第35話-襲撃-
ここから新章でございます。
ウェスーク国を復国してから4年半が経ったわ。その間に色々なことがあったけど、基本的にこの国は安定していた。私の完璧な統治のお陰ね。ふふん!
どの出来事から書こうかしら……。まずは、そうね。
私はアトゥス教の1派であるロマーラ普遍教会から無事、「スーク伯」の称号を認められたわ。その影響で、教会や大陸から私の国は「スーク伯国」と呼ばれるようになった。もちろん、バルバリア島内では今でもウェスーク国と呼ばれているわよ。
ミシア国と同様に、サスーク属領、ゲント国、エス・リーア国とも境界を画定したわ。これで、私の国は全方位の境界が確定して、正式に領土を制定できたの。今はオリヴァーが主導するウェスーク州内の検地が進んでいるわ。
この国の公用語は、主に使用する「アグル語(妖精語銀髪系方言)」と、補助的に使用する「ロマーラ語」の2言語を定めた。官職に就いている原種の皆に対しては、なるべくアグル語を覚えて貰うようにお願いしているわ。なぜなら、原種には翻訳魔法を使える者がいるけど、妖精種には存在しないから。
一方にしか伝わらないコミュニケーションって凄く不平等だと思うのよね。だから私は、公文書を全てアグル語で書くように命じた。大法官であるジョンはいつも頭を抱えながら仕事をしているわ。
私の国に仕える魔法使いは年々増えて、今では300人を超えている。ゲント国からの情報によると、対岸でひと際大きな勢力を誇る「バルガンド公」の魔法使い兵数が500人程度というから、そう考えるとまあまあの規模よね。とはいえ、大陸の「統一王国」全体に比べれば私の国なんて到底敵わないから、彼らとは引き続き距離を置いて敵対しないのが無難ね。
平定に成功したクルノール半島については、ウェスーク州には統合しなかったわ。なぜなら、そこに住む原種のバルボ族って言葉も文化も全然違うんだもの。同化するまで妖精種とは別に統治した方が効率的だ――と、国務卿会議がそう判断を下したの。
そのために、私は教会の了承を得てジョンに「男爵」の称号を与えたわ。クルノール半島の多くは「クルノール男爵領」となり、彼に統治を任せることになった。
因みに、彼は実務のほぼ全てをとある部下に丸投げしてるみたい。まあ、上手くいっているのなら私は何も言わないわ。
そうそう、1番大事なことがあったわ。私とジョン、結婚したの!
まあ、ドレイツ長老たちには断固反対されたし、アトゥス教会も、異種婚を認めるかは議論が必要である――って感じだったから、結婚式は挙げられていないのだけど……。それでも、法的に私たちは立派な夫婦よ!
私たち2人はこれから「ウェスーク家」と名乗ることに決めたわ。ジョンは元ロマーラ帝国貴族だから家名を持っているはずだけど……昔に聞いた時、彼は「没落した家に価値はない」と私には教えてくれなかった。だから、私はそれを知らないし、もう知ろうとも思わない。
そんな感じで、私の国はまあ平穏だったわ。ゾーイからあの報告を受けるまでは……ね。
「ルーナ様から緊急の報告です。ゲント国が大規模な海賊に襲われ、首都のキャンタブリーにも迫るとのこと。遣ゲント傭兵団も戦いに参加するそうです」
「大規模な海賊!? もしかして……」
「はい、敵は北方系半魚種の『ダネア族』かと思われます」
「半魚種」っていうのは、その名の通り海に暮らす人種よ。私たち妖精種が羽で空を飛べるように、奴らは下半身をヒレに変化させることができる。なんなら、水中で呼吸もできるらしいわ。
寒い海で暮らす北方系と、暖かい海で暮らす南方系がいて、今話題に挙がっているのは北方系の「ダネア族」――船を襲い、金品を要求する海賊稼業を生業としている不法者よ。
度々、私たちの船も襲撃されることがあるけど、奴らが陸に上がってくることは滅多にないはず……。それなのに、内陸の都市を襲うだなんて。
