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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第46話-視察・新市街-

 見回り隊の4人――私、イーヴ、ジェファー、アラーナが屋敷を出て最初に向かったのは、塀の中に建てられたもう1つの建物である「法院」よ。大法官――ジョンを頂点とする法官たちの職場兼集合住宅になっているわ。


「当主様! 私に会いに来てくださるなんて、嬉しすぎますわー!」


 私たちを最初に歓迎してくれたのは、まあ予想通りのアゼルバーフ。突撃を察知した私はそれを華麗に躱し、この子はそのまま壁に激突した。


「いったーい、酷いですわ! 大きく手を広げて受け止めてくださいまし!」

「そしたら私の背中が壁にめり込んでたわよ」


 アラーナは楽しそうにくすくす笑い、ジェファーは額に手を当て、イーヴは無反応を装うも耐え切れずに噴き出す。見ていた法官たちの反応も大体そんな感じ。アゼルバーフが加わった後の法院の空気感は、まあ私の観測している限りはいつもこうね。引き締め役のジョンがいないから、今は余計に弛緩しているわ。


「まあ、あなたがすぐに馴染んでくれて良かったわよ」

「学院に比べれば楽勝ですわ!」

「あら、あなたも学院で苦労したのね」

「あー、えーっと、そう、ですわね……向こうでは、妖精種の待遇は良くありませんでしたから……」


 場所は違えど、学院ってのは妖精種にとって似たような環境になっちゃうのね。


「だからこそ――」

「だからこそ?」

「だからこそ、私は当主様のことを心から尊敬しているのですわ!」


 この子の私を見る目はいつも輝いている。どうしてか、その目がかつてのカリンと重なった。


「ありがとう。私も、いつまでも尊敬されるように頑張らないとね!」


 ジェファーは何か勘付いたようね。全く、人の心中を勝手に推察するのはやめて欲しいわ。


「それじゃ、そろそろ仕事に戻りなさい」

「あーん、当主様。もう行かれてしまわれるのですか? もう少しお喋りしていたいですわ」

「駄目よ。どうせ私を見つけた途端に仕事放っぽり出して飛んできたんでしょ? イーヴ!」

「はい、当主様」


 私にじりじりとにじり寄ってきたアゼルバーフは、私に命令されたイーヴによって行く手を阻まれた。


「誰か、この子を連れて行きなさい」

「あーん、当主様あぁああああ」


 そして、法官2人に両腕をそれぞれガッチリと捕まれたその子は、法院の奥の方へと強引に引き摺られていった。


「私もアゼルバーフ様みたいに素直になりたいな」

「アラーナ、あれを真似しちゃ駄目よ」


 私たちは、他の法官にもひと通り挨拶をしてから法院を後にした。

 次の目的地は少し距離が離れているから、馬車に乗って向かうわよ!


