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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第49話-激動・2日目-

「『ノーズィリア国』っていうのはね、1国じゃないのよ」

「「「「「?」」」」」


 これは、かつての「私のバルバリア魔法戦線」6人会議で、私が皆に7大国について詳細な説明をしていた時のひと幕。この時の皆がポカンとした表情を浮かべていたのは、今でもよく覚えているわ。


 「ノーズィリア国は1国じゃない」――これは、言葉通り本当にそのままの意味よ。かの国は2つの準国家からなる連合体なの。

 北の「バルニス」と南の「デルニス」。両者の豪族は統合されていないにも関わらず、特別な理由から「ノーズィリア国」としては共通の当主を戴いていて、かの国は7大国の「1国」として数えられているわ。


 成立経緯もまあ特殊よ。

 混沌の時代、内乱の絶えなかった赤髪系妖精種その諸部族の内、最初に大勢力を打ち立てたのは東部の統一を成し遂げたエス・リーア部族連合だったわ。エス・リーアの北で勢力を広げつつあったデルニス部族連合は、その存在に強い危機感を抱いていたの。

 その一方で、デルニスの更に北に陣取っていたバルニス部族連合は、赤髪系の内乱にはさらさら興味がなく、ひたすら長耳種の土地を略奪することに重きを置いていた。

 北に注力したいバルニスと、南に注力したいデルニスの利害が合わさって、両者の間には同盟が結ばれるのだけど……その内容には、「より武勲を挙げた部族連合の方が偉い」というなんとも過激な競争制度が存在していたわ。

 それは1つの国として見做されるようになった今でも続いていて、より領土を広げた方の豪族当主がノーズィリア国としての当主となり、もう一方は副当主としてそれを支える決まりになっているの。


 南に隣接するミシア国、エス・リーア国の体制が盤石になるにつれてデルニスの拡張が難しくなっていった一方、バルニスは今でも「長城」を超えてじわじわと北に拡張し続けることができていた。

 よって、現在に至るまで10年以上もの間、かの国の当主はバルニス豪族であり続けているとのことよ。




――――――――――


「お初にお目にかかります! ウェスーク国務卿第3位――大蔵卿のアラーナと申しまる……ッうぅ! ……えっと、本日におかれましては当主様がご不在のため、私が屋敷の責任者として心より歓迎の意を表します!」

「初めてお目にかかれましたことを光栄に存じます。同じくウェスーク国務卿第4位――外務卿のジェファーと申します。ノーズィリア国から遥々お越しくださり、誠に感謝申し上げます。今日の会談は主に僕が担当させていただきますので、是非ともよろしくお願いいたしますね」


 有事ということで官僚たちが忙しなく動き回っている私の屋敷にて。アラーナとジェファーは朝から重い礼装を身に纏い、到着した賓客を出迎えていたわ。


「あ、あの、えっと、その……」

「副当主様、ご挨拶を」

「ぼ、僕は、ノーズィリア国副当主のオズワインだ……よ、よろしく頼むよ」


 ゾーイから聞いていたノーズィリア国の使者というのは、なんと、8になったばかりの幼い少年だったわ。その位は豪族。それも、本来であれば当主の地位に並ぶはずの、ノーズィリア国「副当主」だというじゃないの。

 アラーナとジェファーはその事実に衝撃を受けていた。しかし、さすがというか何というか、歴戦のジェファーは表情を崩さなかったわ。アラーナは……想像にお任せするわね。


「こちらがウェスーク国『当主』との会談を望んだ理由が分かったかしら。当主が不在というけれど、それならあなたたちのような平民――それも原種風情ではなく、最低でも豪族の1人くらい出迎えにくるのが筋じゃなくって?」


 オズワインの横に立つ女は、一見するとその子の側仕えのよう。けれど、この高圧的な振る舞いから、ジェファーは彼女が只者ではないことをすぐに察したわ。


「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? お嬢さん」


 いくらジェファーであっても、急に罵倒を浴びせられれば頭に来るはずよ。それでも、彼は眉間に皺1つ寄せることなく彼女の素性を聞き出そうとした。


「私はノーズィリア国現当主の娘にして、副当主の婚約者――アンフレダよ。分かったのなら、副当主と私に平伏しなさい? 『平民』」

「ご無礼をお許しください、アンフレダ様。僕のことを平民とお呼びになるのは結構でございます。しかし、こちらのアラーナは元ロマーラ帝国貴族アスロリウス家のご令嬢であり、平民の生まれではございません。どうぞご容赦を――」