「ゾーイ、国境警備隊は」
「海岸の警戒監視を強化しております」
「分かったわ」
私は後ろに控える侍従長の名を呼ぶ。
「イーヴ」
「はい、当主様」
「集められる国務卿を全員集めなさい。『緊急会議』よ」
こうして、私の国で2度目となる緊急会議が招集されたわ。今回の件は1度目とは違って、間違いなくこの国にとっての「有事」よ。
「ゾーイ、今の状況をもう1度報告しなさい」
「はッ! ルーナ様から発信された最新の連絡までを纏めますと、まず敵はダネア族で間違いありません。ゲント国北部のローカスターと、南部のバーダーから同時に上陸され、それぞれ戦闘が発生しているようです」
「遣ゲント傭兵団はどこで戦っているの」
「首都キャンタブリーから近い北に向かうとのことです」
「そう」
ゲント国が位置しているのは、バルバリア島の南東端に突き出た半島よ。そこに、北と南からの同時上陸を仕掛けたということは……計画的な侵略で間違いないわね。
「カルロ、あなたはこのままだとどっちが勝つと思う」
「ゲント国はぜッてェ負けねェよ」
彼の表情からは確信の色が見て取れる。
「どうしてそう思うの」
「奴らは俺らと同じで魔法使いを運用している。対して半魚種は魔法が使えねェ。俺らの『復国戦争』と同じ結果になるだろうさ」
敵の数は分からないけど、私の国から出している遣ゲント傭兵団は30人ほど。ゲント国はあと2つ魔法使い傭兵団を雇っているから、単純計算3倍と考えて、かの国の運用している魔法使いは100人近くいる。
「ウェスーク復国戦争」の時、私たちは60人弱の魔法使いでサスーク国軍約千人を相手取り、そして勝利した。
半魚種は陸上では魔法を使えない原種と何ら変わりない。空を飛べる妖精種のようなアドバンテージを持たない。
そう考えると――
「確かに、ゲント国が敗北するとは考えられないわね」
「だろ? 援軍なんかは考えるな。俺らの国を守ることの方が優先だ」
「そうね……。軍はいつでも動けるように準備を」
「今更すぎるぜ当主サマ。既に待機命令は出しているさ」
「さすがカルロ!」
私は外務卿であるジェファーの方を見る。
「もし、ゲント国から援軍の要請が来ても断ってくれるかしら」
「分かった。そのようにしよう」
次は大蔵卿であるアラーナ。
「遠征は考えなくていいわ。国内で軍を展開するための物資使用計画と予算計上、頼むわね」
「承知しました! 早急に作成致します」
その次は侍従長――イヴリン。
「何かあれば私も戦場に出るわ。準備を」
「かしこまりました」
最後は大法官……ではなく、ウェスーク軍作戦参謀のジョン。
「もちろん、用意しているのよね」
「ああ、海からの侵攻に備えた計画がある。カルロ将軍」
「おう」
「パウト・サーエ(プラン海)の実行を提案する」
「承知したぜ。参謀殿」
こうして会議は纏まり、プラン海は実行に移された。この国の官僚たち、兵士たちは厳戒態勢に入ったの。
危機が去ったと私が判断するまで、国務卿緊急会議は毎日開かれることになったわ。ゲント国の戦況や海岸の様子は、逐次、私に報告されていた。
――――――――――
ゲント国が襲撃されてから5日後の緊急会議。戦況はカルロの予想通りゲント国が圧倒的優勢で、私が「そろそろ厳戒態勢を解く頃合いかな」なんて考えていた時。ゾーイがガタッ、と大きな音を立てて急に立ち上がったの。
「何、どうしたの?」
「当主様……エス・リーア軍2千ほどが国境を越え、我が国に侵入したそうです」
彼女からの報告は、私にとって……いや、国務卿全員にとって全く想定外なものだったわ。私は素早く頭を回転させる。
「今は攻撃しないで! 何が目的なのか、私が直接行って確かめるわ!」
私はそう咄嗟に叫んだ。




