0735・説明と昼食
流石にこれ以上は茶化すと面倒臭そうなので、妾もそふぁーに座って話してやる事にした。
関わりの無い者どもも居るが、まあよいか。
「さて、まずはコトブキじゃが……。落ちつけ。そもそも双子の片割れに男子が何故生まれてくるかといえば、妾がこちらに干渉する為じゃ。元々その為に沈女に<山雷>を通して子を産ませたのだからの」
「イザナミって神様は、そもそも女神じゃなかったっけ?」
「そうじゃぞ。しかし妾の化身たる<山雷>はその限りではない。それ故に沈女に<山雷>を通して産ませたとなる訳じゃ」
「<山雷>は雷の神であり、八色雷公の一柱。その中でもイザナミ神の両腕に憑いていたと言われているわ」
「そうじゃ、そして妾は沈女に子を産ませた。その理由は、その子を覡にする為よ。そして妾はその子に降りる。そうして現世に干渉するという訳じゃな。そなたらが言うところの神降ろしという事じゃ」
「神様の方が強制的に降りてきてるんだけど?」
「妾が妾の為だけに調整して産ませた子ぞ? 妾から干渉できるに決まっておろう。それ故にそなたは容れ物になれたのであろうが」
「私の方に大半の才能が集まっているのは、神降ろしの為だったの!?」
「そうじゃ。だからこそ人間の求める多様な才などという下らぬものは、お主という容れ物の方に捨てておるのだ。神が降ろせる器、それ以上に重要な事などある訳がなかろうが。そもそも神が降ろせるならば、そのような才など塵芥ぞ」
「「「「「「………」」」」」」
「それと、あの童。つまりコトブキじゃが、現在は精神の片隅に隔離しておる。心が壊れかかっておるからであり、理由は妾の破壊衝動と殺意の所為だ。それを己のものと勘違いしてしまった故じゃな」
「どういうこと?」
「あの時のそなたには沈女が降りてきておった。そしてそれ故にコトブキを嫌ったのだ。元から沈女は男どもに都合のいいモノとして使われておったからな、男には嫌悪感しか持っておらん。だから余計に厳しい言葉となった」
「あの時のアレは椿じゃなかったの?」
「うん」
「そしてその言葉に対し、妾の破壊衝動と殺意が応えて殺してしまった。おそらくコトブキは何故そんな事をしたか理解できておるまい。そして愛する者を己の手で殺した事、それに愉悦を感じた事。それが強烈な己への嫌悪となって心が壊れかけた。まあ、妾がギリギリで繋ぎとめたがな。その所為で回復に時間が掛かる」
「だからタマちゃんの心を隔離した? 回復の為に?」
「うむ。それ故に表に出る事はできん。どうしても駄目なら妾がそれっぽく取り繕うてやる。とにかく回復するまでは妾でも見守る事しかできん。残念ながらな」
「そう………。ま、コトブキが無事ならそれでいいわ。そのうち回復して帰ってくるでしょうよ。問題はアンタだけど……」
「妾か? 回復するまで、ずっとこの体を使うに決まっておろう。何故ならば、そもそも妾を降ろす為の体ぞ、当たり前であろうが。それに人としての営みを行わねば危険であろうに。まさかびょういんとやらに押し込める気か?」
「押し込めるって……。でも、入院の事を言ってるなら間違ってないのかな?」
「人の営みを行わないと駄目ってのは確かにそうだな。ずっと点滴とかで食事がとれないって危険すぎるし、どんどん痩せていっちまうだろ。筋肉量も落ちるし良い事は何も無いぜ?」
「週に一度はタマも運動してるくらいだし、それぐらいしないとVR生活も危ないものねえ……仕方ないか」
「よく分かりませんが、コトブキの体に神様が降りてきているのは分かります。意味は不明ですが」
「私もよ。意味不明過ぎて理解できない。そのうえ神様が自分の降りる為の体を人間に産ませるってなに? 神と人って子供が出来るの?」
