0740・両親への説明
既に雑事も終わり、夕食の準備も終わった。
後は夕食を作るだけであるが、暇があるのでスマコンで調べる。
まずは昨今のニュースじゃが………日の本を腐らせておる政治家とやらが多いの。
掲示板で叩かれておる。
とはいえ子を死なせておきながら、おのれらは責もとらぬとは……邪悪な思想に染まった者など斯様な者か。
かつておった穢らわしい連中とよう似ておる。
あの頃は確か<こみんてるん>とかいう名じゃったかの、汚染されてしもうた愚か者どもがおった。
あれらを秘密裏に殺戮した事もあったが、全てを暴く事は出来なんだ。
妾が向かう前に腹を切りておった事もあるし、あれらの大元は北の方の国じゃったからの。
日の本から出られぬ妾では、あれ以上は無理であった。
どうやら、あれらの残党が未だ虫のように湧いてきておるようじゃ。
ここいらでキッチリ止めを刺しておかねばならんの。
日の本の子がどのような未来を選ぼうと構わぬが、国を売り渡すようなゴミは要らぬ。
そもそもあの邪悪な思想に染まる事そのものが愚かの極みよ。
己の頭で何も考えられぬ者が染まるのであろうが、白痴の阿呆じゃと証立てしておるようなものぞ。
その程度の事も自覚できぬならば、白痴と言われるのも当然であろうに。
ガチャッ!
「ただいまー。今日は歩いて帰ってくる事にしたよ、運動不足だしね。姫は買い物に行ったから、もう少しで帰ってくるんじゃないかな」
「おお、おかえりじゃな。珠の父御か、顔を合わせるのは初めてじゃのう」
「は、はあ………。あの、どちらさまで?」
「妾は<黄泉津大神>。またの名を<伊邪那美命>」
「!!!」
そう妾が口にした時、上からドタドタと音がしてきた。
またかあの童女は、本気で矯正した方がよいか?
真の淑女とは何たるかを教えた方が良い気がするぞ。
童女が愛されぬのは、あのズボラの所為であろう。
「ちょっと、ま……遅かったか!!」
「遅いも何も、家の中をドタドタ走るでないわ、この童女めが! 過ごしてきた年月が価値の無いものとなっておるぞ」
「そんな事はどうでもいいのよ。それよりも説明しなきゃ!」
「珠の母御を待ってからでよかろう、後でもう一度となれば二度手間になるだけ。それに遅かろうが早かろうが、受け止める事になるのは変わらぬ。こればっかりは既に変わりはせぬのだ」
「それはそうだけど……」
ガチャッ!
「ただいまー! 買い物が終わったから真っ直ぐ帰っ…………貴女、どちらさま?」
「ほう、妾に対しての敵意……いや、嫉妬か? 夫を未だ強く愛しておるようじゃの。良き哉、良き哉」
「あー、うん。ウチの両親はそんな感じだけど、とりあえずもう一度説明した方がいいわよ?」
「もう一度も何も、妾は<黄泉津大神>。またの名を<伊邪那美命>と謂う。つまり神じゃの」
「は?」
…
……
………
「つまり、珠は椿ちゃんをゲーム内とはいえ殺してしまい、その事で強いショックを受けて心が壊れかけたと?」
「そうじゃ。勘違いしておるかもしれぬが、妾の強い破壊衝動と殺意に引き摺られただけでしかない。珠の心は普通の者となんら変わらぬ。破壊衝動や殺意を持つからといって、殺して平然としておるような異常者ではないぞ?」
「それはまあ、そうだと思ってきたけど……」
「ただ恋人を殺害した際に愉悦を感じてしまったのが決定的じゃった。あれは<黄泉津大神>たる妾が、巫女たる沈女を殺した際の愉悦でしかないからのう。そもそも沈女は幾らでも生き返るし、死など存在せぬ故」
「そういえば椿の中に初代巫女が入り込んでたんだっけ? それもあってタマに厳しい事を言って、その後にタマが一瞬で首を圧し折ったのよね。確かにあの時のタマは「なんで?」って言ってたし」
