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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第59話-敵視-

「ねぇジョン」

「なんだ」

「私の――この国の当主としての目標、覚えてるわよね」


 国務卿会議が始まると同時、私はジョンにこう問いただした。


「『この国を、誰にも脅かされない強い国にする』――だろ」

「よく分かってるじゃない」

「当たり前だ。俺たちはそのために全力を尽くしている」


 最近、ジョンとジェファーは独断で動くことがよくあった。ある程度なら仕方のないことだと思うし、許容してきた。でも、昼間のアレは流石に説明が無さすぎると思わない?


「ドレイツとの対立は、その理想のために本当に必要なことなのかしら」

「必要なことだ」

「国民の心が離れかねないわよ」


 ウェスーク国を支配しているのは当主であるこの私。そして、実際に国を動かしているのは私に忠誠を誓う原種の魔法使いたち。最後に、この国を信頼し、税を納めてくれているのは国民――そのほとんどが妖精種。

 妖精種は物心ついた時から皆ドレイツ教徒よ。幼い頃から沢山の寓話や説話を聞かされ、その中にある精霊様の教えを規範として日々生活を送っているわ。アトゥス教に改宗したゲント豪族やキャンタブリーの市民なんかは例外も例外ね。

 そんなドレイツ教の祭司――ドレイツと呼ばれる者たちは、精霊様の意思を感じ取り、人々にそれをを届けるのが役目。精霊様の教えを信じる人々にとって、町や村のドレイツは困った時の拠り所になっているの。


「なぁ、アリス」

「何よ」


 私は「魔竜様に仕えるドレイツ長老会議」から妖精種部族「当主」の地位を認められていない。その上、アトゥス教会の運営する学院を卒業し、アトゥス教徒の夫を持ち、アトゥス教の聖職者と親交があるのも事実。それでも、私は自分のことをドレイツ教徒だと思っている。

 敬虔ではないけど、罪を犯したわけでもない。異教を学んだけど、入信したわけじゃない。精霊様の存在を信じていない時期はあったけど、だからといって教えを無下にしたことはない。


……正直、今の私はドレイツと敵対するのが怖い。精霊様に背を向ける行為なんじゃないかって。

 精霊様は実在していた。断言できるわ。なぜなら、私はあの日、「魔槍ゲボルガ」をこの目で見てしまったのだから。


「まずは話を聞いてくれないか」

「……」


 なんだか今の私の心情はあの時に似てる。ワルハムに上陸したばかりの頃、私のために作戦変更を提案してくれたジョン。その内容にショックを受けて反発してしまった私。

 状況は違えど、私が冷静さを欠いているのは今もあの時も同じ。


「――ッたぁ!!」


 だから私は、自らの頬を両手で思いっきり叩いた。


「アリス!?」

「「「当主様!?」」」

「何を驚いてんのよ! ジョン、早くその話とやらを聞かせなさい!」


 驚く国務卿の皆を前に、私は全力で虚勢を張った。まずはジョンの話を聞いてあげようじゃない。爆発するのはその後でも遅くないわ。




――――――――――


「ドレイツどもは既にこの国の敵だ――と、俺がそう判断したのは、『奴らが俺たちを敵視するに至った背景』、『奴らの関与が疑われる事件』、そして、『奴らの今現在の動向』、この3要素から成る。今からそれぞれ説明していくぞ。まずは『背景』からだ」