「なんだかんだ初めて入るわ。ちょっと楽しみ!」

「行ったこと無かったのかい!?」

「だって、報告を受ける時はオリヴァーの方から来てくれるんだもの。こっちから何か伝えたいときはジョンか侍従に頼んでるし……」

「当主様は引きこもりだね」

「うッ、うるさい! ジェファーは少し黙ってなさい!」


 私たちが次にやってきたのは、塀の外の大通り沿いに建てられた大きくてとても目立つ質実剛健な建物――ウェスーク州のミッデル・ヘイル(本庁舎)よ。


「当主様! 珍しいですね、こんなところにいらっしゃるだなんて」

「珍しいというか、初めてよ」

「私が中を案内しましょうか?」

「お願いするわ」

「お任せください。あ、ジェファー閣下はそこで待っていてください」

「僕に対しての扱いが酷くないか!? オリヴァー」


 ジェファー隊時代には息ぴったりだった2人が、どうしてこうなってしまったのかしら……。まあ、大体はジェファーが悪いか。うん、そんな気がするわ。

 私たち3人と一応中に入ることを許してもらえたジェファーは、オリヴァーの案内で州本庁舎を隅々まで見て回った。


「そうだ! 足りてない物資の調達なんかは職員の多い州が代わりにやってもらえないかしら。さっき私が会計院を訪ねた時、パンク状態になってて」


 最後、私はダメ元で会計院の仕事を引き受けてくれないかオリヴァーに聞いてみたわ。


「お恥ずかしい話です、オリヴァー様……」

「いえ、会計院は閣下含めても3人しかいないのですから、有事の際はもっと頼ってください。私たちの方でも物資調達の他、お手伝いできることがないか検討してみます」

「あ、ありがとうございますッ!」


 おお、すんなり通った。こういうのは1回聞いてみるものね。


「それで、アラーナ閣下がパンクするまで、あなたは何をされていたのですか? ジェファー閣下」

「いやあ、そのお……」


 私を見ないで。助けないわよ。


「えっと、相談しなかった私が悪いんです。ジェファーは悪くありません」


 彼に助け舟を出したのは……まあ、アラーナしかいないわよね。


「こいつを庇う必要ないわよ!」

「そうですよ、閣下!」

「酷いね君たち!?」

「あ?」「はい?」

「あ、いや、すみません」

「ふふ、皆さんお優しいですね」


 こうして、今夜の「国務卿緊急会議」では会計院の負担軽減について話し合うことを確認したわ。

 州本庁舎を後にして、最後に向かったのは新市街の中心に設けられた広大な訓練場よ。訓練場とはいうけれど、まあ、ただの原っぱね。


「誰もいないね」

「まあ、レンデラム解放に皆出払っているからね」

「ジェファーは戦場にはもう行かないの?」

「必要とあらばもちろん行くけど……僕は応急処置の専門家でも、特別魔力が多いわけでも無いからなあ」

「そうなの? じゃあなんで4将に選ばれたの?」

「なんでだろう。なんでなの? 『ボス』」


 いや、あんたら2人で話してなさいよ。なんで私に振るのよ。


「……使える魔法の種類がダントツで多いからって、ジョンが言ってたわよ」

「ジョンが決めたのかあ。まあ、あの頃のボスは何も決められなさそうだしね」

「うっさい」


 多くのことをジョン任せにしてたのは否めないわ。腹立つけど。


「でも、僕は未だに他の4将と違って『第3階層魔法』を使えないからなあ」


 彼が得意とする地エレメントの第3階層といえば、「乙女座系魔法」。ルーナだけが行使できる「転移魔法」と、私に発現した「あの魔法」しか未だに分かっていない未知の星座系統。


「私が言うのもなんだけど……『あれ』は仕方ないでしょ」

「まあ、そうなんだけどね」


 彼はアラーナの方をずっと見ている。


「えっと……」


 見つめられていることに気づいたその子は、真っ白な頬を赤くしてはにかむ。

 きっと、この子は理解していない。彼に向けられた視線の意味が羨望であることに。

 この子が得意とするのは「射手座系」の演算魔法――それは、彼の渇望する「第3階層魔法」よ。残酷なことにね。


「さっさとくっつけ鈍感ども」

「当主様、気持ちは分かりますが口に出さないでください。アラーナ様に聞こえたらどうするのですか」

「イヴリン閣下、呼びましたか?」

「いえ、何でもございません。お気になさらず」

「『ども』は余計だよボス」

「あんたは黙ってなさい」


 片や戦闘中とは思えないようなどうでもいい話をしながら、私たちは原っぱの向こう――ウィンタカスター中心部の街並みに沈む夕日を見ていたわ。

 それでも、ジョンとカルロは無事かしら――なんて、そんな不安が急に込み上げてくるのは仕方がないと思うの。


「そろそろ帰りましょう。暗くなってしまいます」

「ええ、そうね」


 夜には会議がある。通信魔法伝いに、彼らからの定時連絡がある。

 私は不安に負けじと思いっきり背伸びをした。


「屋敷に帰るわよ!」


 こうして、イーヴのひと言から急に始まった各所の見回りは、日の入りと共に終わったの。

 あ、そうそう、会計院の仕事はその日の会議でちゃーんと減らしたわ!

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