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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
建国王アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第61話-処分-

「――さて、今のところはこれで全てだ。まずはこの話を持ち帰って各々で考えてみてくれ」

「そうですね、この計画は州でも深く検討する必要があります」

「か、会計院でもちょっと考えてみます……」

「国境警備隊は只今、組織再編の途中なのですが。これも再考する必要がありますね」


 こうして、全てを話し終えて満足げなジョンは会議を締めようとする。


「詳細を詰めるのはルーナとカルロが帰還してからにしようと思う。アリス、今日は解散――」

「待って」


 私はそれを遮った。彼の話は全て聞き終わったわ。その上で、私は彼に言いたいことがある。


「何だ」

「あんたはいつからドレイツたちの陰謀を知ってたの」

「……気になり始めたのはレンデラムでダネア族の捕虜を尋問した時だ。それでジェファーにも探りを入れるよう頼んだ」

「それで」

「ジェファーからの第1報で、その疑いは確信に変わった」

「それはいつなの」

「レンデラムが包囲されてすぐの頃だ」


 その頃のジェファーが手近で探れる相手といえば、ウィンタカスターを訪れたゲント人商人か、もしくは、屋敷に呼びつけたミシア国高官のサイラス辺り。

 その時点で既に考慮に入れていたのね。


「……そう」


 私は今とても怒っている。ひと月近く報告を先延ばしにしていたジョンにも、それに全く気が付かなかった私自身にも。


「――どうして今まで何も言わなかったのかしら」

「どうして、か。じゃあ逆に聞くが、レンデラム包囲下の緊張状態でドレイツどもの暗躍を知って、君は冷静でいられたのか」

「そんなこと、分かるわけないじゃない」


 確かに、さっきも冷静でいられなかったような私がもしあの場で知っていたら……最悪、暴走していたかもしれないわね。でも、だからって納得できるわけじゃない。


「俺は、お前が責任を取るような事態になって欲しくない――」

「バカ」


 つい彼を遮って本音が出てしまった。


「何?」

「バカって言ってんのよ」

「はあ? 俺はお前のために」

「『お前のため』、じゃないわよ。バカバカバカバカ、バーカ!」


 久々に私から幼稚な罵倒をされて目が点になってるわね。でも止めないわ。


「――私がそんなこと望んでると本気で思ってるの? それとも私はこの国の当主として相応しくないって言いたいのかしら」

「そんなこと――」

「そんなことない、なんて言わせないわ。あんたの行動はそういうことよ」


 絶対に反論なんかさせない。


「当主様、ちょっと落ち着いて――」

「あんたは黙って聞いてなさい」

「はい」


 私はジェファーをひと睨みで黙らせた。


「私が冷静でいられないかもしれない。それが何よ。それで失敗したら私が逃げるとでも思ってるの? 甘く見られたものね。いや、あんたならむしろ私を逃がすよう動くかしら。どっちにしろ甘いわ、甘過ぎる」

「……」

「それにあんた、『大法官』の権限が何のためにあると思ってるの。私の命令に口出しできる権利は飾りじゃないわ。まして一切の断りなく勝手に外務卿を動かすなんてとんでもない、言語道断よ」

「……」


 私の怒りは止まらない。止めるつもりもない。


「言いたいことがあるなら言いなさいよ。『お前のために』――ってね。幾らでも聞いてあげるわ」


 私はずっと前、サスーク軍と対峙した時に覚悟を決めたの。私自身だけじゃなくて、組織の責任まで全部背負うって。それを軽く見られるのは例えジョンであっても絶対に許さない。


「……俺は、『当たり前が覆る恐怖』を知っている」

「何よ、それ」

「俺は過去に1度、『自己』を見失ったことがある。帝国崩壊で環境が一変した後、何を成すのが正解なのか、或いは俺自身が一体これから何を成したいのか、それが分からなくなった。学院で君と出会うまでの間、俺はそれを引き摺り続けた」


 「自己」――それは、ジューリカ哲学の用語。人格を形作る要素の1つに定義されるもの。


「それがどう関係あるっていうのよ」

「俺は、君が妖精種として今まで培ってきた価値観、文化、尊厳をとても大事にしていることを知っている。それにドレイツ教が深く根差しているということも。だから俺は、この件が君の『自己』に与える影響を危惧した。あの状況下で君に更なる苦痛を強いるのは得策じゃない――そう判断した」


 確かにこの問題は私の信仰心を大きく揺さぶるものだし、強烈な不安にだって苛まれたわ。


「私のことを心配してくれてありがとう。それで?」


――でもそれは、私が背負うべき責任とは全く関係ないことよ。


「それで? って……これが全てだ」

「そう、長話にしては随分とあっっっっっさい考えだったのね。要するにあんたが怖かっただけじゃない」


 呆れた。そんなんで私にひと月もの間、こんなにも大きな隠し事をしていたっていうの。


「ああそうだ。俺は怖かったのだろう。君がこの事実を知った時、耐えられるという確証がなかった」


 この期に及んでまだ私のせいにするなんて。ジョン、あんた随分と偉くなったものね。


「もういい、黙りなさい。私はあんたを『大法官』から解任するわ」


 私の言葉を耳にした瞬間、この場にいる全員が固まった。


「当主様、それは――」

「越権行為があったんだからこれは然るべき処分よ。イーヴ、私は間違っているかしら」

「いえ……」


 規律を重んじる侍従長には私の言い分を否定できない。


「けど、ジョンがいなければそもそも国が回らなくなってしまう」


 この中で今の私に口出しできるのは……まあ、ジェファーくらいよね。カルロも何か言いそうだけど、彼は今この場にいない。


「私には無理だって言いたいの? ジェファー」

「そうだ、当主様にジョンの代わりは無理だ」

「……」


 私はジェファーを思いっきり睨みつけたけど、それでも彼は引かない。


「考え直してくれないか」

「……」

「……」

「……はぁ、分かってるわよ。私はおろか、この国のどこ探したってジョンに代われる官僚なんかいないことくらい」

「だったら――」

「でも、処分は絶対よ」


 この考えが変わることはないわ。

 弁明しておきたいのは、これが激情に駆られるまま言ってしまった咄嗟の思い付きなんかじゃないってこと。ええ、もちろんそんなことないわよ。当たり前でしょ!


