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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第51話-激動・4日目-

「ルフィエです」

「ラフィエです」


 んん?


「あなたがルフィエで、あなたがラフィエ?」

「「違います」」

「私がラフィエです」

「私がルフィエです」

「馬鹿にしないで。今、絶対に逆だったでしょ」

「「冗談です」」


……頭が痛い。


「ねえジョン」

「俺に振るな」


 4日目の午前、私は無事にレンデラムへと到着することができたわ。

 私が滞在することになる当主の屋敷にはウェスーク国の旗が堂々と掲げられていて、それはつまりこの都市の支配者が変わったことを意味していた。


 エス・リーア国当主だった長子のイーデルはダネア族との戦いで戦死し、その妻はダネア族兵士から暴行を受けた末に衰弱死したらしい。末っ子のエゼルドは私が命令して殺した。今やエス・リーア国の豪族で無事なのはこの2人の女だけ。双子というのはエゼルドから聞いたことがあったけど……。


「まるで見分けが付かないわね」

「「ありがとうございます」」

「褒めてないわよ」


 髪型、服装、振舞い、その全てが同一人物のように映る。


「それで、あなたたちはどっちが当主になるのかしら」

「「ミノ・スヴォス(我が姉妹)がなります。私はなりません」」

「……そう」


 なんか、既に面倒臭くなってきたわ。


「もうどっちでもいいから、とりあえずこれ読んで」

「「拝見いたします」」


 私はアグル語で記した提案書を2人に渡した。これに書かれた内容は大きく4つよ。

 1、ウェスーク国はエス・リーア国の独立と領土奪還を支援する。2、ウェスーク国はエス・リーア国豪族を無条件に保護する。3、ウェスーク国はエスーク占領域を取得する。4、有事の際にウェスーク国はエス・リーア国軍に監督権を行使できる。


 2人は同時に読み終わったのでしょうね。同時に顔を上げ、そして同時に口を開いたわ。


「良い提案です」「認められません」

「「あなたは何を言っているの? ミノ・スヴォス」」


 あんたたちって意見が割れることあるのね。全く同じこと言うのかと思ったわよ。


「どうして認められないのかしら。えーっと、ルフィエ」

「ラフィエです」


 そっちか。


「――アリス様、この内容では属国になれと言われているようなものでございます」

「そう言ってるのよ。むしろ、併合されないだけ感謝して欲しいくらいね」

「そうよ、ミノ・スヴォス。この国を今はなきサスーク国のようにしたいっていうの」

「あら、あなたの方は状況をよく分かってるじゃない。……ルフィエ」

「ラフィエです」


 ????


「――冗談です」

「いい加減にしなさいよ」


 せめて互いを名前で呼び合ってくれないかしら。両方が「ミノ・スヴォス」呼びしてたら本当に見分けが付かないじゃないの。


「アリス様、数日待っていただけないでしょうか」

「ミノ・スヴォスや家令たちとも相談したいのです」

「いいわよ、時間をあげる。でも、これだけはしっかりと覚えておきなさい」


――あなたたちに、選択権なんてものがあるとは思わないことね。




――――――――――


「言い切ったな、アリス」


 ルフィエとラフィエが部屋を出て行った後、ジョンがそう声をかけてくれた。


「ええ。ちょっとでも変な希望を抱いて何か悪巧みをされたら困るわ」


 私はもうエゼルドの時と同じ轍を踏むつもりはない。


「それに、あの提案書……交渉の方針だって、考えたのはあなたじゃない」

「俺だけじゃない。ジェファーもだ」


 先のレンデラム解放戦では、多数のダネア族兵士たちを捕虜として捕らえることができたわ。彼らから得た情報はどれも私の国にとって有益で、とても驚くべきものだった。

 ジョンを始めとした一部の官僚たちは、その情報を利用し大きな波を作ろうと画策している。


 「アグロンド王権」。これは2年ほど前からジョンが秘密裏に提唱していた概念よ。意味としては、これまでのスーク伯を拡大させた「全妖精種の土地を統べる権利」というもの。

 私が魔法使い戦力を動員してバルバリア島南部の妖精種国家群――つまり7大国を全て統合し、大陸に対抗できる新たな統一王国を作ろう! という、元はそれくらいの大雑把な構想だったのだけど……。


