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アグロンド王国物語-妖精が王国を築いたり魔法研究の旅をしたり大戦争までしちゃったりする話-  作者: ガーレ
アリス編・第2章-アグル=ダネア戦争-

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第36話-決断-

 「エス・リーア国」はバルバリア島の妖精種7大国の内、最も東に位置する国よ。最初期は7大国で1番規模の大きな国だったけれど、領域紛争でミシア国に敗れ続けて赤髪系最弱まで落ちぶれてしまった。とはいえ、赤髪系以外の4ヶ国と比べると、依然そのどれよりも強かったわ。

 9年前の「赤髪の春戦争」では、かの国はミシア国、サスーク国と結託してエスーク国に攻め入り、その領域の大部分を占領した。今でもかの国はエスーク占領域を保持し続けている。

 4年半前に起こった「ウェスーク復国戦争」の結果、私は銀髪系妖精種の3ヶ国を統合したわ。その後、私の国――ウェスーク国はエス・リーア国に対してエスーク占領域の返還を求めたのだけど、かの国は既にその地に銀髪系住民が住んでいないことを理由に、その要求を突っぱねた。私たちはそれ以上に強く言うこともできず、結局そのままの状態で国境が画定された。

 その後、国境は安定し、両国の交流も増えて問題なんて起きるはずがないと思っていたけど……。


「どうして、今なのよ!」


 私は侍従たちとウェスーク国軍の精鋭30人を引き連れて東へと向かっていたわ。

 ゲント国のゴタゴタでただでさえ忙しいっていうのに!


「エス・リーア国軍の現在地は」

「ダウニウム北方の村を占拠したまま、今も動いていないとのことです」

「ならいいわ。進路そのまま!」


 友好関係を築いていたこの今のタイミングで、半魚種ダネア族と共謀して奇襲なんて真似するはずがない。私の予想が正しければ、そこにはあいつがいるはず。


 ウィンタカスターを出て2日。ようやくエス・リーア国軍が占拠している村に辿り着いたわ。


「私はウェスーク国当主――アリスよ。あんたらは我が国の領土を不法に占拠しているわ。即刻撤退なさい!」


 私が声を張り上げると、相手の集団から1人の青年が出てきた。そいつのチェインメイルには装飾が施されていて、高位の人間であることはひと目で分かる。近づいてくるにつれ、私はそいつが目的の人物であることを確信した。


「あんた、見ない内に随分と大きくなったわね」

「アリス様、お久しぶりです。相変わらずお美しい」

「世辞はいいわ。昔チビ女って言われたこと忘れてないからね」

「昔の俺はその様なことを……それは失礼いたしました」

「一生許さないわ!」


 エス・リーア国現代当主の弟にして、エスーク占領域の領主を任されている元クソガキ――エゼルド。こいつの印象は、初めて会った時に比べて大きく変わっていた。主に身長と顔立ち、そして性格が。


「それで、これは一体どういうつもりなのよ」


 私はこいつらに占領された村を見る。住民たちは普通にしていて、あまり不安げではない。無理やり占領したわけでは無さそうね。


「俺たちは……ウェスーク国に亡命するために参りました。これから難民も多く押し寄せるでしょう。どうか、国境を開放しては頂けませんか」

「亡、命……もう、その段階なのね」


 私は疑問に思っていた。なぜ魔法使い戦力が多いゲント国をダネア族は襲ったのか。勝てる見込みのない戦いを始めたのか。これがもし、陽動だったとしたら。

 ダネア族の拠点は、バルバリア島の東の「北海」を超えて更にそのまた東の陸地にある――そういう話を聞いたことがある。であれば、真っ先に狙われるのはバルバリア島で最も東の……エス・リーア国。