「黙りなさい! 滅んだ国の家なんか微塵も興味ないわ!」


 アンフレダに理不尽に詰られ続けたジェファーは、この時、サスーク国豪族との和平交渉を思い出していたというわ。

 思い上がってしまう豪族もいる。それは仕方のないことよ。


「アンフレダ、やめようよ……ジェファーとアラーナ、困ってるよ」

「副当主様、平民に立場を分からせるのは豪族として当然です」


 この何気ないアンフレダの発言に、何を思いついたのかジェファーの目がキラリと光る。


「オズワイン様、アンフレダ様。ご両名のような『高貴な立場』であるお方を、このような場所で長く立ち話させるわけにはまいりません。ささ、どうか中へとお入りください」

「あら? あなた分かってるじゃないの」

「アンフレダ……僕、ちゃんとできるかな……」

「私に任せてくだされば何も問題はありませんよ! さあ行きましょう、副当主様」


 こうして2人は招かれるがままに私の屋敷へと足を踏み入れたわ。その時、ジェファーはアラーナにこう耳打ちしたの。


「僕はちょっと離れるから、2人の機嫌を取っていてくれないか? すぐに戻るよ」

「……ひゃ、ひゃい!」


 しばらく身体を離れていたアラーナの意識は、至近距離から放たれたジェファーの囁き声ですぐさま引き戻された。


「僕はちょっとした用を思い出しましたので、少々失礼させてもらいます。応接室にはアラーナがご案内しますので、お酒でも飲まれるなどして、しばしの間お寛ぎください」


 こうして彼は案内をアラーナに丸投げすると、今通ったばかりの扉の外へと去っていったわ。


「平民の躾はちゃんとした方が良いかしら。『アスロリウス女卿』」

「そ、そう、ですね。あはは……は……」


 緊張と混乱でいつもに増して顔が白いアラーナ。そんな彼女と付き添いの侍従に案内され、2人は応接室へと通される。


「この部屋、悪くないじゃない。遠慮なく寛がせてもらうわ!」

「ここは私どもの主であるアリスが自身で内装を手掛けた部屋なんですよ。では――」

「副当主様、どうか最初にお座りになってください。そうしなければ誰も座れません」

「ええ、それは……」

「どうか平民に気を遣ってやってあげてくださいませ」


 こいつら、屋敷の主代理であるアラーナの許可無く勝手に椅子に座りやがったわ。これにはさすがの彼女も怒り心頭……いや、今の彼女には相手の所作を気にする余裕すらないみたい。後ろに居た侍従は凄い目をしているけど、2人――特にアンフレダは気にも留めない。


