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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第45話-視察・屋敷内-

 初夏のとある日の午後。屋敷の窓から庭を見ると、そこに植えられた白いエルダーフラワーが咲き誇っている。臭いがとても強くて、窓を開ければ2階の執務室に居てもそれを感じ取ることができるわ。


「今日で4日目、なのよね」


 今、ジョンとカルロは軍を率いてレンデラム(エス・リーア国首都)解放の真っ最中よ。私はウィンタカスターの屋敷でお留守番。


「はぁ……」

「戦場が気になりますか?」

「気になるに決まっているでしょ」


 ジョンが居ないから彼に承認された書類が私に上がってくることもないし、正直――


「やることが無いと、逆にしんどい……」


 珍しく書類の1枚も置かれていない執務室の広い机に、私はグデーっと突っ伏した。


「であれば、たまには各所を回ってみるのは如何でしょう」


 そう提案するイーヴに、私は身体を起こさず顔だけ向ける。


「私が突然現れたら仕事に支障が出ないかしら。プレッシャーも感じるだろうし」

「喜ばれると思いますけど」

「そうかなあ……」


 まあ、ウジウジしてても仕方ないか。


「よしッ!」


 私は大声を出して体を起こした。


「たまには、私自ら色んな所を回ってみようじゃないの!」




――――――――――


 まず訪れたのは屋敷内にある侍従たちの詰め所よ。


「侍従長、お疲れ様で……当主様ッ!?」


 のんびり書類仕事をしていた彼女たちは、私を見るなり立ち上がって完璧なお辞儀をする。


「お出迎えができず申し訳ございません。まさかこの様なところにいらっしゃるとは思っておらず……」

「いいのよ。ただの暇つぶしだから。皆がどんな風に働いてるかを見に来たの。あ、別に監査とかじゃないから肩の力抜いていいわよ」


 私の言葉にホッと胸を撫で下ろす侍従たち。

 私は目の前にあったお菓子が気になり、ひと摘み。


「んんー、美味しい!」


 飲み物も欲しくなった私は、あることを思いついた。


「そうだ、たまには私が飲み物を入れようかしら!」

「いけません! 当主様がその様なこと」

「『私のバルバリア魔法戦線』時代には、私もこの手の雑用をよく手伝っていたのよ。だからいいの」


 私は皆の机の上に置いてあるコップにスモールエールを注いでいく。とても畏まった皆の反応で、私は昔と立場が変わってしまったことを実感した。


「ありがとうございます、『ボス』」

「あなたはカリン隊の頃から居たものね」


 でも、かつてカリン隊に所属していた者たちは、久々に以前と同じ接し方をしてくれた。

 彼女たちは、カリンが辞めても組織に残ってくれた特別な存在。新しい上司であるイーヴとは最初こそ摩擦があったみたいだけど、今では上手くやれているみたい。


「少し昔に戻れたみたいで楽しかったわ。これからもよろしくね」


 そう言って、私とイーヴはこの部屋を後にした。

 次に向かうは国境警備隊の隊長室よ。


「アリス様が直々にいらっしゃるなんて。何かございましたか」

「いいえ、ただの暇つぶし」

「暇つぶし……ですか」


 やっぱりここはピリピリしているわね。

 国軍の主力が出払っている今、何か有事が起こればすぐに対応に当たらなければならないのは国境警備隊よ。隊長室にはゾーイの他に常に2人の隊員が常駐していて、北西のミシア国と南の海岸――それぞれの警戒を続けている。


