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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第48話-激動・1日目-

 私がレンデラムに向けてウィンタカスターを発った翌日から、激動の1週間が始まったわ。


「まさか、このタイミングで仕掛けて来るなんて。しかも、なんでよりにもよってワルハムなのよッ!」


 ダネア族が上陸してきたのは、南の海岸に面した3つの町。その中には、私たちがかつて最初に上陸した地――ワルハムも含まれていた。

 もうあの地の拠点に住んでいる官僚はおらず、駐留しているのは13人の国境警備隊員だけ。秋の任官・入隊式以外で使われることはなく、施設のほとんどは町民に開放していた。それでも、あの地は私たちにとっては特別な場所だった。


「当主様、どうされますか」

「私が今から戻ってもできることはないわ。そのままレンデラムを目指すわよ」


 もちろん、ワルハムを襲撃してきたダネア族を私は絶対に許さない。ウィンタカスターが心配な気持ちもある。でも、私は信頼できる部下たちにその全てを任せてきたわ。この時、私は私の仕事を優先するべきだと思ったの。


「了解しました」


 イーヴはたったひと言、そう返してくれたわ。




――――――――――


「どーするよ、参謀殿。今すぐにでも戻った方が良くねェか?」

「今考えているッ! クソッ、奴ら留守を狙うには早すぎる」


 情報を受けて、参謀のジョンと将軍のカルロは議論を始めていた。その内容は、レンデラム解放に成功したウェスーク国軍を、今すぐ首都に帰還させるか否か――というもの。


「国境警備隊は嫌がらせくれェなら出来るが、正面戦闘にゃ向いてねェ。もし万が一にもウィンタカスターを本気で狙われてみろ? 俺らの帰る場所が無くなっちまう」


 カルロの考えは至極真っ当な意見ね。いついかなる時でも最も大事なのは本拠地なのだから。けど、ジョンが即決できないのにも理由があるわ。


「まだ敵の上陸規模が正確には分かっていないんだ。もしも、上陸が俺たちの帰還を目論んだ陽動のハリボテだったら? それで軽々とレンデラムを再占領されては、俺らが被る損失は目も当てられない」


 移動6日に戦闘8日、計画立案と準備はそれの倍以上。持てる国力をフル活用して実行されたのがレンデラム解放戦だったわ。その中心人物であったジョンは、そう簡単にこの都市を放棄できなかった。

 現状、レンデラムは南西方向に伸びる街道以外の全方位をダネア族に囲まれていると言っても過言では無いわ。軍の撤退は、苦労して解放した都市をタダで敵に明け渡すようなものよ。


「俺だってそれくれェは分かってるよ……」


 カルロは単純な戦闘能力と軍を率先することにおいては秀でるけど、戦略には疎い。彼自身もそのことは自覚していたわ。だから、ジョンに対して戦略面での反論をすることは、彼には難しかった。けど、そんな彼にだって思いついたことを提案するくらいならできる。


「俺ァ軍を分けても良いと思うんだよな」

「それは俺も考えている。だが、分けるにしてもその比率が難しい」


 帰還させる軍が少な過ぎれば、増援の意味を為さない。レンデラムに残す軍が少な過ぎれば、この都市を守り切れない。どちらも最悪の場合、殲滅される危険があるわ。


「少なくとも、『帰還しない』ッつう選択肢は無ェと俺は思う。エス・リーア領域の支配を一度諦めるか、軍を分けて賭けに出るか――参謀殿、お前はどうする」


 ジョンがこんな風に重要な決断を迫られた時、念頭にあるのはいつもアリス――つまり私のことよ。それを私が言うのもなんだか恥ずかしいわね……。

 私がレンデラムに向かう決定をしたことは、既に彼にも伝わっていた。


「俺は、アリスに賭けてみようと思う」


――だからこそ、彼はギャンブルの道を選んだの。




――――――――――


「隊長、レンデラムから新たな連絡が入りました。カルロ将軍閣下がサスーク属領軍と白刃部隊の一部を率いてウィンタカスターにこれより帰還する、と」

「やはり、彼らは分かっていらっしゃいますね」


 3つの港町を敵に占領されている今、残念ながら国境警備隊に打てる手立ては何もないわ。敵部隊の監視と情報収集のみが、現状の彼女らに課された任務だった。

 なぜ動けないかと言えば、彼女らの多くは水エレメントを得意とする魔法使いで構成されていて、近接戦闘が不得手だからよ。敵の接近が致命的だからこそ、遠距離から行える任務に留まっているの。

