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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第40話-売国-

 ストワ川南岸での戦いが終わった後。私とイーヴは、ウェスーク国軍兵士と侍従――合わせておよそ60人を連れてウィンタカスター(ウェスーク国首都)へと戻ることになった。報告やら何やら、戻ってやることは山積みよ。参っちゃうわよね、全く。

 招集されたサスーク属領軍の兵士たちも、それぞれ地元へと帰っていったわ。

 カルロや残してきた兵士についてだけど、彼らはカーコルカスター(エスーク領域中心都市)にしばらく駐留させることにした。またいつダネア族の襲撃が来るか分からないからよ。


「各地の砦に散っているエゼルドの残党は、国境警備隊が制圧しているのよね」

「はい。どうやら彼らはエゼルドの背信を知らなかったらしく、そのほとんどが大人しく投降しているようです」

「戦いの時もエゼルドの軍勢は動きが鈍かった。あいつの裏切りは咄嗟の思い付き……?」


 私はあれから、あいつがなぜ裏切ったのかをずっと考えていたわ。

 私が無理やり支配下に置いたから? 権利の取り上げを仄めかしたから? 思い当たることはあるけど、決定打に欠ける。

 それに、私の横暴が許せないのなら、護衛がいない時に私を暗殺してしまえばいい。それをしなかった理由がきっとあるはず。

 ダネア族の手に魔槍ゲボルガがあることを知っていて、それを手に入れることが目的だった? いや、結局あれを手に入れたのはあいつ自身よ。私の戦力は手も足も出なかった。

 私の戦力を見限った……? いや、増援が向かっていることはあいつも知っていた。例え、あの場に間に合わずに私が死んだとしても、きっとあいつはカルロとイーヴに討たれていたはず。


「分からないわ……」


 私には彼の心中を推測することができなかった。


「当主様、もうすぐお屋敷ですよ」


 私はモヤモヤとしたものを抱えたまま、ウィンタカスターの屋敷に帰ってきたのであった。




――――――――――


「アリス姉! この方は、ゲント国の当主――アゼルバート様です!」

「はあ、この人が……」


 屋敷に帰って早々、私は侍従たちに浴場へと拉致され、無理矢理ドレスを着せられたわ。酷い話よね……大きな仕事が片付かない内に、また大きな仕事を入れられたのだから。

 まあ、無下にすることができないのも分かるけど。


「初めまして。この私が、ウェスーク国当主のアリスよ。うちのルーナが世話になっているわね」

「こちらこそ、初めまして。儂はゲント国当主にしてバルバンリア商会の会頭――アゼルバートである。いや、大陸式にゲント伯アゼルバート・ゲントと名乗った方がいいかね」

「なら、私はスーク伯アリス・ウェスークね」

「ほっほっほ」「あはははは」


 まさか、戦場から帰ってすぐに人生初の当主会談を経験するだなんて……私はなんて忙しいのかしら。


「何て呼べばいいかしら。ゲント氏?」

「アゼルバートでよいぞ」

「じゃあ、アゼルバート。まずは歓迎させてもらうわ。ようこそ、遥々ウェスーク国――ウィンタカスターへ! さぞ移動は大変だったでしょう」

「護衛を任せたルーナが常に話してくれて退屈しなかったぞ。そやつは老人の扱いが分かっておる」

「だって。ルーナ、良かったわね!」

「ありがとうございます、アゼルバート様!」


 ルーナはやっぱり人に好かれるのが上手いわね。ゲント国に送り出して正解だったわ。

 4年半が経ち、彼女の言葉遣いは年相応に成長したけれど、見た目は全く変わっていない。可愛らしさは成熟しているけど、色気が全くないのは彼女らしいわね。


「それで、あなたはどのような要件でここまでいらしたのかしら」


 歓迎もそこそこに、私は本題について切り出す。


「――確かゲント国は戦争中だったと思うのだけれど」

「鱒ども(半魚種)はとっくに追い出したわい。儂が出ている今、国は家内が、商会は愚息が仕切っておる」


 家内っていうと確か……クラリスね。元気にしているようで良かったわ!


