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0733・鎮めの巫女と山雷の物語。そして……




 昔々ある所に、村人に虐げられる一人の巫女が居りました。

 その時代の女に名など無く、6歳で両親を亡くした女は村の巫女とされてしまったのです。

 理由は何かの際に生贄にされる為。


 日照り、増水、凶作、天災。

 なんでもそうですが、その当時は生贄を捧げれば静まると思われていました。

 そしてそのような時代に生贄にされるのは、決まって女なのです。


 その巫女は運良く10年もの間、生き永らえる事が出来ました。

 しかしそれは、その間に不幸な事が偶然起きなかったからでしかありません。

 ですが、生きている事そのものが巫女の不幸でもあったのです。


 ここは山の麓にある小さな村。

 働く事もしていたけれど大した力も無い巫女は、村の男の都合のいいように〝使われて〟いたのです。

 その地獄にあっても、飢えて死ぬよりはマシだと巫女は生にしがみ付きました。


 しかし、そんな女に遂に巫女として生贄になる時が訪れます。

 それは<黄泉津大神よもつおおかみ>からの使者であり、その使者への生贄の役目でした。


 村の男達はニヤニヤとしながら、村の外へと女を捨てていきます。

 そこへやってきたのが<山雷やまつち>でありました。



 「ナニモノダ? オマエハナゼソコニイル?」


 「私は巫女。貴方様への供物とされた巫女でございます」


 「クッ、クククククククク……。コレガ、アナタサマガウマセル1500ノニンゲントヤラカ! オノレラデツカイ、オシクモナイモノヲステル! クフフフフ………ハハハハハハハ!!!」


 「な、なにが……?」


 「オンナ。イケニエトイウノナラバ、ワラワガモライウケテヤロウゾ。キサマノクラス、イエヘアンナイセヨ」


 「私に家などありません。かつて暮らしていた家は村の者に奪われ、昨日までは神社の一角で寝泊りを……」


 「ハハハハハハハハ! ソウカソウカ。ナラバ、トリモドシニイカネバナランナア!!!」



 <山雷やまつち>は巫女を連れて村へと移動し、そして巫女を虐げていた村人を殺戮しました。

 その身に宿すいかずちで焼き尽くし、決して逃れられぬ神の如き速さで皆殺しにしたのです。


 そして皆殺しにされた村の神社において<山雷やまつち>とまぐわった巫女は、本当の意味で〝神の巫女〟となったのでした。



 「貴方様の事を御教え下さい」


 「ワラワカ? ………妾は<黄泉津大神よもつおおかみ>。またの名を<伊邪那美命いざなみのみこと>。黄泉を統べる神である。この化身は妾が一つ<山雷やまつち>」


 「か、神様………!」


 「ふむ。そなたは随分と苦しんできたのだな、ならば真なる巫女となるがよい。妾の巫女として生きよ。そして死した後、黄泉に来るが良かろう。その時は真なる妾の巫女として傍に置いてやろうぞ」


 「は……はい! 必ずや黄泉に向かいてお傍に!」


 「ふふふふふふふ。あの方が産ませるという1500の者など、しょせんはこの村の者と同じよ。妾の産んだ<軻遇突智かぐつち>を殺し、あのような者どもを産ませるなど愚かに過ぎる。そなたは<山雷やまつち>を通して妾の子を産むのだ」


 「あ、ああ……! ありがたき幸せ。必ずや素晴らしき、やや子を産みましょう。私の全てを捧げ奉ります、私の神様」


 「そう。ならば励みなさい、妾の為に」


 「はい! はい! 私はどこまでも励みます! あの者どもを殺してくださった私の神様。私のあらゆる全てを捧げて、永劫に尽くさせていただきます!!」


 「くくくくくくふふふふふふ、あははははははは!! ならばお前の名は<沈女しずめ>としましょう。死した後に黄泉へと沈む女。そう名乗りなさい」


 「はい! 私は黄泉に沈む者。名は沈女しずめ。私のような卑賤ひせんな者に名を頂けるなど、光栄の極みに存じます」



 <山雷やまつち>は己の巫女たる沈女しずめの頭を胸に抱き寄せてわらう。

 その目から神の血を流しながらも、わらい続ける。


 巫女を通して知ってしまったから。

 自らが心から愛した<伊邪那岐命いざなぎのみこと>からの愛は、永遠に失われたのだと理解してしまったが故に。


 沈女しずめの狂愛を理解したその時、<黄泉津大神よもつおおかみ>は自らの中にある狂愛を理解し、それ故に<伊邪那岐命いざなぎのみこと>に受け入れられぬ事を悟ってしまった。


 何故なら自らの中に沈女しずめの狂愛に応えようという思いは無いのだ。

 情はあっても愛は無い。

 狂愛を受ける側はそうなのだと悟ってしまった。


 故にわらう! わらう!! わらう!!!

