0734・げーむ世界と神
目の前のタマから容れ物と言われた。
でも先ほどからの会話でタマじゃないのは分かってる。
間違いなく目の前に在るのは<黄泉津大神>。
またの名を<道敷大神>。
「ほう、よう妾の名である<道敷大神>を知っておるな。多少は学んでおるか、容れ物」
「容れ物って呼ぶの止めてくれる? 私の名は静よ!」
「珠の名は大事であるが、貴様はしょせん容れ物に過ぎんのだが……。まあ、よいか。それよりも、げーむとやらにろぐいん? せねばならん。というか、人の子は斯様な物を生み出したのか。凄いの……」
「えっと、ゲームにログインするのはいいけど………それより椿がタマに殺されたのよ!? ゲームの中とはいえ!」
「何を興奮しておる。沈女の因子を持つ巫女なれば、<山雷>に殺された以上は全てを垂れ流して悦ぼう。女の悦楽の窮みに達したかもしれん。とはいえその程度。肉体が死んでいないのならば問題あるまい」
「………」
いや、女の悦楽の窮みって何よ?
あのドMを超えて窮極のMだったの?
それともタマがやった事だから何でも悦ぶのかしら……。
「何を不思議がっておる? 己の全てを奉じて愛する者に殺されたのだぞ? それこそ窮極の幸福であろうが」
「………いやいやいやいや、それはおかしい。明らかにおかしい! そんな推しに殺されて悦ぶよ……あれ? そういう事? だって<鎮めの巫女>って<山雷>の巫女だし、それって<黄泉津大神>の巫女って事で……」
「何を当たり前の事を言うておるのだ。沈女も黄泉で妾に殺されたら、全てを垂れ流しながらよがり狂っておるぞ?」
「あ……駄目だ、こいつら。どうにもならない」
マジで推しに殺されたい奴らじゃん。
あの頭のおかしい隔離板の連中と何も違いが無い。
<アーシュラ>の窮極系が椿であって、初代巫女なわけね……。
今やっと全てを理解した。
「とにかくげーむとやらにろぐいんして、妾が事情を説明してやる。だから沈女の因子を持つ者にも、早うろぐいんせよと言うておけ」
「あー、分かった。分かりました!」
何なのよ、もう。
心配して損……あれ? タマは?
「ちょっと待ちなさい! タマは何処よ!!」
「それも教えてやるから、さっさとろぐいんせい! この容れ物が!!」
「また容れ物って言った!!」
「五月蝿いわ!!」
何なのよ、あいつ。
あれ本当に我が国を作りだした始祖なの?
何かあんなのに敬意を持つとか出来ないんだけど!?
とりあえずタマの事が心配だから、椿に連絡してログインしなきゃね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まったく何なのじゃ、あの容れ物め。
せっかく降りたのだから日の本を見て回ろうと思っておったら、それより面白い物があるというのに。
ほんに妾の邪魔ばかりしおって!
肉体の知識はある故に、げーむとやらをするのは簡単じゃが……っと。
これでまいるーむとやらに来たぞ。
なかなか凄いのう、人の子がここまで出来るとは……!
まるで電脳空間の<天之御中主神>のようじゃ。
すなわち電脳空間という名の天地開闢。
人の子がここまで出来る様になるとは……後で知識の補完もしておかねばならぬか。
よしよし、ここが師匠とやらの居る屋敷のそふぁーの部屋じゃな。
うむうむ、これは素晴らしいのう。
まさしく世界、小さな箱庭である。
「あっ、コトブキ君。戻ってきたんだね。いきなりで何がなんだか分からなくてビックリしたよ!」
「そなたはかつら……いや、この電脳空間とやらではナツじゃったな。そしてそなたがアマロ、じゃな?」
「あ、はい………あれ?」
「おおー、そなたがラスティアで、そなたがキャスティか。よう出来とるのう、驚きじゃ! 人の子はここまで出来る様になったか!!」
「コトブキ? ………じゃ、ないの?」
「何か喋り方が<破滅>殿みたいですね? いったいどうしたんですか? コトブキ」
「ふむ。それだと混ざって困るの。妾の事はナミと呼ぶがよかろう」
「「「「ナミ?」」」」
「よっと。何とか間に合ったって感じね。せっかくだからユウヤとオウカさんにも連絡しておいたわ」
「容れ物よ、やっと来たのか。遅いぞ」
「容れ物って言うなって言ってるでしょうが! ここではトモエと名乗ってんのよ!」
「しょうがないの、妾の事はここではナミと呼べ。分かったか?」
「……ナミってまた安直ねえ。<伊邪那美命>だからナミって事?」
「妾の名は人の子の間で有名だからのう。それで良かろうよ」
ぬ? これは、あの童の友達というヤツか。
それと知り合いの女子じゃの。
来た途端、呆気に取られておるようじゃが。
「「「「「………イザナミぃ!?」」」」」
「ふむ、なんじゃ。妾が神である事が、そんなに驚く事か?」
「いや、普通は驚くでしょ。神が降臨するって、普通はあり得ないし」
「いや? 妾は昔から何度も降臨しておるが? お主ら人間が知らぬだけであろう」
「「「「「「はぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」」」」
「何を驚いておるのやら、理解できんわ。そなたら人の子の言葉にあろう、<事実は小説より奇なり>とな。その奇の中に降臨も含まれておるだけよ」
「いやいやいやいやいや、絶対に含まれ「そんな事はどうでもいい」ちゃ」
「それよりタマはどこ? 何故貴女が出てきている?」
「ほう、妾に殺意を向けるか。沈女の因子を持つだけはあるわ。己の愛する者以外は如何様でもよいと見える」
「どうでもいいし、興味が無い。私にとって必要なのはタマだけ。たとえ貴女が<黄泉津大神>であろうと私には価値が無い」
「ふはははははははは……! 流石は沈女の因子を最も濃く発現した女子よ。アレにそっくりではないか!」
「そんな事はどうでもいい! それより「まあ、待て」も答えて!」
「そなたらは勘違いしておる。そもそも<山雷>の破壊衝動と殺意は妾、つまり<黄泉津大神>のモノであって、あの童のモノではない」
「「「「「「は?」」」」」」
「アレは妾に引き摺られただけのもの。そしてあの童には、あの童の破壊衝動と殺意がある。面倒だからコトブキと呼ぶか。そなたの殺害はコトブキの意志で動いたのではないのだ」
「え?」
「残念であったの? 急転直下と言えるほど落下した気分はどうじゃ?」
「…………殺す!」
「ふはははははははは! 女子としての悦楽を窮めたかと思うたら、それは赤の他人の殺意であった。面白すぎて滑稽すぎるのう……!」
「死ぃぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「ははははははっ! そぉれい!」
動きが直線的すぎるわ。
それに投げるも絞めるも自在すぎてつまらん。
こやつは珠以下じゃの。
ズドン! ギチチッ!
「ガハッ!? ぐぶ……! うぐ……ゲ………!!」
「ほーれ、ほーれ。抵抗せんと落ちるぞぉ。落ちたらこれ以上の話は聞けんのう。うはははははははは!!」
「ググ………ギギギ…………!!」
「性格悪いわねえ。ついでに神様に勝てるわけないじゃないの。それに話は聞かせるつもりなんでしょ?」
「なんじゃ、つまらん。やはり容れ物は中身が無いだけあって無粋じゃ」
「容れ物じゃないって言ってんでしょうが!!」
こやつもイジると面白いのう。
ま、そろそろ真面目に話してやるか。