「まだ人の世の浅い頃ならば出来たのよ、今の世では絶対に出来ぬがな。あの頃なればこその荒業じゃ。あの方の目さえ掻い潜って種を撒いたからの。今では日之少宮で歯噛みしておられようぞ。妾だけが今も干渉できるのだから当然ではあるがな。あれじゃ、「ざまぁ」とかいうヤツよ」
「いや、それ大分違う」
「そうか? ならそうなんじゃろう。この体が持つ知識は未だ全て精査しておらんからのう、曖昧な部分がある」
「神様の話を聞いてたら結構な時間が経っちまってたな。とりあえず、今はタマの心が回復するまで待つしかないって事か。とはいえVRといえど、恋人を自分の手で殺しちまったのは厳しいだろうと思う」
「まあ、そうじゃな。やはり問題なのは、妾の破壊衝動と殺意を己のものと誤認してしまった事にあろう。こればかりは<黄泉津大神>としてのもの故、如何様にもならぬ」
「はぁ……とにかく現状でやる事が無いなら、ゲームでもしますか。っていうかゲームの中だけどね」
「今日はコトブキと共にクリムゾントータスを狩りに行く予定だったのですが……どうしましょう?」
「………ふむ、これか。なれば午後からで構うまい。そもそもコトブキ以上が妾ぞ、何の問題も無いわ。せっかくだから人の子の玩具で遊ばせてもらうか」
「神様がゲームをしてるっていうのも変な気分」
「「「「「………」」」」」
別に構わぬであろう。
人ばっかり面白い事をしておるのはズルいからの、妾も楽しませてもらうぞ。
せっかくの機会じゃからな。
まずはこの体の知識が正しいかどうかを調べねばならぬ。
まいるーむとやらに行って色々とやってみるか。
それとラスティアとキャスティを戻しておかんとな。
あれらは愛しおうておるが、まいるーむでないといかんらしいし。
…
……
………
む? 知識の精査と遊んでおったらいつの間にかこのような時間か。
そろそろ昼食じゃのう。
それでは呼ぶ事を伝えに行くか。
まずは訓練場じゃの。
「そなたがファルか。これからソファーの部屋に行く故、そなたを呼び出すからの」
「カタ!」
「うむうむ。次はあの爛れた関係の天使と悪魔じゃ。愛し合ってはおるが……まあ、よいか。アレもアレで悪くはあるまい」
妾が移動すると、部屋の前のボードにはハートマークの札が掛かっておった。
本当に爛れた関係じゃのう。
仕方あるまい、戻ってセナとやらに言付けを頼んでおくかな。
よし。それではさっさとソファーの部屋へと移動じゃ。
何となくで分かっておるが、電脳空間での食事を味わってみたい。
ソファーの部屋に来たらファルを呼び出し、昼食を頼んだら後は座ってゆっくり待つかの。
どれ、掲示板とやらでも読んで暇を潰すか。
…
……
………
ぬ? これはいかん。
そろそろあの二人を呼ばねばならん時間か。
まずはマイルームに戻ってと。
セナに聞きに行ったら、どうやら終わっておるらしいので話をしに行き、その後にソファーの部屋に戻って呼び出す。
「カンカン!」
ちょうど来たか、ギリギリであったわ。
さてさて食事じゃ、楽しみじゃのう……!
「うむ。今日の昼食は……揚げ物か。これは楽しみじゃな」
「………誰じゃ、お主? コトブキに見えるが、コトブキではないの」
「妾はナミじゃ。それ以上でも、それ以下でもない。コトブキは現在回復中じゃが時間が掛かる。それまで妾が体を使うておるだけよ」
「………よう分からんが、他の者が騒がぬのであれば構わぬのであろう。妾は気にせん事にする」
「うむうむ、それがよかろうぞ。野暮はせんものじゃ。…………ほう、これは豚の肉を唐揚げにしたものかえ? よいの、肉は美味じゃ」
「喋り方が古風で女言葉でコトブキの体。何故か分からないけど、これもイイ気がしてきた」
「ダメダメ、どう考えてもおかしな方向に行ってるわよ。こっちに戻ってきなさい!」
うむうむ、よきよき。
これだから降臨は止められんのだ。
日の本を危ぶめるゴミを処分する傍ら、美味なる物が食せるからのう。