・ウェスーク国が復国する以前、緑髪系という例外こそあれど妖精種のほとんどは魔法使いに対して畏怖、怨恨といった負の感情を持っていた。

・ドレイツ教勢力は当然、魔法使いからなる「アリスのバルバリア魔法戦線」を警戒していた。

・アリスらの軍勢は瞬く間に支配領域を広げていくが、そこで妖精種=ドレイツ教徒を迫害することは決してなく、ドレイツの立場も維持された。


「『ウェスーク復国戦争』中、俺たちと奴らは接近も対立もせず、関係は希薄だった」

「サスーク国の圧政、悪政から解放された人々が私たちに好意的だったから、ドレイツたちも渋々、私たちが支配する状況を受け入れてたのよね」

「だが、当時から君のことは良く思っていなかっただろう」


・「魔竜様に仕えるドレイツ長老会議」はアリスがウェスーク国当主の座に即位することを認めなかった。

・ドレイツ教勢力の中途半端な妨害は、むしろアリスが彼らに配慮する必要性を失わせた。

・復国と同時に公布されたウェスーク国法は、内容の一部がドレイツ教の教理に抵触するものであった。

・ウェスーク国法によって聖職者による徴税や寄付の強制は禁じられた。

・アリスは妖精種でありながらドレイツ教勢力ではなくアトゥス教会に権威を求め、その結果として「スーク伯」の爵位が認められた。


「復国を果たした辺りからドレイツどもとの対立は鮮明になった」

「だってあいつら、アトゥス教会の学院や孤児院、修道院みたいに社会活動や慈善活動をするわけでもなくて、ただただ偉そうに上から目線でモノ言うだけじゃない。そんなのが好き勝手に徴税するのは許せなかったのよ。当時の私は……」

「それに、どんな事例が違法な『寄付の強制』に当たるかを判断するのは法院――言ってしまえばジョンの匙加減だからねぇ。ドレイツたちに反発されるのも当たり前だよ」

「な、何よジェファー。あの時は国務卿の誰も私の法案に反対しなかったじゃない」

「そんなこと言われても」

「俺たちはアトゥス教徒だからな」

「……そう」


・宗教の違いから発生していた海峡交易での不利益を無くすため、ゲント国当主――アゼルバートをはじめとしたゲント人商人が集団で一斉にアトゥス教へと改宗した。

・集団改宗の後、キャンタブリー市民の間ではドレイツ排斥運動やキャンタブリー大司教座の復興運動などが同時に始まった。

・ドレイツ教勢力はゲント人商人という大口のパトロンを失い、以降は影響力が低下していった。

・ゲント国はアトゥス教を国教に定める初の妖精種国家となった。


「これって私たちには関係なくない?」

「重要なのは事実ではない。奴らが何を真実としているかだ」

「真っ先にドレイツ教の権威に逆らった僕たちの国が、その軍事力を背景にゲント国の改宗運動を支援した――彼らはこの件の筋書きをそう解釈しているんだよ」

「とばっちりじゃない」

「まあでも、僕たちが存在しているだけでアゼルバートの決定に何かしらの影響を与えた可能性は否定できない……というか、大いにあると思うんだ。そう考えれば、ドレイツたちの解釈はあながち間違ってもないね!」

「つまり、あの爺のせいで私の国はドレイツたちから敵認定された――ってこと?」

「それは言い過ぎだな」「そう思ってくれていいよ」

「はぁ……そこは合わせなさいよ」


 肝心なところで息の合わないジョンとジェファーに、私はついため息を吐いてしまった。


「奴らの『背景』は一旦こんなところだ。ウェスーク国、ゲント国を失った奴らは、それからずっと巻き返しの一手を模索していた」

「でも、彼らにできることなんて限られてるわよね」

「ああ。実際に4年もの間、奴らは何もできなかった。情勢が変わっていなければ今も燻ったままだっただろう」

「……やっぱりダネア族と関係してるのね」

「そうだ。奴らはダネア族を利用して幾つもの『事件』を起こした」


・ノーズィリア国へと上陸を果たしたダネア族に、妖精種ドレイツ教勢力がそこで初めて接触。

・エス・リーア国内では当時、当主を支持する「ノルウィック派」と、その弟を担ぎ上げ対抗する「カーコルカスター派」による派閥闘争の真っ最中であり、ドレイツ教勢力は当主の方へと取り入り情報収集をしていた。

・ドレイツ教勢力に手引きされたダネア族はエス・リーア国の首都――レンデラムを易々と占領し、その当主を殺害、更に豪族2名を軟禁状態に置いた。

・当主を失ったことでノルウィック派はダネア族に降伏し、エス・リーア国の大半がダネオラウ(ダネア族の支配地域)となった。


「嘘……でしょ……」

「あくまでもこれはレンデラムで知り得た情報を分析し、俺が導き出した推測だ。とはいえ、大筋が外れていることはないだろう」

「どうしてドレイツたちにダネア族を嗾けてまでエス・リーア国を滅ぼす必要があるのよ」

「第1に、ダネア族の信頼を得るための供物が必要だった。第2に、奴らに反抗的だったカーコルカスター派が実権を握るより前に国を取り潰したかった。第3に、最後に残った妖精種のドレイツ教大国であるミシア国からダネア族の目を逸らす必要があった。第4に、ダネア族に俺たちの国やゲント国を狙わせるための拠点が必要だった」

