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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第43話-指針-

現状のバルバリア島南部地図です。

挿絵(By みてみん)

「アリス、エス・リーア国で何があった。君の口から説明してくれ」


 そうジョンに促されて、私は経験した出来事を全て話した。

 ダウニウムの北でエゼルドと再会したこと。エゼルドから聞いたエス・リーア国の現状。エスーク領域領主だった彼をウェスーク国に引き入れたこと。ウェスーク国のエスーク領域防衛を名目にストワ川南岸で半魚種ダネア族と交戦したこと。最後に、エゼルドに裏切られ、カルロの増援に助けられたこと。


「アリス、1つ最初に言っていいか」

「……ええ」

「もう、小規模の部隊を率いて先行するのはやめろ。特別な魔法を使えることは分かっているが、それでも、俺はお前のことが心配だ」

「反省してるわ」


 彼が怒るのはもっともだわ。魔槍という想定外の存在があったとはいえ、私も油断していたのは確かよ。


「まあまあ、お説教はそのくらいにして。当主様は、これから占領したエスーク領域をどうするおつもりなのですか?」


 私はオリヴァーの質問に背筋を正して答える。


「ダウニウムより北西のエスーク領域はウェスーク州に統合、北東は『エス・リーア州』として扱うつもりよ」

「そうなると、そのエス・リーア州は我が国で2番目の州になりますね。地方長官にはどなたを」

「国務卿としての『地方長官』はあなただけよ、オリヴァー。エス・リーア州には属領領主とほぼ同等の『州知事』を任命するつもり」

「ふむ……では、その州知事にはどなたを」

「今のエス・リーア国豪族の誰かを脅して就かせるわ」

「「「「「「……」」」」」」


 いや、皆して黙らないでよ。


「君は『どこまで』を考えている」


 こういう時に最初に口を開くのはいつもジョンね。


「エス・リーア国豪族の誰か1人をとっ捕まえるまでよ。もしも、エス・リーア全域をダネア族から解放した上で誰も見つけられなかったのなら……まあ、その時にまた考えればいいわ」


 私の答えに彼は頭を抱える。


「アラーナ、物資は持つと思うか」

「えーっと、戦う期間によるとしか……。レンデラム(エス・リーア国首都)攻略までは確実に持たせられます。でも、今年中にノルウィック(エス・リーア国最大都市)まで行くのは難しいかと……」