 この後、すぐに侍従たちによってサイダーやミードなどのお酒が運ばれてきた。中でもワインは、バルバリア島では入手困難な超高級品よ。


「まっず、何よこの赤いお酒……強すぎるしありえないくらいに渋――」


 アンフレダが悪態を吐いている中で、応接室の扉が再びガチャリと開かれる。


「お口に合わないとは残念ですわ。せっかくの高級品ですのに」


 ニッコリ笑顔で入ってきたのは高身長で緑髪系妖精種の女。


「……あんた誰よ」


 アンフレダは咄嗟に立ち上がり、その女の方を睨みつける。


「あなたから名乗りなさいですわ」


 2人の女は互いに目線を逸らさない。バチバチと見えない火花が飛び散る中、後ろからひょこッと現れたのは先ほど外へ向かったはずのジェファー。


「おっと、これはまずいなあ。アンフレダ様、うちの者がとんだ失礼を……ほら、名乗ってあげて」

「ジェファー閣下、どうして私が先に――」

「名を名乗りなさい」


 ジェファーの圧に緑髪の女は気圧され、観念したように目線を下げながらボソッと告げる。


「アゼルバーフですわ……」

「ふん、アゼルバーフね。あんたの名前、覚えたから」


 それでも減らず口を止めないアンフレダ。逆に、オズワインはその名前に聞き覚えがあったのか、顔をサッと青ざめる。


「ところでアゼルバーフ」

「何ですの?」

「君の父の名は何と言うんだい」

「アゼルバート、ですわ。それが今更どうしたって言うんですのよ」


 『アゼルバート』――その名が耳に入ったことで、ようやくアンフレダは今の状況を理解する。


「アゼルバート……アゼルバートって、もしかして……まさかッ!」

「当主の名をそのまま呼ぶなど不敬ですわ! あなたの発言、ゲント国に対する侮辱と取っても良いんですわよ!」

「ご、ごめ……ごめんなさい! アンフレダ、謝ろう? これ以上は、良くないよ」

「副当主様、ですが――」

「静かにしていただけますか? アンフレダ様。ここはキリギリスの虫かごではないのです」


 アンフレダの発狂を遮るようにジェファーが声を上げ、この場にいる全員が彼の方を向いた。


「――静かにできるではありませんか。てっきり僕はあなたのことをギーギーうるさい昆虫かと勘違いしてしまいましたよ」

「平民風情がッ」

「平民? ご冗談を。僕はウェスーク国当主にしてスーク伯でも在らせられるアリスに国務卿の位を賜った、この国に仕える『高位の』人間にございます。この国においては、ゲント伯の令嬢アゼルバーフよりも僕の位の方がよっぽど上であることをご理解いただきたい」


 今の彼は、さっきまでのヘラヘラ遜る彼とはもはや別人だった。


「あ、あの、ジェファー……聞いてほしいんだ」

「ふむ、オズワイン様は『敬称』を知らないとお見受けします。立場によって適切に『それ』を使い分ける――そのような常識くらいは教えてさしあげた方が宜しいのでは、アンフレダ様?」

「豪族当主の地位にある者が敬称など――」

「『国家の』当主でないのなら、他国の豪族貴族高官には『メイター(様、殿)』をつけるべきであると、僕は当主アリスから聞き及んでおりますが……はて、アグル語の勉強不足でしたかな」


 彼のカウンターがクリーンヒットし、アンフレダは押し黙る。


「僕は、当主アリスより『ノーズィリア国とは協調関係となれるように上手く調整してほしい』と直々に命じられております」

「なら――」

「が、この短い間でこれ程まで徹底的に愚弄されるとは、この私といえど全く予想が及びませんでしたよ。そちらの話をこれ以上聞くことは、もはやこの国の沽券に関わると判断させていただきます」

「ウェスーク国だけじゃないですわ! 父には今回の1件をしっかりと報告し、これからの取引について考え直してもらうことにいたしますわ」


 さっきまでの威勢はどこへ行ったのかしら。2人からの重すぎる通告に、アンフレダは何も言うことができなかった。それどころか。


「ひッ」

「ま、待って、お願いだよ……ジェファーさま」


――杖やナイフを持った侍従たちに取り囲まれ、涙目になる始末。


「お話はこれで終わりです。どうぞ、お引き取りください」

「一昨日来やがれですわー」


 そのまま2人は塀の外どころか新市街の外にまで摘み出されてしまった。外で待機していた彼らの護衛は、魔法使いである侍従たちに全く手出しできなかったわ。

……この通り、ノーズィリア国とのファーストコンタクトは最悪の結果に終わったの。


「あ、結局何しに来たのか聞いてないじゃないか!」

「ジェファー閣下、今更ですわ……」


 ちなみに、途中から存在感が皆無だったアラーナはというと。


「きゅうううぅぅぅぅぅ」


――ストレスに耐え切れず、ずっと気絶していたわ。




――――――――――


「カルロじゃない! なんだか随分と久々な気がするわね」

「おお、当主サマじゃねェか」


 この日の夕方、私とカルロは中間地点のダウニウムで落ち合うことができたわ。今晩は一緒に野営よ!


「なァ聞いたか。ジェファーの奴、交渉を蹴ったんだと」

「ええ、もちろん聞いてる。なかなか酷かったみたいね……」


 彼がこの日、私に寄越した連絡は、「奴らはかつてのサスーク国豪族のそれ以上だったよ」という珍しく感情的なものだったわ。


「どうして豪族って皆が皆、偉そうなのかしら……」

「当主サマがそれを言うのかァ?」

「え、嘘。私って偉そう!?」


 流石にそれはグサッと来るわよ……。


「当主サマは偉そうじゃねェ。偉ェんだよ。だから堂々とふんぞり返ってろ!」


 私には乱暴な発言に感じたけど、周りは皆カルロに賛同していた。軍人や兵士っていうのは、強い指導者を好むものなのかもしれないわね。


「しょうがないんだから。なら、これから私がもーっと偉くなれるように、カルロも皆も、精々頑張りなさい!」

「「「おおおおおおおおおお!!」」」


 今は誰も住んでいない廃都市の片隅で、兵士たちの雄叫びが力強く響き渡ったわ。




――――――――――


「明日こそは、絶対に認めさせます」


 その日の夜。ゲント国首都――キャンタブリーの一画に存在する質素な宿舎で、そう1人決意を新たにする小柄な少女。明日はその少女こそが事態の中心人物になってしまうのだけど、もちろん彼女はまだそんなこと知る由もなかった。

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