「もういいわ。理由は充分にあったってことね」


・バルバリア島東海岸のほとんどを制圧したダネア族はその末端までもが自信に満ちており、ノーズィリア国やエス・リーア国の残党に対して現地部隊による勝手な攻撃が繰り返されていた。

・ゲント国に突如侵攻して手痛い敗北を喫したのも、エス・リーア国に駐留していたダネア族部隊の独断であった。

・エス・リーア国残党はウェスーク国の軍勢を上手くカーコルカスターへと引き込み、見事にダネア族を撃退した。


「引き込まれた君はこのことに詳しいはずだ」

「嫌味な言い方やめなさいよ」

「まあまあ落ち着いて。遅かれ早かれ僕たちはいつか確実に巻き込まれていたさ。それよりも重要なのは、これらの敗北がドレイツ教勢力にとって想定外だったってところ」

「どういうこと?」

「今思えば、当時の僕たちは不自然に知らな過ぎたんだ。ね、ジョン」

「ああ。何かしら情報工作を仕掛けられていたのは間違いないだろう。もし俺が奴ら――『ウェスーク国を攻める側の立場』であれば、圧倒的多数派のドレイツ教徒を扇動して国内を混乱させつつ、そのタイミングで一気呵成に首都を攻める。それが上手く行ってしまえば、君は局所的な戦闘に勝つことはできても、『国』を維持することは難しいだろう」

「何も知らないまま国内の反乱と同時にあの大軍勢が襲ってきたら……悪夢ね」

「だが、逆を言えば、こうした盤外戦術を最大限活用しない限り、奴らに俺たち魔法使いを下すことはできない」

「そう、彼らの目論見は失敗したんだ。ダネア族末端の独断専行と……他でもないエゼルドの行動によって、ね!」


・ウェスーク国軍はほぼ全軍でもってレンデラム攻略戦を開始。

・レンデラム陥落直後、小規模なダネア族部隊によるゲント国への上陸が試みられる。

・ウェスーク国軍が空けている隙にダネア族主力が本国へと襲来し、「ウィンタカスターの戦い」他、各地で戦闘が行われる。

・多くのウェスーク国軍が迎撃のため本国に撤退すると、レンデラムは逆にダネア族の軍勢に包囲されてしまう。


「直接、奴らと対峙した私が断言いたします。この動きは決して偶然のものではありません。それに、我々と違って通信魔法を使えない奴らが、受動的にここまでタイミング良く動けるはずもありません」

「ゾーイの言う通り、ダネア族は俺たちの行動を事前に予測し、それを元に動いていたと見るべきだ。では、そのような分析が可能だったのは果たして誰なのか。ジェファーが裏切ったか?」

「冗談はよしてくれよ!」

「私たち会計院と取引していたゲント人商人なら可能かもしれません。でも、彼らにとってもダネア族は敵で、手を貸す理由はないんじゃないかな……と、思います」

「であれば、もはや彼ら以外には考えられないかと。信者のネットワークを利用して情報収集を行い、人や物の流れを分析することは容易だったでしょう。お恥ずかしい話ですが、当時の州機関は情報統制を敷いておりませんでした」

「わ、私たちも」

「いや、当時であればそれは仕方のないことだ。だが、今後は法院同様に情報の取り扱いは厳としてくれ」

「はい!」「承知しました」


 ちょっとそこの大法官、勝手に他の国務卿に命令してんじゃないわよ。


「まあ、つまるところ『激動の7日間』はドレイツたちが元凶だったのさ。当主様!」

「ジェファー、それだと言い切り過ぎだ。語弊しかない」

「そうかな?」

「そうだ。『激動の7日間』――それ自体はあくまでダネア族が起こした俺たちの国に対する侵略に過ぎず、ドレイツどもの意図するものではない。だが、奴らが俺たちの情報を敵に流していた――ということに限れば、それは自明だ」

「そう、だったのね……」


 まさか、今までの事件その全てに関わっていただなんて。

 アラーナもオリヴァーもそこまでとは知らなかったみたいで、話を聞きながら驚いていたわ。


「よし、次が最後だ。俺たちが掴んでいる確かな情報から、奴らの今現在の『動向』について話すぞ」

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