「――実はここ最近ずっと考えてたのよね。ジョンがやってることに役職や権限が合っていないんじゃないか、って」


 私の語気が落ち着いてきたことで安堵したのか、徐々に皆の顔色が元に戻っていく。


「では、ジョン閣下に新たな国務卿職を与えるということですか」

「ええ。ジョンの解任後は『大法官』を空位とし、『大蔵卿』と『外務卿』、それらの間に『国璽尚書』の職を新設、ジョンをこれに任ずることとするわ」

「では、法院の長はどなたが」

「私よ。他に誰がいるっていうの」

「「「「「「……」」」」」」


 ちょっと、黙んないでよ。これは仕方ないじゃない。


「えーっと、当主様。それでは国璽尚書というのは何をされる役職なのですか」

「よくぞ聞いてくれたわね、アラーナ! 国璽尚書というのは即ち、私の代わりにハンコを押すだけの仕事よ!!」

「「「「「「…………」」」」」」

「嘘に決まってるでしょ」


 何なのよ皆してその顔は。私だってそこまで考え無しじゃないわ。


「――元々、私直属の諮問機関は必要だと思ってたの。国璽尚書はその組織の長となる他、私に代わって国の全組織を監督、補佐できる権限を想定してるわ。これで、今までずっと続いてきた大法官と国軍参謀長の兼任なんて歪な状態も解消されるってわけ」

「「おお!」」「うーん」「「「……」」」


 あれ、思ったより反応がまちまちね……。まあ、それはいいわ。


「ねえ、ジョン」

「……」

「あなたが私の命令を勝手に解釈して色々と動いてくれるのは、私にとっても助かることのが大半だし、多少の越権くらいならこれからだって目を瞑ってあげる。細かいことを問題にする気なんてないわ。ちゃんと私に報告してくれるんならね。けど、どんなに小さくても隠し事だけは、金、輪、際、やめてちょうだい。独断専行は2度と許さないんだから!」


 不安要素が数え切れない程ある中でも、今日1番にモヤモヤしてたのは結局これ。


「――大事なことは全部、正直に話しなさい。変に気を回さなくたっていいの。私はこの国の当主で、最高責任者なのよ。私という人間の全てを否定されたって、国のために折れない覚悟くらいできてるわ」

「そう、だな……すまない、アリス。俺が間違っていた」

「ええそうよ、あんたが悪いわ。改善しなさい!」


 まあでも、ジョンが信じられなくなるくらいに当時の私は目に見えて不安定だったのよね、きっと。私も気合を入れ直さなきゃ。

……本当にそうかしら。こいつ夫なのよ。夫の前でくらい不安を隠さなくてもよくない? やっぱこいつが悪いわよね!


「そうだ、ジョン。あなたに今ここで国璽尚書としての初仕事を命じるわ」

「……何だ」

「国務卿職や国の機関を増やすにはもちろん法律の改正が必要なの。その改正案を作成してちょうだい。あ、期限は次の国務卿会議の3日前までだから、お願いね」

「4日しかないじゃないか!? それに、法律の改正案なんて法官に作らせる方がいいだろう。これから法院の長は君なんだから」

「突然、大法官ジョンは諸事情あって転任したから早速だけど法改正案よろしく! なんて私が言いだしたら法院が混乱するに決まってるじゃない」

「ならばそれを命じた張本人が作――」

「お、ね、が、い、ね!」


 この時、何が面白かったのか私たちの会話で噴き出した人間が2人。

 イーヴは……まあいいわ、許してあげる。

 私はもう1人の方へゆっくりと向き直り、微笑みながら問いかける。


「ねえ、ジェファー。あなた、どうして笑っていられるの」

「ッ!? あ、あの……当主様――」

「独断専行が断トツに多いのはあなただってこと、さすがに自覚してるわよね」

「い、いやでもほら、それは僕の職務上……ね?」

「何が、『ね?』なのかしら。説明を求めるわ」

「ぼ、僕は屋敷を空けている時も多いだろう? 連絡が散発的になるのも、し、仕方ないじゃないか」

「そうね、確かに仕方ないわね。なら、そんなにも外出が好きなあなたには良い仕事をあげる」

「……な、何かな」

「『ミシア国』、ちょっと行ってきてくれるわよね?」

「えっと、僕が直接行くのはちょっと――」

「行ってきて、くれるわよね?」

「……はい」


 こうして国務卿会議はお開きとなり、法院での説明会に始まる長い1日は終わった。

 今日は本当に疲れたわ……。しばらく何も考えずにボーッとしてたい気分なんだけど、まだまだのんびりできる暇なんてないのよね。

 本当は前話、前々話と合わせて1話のつもりだったのですが、結果として3話合計で1万2千文字というボリュームに……。

 1から書き直したりもしたのですが、これ以上に削るのは諦めました。

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