第20話-初陣・ジェファー視点-
僕はたぶん、人の心の動きに敏感な体質なんだと思う。地エレメントが僕に発現したのも何か関係があるのかもしれない。とにかく、だからこそ、人の本質にいち早く気づくことができる。
例えばジョン。あいつは異常だ。心中に狂気を隠し持っている。きっとあいつは、人が死ぬことに対して何も思っちゃいない。
この前の「光の柱事件」だって、あいつは上手く組織の強化に利用してしまった。
アラーナの気持ちにだって、僕はもちろん気づいていたさ。だけど、僕は彼女の気持ちに応える気なんてない。
だからこそ、僕は彼女と直接会うのを避け、できるだけ課題として出すようにしたんだが……それでは彼女をかえって困らせてしまった。
この件は、恋というのが僕にとってまだまだ未知数なモノであることを思い知らされた。今は彼女を観察して、恋を知ろうと思っている。
そして最後に、僕らのボス――アリス。彼女は、気が強そうに見えてとても臆病だ。学院時代は「冷徹」だなんて言われていたけど、それはひとえにジョンの影響だろう。
僕は彼女のことがあまり好きではなかった。何の力もないくせに、意地っ張りで、偉そうで、そのくせずっとジョンに甘えている。
でも、僕の彼女に対しての評価は、「あの祭」で大きく変化することになった。彼女は、曲がりなりにも魔法使いであるジョンに決闘を申し込み、失格とはいえ引き分けにまで持ち込んだんだ。僕には分かる。ジョンは彼女に対して手加減なんて一切していなかったし、2人とも本当に全力だった。
本来、弱者であるはずの彼女に、あんな獰猛な顔ができるなんて……。
僕は心の底から驚いた。その瞬間、ようやく僕はボスに真の忠誠を誓ったんだ。
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「うぷ、おええええええええ」
あの会議中、ボスの精神が崩壊していることは察していた。だからこそ、僕は彼女が嘔吐した直後、真っ先に治癒魔法をかけることができたんだ。治癒魔法は精神には作用しないけど、身体の不調だけでも和らげることができる。
「ジェファー、アリスを治癒室へ。……頼んだ」
僕はジョンに頼まれて彼女を治癒室へと運んだ。その最中、彼女はずっと「お父様」とうわ言を漏らしていた。
……僕が以前から感じていた事だけど、彼女はおそらく復讐を心の支えにしている。そんな彼女の精神的支柱は、戦争というあまりにも大き過ぎる重圧が伸し掛かったことで、今にも崩れ落ちそうになっていた。だけど僕は、彼女に見出した別の柱――「本当の強さ」を信じていたんだ。
だから、僕は彼女に付けた治癒使いに、あらかじめこう残しておいた。
「もしも、ボスがジョンの居場所を聞いてきたら、その時はすぐに教えてあげて」
そして、僕の信じた通りに彼女はやってきた。
「私のため、組織のために、与えられた任務を完璧に遂行しなさい。以上よ!」
「「「「了解! ボス!」」」」
彼女の状態は、決して良くなってなんかいない。けれど、僕以外はそのことにきっと気づかないだろう。
彼女は確かに何の力も持っていなくて、意地っ張りで、そのくせ偉そうだけど……いや、だからこそなのかな。いざという時には、彼女は強い。
こうしてボスからの命令を受けて、僕たちの戦いは始まったんだ。
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僕の隊に与えられた任務は多岐にわたる。地エレメントの魔法は万能と言っていい。防御魔法に治癒魔法、それにもし治癒の難しい外傷には、切断魔法で外科手術だってできる。
幾ら超火力を誇るルーナ隊が居たからとて、それだけで抑えられる敵の数じゃないことは分かっていた。後方支援が重要なことに変わりはないさ。
僕たちの出番が訪れたのは敵の第2陣からだった。ルーナ隊の圧倒的火力をも押し退けて、防御魔法の展開が必要なところまで敵がやってきたんだ。
防御魔法っていうのは、魔力で形成した質量のこと。魔力そのものである結界魔法とは違って、魔力攻撃を弾くことはできないけれど、物理的な攻撃には魔力に応じて一定の耐久性がある。
ただ、致命的な欠点として、「消費魔力がとんでもなく重たい」というのがある。形成する質量に比例して、消費魔力は倍々に増える。
だから、敵全面に貼るという大それた芸当はできないんだけど……。まあ、上手く構築することで敵の進路を誘導することはできる。そこに「アレ」をぶち込んでやるんだ。
「よーし、射程内に入ったぞ。鉄砲射撃、始め!」
「鉄砲」。硬い筒の中に、触れると爆発する2種の鉱石と布、それから鉄の玉を入れ、布を引き抜いて点火することで超速度で鉄の玉を発射する武器。射程は貫通魔法に遠く及ばないけど、普通の弓矢なんかよりは全然長い。それに、射程内であれば人の肉体に効果的なダメージを与えることができる。後方支援部隊だからといって、僕たちだって指を咥えているわけにはいかないのさ。
「効いてる、効いてるぞ! よし、もっとだ。魔力の続く限り石を作り続けろ!」
「ジェファー様、それでは本末転倒です」
おっといけない。つい興奮してしまった。僕の発明品が活躍できたことに浮かれて、本分を忘れてしまうところだった。
ただでさえ農地改革旅団に人を取られて僕たちは頭数が少ないんだ。魔力は大切にしなければ。
第2陣までは無傷でいられたこの戦いも、第3陣ではそうはいかなかった。
「矢が刺さってしまったそうです」
「まずは矢を抜いてすぐに止血だ!」
「はい!」
「よーしよく頑張った。大丈夫だぞ」
最初は矢が当たってしまったルーナ隊員が1、2名運ばれる程度だったけど、接近戦主体のカルロ隊とカリン隊が動き出せば状況は変わってくる。
「この子、背中を切られてしまって」
「運んできてくれてありがとう。絶対に治すから、君は安心して前線に戻ってくれ!」
接近戦が激しくなるにつれて、負傷者は増えた。けれど、カリン隊員もカルロ隊員も魔法ですぐに治癒拠点へと連れてきてくれたから、手遅れになった者は1人も出なかった。
致命傷を負ってしまえば僕たちとてどうしようもないけれど……彼らにそんな心配は不要だろうね。
「6名ほどの集団がこちらに向かって接近中です!」
「何だって!? 僕が防御魔法でここを覆うから、君たちは治療を継続。絶対に、僕が守ってやるから安心しろ!」
正直、僕的にはこの時が1番ヒヤッとしたよ。けど、何とか僕が発動した防御魔法の展開が間に合ったこと。それと、こちらの連絡要員として配置されていたルーナ隊員が、貫通魔法で接近してきた敵を全て殺してくれたお陰で、間一髪、僕たちは1番の危機を切り抜けることができたんだ。
「ふう、危なかったね」
僕たちは、敵第3陣の恐ろしい猛攻を受けても出した死者は0人だった。
敵はあと半分、このまま行けば勝てる! そんな空気が治癒拠点で流れ始めた、まさにその時。僕にあの連絡が届いたんだ。
「分かってたんなら、なんか声くらいかけなさいよ」
「僕がそんなことをしたら、ジョンはどう思うだろうね。僕は怖くてたまらないよ」




