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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
建国王アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第62話-密談-

 激動の7日間から4ヶ月以上が経ち、もう季節はヘレボルスの蕾が顔を見せ始める晩秋。私たちは「アグル大同盟当主会議」に参加するため、幾度となく戦いが行われたレンデラムの地へと再び出向いていたわ。

 アグル大同盟に加盟する全ての国の調印は済んでいるけど、その場所やタイミングは国によってバラバラ。だから、1度は当主全員が集まって認識を擦り合わせる必要があるってわけ。


「当主様、ご報告いたします」

「何かしら」

「ミシア国当主一行がシカスターを出発したとのことです」

「分かったわ。引き続き監視を続けさせなさい」

「そのように」


 それに……私自ら聞き出したいことは山程あるしね。


「話を遮ってしまって悪いわね」

「いえ」

「構いません、アリス様」


 私が今いるのは、エス・リーア当主……いや、今はエス・リーア伯と呼んだ方がいいかしら。その屋敷の応接室よ。

 私の他にはお揃いのサークレットが可愛らしい双子の姉妹とその家令、後は私の侍従と書記で以上。全員合わせても6人だけ。つまりは「当主会議」開催を前に根回しのため設けられた密談ってわけ。


「あくまで対等な立場なんだから『様』付けはやめて。今は側近しかいないからあまり問題にならないけど、くれぐれも人前では気を付けることね、ラフィエ」

「ルフィエです」

「嘘を吐くのは止めなさい、ミノ・スヴォス(我が姉妹)。失言はラフィエで間違いありません」


 ダネア族に包囲され、ひと月近くも閉じ込められたのはそう昔のことじゃない筈なんだけど、窓から見える光景は大きく様変わりしていたわ。奪われた領地を取り返す傍ら、この国は着実に復興を続けている。

 対して、この2人は全く変わってないようね。


「これでいてしっかり国の当主やれてるってのが不思議で仕方ないわ、全く」

「「それ程でもありません」」

「褒めてないから」


 ああもう、この調子じゃ話が進まない。


「――こほんッ、本題に戻るわよ。あなたたち、『当主会議』の開催地をレンデラムとした理由は分かっているのよね」


 私の問いかけに2人は揃って頷く。


「半魚種ダネア族による差し迫った脅威を煽り、私たち妖精種が一致団結して対抗する必要性をアピールする場としてこの地は最適であると存じます」


 ルフィエはちゃんと理解しているようね。説明する手間が省けて助かるわ。


「それに、我が国とスーク伯国はあくまで強力な同盟国であり、決して隷属関係にはないと示すことも重要です。……かの拝金主義者どもとは違って」


 ラフィエ、あんたは余計なこと口走るのだけ本ッ当に何とかして!

 この子は悪感情に素直過ぎるわ。私の前だけならともかく……このままじゃいつか絶対に身を滅ぼすわよ。

 それと、視線が読みやすいのも問題。


「仰りたいことがあるのならハッキリ仰ってくれて構わないのですわ」


 ほら、すぐバレた。


「では遠慮なく。あなたの父……アゼルバートは自ら国を差し出したと噂に聞き及んでいます。初めて私の父と語らう姿を見た時には尊敬の念を抱いたものですが……いつしか当主としての誇りを失ってしまわれたのですね。残念でなりません」

「あら、ラフィエ様には確か……分不相応な誇りを継いでしまったが故に国を二分したご兄弟がいらっしゃいましたわね。そちらの方が残念であると私は考えますわ」


 アゼルバーフはアゼルバーフで売られた喧嘩は買うタイプだし、どうすんのよこれ。ああもう、連れてくるんじゃなかった。


「よくも私の兄弟を愚弄しましたね」

「先に挑発してきたのはあなたですわ」


 そう言いながらゆっくりとその場で立ち上がる2人。

 何、机を挟んで取っ組み合いでも始める気?