「有能な家族がいるのね、素晴らしいことだわ。ご子息の名前を聞いてもいいかしら」

「アドルバートだ。頭は悪いが金に悪知恵の働く奴でな、次期会頭を任せようと思っておるわ。婿にやってもよいぞ?」

「私は既婚者よ。男を複数娶る気は無いわ。夫はアトゥス教徒(一夫一妻制)だしね」

「そうか、残念だ」

「アドルバートと言ったかしら。その子、ゲント国の次期当主にはしないのね」

「実は、そのことをそなたに相談しに来たのだ」

「え?」


 なんで私が他国の継承問題に巻き込まれなきゃならないのよ。


「そう嫌な顔をするでないわ」

「し、失礼したわね」


 顔に出てた!? やだ、私、きっと疲れてるのね……。


「儂にはもう1人、娘――アゼルバーフってのがいるんだが、そやつ、当主になんかなりたくないと駄々を捏ねてな」

「ドレイツ教に敬虔ってわけでもないんでしょ? 必ず分割相続する必要なんてないわ。アドルバートがいるんだから、その子に国も継がせたらいいじゃないの」

「駄目だ! 奴にもし国を継がせたりなんかしたら、儂が死んだ次の日にはきっと大陸に売り飛ばしてしまう」


 とんでもない息子ね。守銭奴ここに極まれりって感じ。


「それで? 私にどうして欲しいって言うのよ」

「まあ待て。儂はアゼルバーフに聞いてみたんだ。じゃあお前は何がしたいんだ、とな。そしたら、そやつはこう答えた。『アリス様の下で働きたい!』と」

「私!?」

「家内がそなたの話をし過ぎたらしい。常日頃から、『アリス様のように立派な女になるのよ』と言っていた」


 なんてこと……私そんな立派な女じゃないわよ。クラリスの目に私はどう映ってるの。


「もしかしてあなた、娘を当主修行ついでに私に預けようって考えてる?」

「いや、娘を領主に『ゲント国ごと』預けようと考えている。どうだ?」

「……」

「悪い提案じゃないだろう?」

「息子とやること一緒じゃないの!!」


 はッ、つい叫んでしまったわ。やっぱり私疲れてるのね……。いや、疲れてなくてもこんなこと言われたら叫ぶわよ!


「そう興奮なさんな」

「いや、するに決まってるでしょ! 確かに悪い話じゃないけど……国民はどう思ってるのよ。併合して即反乱とか私は嫌よ」


 つい数日前に裏切られたばっかりだしね。あんなトラウマものの出来事、もうごめんよ。


「それは心配なされるな。我々は元より商いの部族。国はあくまで商売の拠点でしかないのだ。特権さえ認めてやれば、非生産的な反乱なぞ起こらんだろうよ」


 確かに、彼ら緑髪系は「大森林」にいる頃から、商売のため常に移動していた部族。この混乱の時世の中でも大陸に商業ネットワークを維持していて、ゲント国以外に対岸にも港湾都市や生産都市を持っていると聞く。

 原種や他人種との交流も盛んで、かの国は7大国の中で唯一、大陸に倣ってロマーラ普遍教会(アトゥス教の1派)を「国教」に定めている。首都キャンタブリーでは、ムー島に避難している大司教を呼び戻そうとする運動もあるらしい。


「あなた方の民族性は私も理解しているつもり。でも、そのことと、あなたと娘――アゼルバーフを信用できるかということは話が別よ」

「そなたはそう言うと思ったぞ。だからこそ、連れてきた。入れてくれ」


 アゼルバートのひと声で、応接室の扉が開かれる。


「嘘、でしょ……」

「アリス姉、嘘じゃないですよ」


 扉の向こうでは、クラリスに似て綺麗な緑髪をした妖精種の女の子が頭を下げていた。私より身長の高い女の子。その子は頭を下げながら、私に向かってこう言ってきたの。


「お初にお目にかかりますわ、アリス様。私はゲント国当主の娘――アゼルバーフでございますわ!」

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