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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
建国王アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第57話-幼化-

「ごきげんよう、スーク伯のアリー。あなたの名声は遠く離れたムー島にも届いているわ」

 随分と久々ね、ナリー。

「あら、私のことを覚えていてくれたのね。とっても嬉しいわ!」

 忘れろっていう方が難しいと思うわよ……。でも、数年も夢に出てこなかったもんだから、もうこの術は使わないのかと思ってた。

「だって『あの子』の一大事だもの。アリーには教えておいた方がいいと思って」

 あの子ってことは、やっぱりルーナに関することなのね。……って、なんで彼女の異変を知ってるのよ!?

「ふふ、それは秘密」

……そう。まあいいわ、続けて。

「アリーはあの子――というか、幼魔種が大体20年おきに『幼化』を起こすのを知っているかしら」

 何その幼化って。

「やっぱり教えてもらっていないのね……1から説明してあげるわ」

 お願い。

「まず前提として、幼魔種という種の寿命は長くても精々20ちょっとくらいみたいなの」

 え、じゃあ。

「ええ、察しの通り。彼女は死んだわ」

 そんな……。

「けれど、幼魔種は死した後に身体の時間が巻き戻るの。その際、これまでの知識や記憶はある程度継承できるみたい。そんな独特な現象を私は幼化と呼んでいるわ」

 身体の時間は巻き戻るけど、知識や記憶は継承……そんなことが本当に?