「あんたたち……いい加減にして」


 適当に場を収めたところで蟠りは消えないだろうし、この後も何かにつけて喧嘩しそうだし……あーもう止め止め。


「今日はもう宿に帰るわ。続きは明日にしましょ」

「ミノ・スヴォスが失礼しました。申し訳ありません」

「あなたが謝ることないじゃない。ただ……この妹を外に出すにはまだ早いわね」

「ご尤もです」「……」


 不貞腐れてるそこのあんた、そういうとこだからね。他の当主相手にもそうするつもりなのかしら。

 あと、雑な挑発に乗せられて喧嘩おっ始めたこの書記――


「アゼルバーフ」

「えっと、当主様……そのぉ」

「後でこの件はジョンに報告するから。覚悟なさい」

「じょ、ジョン閣下!? それだけはご勘弁――ヒゥッ!」


 冗談じゃないわ。貴重な1日を無駄にしたのよ。もしあんたが豪族でも何でもないただの官僚だったら即クビだから。

 そんな念を込めて私はこの子を思いっ切り睨みつけた。


「――どうか、どうかお慈悲をいただきたく存じますわー!!」


 涙目になったアゼルバーフの叫びは屋敷中どこに居ても聞こえたというわ。




――――――――――


 さて、馬鹿女2人のせいで時間を無駄にしている間にも情勢は動いている。

 侍従の子がくれた「ミシア国当主一行がシカスターを出発した」という報告。これはかの国の出方を伺う上でとても重要なものだった。


 シカスターというのはサスーク属領における最も重要な城塞都市よ。その理由は、かつてのサスーク国首都にして現在も領主一家が住まう城――シーロゥへと続く1本道がこの都市にのみ通じているから。

 ミシア国からレンデラムへと向かうのに一切関係ないシカスターを彼らがわざわざ訪れたということは、何かしら思惑があってサスーク属領の人間に接触したということ。一体どんな意図があってのものかは推測するしかないけど、少なくとも私たちにとって良いことではないでしょうね。


 もちろん、私に伝わっているミシア国の不穏な動きはそれだけじゃないわ。


「アリスよ、そなたはかの蛮行をみすみす見逃すつもりでおるのか」

「ええ。向こうにも理屈くらいはあるでしょうし、私は糾弾しないつもりよ。今のところは、ね」

「ふむ……」


 私はそんな動きの一部をアゼルバートに共有した。

 今回の「当主会議」では、まだミシア国との表立った対立は避けたいの。事前にその旨を伝えに来たってわけ。


「うえぇ……このワインってのにはいつまで経っても慣れないわ」

「ほっほっほ、まだそなたにはこれの魅力が理解できんか」


 彼はこの日、レンデラムに到着したばかり。そんな彼の元へと私の方から出向いたのは、現状、私が下手に出る必要があったから。

 軍事的な優位は比べるまでもないけど、こちらが持っているカードは逆に言えばそれだけ。必需品の多くを彼ら商人に依存している上、先の戦争のせいで債務まであるからして、あれこれとお願いするには下手に出るしかないわ。


「そうだ。あなたの娘だけど、ついさっき盛大にやらかしてくれたわ。一体どんな教育をしてきたのよ全く」

「あやつのじゃじゃ馬は治っとらんか。そなたなら何とかしてくれるのでは――そう思って儂は送り出したのだが」

「私にあの子の矯正は無理よ」


 私の用件が済んだ後は、お酒を飲みつつこうして他愛のない雑談が続いた。その間、内心では緊張しっぱなしだったわ。

 この爺のことだもの、どんな突拍子もない無茶振りが飛んでくるか分かったもんじゃない。


「アリスよ」

「改まって何。変なこと言わないでよ」

「娘を、これからもよろしく頼むぞ」


――そう構えていたんだけれど、この日、彼が最後に言ったのはそんなことだった。


「約束は必ず守るわ。任せなさい」


 その後、彼と言葉を交わすことは2度と無かった。「当主会議」が開かれる3日前に彼は亡くなったの。不審な点は何もなく、死因は突然の病によるものと判断されたわ。

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