 かつての愛する者を、それに受け入れられぬ自分を、そして沈女しずめを浅ましく利用しようとする己を。


 それ故に泣いて! いて!! く!!!

 その目から神の血を流しながら、せめて<山雷やまつち>が〝孕ませた〟子は幸せであってほしいと願いを篭めて……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ハッ!? ……またこの夢」



 私は今まで何度も見てきた夢をまた見た。

 この夢にいったい何の意味があるのか、そして何故この夢は決まって俯瞰視点で見るのか。

 その事は今も分からないままだ。


 私は一つ頭を振り、朝の用意をする。

 お手伝いに任せれば用意は終わるし、後は<レトロワールド>にログインするのが日常。

 勉強などしなくても高得点を取るのは容易いし、それは簡単な事。


 シズやタマには劣るけど、それでも常に学年3位を取り続けているのは伊達じゃない。


 朝の全てが終わった後、ゲームにログインする。

 いつも通りマイルームを見回り適当に倉庫の物を売りに出すと、後はソファーの部屋へと行って友達と喋る。


 タマがログインしてソファーの部屋にやってきた。

 彼が私の横に座ったので、私は腕を絡めようとして止まる。

 ………あ、れ?



 「イル? ………イル、どうかした? 大丈夫?」


 「………」


 「イル! どうしたんだ、いったい何があった!?」



 タマが私の肩に触ろうとし、何故か私はタマの手を弾く。



 「私に触るな下郎! しょせんはあの方の代わりの分際で何様のつもりだ! 貴様は作られたモノでしかなかろうが! 恥を知れ!!」



 私の口から私ではない者の言葉が出る。

 これはまさか、沈女しずめ、え?


 ゴギュッ!!


 そんな音がして私の首は圧し折れた。

 その時のタマは素晴らしい程に殺意満面の笑顔をしていて、私の心はその顔に釘付けになる。


 私はこの瞬間を永遠に忘れないだろう。

 愛する者の殺意を一心に受ける事が出来た、この瞬間を。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「「キャァァァァァァァァァァァァァ!!!」」


 「ちょっ!? タマ!! あんた、いったい何やってんのよ!?」


 「え? ………あ、れ? なん、で?」



 タマがそう呟いた瞬間、タマが目の前から消える。

 さっきのは確実に強制ログアウト。

 ならタマは現実に戻った?


 くっ、暴走しているかもしれない!

 早く現実に戻らないと!!


 そもそも何で椿はタマの手を弾いたのよ!

 それに訳の分からない事を言い出すし。

 だいたいタマが作られたモノってどういう事よ、意味が分からない。


 私は素早くマイルームへと戻り、ログアウトして現実へと戻る。

 正直に言って私もパニックだし、勘弁してほしいわ。

 いったい何が起きているのか分からない。


 私はVR機器を焦りながらも外し、一目散にタマの部屋に行く。

 いつも通りに鍵が掛かっていない扉を開けて部屋に入ると、タマはベッドに寝ていた。



 「タマ! 何があったか知らないけど、起きなさい! タマ!!」



 私が体を揺らしても起きる気配の無いタマ。

 VRには精神を閉じ込めるような機能なんて無いし、そんな機能を付ける事なんて出来やしない。

 だから強制ログアウトを喰らった程度ならすぐに起きる筈でしょ!



 「タマ! タマ! 起きなさいよ、タマ!!」


 「……妾の体を揺らすな、田分けが!!」


 ゴン!!


 「いっつーーー……!」


 「揺らさずとも聞こえてるおるわ、容れ物が!! 妾の体に何をしてくれておるのだ、まったく」



 あいたたたたたたた!

 何で私が頭を殴ら、わらわ!?



 「タマ! あんた〝わらわ〟ってどういう事よ!?」


 「大きな声を出すでない、容れ物。少しは声を落とせ」


 「ちょっと、何で私が容れ物なのよ!」


 「知らぬのか? <山雷やまつち>の才と能を人の身に閉じ込めるには邪魔なのだ。だから生まれてくる双子の女子おなごの方には、必ず多くの才が宿る。しかしそれは<山雷やまつち>には不要なものぞ。それ故に容れ物が持っておるのだ」


 「は? ………じゃあ、私はコレだけの才能を持ってるのに、本当は唯の容れ物でしかないの?」


 「当たり前ぞ。この体は妾の化身たる<山雷やまつち>と沈女しずめの間の子。貴様は邪魔な才と能を捨てる為の容れ物でしかないわ」



 ………私って沢山の才能を持つ凄い人間じゃなかったの?

 邪魔な物を捨てる為の容れ物? マジで?


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