 逆を言えば、誰かが前衛を担ってくれるのなら、彼女たちは国軍の射撃部隊にも見劣りしない優秀な後衛――火力支援部隊に早変わりすることができる。


(それまで敵がその場で留まってくれれば良いのだが……)


 敵はそんなに悠長ではなかったわ。ゾーイの願いは、その日の午後には露と消える。


「隊長。3つの町からそれぞれ数十人規模の小部隊が、街道を通って北上を始めたと」

「斥候か、舐められたものだな」


 卓上に広げられているのは巨大なウェスーク国の全体地図。そこに描かれた街道を表す線の上に、「数十」と書かれた赤い3つの木片が置かれる。その周囲には、生い茂る草や木陰に身を潜めて監視に当たる無数の駒が散らばっていた。


「3つの街道はそれぞれ丘を迂回するように通っている。占領された港町から見て丘の裏手に回ったところ――そこが、我々にとって絶好の邀撃地点だ」

「『ここ』と、『ここ』と、『ここ』になりますか」


 彼女の部下は、「×」が書かれた木片を地図上に置いていった。それを見て彼女は頷く。


「ああ、そこらで問題無いだろう」

「邀撃命令、出しますか」

「1に、敵占領下の町から視認されてはならない。2に、1人たりとも逃してはならない。これらは絶対とする。心してかかるようにと伝えてくれ」

「ハッ!」


 彼女の命令が現地に伝わると、各々が一斉に行動を開始した。


「1人たりとも逃すな、だって」

「隊長も無茶言いやがる」


 彼らが得意とする隠密狙撃は、国軍の射撃部隊とは異なり、常にツーマンセルで行われるわ。「狙撃手」は狙撃に専念し、「支援手」が周囲の警戒や通信、目標情報の伝達といった支援を行うの。


「邀撃開始地点に敵が到達した。撃つぞ」

「許可する」


 男の指先に展開された魔法陣が一瞬光ると同時、貫通魔法が1発放たれる。


「当たった」

「了解。移動するわ、着いてきて」


 魔法による射撃は必ず光が漏れる欠点を抱えている。だからこそ、隠密狙撃を行う場合は1発撃つごとに場所を変える必要があるのよ。次の地点や、そこまでの移動経路を決めるのは支援手の仕事。


 丘のランダムな地点が断続的にピカピカと光り、その度に兵士が1人ずつ死んでいく。

 敵部隊はすぐさま恐慌状態に陥ったわ。街道の前後に走り出したり、街道を逸れて身を隠そうとしたり、敵は秩序を失い、バラバラな方向に散っていく。しかし、それらの行動は全て「視られている」。


「3番、11時180m静止。8番、6時300m静止。4番、1時210m東向き」


 魔力探知で全ての存在の位置や動きを正確に把握し、その情報から的確に目標を指示する者――「管制手」。かつてルーナが最初にやってみせたそれは、今や一部のエリート隊員たちにしっかりと技術が継承されているわ。


「11番、8時270m西向き。……最後の1つが消失、状況終了。お疲れさまでした」


 ゾーイの命令は隊員たちによって完璧に遂行された。斥候部隊を1人残らず殲滅したことで、敵の動きが鈍るのは間違いないわ。




――――――――――


「ねえ、ジェファー」

「なんだい」

「手伝ってくれるのは嬉しいけど、自分の仕事は大丈夫なの?」

「問題ないよ。ちゃんと策くらいは用意してあるからさ」


 その日の午後。アラーナの心配をよそに、ジェファーは書類作成の手を止めることなく淡々と答える。

 「策は用意してある」と彼は言っているけど、今できることは正直かなり限られているわ。この時、彼はぶっちゃけ出たとこ勝負だと思っていたらしい。

 明日の主戦場はウィンタカスターの応接室――未だ見ぬノーズィリア国の使者が遂にやってくるわよ!

 魔法は確かに使っている。が、これは果たしてファンタジーなのか……?

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