「想定以上にバルバリア島のダネオラウ(ダネア族支配領域)は拡大していたらしい。奴らの排除は、俺たちにとって勢力を拡大する大義名分になり得る」


 その構想は、これから実行されるべき計画として急速に形をなしていったの。たった、ここ数日の内に、よ。


「あなたを疑っているわけじゃないけど……ここまで性急にことを進める必要ってあるのかしら」

「少なくとも、俺たちの長期的な安全のためには、本国領内に踏み入った敵軍の殲滅が絶対なんだ」


 私たちが呑気にレンデラムでお話をしている中、ウェスーク国本国では斥候を失った敵が強行軍を敢行している。


「それを成功させれば……一転、絶好の機会が訪れるってわけね」

「そうだ。間違いなくウィンタカスターでの趨勢がこの国の将来を決める」


 私たちはここ数日の間ずっと分水嶺の上を歩かされている。今この瞬間において、どちらに転ぶかを握っているのは将軍カルロその男よ。




――――――――――


「隊長、夕方にはカルロ将軍が到着されるとのことです」

「それまでは絶対に持たせるぞ」


 ウェスーク国の首都――ウィンタカスターは今、ダネア族の大軍に完全包囲されていたわ。

 最初に占領した3つの港町を出て内陸へと侵攻を始めた奴らは、現在、西部に位置するトントーとシアボーンという2つの城にも同時に攻撃を仕掛けてきている。

 私たちの戦略目標はそれら全ての殲滅。その達成には、どの都市(城)も落ちないことが絶対条件よ。


「敵はすぐそこまで来ているぞ、剣を構えろ!」

「矢を放て!」

「絶対にここは通さない!」


 城壁の外にある市街では、住民たちが総出で主要な道路や路地にバリケードを張り巡らせていたわ。侵入を試みるダネア兵に対して、こちらの民兵は空中や建物の影から攻撃を加え続けている。

 けれど、それでも投入されている敵兵士の数は膨大で、奴らの占領区域はじわじわと広がりつつあった。


「押さないでください!」

「焦らないで!」


 戦う術を持たない住民たちは、新市街へと通じる門に殺到していた。彼らはかつての「赤髪の春戦争」時に都市が他国軍によって占領されたトラウマを抱えていて、己の生存のために無我夢中だったの。

 責任者であるオリヴァーは門の通行を認めたけど、新市街の秩序を崩壊させるわけにはいかないため、彼らの誘導はどうしても慎重にならざるをえなかったわ。


「見える敵は全て殺しなさい! 躊躇はいらない。殺せ!」


 城壁の上に配置されている国境警備隊の隊員たちは、壁の周囲を取り囲むように居座っているダネア兵の陣地に容赦ない攻撃を加えている。けれど、戦果は今のところ芳しくない。なぜなら、敵は羽を切り落として攫ってきた人や、周囲に転がる死体を「魔力盾」として利用していたから。

 異なる質の魔力同士は反発する性質を持っている。魔力そのものをぶつける貫通魔法というのは、空気中とは比べ物にならないくらい高い魔力濃度を持つ人体内では、急速にその貫通力が減衰してしまうの。

 惨たらしいことだけれど、敵は人体や魔力が空中に霧散する前の死体に「盾」としての活用法を見出していたのよ。


「僕は大丈夫だ。顔を上げてくれ」

「で、でもおぉおお」

「泣かないでくれよ、アラーナ。君の美しい顔が台無しだ」


 当主の屋敷では、侍従たちが剣やナイフといった武器を持ち出して着々と戦闘準備を整えている。カルロ部隊の到着後は城内からも攻撃して敵を挟み撃ちにする算段であり、先陣を切って飛び出すのが彼女たちに与えられた役割だった。

 もちろん、それを上手く成功させるには指揮を執る人間が必要になるわ。ゾーイは国中に散らばる国境警備隊の全隊を緻密に動かしていて、隊長室からは離れられない。オリヴァーは新市街の管理者として忙殺されている。アラーナには無理。必然的にジェファーがその役を担うことになったの。


「第17分隊は引き続きポイントC-21でシアボーンの監視。第4小隊はサザントム街道で敵の補給線に破壊工作を継続。第9分隊の状況が分からない……速やかに報告させなさい」

「何ィ!? 避難民を受け入れるのに訓練場では足りないだと!? ああもう、どうしろって言うんだ。……次は君か、商業組合が今度は何を言ってきたって?」

「君たちはこれから僕の指示に従ってもらう。もちろん、誰1人として犠牲を出すつもりはないよ。元4将に名を連ねたこの僕が、君たちに完璧な勝利を約束しよう!」

「ひっく。この書類は州に回して。スンッ。それは私がやるからそこに……。え? な、泣いてなんかないもん。グスン。私も頑張らなきゃいけないの」


 ゾーイ、オリヴァー、ジェファー、アラーナ――この都市に残る国務卿全員がそれぞれの戦いに身を投じていたわ。

 もちろん、彼らだけじゃない。官僚、隊員、民兵、それから一般の人々に至るまで、全ての人間が国のため、都市のため、自らのために必死だった。




――――――――――


「準備は良いか、野郎ども!」

「「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」」


 夏らしく、日が傾き始めても暑さは和らぐことを知らない――そんな夕方、遂に彼らがウィンタカスターへと帰ってきたわ!


