第25話-禁忌-
「ごきげんよう、アリー」
またこの夢……。
「お久しぶりね」
久しぶり、ナリー。
「アリー、あなた遂に魔法能力が発現したのね」
……どうしてそんなことが分かるのよ。
「天使種の勘、ってやつかしら」
そうやって雑にはぐらかす所、本当に嫌い。
「もう、すぐそういうこと言う」
それで、わざわざ禁忌を破ってまで、また私の夢に出てきた理由は何なの。
「アリーが使った魔法、それがどんなモノか知っているかしら?」
知らないわよ。いきなり発動したんだから。
「そうよね……魔法の発現は常に突然だものね。あれは、『乙女座系魔法』よ」
乙女座系……本当に存在していたのね。
「おそらく、バルバリア島で乙女座系魔法を行使できるのは幼魔種の子とアリーだけでしょうね」
そうなのね……。って、「幼魔種の子」じゃなくてルーナって呼びなさいよ。前、そのせいで殺されかけたんだから!
「あらあら、それはごめんなさいね。『幼魔種』という単語を知っている者に警戒しなさい、とあの子に教えたのは私なの」
あんたが原因か。死になさい。
「あら、口が悪いわよアリー。それに、天使種は死なないわ」
うるさいわね、私は殺されかけたのよ!?
「まあまあ、落ち着いて。それで、アリーが使った魔法についてなのだけどね、忠告があるのよ」
……また忠告なの?
「えぇ。アリーが行使した魔法に敢えて名前を付けるなら、終焉魔法──『原子の火』。この域(アトゥス)を破壊し得る、とても恐ろしいモノだわ」
終焉、魔法……。
「アリー、あなたの力は神に目をつけられる可能性がある。最悪、裁きの運命が訪れるかもしれない」
……それで、私はどうすればいいってのよ。
「簡単よ。その力を使わなければいい。生涯に渡ってその力を封印するの」
約束はできないわね。ジョンや同志たちのためなら、私は躊躇いなく力を使う。
「……あなたの人生だもの。これ以上、強くは言わないわ。でも、頭の片隅にでも、私がさっき言ったことを覚えておいて」
そうしとくわ。忠告ありがとう。
「ふふ。そろそろ時間みたい。じゃあね、アリー。元気でね」
またね、とは言わないわよ。ナリー。
──────────
私は意識を取り戻した。ゆっくり目を開き、辺りを見渡す。ここは……拠点の治癒室?
私の横には、ベッドに突っ伏して眠るジョンがいた。
「ジョン」
私の声にジョンがピクリと動く。目を覚ましたのだろう。彼は顔を上げた。
「アリス……起きたのか」
「ええ」
「よかった……よかったッ!」
私の覚醒を確認するなり、彼は私に抱きついてきた。
「ッ! いったいわよ、もう……」
「すまん……羽を怪我していたんだったな」
そう言いながらも抱きしめることを止めない彼の肩から、細かな震えが伝わってくる。きっと、沢山心配をかけてしまったわね。
「あの後、どうなったの」
「俺よりあいつらの心配か」
「私はボスだもの」
「そうか、そうだな」
落ち着きを取り戻したジョンから、私は気を失ったその後の話を聞いた。
「まず、お前は5日もの間、気を失っていた」
私が気絶していたその裏で、ジョン率いる本隊はサスーク国軍との戦いに無事勝利していた。これは、とても喜ばしいことね。
ルーナ隊やカルロ隊の活躍で一方的に数を減らされた敵軍は、残りの兵士が3割程になった時点で東へと撤退していったらしいわ。こちらにも負傷者は少々出たけれど、戦死者は全くの0。私たちの完全勝利よ!
その一方で、ミシア国軍との戦いでは行方不明者を8人も出してしまった。なぜ戦死者ではないのかというと、それは、私が戦場となった森を一面の荒野に変えてしまったから。3千の敵軍や、逃げ遅れた同志をも巻き込み、その場にいたモノ全てが灰と化してしまった、らしいわ。
私の異常な魔力を察知したルーナが、咄嗟に秘技──転移魔法を発動したことで、間一髪、その場にいた同志の大半を逃がすことができた、とのこと。
「じゃあ、ルーナたちは──」
「カリンなら今は生存者や戦利品、お前の父親の形見を捜索している。ルーナはお前と同じで魔力欠乏を起こした。だから今はまだ拠点で休んでいる。気絶まではしていないがな」
「そう……」
私は罪悪感に囚われる。突然のことだったとはいえ、味方を巻き込んでしまったのだ。許されることじゃない。
「カリンが言っていた。『あんな質の魔力、あんなエネルギーの炎は初めて見た』とな。お前、一体何があったんだ」
ジョンの疑問に正直に答えたいけれど、ここでナルメアの名を出すわけにはいかない。
「分からないけど、乙女座系魔法が、発現したんだと、思う……」
私は少し内容をはぐらかしながらそう答えた。
「乙女座系、だと……」
彼は目を見開いた。ここまで驚くのも無理ないわ。なぜなら、乙女座系魔法というのは、学院の魔法学者からも「理論上は存在するはず」、とされるだけの幻の星座系統なのだから。私も正直、夢の中でナリーに教えてもらうまでその存在を疑っていた。
更に、そもそもとして、通説では原種以外に魔法能力は発現しないとされているわ。私はそれを覆すイレギュラーになってしまったのよ。
「ルーナから転移魔法を聞かされた時も驚いたが、お前の話はそれ以上の衝撃だ」
ジョンは明らかに動揺している。その一方で、私は自分自身でも意外なくらい落ち着いていた。
「これから、あんたはどうするつもりなのよ」
私の問いに、彼は平静を装いつつ答える。
「あ、ああ。まずはサスーク国との講話交渉に望むつもりだ。そこで俺らの南東側の領土を確定させる」
「ミシア国は?」
「奴らはサスーク国とは違って四方を他国に囲まれている。あれで全軍とは考えづらい。他方面の軍がやってくる前に、早急に旧ウェスーク国領土を支配下に置く必要があるだろう」
「そうね」
良かった。彼に旧ウェスーク国北部を放棄するという選択肢は無いみたい。
「アリス、動けるようになったら俺に付いてきてくれ。ウェスーク国の城を、奪還する」
彼の言葉に、沈んでいた私の心は再び燃え始めた。私の復讐は、城に帰るまでは終われない。




