第21話-初陣・カルロ視点-
俺ァ元々、ダウニウム属州から雇われていた傭兵団の1人だった。「大西進」の余波をもろに食らい、かの地からムー島へと逃げ延びる最中、俺ァ何度も妖精どもと戦った。俺ァな、アリス――あいつの「親父」を知っていた。
「団長……嘘、だろ……?」
直接戦ったってわけじゃあねェが、間違いなく奴ァ「魔法を使っていた」。俺ァまだあの頃、魔法なんてモノ信じちゃいなかった。だけどよ、俺の目の前で団長が理不尽な死に方をしたんだ。俺ァあん時、死に物狂いでその場から逃げた。そうするしかなかったんだ。
今なら分かる、ありゃァ山羊座系の魔法だ。何の魔法か、までは今でも分からねェ。だが、あの時の魔力の質は、間違いなくそうだと断言できる。
俺ァ流れ着いたムー島で生活する中で、故郷のバルバリア島に帰りてェ思いが日に日に強くなっていった。そんためには勉強が必要だと思ったんだ。だから、俺ァ学院に入ることを決意した。
「『繰り上げ合格通知』ィ? ……不合格じゃなかったのか!?」
俺の脳味噌はそこまで大したモンじゃねェが、ダメ元で受けた初めての学院入試で、俺ァギリギリ補欠合格に滑り込んだ。そん時は泣いて喜んだってもんよ。
学院生活を送る中で、俺ァ風の噂で「バルバリア魔法戦線」の存在を知った。すぐに俺ァ詳しい話を聞きに行ったよ。宣伝文句が魅力的だったんだ。
実際に入ってみて、そこで俺ァ初めてアリスを間近で見ることになった。妖精の豪族のお嬢様、ッてェことは噂にゃ聞いていたが、1目見て分かったよ。あいつァ「奴」の娘だって。
最初は逃げ出したくなるほど怖かったさ。だが、接していくうちに分かった。こいつァ、ただのお転婆娘だ。
それが分かってからは、なァーんも怖くねェ。同じガキでもカリンやルーナの方がよっぽど怖ェ。いつかぶっ殺して俺が天下を取ってやろう。そう考えていた時期すらあったくらいだ。
だが、俺ァ見ちまったんだよ。そうだ、ジョンとの「決闘」ン時だ。そん時のあいつの顔は、親父そっくりだった。底知れぬ何かを感じたんだ。
俺ァ久々に、あいつに対して恐怖を抱いちまったんだ。
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戦が始まる時、あいつァ盛大にゲボ吐きやがった。こりゃァ駄目だと思ったさ。戦の前におかしくなっちまう新兵なんざ幾らでも見てきたからな。俺ァ正直、あの瞬間はあいつに失望したよ。
「私のため、組織のために、与えられた任務を完璧に遂行しなさい。以上よ!」
「「「「了解! ボス!」」」」
だがな、あいつァその後すぐにケロッと帰ってきやがった。ありゃァ驚愕以外の何モンでもねェ。そうそう有り得ねェことだ。
「そうだな、お前は『奴』の娘だったな……」
俺ァ誰にも聞かれないぐらいの音量で、そんな言葉を洩らしちまった。
まあ、ともあれ、だ。アリスの命令で遂に、待ちに待った戦が始まったわけなんだが……俺らの出番はすぐにはやって来ねェ。仕方のねェことなんだよ。風エレメントの魔法は融通が利かんからな。
ッてなわけで、俺らの隊が本格的に動き始めたのは、敵の第2陣が突撃してきた時からだ。
「遂に俺らの出番が回ってきたぞお前らァ!」
「「「うおおおおおおおお」」」
「弓を構えろ! 矢を放て! 特にジェファーのやつらには負けんじゃねェぞ!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
肉体強化、風、動力。俺や隊のガキどもはそれぞれ一番得意な方法で矢を放った。
戦に必要なのは剣だけじゃねェ、弓だって立派な武器なんだってことを、俺ァガキどもに常日頃から叩き込んでいる。魔法がねェ頃は、奴らの羽を撃ち抜くことができなきゃ話にもならなかったからな。
「いいぞ、もっとだ。もっと殺せェ!」
カリンの連中も弓を使えるようだが、俺らだって負けてねェ。ジェファーがシコシコ作ってたてっぽー? なんてモンは以ての外だ。
「休んでる暇ァねェぞ! 魔力の続く限り撃ち続けろ!」
戦場ではハイになったやつが一番強ェ。俺ァ戦闘中こいつらを鼓舞し続けた。
敵の第2陣では俺らが剣を構えるこたァ無かったが、第3陣が突撃してくると状況がガラリと変わる。
「おい、そこのお前」
「はっ、ハイ!」
「早くルーナに確認しやがれ。俺ァもう体がムズムズして飛び出しちまいそうだ。お前ェらもそうだよなァ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおお」」」
第3陣の敵の数は、これまでとは桁違ェだった。
敵はすぐ目と鼻の先まで迫ってるってェのに、ルーナの奴、俺らに何の連絡も寄越しやしねェ。あァ、今すぐにでも剣で奴らをズタズタにしてェ。
だが、ルーナの連中が使う貫通魔法は危険だ。肉体強化魔法を使った俺らでも、アレが当たれば一瞬でポックリ逝っちまうだろうな。ちと癪だが、俺らは奴の合図が無いと動けねェ。
「ルーナ様から、返答ありました。『頼みます』、と」
やっと来た。俺ァ自然と口角が吊り上がるのを感じる。
「あのルーナ『様』が俺らを頼ってきたらしいぞ! あとは分かるなお前ェら!」
妖精の殺し方はガキどもに徹底的に叩き込んである。ここから始まるのは、俺ら魔法使いによる一方的な殺戮だァ。
「行くぞガキ共、ぶっ殺せェええええええ!」
俺ァ動力魔法を自分に使い、敵のド真ん中目掛けて宙に飛び上がった。昔はブンブン飛び回る妖精どもに苦戦したものだが、今なら俺も同じ土俵の上だ。
カリンの奴も同時に飛び上がるのが見えた。奴と目が合う。
いいぜェ分かってらァ。これは競争だ。ゲームだ。どっちが大勢殺せるかの真剣勝負だ。
「おいおい妖精種ってのはこの程度かァ? 昔はもっと苦戦したモンだがなァ!」
俺らは向かってくる妖精どもの羽を切り落とし、首を刎ね、心臓に剣を突き刺した。
「ルーナちゃんよォ、大層撃ち漏らしてくれるじゃねェか」
敵に斬られやがったガキも何人かいたが、まァ死ぬこた無いだろ。俺ァ重力魔法でそいつらをジェファーのところへブン投げてやった。
ジェファー隊の治癒魔法ってのはイカれてる。連中、怪我したはずのガキどもをすぐ前線に送り返してきやがった。
「これで、大体半分……ってとこか?」
敵の第3陣を全員ぶっ殺し終えた時、俺の隊のガキどもは最高に昂ぶっていた。戦場特有のイカれた空気感だ。
確か、その頃だったはずだぜ。急に隣で戦っていた連中が突然サーッと波が引くように撤退していきやがったのは。俺ァそれを見て正直ニヤケが止まらなかった。
……さァ、ここからは俺らの独壇場だ。