「水辺で跳ねることしかできねェ鱒どもに、俺たちの強さを思い知らせてやれ!」

「「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」」


 彼らの陣容はサスーク属領軍の妖精兵が千、ウェスーク国軍の白刃兵が40ほど。敵に数では遠く及ばないけど、士気と戦闘力なら負けてない。


「いざ、突撃ィィィィィィィィ!!」

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


 敵目掛けて一目散に突き進む彼らの姿はまさに圧巻。その先頭を走るのはもちろん、総大将のカルロよ!


 彼らの動きに呼応して、周囲に潜んでいた国境警備隊その隊員たちの射撃も始まったわ。城壁からの射撃も勢いを増し、雨のような弾幕が全方位から敵に降り注ぐ。

 囲んでいたはずが、いつの間にか囲まれていた状況――これに敵は混乱し、陣地から逃走を試みる者も現れるけど、それを許すほどゾーイの部下は甘くないの。彼女の部下たちは既に、周囲の街道を全て抑えているのだから。少しでも陣地を離れたものは、容赦ない狙撃で胸を貫かれていく。


「全員ブチ殺せ!」


 カルロたちが狙うは都市の南に陣取る敵の集団。彼の号令を合図に、軍勢は敵陣地へと真正面から突っ込んでいく。

 地上では精鋭の白刃兵が剣のひと振りで5人は薙ぎ倒し、空中からは妖精兵がおちょくるような動きで敵を翻弄する。相手は両翼を広げてこちらを包囲しようと試みるけど、ただの歩兵である奴らの動きは遅い。それに、雑な突撃に見えて、妖精兵たちは上手く敵両翼の動きを妨害していたわ。


 カルロとその軍勢がいよいよ敵中央を食い破らんとしていたまさにその時、奴らの背後では気づかれないよう慎重に城壁の門が開かれていたの。


「しっかりと敵を引き付けておいてくれよ」


 城門の向こうから顔を覗かせたのはジェファーが率いる侍従部隊。彼らは指揮官のジェファー含め、その全員が騎乗していたわ。

 敵の大部分がカルロたちに気を取られていたその隙をついて、炎を纏いし集団は奴らの死角から素早く襲い掛かったの。その機動力でもって、彼らはあっさりと敵を分断することに成功したわ。


「やあカルロ、戦場で会うのは久々だね!」

「やるじゃねぇかジェファー! まさかお前が前線に立つだなんて思ってもみなかったぜ!」


 ジェファーって、騎兵指揮官の才能もあったのね。

 少数の牧羊犬が多くの家畜を囲い込むように、彼らは大胆かつ丁寧に敵を圧縮していったわ。


 火、水、風、それと少しの地。全ての魔法が入り乱れ、その力で敵を捻じ伏せていく。


「と、投降する。命だけは許してくれ!」

「お前ェがこの陣地の最高指揮官か?」

「そ、そうだ」

「なら、僕たちと一緒に来てもらうよ……って、あらら、死んじゃった。まったく、狙撃兵は容赦がなさすぎるね」


 敵は最高指揮官を失ったことで、辛うじて保っていた統率が完全に崩壊。そこから先の戦闘はもはや戦闘とは呼べないような、クルノール半島征伐以来のウェスーク国本軍による圧倒的な蹂躙だったわ。……いや、この惨状はもう虐殺と言っていいくらいね。


 南の平原が落ち着きを取り戻した頃には、もうすっかり日は沈んでいて。カルロ、ジェファー、そして彼らの率いた軍勢は、大勝利を手に新市街へと凱帰したの。




――――――――――


 「ウィンタカスターの戦い」はまだ終わっちゃいないわ。

 敵は都市から伸びる街道を封鎖するように北と南に陣を張り、東に広がる市街地を全力で制圧しにかかっている。カルロたちはその内、南の陣地を粉砕したに過ぎないの。

 何度か話に出たように、私たちは内陸に入り込んだ敵を限りなく「早急に」殲滅する必要がある。そのためには夜間の作戦行動だって惜しまない。


 夜っていうのは、視界が思うように利かなくなる普通の人間に対して、魔力探知が大きな優位を取れる環境よ。魔法使いを運用する私たちがそれを生かさない手はないってこと。


「おそらく、ここが奴らの指揮所だ。行くぞ」


 日付が変わった深夜。ゾーイの命令によって少数の隊員が北の敵陣地に侵入。奴らを行動不能に陥れる一手――「暗殺工作」が実行に移されたわ。

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