「もしかして、ダネア族の動きを知っていたのですか」

「単なる予想よ。数日前にゲント国が襲われたの」

「ゲント国も!?」

「『も』ってどういうこと?」

「ダネア族に最初に襲われたのは俺たちの国じゃありません。奴らが最初に上陸したのは『ノーズィリア国』です」

「なんですって!?」


 「ノーズィリア国」――それは、7大国で最も北にある大国よ。私の国から見ると、ミシア、エス・リーア両国を超えた更に北にあるから馴染みは薄いわね。

 かの国は、バルバリア島の北の果てに暮らす野蛮な人種――「長耳種」の領域を征服することで、頭一つ抜けた広大な支配領域を有している。人口だけを見ても、他の赤髪系2国を圧倒していた。

 ただし、そんなかの国にも弱点はある。敵を多く抱えている、ということよ。

 かの国は「長城」を超えて勢力を拡大したことで長耳種の抵抗が強まり、それに伴って北に大兵力を割いていると聞くわ。その上、南では仮想敵2国が常に隙を窺っている。正直、余裕はあんまりなかったでしょうね。

 そのような状況下で、かの国は東の海岸からダネア族の奇襲を受けてしまった。


「戦況はどうなの」

「北の方は俺にも全く分かりません。俺に届いた情報は、『ノーズィリア国からの使者がレンデラム(エス・リーア国の首都)に到着した直後、ダネア族の軍勢もそこに押し寄せた』――ということだけです」

「それで、あなたの国は今どういう状況なの」

「レンデラムは、既に落ちたと聞いています。兄――当主様と姉2人の安否は分かりません。このまま俺の……エスーク占領域にやって来るのも時間の問題でしょう」


 エスーク領域が落ちれば、次に攻撃を受けるのはここ――ダウニウム。


「亡命の必要はないわ。エスーク領域内で、敵を迎え撃つわよ」


 難民を受け入れる余裕もないしね。


「エスーク領域に私の軍を入れる許可を頂戴」


 私の要求にエゼルドは頷く。


「正直、俺はアリス様に頼りたくはありませんでした。俺は、あなたと肩を並べられる存在になりたかった。しかし、今はそうも言っていられません……。よろしく、お願いいたします」


 領主から許可は下りたわ。遠慮する必要はない。


「あなた、ウィンタカスターに『エス・リーア国は既にダネア族の手に落ちた。北東国境防衛のため軍の増援を派遣しなさい』と伝えて」

「はッ!」


 私は通信魔法使いの侍従にそう伝言を頼んだわ。向こうではすぐに国務卿緊急会議が開かれて、カルロが兵を率いてこちらに向かってくるでしょうね。


「ちょっと待ってください。まだエス・リーア国は完全には落ちていない」

「何を言っているの? あなたは敵を前に逃げてきたのでしょう。なら、あなたの領域はじきに落ちる。同じことじゃないかしら」

「しかし、アリス様の軍が守って――」

「私の軍は、同盟を結んでいないあなたの国を守ることはできないわ。でも、私が過去に1度要求したエスーク領域が、れっきとしたウェスーク国の領土であるとすれば……私にはその地を守る義務が生じる」

「おい……何を言っているんだお前は」

「『当主様』と呼びなさい、エゼルド」

「ッ!」


 言葉を交わす内に、こいつの表情は変わっていったわ。信頼から焦りへ、焦りから怒りへ。まるで裏切られたとでも言いたげね。

 正直、悪い気はしている。けど、私にだって利益もなしに軍を動かすことはできないの。あんたも豪族なら分かってちょうだい。


「俺は今……とても悔しい」

「そうでしょうね」


 彼は俯き、震えていた。


「……領民を、守ってくれるんだな?」

「ええ、私が『ウェスーク国当主として』約束するわ」


 私の言葉を聞いたこいつは、覚悟を決めたように、ゆっくりと私に膝をついた。


「俺の領域を、領民をお救いください。『当主様』」


 私に膝をつく彼の姿が、ふと港町ワルハムの町長――ブレットと重なって見えた。民のために忠誠を誓う主を変える……とても辛い選択を彼らは強いられ、決断した。

 ただ、この2人で違うのは、忠誠を誓うことになった新しい主がどのような行動を取るかよ。


「私はあんたの決断に必ず報いるわ。任せなさい」

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