「仕事が全部片付いた後、ちょっと不安になっちゃってね。イーヴの提案で各所を見回ってみることにしたの。もちろん、邪魔ならすぐに出ていくわ」


 私の言葉を聞いたゾーイは、すぐに柔らかい表情になった。


「お菓子ありますよ。食べていかれては? 私たちもそろそろ休憩の時間でしたし」

「そんな、休憩時間に私が居たら気を遣うでしょう」

「当主様より隊長の方が怖いッスよ!」

「なんだと?」

「いえ、なんでも」

「くふッ」「ぷふっ」


 ゾーイと部下のやり取りに、私たちはつい笑ってしまった。


「当主様……イヴリン閣下……」

「ごめんごめん」

「申し訳ありません」


 彼女は厳しいと評判だし、私もそういう印象を持っていたけど、部下に軽口を叩かれるくらいの柔軟さもちゃんとあったのね。


「私はさっき侍従たちのところで摘んできたから、今回は遠慮しておくわ」

「そうですか。当主様、また是非いつでもいらしてください」

「ありがとう、そうするわ! じゃあまたね」

「何かありましたら、すぐに報告いたします」

「ええ、お願いね」


 私は彼女の部屋を後にした。

 次は外務卿の執務室よ。


「げ、当主様」

「『げ』とは何よ。言ってみなさい」

「いやあ、そのお……」


 わざとノックをせず、勢いよく扉を開け放つと、そこに居たジェファーは何やら図面を書いていた。まあ、つまりは「サボり」ね。


「ちゃ、ちゃんと働いてはいるぞ。部下の1人はミシア国に、もう1人はゲント人商人の下で大陸に向かわせている」

「それ、部下が働いているだけで、あんたは働いてないじゃない」

「仕方ないじゃないか! ゲント国との諸々が終わって暇なんだから。どうせエス・リーア国の方でまた無茶振りするんだろう? それまで好き勝手しててもいいじゃないか!」


 こいつの言い分は、まあ分からなくもないけど……。


「何のために『外務卿』という役職を用意したと思ってるのよ。暇なら自分で仕事くらい探しなさい」

「その探してきた仕事がこれ、完璧な『都市設計』だ!」

「それはあんたがやらなきゃいけないことなの」

「オリヴァーは忙しそうだからな」

「はあ……」


 こいつに何を言っても丸め込まれそうね。


「イーヴ、次行くわよ」

「待った!」


 とっとと扉を閉めようとした私を、ジェファーは引き留める。


「当主様はなぜここへ来たんだい? 僕はそれを聞いてない」

「仕事が片付いたから見回りよ」


 この説明でもまあ、間違いじゃないわよね。


「要するに暇ってことだね!」

「うるさいわよ」


 合ってるけど。


「僕も付いて行っ――」

「じゃあね」

「待ってよ当主様!」


 こうして、見回り暇人が1人増えた。

 屋敷の中で最後に訪れたのは、会計院が置かれている部屋よ。


「入るわ――よッ!?」


 そこにあった異様な光景を前にして、私はつい声が上擦ってしまったわ。

 部屋の主である大蔵卿――アラーナがほとんど見えなくなるくらい、部屋の机や床の上には沢山の書類が積み上がっていたの。


「どうしたのよこれ!」

「当主、様……? えっと、これは……大体が……戦争の……関連、書類……です……」


 部屋に立ち入り探索してみれば、この子のみならず部下の会計官2人もぐったりしているのが発見された。


「足りない物資の調達に必要な商人との契約は纏まらないし……ジョン閣下の承認が必要な書類は溜まっていく一方だし……ううううう」


 これはきっと、非常にまずい。


「あんた、どーでもいい事してないでこっちの方を手伝いなさいよ」

「僕には演算魔法が使えないんだぞ? もし僕が手伝ってミスでもしたら彼女たちの仕事を増やすだけだ」

「計算以外にもできることはあるでしょ! 交渉とか翻訳とか!」

「僕だって頼まれればもちろんやるともさ。まさかここまで酷いとは思っていなかったんだ!」


 私とジェファーが言い争いを始めたことで、今更アラーナは彼の存在に気が付いたらしい。

 慌てて立ち上がったんでしょうね。ガタッという音を立てて、書類の山の上からボサボサ金髪頭がひょこっと出てきたわ。


「ジェファー!? ごめんなさい……こんな見苦しいところ」

「いや、僕こそすまない。君がここまで追い詰められているとは知らなかったんだ」


 私の見立てでは、アラーナの片思いはまだ続いている。1度ジェファーにハッキリと断られたらしいのだけど、この子は諦めきれていないようね。

 長い前髪から垣間見えるその子の頬は赤くなっていた。片思いの相手にこんな姿を見られるのはきっと恥ずかしいわよね……。

 でも、この子をそのまま放置しておくこともできないわ。


「ジェファー、あんたはここに置いていくから。しっかり手伝いなさい」

「嫌だ」

「あんたねえ、これを見ても――」

「違う。今の彼女に必要なのは休息。息抜きだよ!」


 そう言ってジェファーはアラーナの背後に回り込み、肩に手を置いてその子を座らせる。


「な、何ッ!?」

「今日はもう何も考えるな。頭をリセットするんだ」

「え、えぇえ……?」

「アラーナ、これから絶対に外せない予定はあるかい?」

「ない……けど……」

「これから気晴らしに出るくらいの元気はあるかい?」

「ある……けど……」


 ジェファーが何か言いたげにこちらを見てくる。


「ジェファー様は、アラーナ様も連れて行きたいようですね」

「ええ、そのようね。少しアラーナを休ませてから外に出ましょ」


 私とジェファーが乱雑に積まれた書類を簡単に整理している間、イーヴにはアラーナの身繕いをさせ、アラーナと会計官2人には少し休んでてもらったわ。


「じゃあ、私たちはこれからアラーナを連れて行くから。2人はこの子が戻ってくるまでにしっかり休んでおくこと。いいわね?」

「はい」「行ってらっしゃいませ、アラーナ閣下」


 アラーナを加えて4人になった私たち見回り隊は、遂に屋敷の外へと繰り出した。

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