「気付けば圧し折っており、己の中に暗い愉悦があった。混乱と己への嫌悪で一気に壊れかけたという事じゃ。ま、今は安静にさせておるから大丈夫じゃが、いつになったら回復するかは分からん。そもそも妾も緊急的に降りてきておるからの。本来なら数年後の筈じゃったというのに」
「そう、ですか……。それで、珠はどこに?」
「うん? 珠は精神の一部に隔離しておると言うたであろうが」
「いえ、あの子は今どこに居るんですか? 部屋に?」
「あー……そういう事かえ。ならば戻せば分かるであろう」
面倒じゃが妾が体を元に戻すと、全員が唖然としておる。
童女よ、少なくともそなたは珠の体だと知っておろうが。
「知ってるけど、変化するところなんて見た事ないんだからビックリするわよ。流石は神様、何でもありね!」
「………貴女が珠の体を乗っ取ったという事ですか?」
「それは違うのう。そもそも妾の覡と言うたし、心が壊れかけたと言ったであろうが。妾がこの体から離れれば、今の珠は植物状態と呼ばれる状態になる。つまり自我が全く無いという状態じゃの。この状態では病院とやらに入院しても、体はボロボロになっていくだけぞ」
「そういう事ですか。それで貴女様が降りて来て珠の体を使っておられると。緊急的と仰ったのも、その為」
「うむ、その通りじゃの。確実に珠の精神は回復させるが、今は妾でさえ手が出せん。心とはそれ程に繊細なものぞ」
「という事で、タマが戻ってくるまでは神様が代理を務めるってさ。タマっぽく取り繕ってくれるみたい。それと体は使われなきゃ、どんどん衰えちゃうしね。それなら神様が降りている方が遥かにマシってものよ」
「それはそうかもしれないけど……」
「納得できんのは分かるが、今回は偶発的な事が幾つか重なってしまっておる。現代の巫女に沈女が降りたのも珍しき事なれば、そのタイミングで珠が近付いてしまった事も運が悪かった」
「沈女っていうのは初代巫女らしいんだけど、男嫌いというか、男を憎んでる?」
「そうじゃの。男に嫌悪感と憎しみしか持っておらん。理由は男どもに都合よく使われ続けた所為じゃ。そんな扱いを受けた女が男を好む筈があるまい? たとえ己の遠い子孫といえど好む事は無いのだ」
「「………」」
「そういう時代と言えばそれまでなのよねえ。今から2000年以上前の時代に男女平等とかあり得ないし。しかも元から両親を亡くして行き場が無かったそうだから……」
「まあ、うん。珠の状況は分かったし、神様が降りられて珠の体を使っておられる事も分かった。必ず治るのですよね?」
「それは間違い無い。ただし1年で済むか10年掛かるかは分からん。先ほども言うたが、心とは繊細なもの故に断定はできん。おそらくは遅くとも3年で回復はするじゃろう。おそらくはな」
「そうですか……。それまで珠の体をよろしくおねがいします」
「あなた」
「それしかないだろう。言われる通りに珠の心が壊れる寸前なら、病院に入院したところでよくならない。それに宝家の裏記録には、当代の巫女を殺してしまい廃人になった記録も残っている。これは表の記録には書かれていない秘密だが」
「そんな記録があったんだ……」
「裏記録は宝家の当主しか読む事が出来ない。今は私で止まっているが、珠が成人したら読ませる気だった。特に珠は当事者だからな、当主になる前に読ませなければいけない。しかし遅かったか……」
「仕方ないわよ。誰だってこんな状況になるなんて思ってないし、こんな状況を予想するなんて無理でしょ。神様だって慌てて降りてきたくらいだし」
「まあのう……」
誰が悪いかと言えば沈女が悪いんじゃが、それは言わぬが良かろう。
面倒な事になるだけじゃ。
それに沈女には既に罰を与えてあるしの。
御蔭で本体も久方ぶりに沈女が居らぬ時を満喫しておる。
何かと世話を焼こうとしてしつこいからのう沈女は。
たまには妾もゆっくりしたいものよ。