「ええ。だから、幼化後の彼女もあなたたちを覚えている可能性は高い」

 それって人格はどうなるの。

「精神が巻き戻るわ。大きく変わることはないでしょうけど、これからどう育つかは環境次第ね」

 なるほど、なんとなく分かったような。

「まあ、1度会ってみれば理解できるわ。きっと」

 そう、ね……。ありがとナリー。もうすぐ彼女のいるキャンタブリーにつく頃だったのよ。

「あら、それはナイスタイミング。さすが私!」

 はいはい、さすがさすが。

「もうッ、つれないわね。……そろそろ時間みたい。それじゃあ、またいつか会いましょうアリー」

 また会えるのはいつになるのやら。でも、まあ……またね、ナリー。




――――――――――


「アリス様、遥々お越しいただきありがとうございますわ」

「クラリス、ルーナの様子は」

「病の類では特になさそうです。ただ、少々……いや、かなり幼くなってしまったというか」


 キャンタブリーに到着して早々、ゲント国当主夫人であるクラリスに迎えられた私たちは、すぐにルーナがいるという兵舎へ案内してもらった。

 兵舎に到着した私たちは無事ルーナと再会するのだけれど。


「アリスおばさん! ルーナずっと会いたかった!」

「お、おば……ッ!?」


 まさか、ルーナから「おばさん」と呼ばれるようになるなんて……。


「うん。おかーさんのねぇねだから、おばさん」


 彼女が私に向けてくるのは、容赦ない言葉とは裏腹にキラキラした視線と嬉しそうな表情。

……そんな可愛い顔されたら怒るに怒れないじゃない。


「『おばさん』じゃなくて、あなたも『姉さん』って呼んでくれていいのよ」

「……おばさん、嫌だった?」

「うッ、い、嫌じゃ、ないわよ? 別に平気なんだから」


 私はそれを受け入れることにした。目を潤ませた彼女に勝てるはずないわ。


「報告を受けた時はまさかと思ったが……本当に小さくなっているとは。4歳くらいか」

「ジョンおじさん、おでこしわしわ」

「おじッ!?」


 あ、ショック受けてる。ジョンが動じるなんて珍しいわね。ちょっと面白い。


「おじさんはやめてくれ」


 あ、はっきり拒否しちゃった。これは不味いわよ。


「ご、ごめ……なさい……」

「あーあ。ジョン、ルーナを泣かせちゃ駄目じゃない」

「ジョン閣下、あまり幼い子を泣かせるのはよろしくないかと……」

「アリス、お前だってさっき泣かせそうになってたじゃないか!? あとイヴリンは便乗するのをやめろ」


 その後はルーナの機嫌を上手く取りつつ、ジョンのことを「ジョン閣下」と呼ぶよう誘導するなどしていると、背後から「ほっほっほ」と聞き覚えのある笑い声が。


「アリス、よく来たな。数々の武勲は儂の耳にも入っておるぞ」

「アゼルバート、久しぶりね」


 兵舎で当主会談というのもおかしなことだけれど、まあこうなってしまったからには仕方ないわ。私とジョンとアゼルバートの3人は軽く挨拶がてら談笑することになった。


「そなたレンデラムでひと月近く包囲されていたというではないか」

「全く大変だったわ」

「普段の様子とあまり変わらなかったですけどね」

「何よ。ジョンあんた、私が図太い女だって言いたいわけ?」

「ほっほっほ」


 こんな感じで本当に軽い感じで談笑が行われた。横で聞いてたルーナはずっと興味津々といった様子だったわ。


「して、ルーナについてだが……何か分かることはあるか」


 来たわね、本題が。

 ナリーから教えてもらった幼化の情報を、「幼魔種」を知らない彼らにそのまま伝えるわけにはいかない。だからこそ、私は朝からこれをどう説明するか考えていたの。

 試しに、ジョンとイーヴには私が考えたそれで事前に説明してみたのだけど、2人とも納得してくれたから問題ないと思うわ。


「ルーナは通常の12星座魔法とは異なる本当に特殊な『幼化』という術が使えるの。それを使ったのだと思うわ」

「なぜそうする必要が」

「そうしなければ、彼女は早くに死んでしまう体質だから」

「どうして突然、『幼化』の術を使った。ひと言もないというのは少々不実ではないかね」

「彼女にとってこれは知られたくない秘密だったからよ。ウェスーク国でもこれを知っていたのは私ただ1人……こんなに早く来るとは思っていなかったけど」


 嘘はついてないわ。ただ、幼魔種のことは敢えて言わなかった。


「ふむ……分かった、ということにしておこう」

「ありがと。助かるわ」


 理解はできるけど納得はしてない、ってとこかしら。


「だが、これからどうするのだ」

「これから、というと?」

「『遣ゲント傭兵団』の団長職は誰が継ぐのだ」

「誰にも継がせる気はないわ」

「まさか、こやつを続投させるとは言うまいな」


 アゼルバートの目線が途端に険しくなるけど、私はそんなの気にしない。


「そのまさかよ」

「……どういうつもりだ」

「私はルーナ本人だけを信頼してたわけじゃないわ。以前の彼女が築き上げた『組織』――それ自体をひっくるめて信頼してたの」

「だが、今のこやつはただの幼子だ。それでも続投させると、それが可能だと、本気で言っているのか」

「ええ、間違いなく」


 そう言って私がルーナに視線を送ると、理解しているか怪しいけれどとりあえず彼女は頷いてくれた。続いて周りにいる団員たちを見回すと、皆がブンブンと大きく頭を振った。

 それを見たアゼルバートは俯き、1つため息を吐く。その後に顔を上げた爺の表情は間違いなく緩んでいた。


「……分かった。儂もそなたの采配を信じよう」


 損得勘定で動く根っからの商人であるはずのアゼルバートがこんな顔を見せるだなんて。いつの間にか随分とルーナに絆されたみたいね。


「よかったわねぇルーナちゃん!」


 なぜか1番に喜んだのはクラリスだったわ。彼女はすぐにルーナを捕まえると膝の上に乗せてしまった。

 彼女にされるがままのルーナだけど……まあ嬉しそうだからいっか。




――――――――――


「ルーナをここに置いていっても問題なさそうね」

「ああ」

「そうですね」


 私たちはあの後、兵舎を隅々まで見て回り、補佐役をはじめとする多くの団員たちと言葉を交わし、これからもルーナが職責を果たしていけるよう権限の委譲や様々な助言などを行った。

 1週間かけた調整の末、私とジョンとイーヴはそう結論付けたわ。


「それじゃあ、少し遅れちゃったけど……帰るわよ、ウィンタカスターに!」

「アリスおばさん、またルーナに会いに来てねー!」


 こうして、私たちはキャンタブリーを後にしたの。

 都市の外まで出て見送ってくれたルーナは、私たちから見えなくなるまでずっと手を振ってくれていたわ。

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