 アラーナの計算は常に正確よ。彼女がそう言うならそうなのでしょうね。


「私はエス・リーアへの侵攻には反対です」


 そうハッキリと口にしたのはゾーイよ。


「どうして?」

「国境警備隊はウェスーク州だけで手一杯です。これ以上、領土が広がれば警戒監視網を維持できません」

「来年、新人を多く割り当てるとしたら、どう?」

「それ以降であれば、可能かもしれません」


 それまでは手を広げるなってことね。


「俺としては、一応、アリスの考えに賛成だ。さっさとエス・リーアは解放するべきだと思う」


 あら、ジョンは反対すると思ったけど、意外ね。


「理由を聞いてもいい?」

「もうすぐミシア国との停戦が切れるからだ。ダネア族と組んで攻め込まれでもしたら困る」

「手を組まれる前に、ダネア族をバルバリア島から排除したいってことね」

「そうだ」


 そう、かつてお父様のウェスーク国を滅ぼした元凶――ミシア国との停戦が切れる。

 かの国もダネア族の動きは多少なりとも知っているはずだけど、今のところ何の動きも見せていない。不気味なほど静かだわ。


「俺はエス・リーアの解放自体には賛成だが、その間ミシア国の動向には常に注視する必要があると考えている。ジェファー、可能か」

「不可能。だって僕、ゲント国関係も見なきゃいけないんだよ? 外務担当者をもう1人くらい……いや、3人はくれないと」


 くッ、ここにきてあんたも人を要求してくるか……。戦闘要員を減らすわけにはいかないのよね。


「仕方ないわね。通信魔法を使える侍従を2人、あんたにやるわ。イーヴ、問題無さそ?」

「当主様の命令とあれば」

「問題ないってことね」

「ありがとう当主様! 僕、期待に応えてみせるよ!」


 うわ、胡散臭ッ! それでいてちゃんと有能なのが腹立つのよね、ジェファーって。

 まあいいわ。これで、反対者はゾーイだけ。


「ねえゾーイ、レンデラムを解放した後は、小規模な通信魔法使い部隊だけをそこに駐在させて、エス・リーア州における警戒監視は彼ら自身にやらせる――ってことで、どうかしら。かの地はウィンタカスターからそこそこ離れているし、ウェスーク州ほどの即応能力は必要ないと思うの」


 私は今のところ、エス・リーアに対して緩衝地帯としての価値しか感じていない。そこに貴重な魔法使いを分散させようとは思わないわ。


「それでしたら……私としては問題ありません」


 よし。これで全員が了承したわね!

 私は勢いよく立ち上がった。うっ、ドレスが重い……。


「今年の夏には必ずレンデラムを解放するわよ! そして、冬に入る前までに北東の体制を固めてもらう。いいわね?」

「おう」「りょーかい」「はッ!」「「「はい」」」


 よーし、上手く指針が纏まった。後は国務卿の皆に任せて、何かあれば都度、修正していけばいいわ。今日のところは満足満足――


「あのー、当主様。ゲント国は結局どうするんだい?」


 あ、忘れてた……。

 ジェファーからの指摘に対して、どう返したものか……と思案しながら私はゆっくりと椅子に座る。


「そのことについてだが、俺にいい案がある」

「き、聞かせて貰おうじゃないの」


 ジョンのお陰で助かった……。やっぱりあなた頼りになるわ。ありがとう!

 私は心の中で彼に感謝しておいた。


「アリスは2年間待ってくれと1度はアゼルバートに頼んだんだよな?」

「まあ、断られたけどね」

「おそらく奴は、2年も国が持つか分からないと考えているんだろう」

「そうでしょうね」


 ジェファーの話と合わせて考えると、ゲント国が今1番恐れているのはダネア族なんかではなく、間違いなく大陸勢力――特にバルガンド公。


「『アゼルバーフを俺たちの国で預かる』上で、『俺たちの国はゲント国の防衛義務を負う』――これで併合の話を先送りにはできないか」

「それって併合と何が違うのよ」

「大違いだよ! 併合してしまうと、バルガンド公に攻め入る口実を与えてしまうんだ。『ゲント国にいる商人を保護する』――っていうね」


 私の疑問にはジェファーが答えてくれた。なるほど。


「同盟であれば、その口実が使えないのね」

「そうだ。その上で、もしも大陸勢力がゲント国に対して何かしらの行動に出たら、その時は教会に調停を求めればいい」

「最悪、教会を巻き込む……かあ」


 私の頭にナリーの顔が思い浮かんだ。

 アゼルバートもきっと、そのことについては考えているんでしょうね。元々、ロマーラ帝国時代に大主教座が置かれていた「キャンタブリー(現在はゲント国の首都)」の教会に、ムー島から大司教を呼び戻そうとしているのも、もしかしたらそこに繋がっているのかも。


「それに、アゼルバーフを預かっておけば、ゲント国に何かあってもいつかは建て直せる。君がウェスーク国でそうした様にな」


 私が、そうした様に……。

 私はウェスーク国の復国記念式典を思い出した。


「そうね。明日はその方向性であの爺と話してみるわ。ジェファー、あんたも付いて来なさい」

「任せて!」


 対北東、対ゲント戦略の指針がそれぞれ纏まったことで、今日の国務卿会議はお開きとなったわ。

 ああ、長い1日だった。最近は移動ばかりであまり寝つけなかったけど、今日はぐっすり眠れそうね。

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