存食作りを様々に行う。
ないしは動物を狩れるように罠を改良する。
漁の仕方や網を改良して多く獲れるように工夫したりなど、やるべき事は山ほどあろう。
そもそも秋の山のどんぐりとて食えぬ訳ではない。
彼岸花の球根とて毒抜きをすれば食える。
そちらの毒抜きの方が日数も掛からずに楽なはずじゃ。
にも拘らず、何故河豚の卵巣を食おうとするのじゃ。
それはおかしかろう?
「うん、これ結構イケるな。緑のデカい餃子ってどうかと思ったけど、思ってたよりは美味い。本当に驚きだが、思っていたよりは不思議と美味いな」
「その思ってた、がどこまで低レベルなのかは知らないけど、予想よりはマシだったみたいだね。というか見た目が暴力的なだけなのに、なぜ毒の話になったの? しかも河豚の卵巣の糠味噌漬けとか」
「ひたすら糠に漬け続けること3年、それで毒が消えると言われてる。でも食べない方が無難。後は彼岸花も極めて危険なうえ、あれはデンプンを取り出すだけだから美味しいものでもない。美味しさならベニテングタケ」
「止めてくれませんか? それって幻覚を見たりするキノコでしょう? 確か昆布のグルタミン酸に比べて10倍以上の旨味があるとかいう……名前は忘れましたけど、そんなのが含まれているヤツですよね?」
「イボテン酸じゃの。確かにグルタミン酸の10倍以上の旨味と言われておるが、イボテン酸そのものが毒じゃからな? 本来は茹でこぼしたうえで塩漬けにするんじゃよ。そうすると毒が抜けて食べられるが、旨味のイボテン酸も抜けるので、わざわざ食う意味が無い」
「なんだ、ソレ? 本当に意味無いな。メチャクチャ美味しいならちょっとだけ食べてみてもいけど、旨味が無くなってるなら試す意味さえ無いぜ」
「さっきも言ってたけど、イボテン酸そのものが毒だから仕方ない。そのまま食べたら美味しいけど中毒を起こす、だから結局は食べない方がいい。ただし古くから食べられてきた地方もあると聞いた」
「妾も聞いた事があるのう。ただしどこの地方かなど調べもせんがな。後、阿呆どもが「四毒、四毒」と五月蝿いのは何なのじゃ? そんなに太りたくないなら何も食うなとしか思わんわ。週に一日食わん日を作れば良かろうが。むしろその方が体は正常になる。飽食に慣れすぎじゃ」
「言いたい事は分かるな。そもそも一日3食も食べなくてもいいと思ってる。それか週に一日何も食べない日を設けて、お腹が空いた状態を作るべきだろう。ずっと食べてるんじゃ唯の飽食状態だし、体の反応もおかしくなるってもんだ」
「西洋や中東の方の断食って、あながち間違ってもいないと聞きますしね。お腹が空いてから食べるべきだという事も言われます。もちろんそれが本当に医学的に正しいかは知りませんけど」
「それよりも、お主ら割とバクバクいくのう? アマロはそうでもないようじゃが、他の者達はバクバク食うておるではないか。童女もそうじゃが、ほんに日の本の子だわ。そこだけは素直に褒めてやる」
「褒められ方が変な気がするが、そもそも俺達の行くパーティーには稀に奇天烈な見た目の食事が出てくる事があるんだよ。いわゆる創作系料理って言われるヤツだけどさ。アレって創作系っていうより、むしろモード系料理なんだよ」
「そうですね。美味しくて美しい物を創作するのではなく、見た目のインパクトだけに拘った物が多いのです。そういうパーティーだというのもありますけど、もはや私達としては食傷気味なんですよ」
「そうそう。もう慣れたというか、またコレ? って感じ。で、食べてもこんなものってところ。ハッキリ言って味に拘ってるところが味では勝つに決まってるの。だから見た目の方に安易に行くんだよね。そっちなら勝てると思うんだろうけど、正直に言って価値無しだとしか思えない」
「そもそも味がしっかりしている所は見た目もしっかりしてる。それに勝とうとして見た目が派手になるから、味が二の次になる。そんな物に意味は無い。だから大抵、会場に飾られてる花と同レベルの扱い」
「料理なのにその扱いか、それは酷いのう。もったいない事をするぐらいなら、美味い物を作るところに頼めばよいじゃろう」
ほう、このピンク色の唐揚げ普通に美味いな?
思っているより面白い味をしておる。
何でピンク色に着色しておるのか知らぬが、これはこれで凄い料理だと思うわ。
物凄くジューシーで肉の旨味がガツンと来る。
でも、なんでピンク色なんじゃ?
「こっちの赤い焼きそばも美味いのう……真っ赤じゃが。これはおそらくトマトの赤であろうな。旨味が麺の方にもあるので美味いのじゃろうが、赤という奇抜さにちょっと、のう……。なんでこうもガッツリ赤なんじゃ」
「確かにね。元々の小麦の色と混ざったら、もっとピンク色みたいになると思うんだけど、何故かガッツリ赤なんだよねー。これはこれで着色方法に秘密があるのかな?」
「伝統の着色方法? 美味しいからいいけど、原色のままは結構疲れる。唯一の救いは青色が無いこと。流石に原色の青が出てきたら食べる気を失くす」
「それはな。青は色々と駄目だと思うわ。自然界に少ないし、食い物の色っていうイメージが全く無いんだよ。実際に食い物として出て来たら、食欲は確実かつ絶対に失せる。海外にそんなダイエット方法があったような気がするが、やりたくはないな」
「流石に今目の前にある、視界の暴力の方がマシでしょう。赤色と黄色と緑の焼きそばも凄いですけど、そちらの黄緑色と黒色とオレンジ色のパスタも凄いですよね。配色がおかしいとしか思えません」
「何度も思うが、武術大会の試合より、屋台の料理の方が手強いのはどうにかならんのか。ある意味でこちらの方が厄介であろうよ。価格もお手頃で量もある癖に、なんでこれなんじゃ」
「誰もが喜ぶけど、素直に喜べないという斬新な気分。盛り上がるけど、盛り上がらない感じ?」
「もしくは、とりあえず食べられれば何でもいいという、やさぐれ風味? こんな感じのも、たまにはいいと思うけど……誰かさんは黙々と食べてるわね」
「……モグモグ……ムグムグ………」
「まあ、【暴食】にとっては見た目なんてどうでもいいだろうし、こんなものじゃないかい? 味は美味しいんだからさ、味は」
「エウリティアは駄目そうね」
「少なくとも私は普通の感性をしているよ。味は美味しいから食べられるけど、見た目で微妙なダメージを受けるのが……」
分かるぞ。
微妙なダメージを与えて来るんじゃよ、こやつ。




