第18話-開戦-
ルーナ隊からの報告を受け、すぐに会議が招集された。
「方角からして、間違いなくサスーク国軍だろうな。改めて聞くが、敵の数は」
「千くらい、です」
「なら、プランAで問題無い。拠点にいるメンバーも最速で出撃準備を整えて、こう移動するとなると、接敵は……この辺りになるか。配置に関してだが――」
敵千、それに対してこちらは60も居ない。数字だけ見たら絶望的な戦力差。魔法があるからといって……。
会議中、私は不安でいっぱいだった。頭に何も入ってこない。徴税官の首が飛ぶ瞬間を思い出した。
もし、最悪……最悪負けたら。
私自身の首が飛ぶ想像をしてしまい、胃から何かが込み上げてきそうになる。
縋る思いでジョンを見た。彼は、笑っていた。いつかに見たあの狂気が垣間見える。
ねえ、ジョン、なんであなた笑ってるのよ。
「――っという感じでだな……お、おい、アリス、大丈夫か! しっかりしろ!」
私は盛大に吐いてしまった。
何もかもをぶちまけ、ゆっくりと顔をあげると、皆が私を見ていた。心配そうな表情で。
どうして、どうして皆そんな顔できるの。どうしてこんな大変な時に、皆だって死んじゃうかもしれない時に、私を心配できるのよ。どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして――
「アリスねぇね」
ルーナの声に、私の意識は一瞬だけ引き戻された。彼女は私のすぐ側にしゃがみ込んでおり、神妙な顔つきで私の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫。私『たち』は、もう、失敗しない、です」
また彼女に心配をかけてしまった。何か返事をしたかったけど、意識が朦朧としてきて上手く言葉が出てこない。結局そのまま、私は意識を失った。
――――――――――
気がつくと、私がいたのは治癒室のベッドの上だった。
会議を妨げてしまった。恥ずかしい。情けない。そんな思いから顔を枕に押し付ける。
「目が覚めたみたいだね」
枕から顔を上げ、声のした方をゆっくりと見る。いつも通り飄々としたジェファーの姿がそこにはあった。
「ボスの容態なんだけど、たぶん、体に異常はないと思う。治癒魔法も反応してないしね。これは精神的なものじゃないかな」
どうやら彼は会議を抜け出して、私の治療をしてくれていたらしい。
「会議、抜けちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。作戦立案には僕結構関わってるから大方どのように動くか分かってるし。それに、あんなに顔を真っ青にして倒れたボスを放っておくなんて……『ジョンが』怖すぎるよ!」
「あなたって正直者ね……」
私がこんな状態じゃなきゃ手が出るところだったわ。
「そうそう、これはさっき起こった事なんだけどね。今から戦いに行くって事をアラーナに伝えたら、どういう訳か大泣きされちゃったんだ。こんな時、どうすれば良いか分からなくて困ったよ」
やっぱ1発殴っとこうかしら。
「――ジョンもきっと、こんな気持ちだったんだろうね」
……。
私には彼らが理解できない。
敵の軍勢相手に勝てる確信があるのか。それとも戦いの前に腹を括ったのか。全く不安がない、なんてことはないと思う。皆、どうして平常心でいられるの。
「おっと、僕にできることはもう何も無さそうだし、そろそろ行かないと」
そう言って、彼はこの部屋を後にしたわ。残ったのは私と、彼が残していった治癒魔法使いの2人のみ。途端に部屋はシンと静まり返る。ベッドの上、静寂の中、私の思考はグルグルと回る。
『こんな時に、私だけ横になっていていいの?』
不安に押しつぶされそうになる中、私にそう問いかけてきたのは紛れもない私自身。
『行かないと、私はきっと後悔することになる』
私がこうしている間にも、「その時」は刻一刻と迫っている。時間に余裕はない。
『今が勇気を出す時よ』
まだ、胃がキリキリする。不安が止まらない。怖い。私が死ぬイメージが頭から離れない。でも――
『行かなきゃ駄目!』
気づけば、私はベッドから立ち上がっていたわ。
「ボス、体調は――」
「そんなこと言ってられる場合じゃないの!」
私は叫ぶ。
「ジョンがいる場所を教えなさい。今すぐ!」
私は本部を飛び出した。言葉通り、治癒室の窓から空へと、靴すら置いて飛び出したの。護衛もつけずに出たんだから、きっと後でジョンに物凄く怒られるんでしょうね。けど、私にそんなこと気にしている時間はなかったわ。
「間に合ええええええええええ」
――――――――――
「あいつが倒れてしまったのは、この俺が悪い。ただ、もう敵はすぐそこまで来ている。回復を待っていることはできない。だから、この戦い、俺があいつに代わってお前たちの指揮を執る。異論は――」
「待ちなさあああああああああああああい!」
「ッ!? アリス、お前ッ!」
間に合った……間に合ったわ!
「そんなこと、絶ッッッッッ対に、許さない! 組織のボスはこの私――アリス、ただ1人よ。例えジョンにだって渡さないんだから!」
「ボス、よくお戻りに」
「そうだよなァ。ボスってのはこうでねェと!」
「アリスねぇね、お帰り!」
「僕の治癒のお陰かな」
4将の面々が私を見て喜びの声をあげる中、ジョンはまだ目を丸くしていた。
「何してるのよ、ジョン。早く私が何をすればいいか教えなさい」
「……あ、ああ」
「何よ、しっかりしなさい! さっきまでの威勢はどうしたのよ」
「お前に言われたくはッ……いや、分かった」
ジョンはいつもの調子を取り戻したみたい。実は、私はまだ本調子じゃないんだけれど……それでも私、ちゃんと恰好つけれている。
「アリス……いや、ボス、こいつらに命じるんだ。『作戦通り行ってこい』ってな」
私は頷いた。今更もう後には引けない。きっと、なるようにしかならないわ。覚悟なら学院を出る時にとっくに決めていたはずなのに……私ったらほんと馬鹿ね。
「『私のバルバリア魔法戦線』が誇る4将――カリン、カルロ、ジェファー、ルーナ、あなたたちに命令よ」
「「「「はっ!」」」」
「私のため、組織のために、与えられた任務を完璧に遂行しなさい。以上よ!」
「「「「了解! ボス!」」」」
こうして、「私からの」命令を受けた彼らは、既に配置についているそれぞれの隊へと戻っていった。
「アリス、お前、体調は大丈夫なのか」
「大丈夫よ」
嘘。全く大丈夫じゃない。
「そうか。お前のこと、まだ分かってあげられていなかったみたいだ。すまん」
「今って、そんな弱音吐いている場合?」
「そう、だな……。この話は戦いが全部、終わった後だ」
簡易的な指揮所には、私、ジョン、ルーナが残した通信魔法使いの3人のみ。隣にはジェファーの野戦治癒拠点もあるけれど、それでも、とても静かだった。
「ボス、参謀閣下、ルーナ様の攻撃が始まりました」
「分かったわ。……ジョン」
私が名前を呼ぶと彼は頷き、そして、地図上に置かれた駒を静かに進めた。
「ああ、いよいよ開戦だ」
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