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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第六章
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Children is a mirror that reflects the act of parents .

 午後の授業参観はシャルティアクラスの術学でした。

 特に何事もなければ良かったのですが、気になる点が一つだけありました。


 異様に不機嫌な様子で父兄席に座るティルレッタの父クレティアスの存在感です。


 午前にシャルティア先生と何かあったのでしょうか?

 それとも授業を見た結果、何か矜持に触れる出来事でも起きたのか、あるいは不機嫌になる理由が午前授業にあったはずです。

 それ以外の父兄たちは午前授業の時と同じように術式を見ては驚き、こちらの解説や説明に曖昧な感嘆を上げていました。


 わからないならわからないと言えばいいとは思いますが、微妙に聞きづらい気持ちもわかってはいるんです。


 特に農村出身者は己より賢い人に従うようにできていますからね。

 穏やかな時間で生きる彼らの得意技は良くも悪くも思考の停止だったりします。


 一抹の不安を抱えながら学活を終え、職員室に各生徒の資料を取りに戻り、そのまま各クラスの教師で三者面談です。


 最初はセロ君の父兄であるマヌエラ院長でしたね。


「……隊長。そろそろ腹減ったんスけど」


 ドアを開けるとヴィリーとリリーナ君がいたのでとりあえずヴィリーの頭に通知簿と拳を同時に叩き込んでおきました。


「最初はセロ君の番だと言ったはずでしょうに。どうしているんですか?」

「ん~、リリーナは最初がいいであります」


 何を勝手な、と言いたいところですがリリーナ君の様子が少し変でした。

 いつもどおりのたるんだ顔にほんの少しの緊張した瞳……、この様子には身に覚えがあります。


 何か嘘をついている、それもクラスメイトに関するものです。

 そしてリリーナ君が自発的に行動してしまう相手は大体、予想がつきます。


「そういうことならリリーナ君を最初にしましょうか。長くなるので最後にしたかったんですがね」


 セロ君です。

 おそらくセロ君とマヌエラ院長が感動の再会をしているのでしょう。

 それを見たリリーナ君はセロ君の気持ちを尊重して、少しでも長く感動を味わえるように計らったのでしょう。


 我慢させ続けていましたし、邪魔する理由もありません。

 このまま進めますか。


「ヴィリーには三者面談の説明をしていなかったので、ここで色々と説明しておきましょう」

「いやいや、隊長? つーかオレ様の立場っつーか状況が一番、説明されてないんスよ。いつまで生け捕り扱いが続くんスか? 飯もマトモに食えないじゃないスか」


 そういえばモフモフの姿が見えませんね。

 モフモフの毛が胴体を縛っているので近くにいることだけは間違いありません。


「三者面談が終わったら解放しますよ。ついでに赤ん坊の件もさっさと解決してしまいたいですね」

「マジっスか。あー、じゃぁ手早くお願いしまス。つーか飯くいてぇッスわ」

「いい歳なんだからその欲望ダダ漏れをどうにかしないとぶち殺しますよ?」


 ヴィリーはこれだけ言ってもダルそうな顔で机に突っ伏し続けていました。

 ぶん殴るほどでもありませんし、放置しておきましょう。


 正直、ヴィリーを野に放つのは少し気が引けますが三者面談が終わったら用済みなのも確かです。 


「三者面談というのは生徒たちの『これからどうするのか?』について話し合うことです」


 二人そろって首を傾げるんじゃありません。

 刹那的にしか生きられないタイプの動物ですか。


「そのために『今、リリーナ君がどういう状態でどんな問題を抱えているのか』を自分の視点で話すことになります……、理解していますか?」

「ようするにどうすんの、リリーナ? つーかオレ様が聞いてもいいんスか? これ、義兄さんの役目だろ常識的に考えて」

「非常識にもリーングラードに来たのが運の尽きですね。それよりもヴィリー。わかっていると思いますがここで話したことはちゃんとリリーナ君のご両親に」


 言いかけて思い出しました。


「あー……、まー、隊長も知ってると思うけどアレッスね。ようは一回、集落に戻っとけってことっしょ。リリーナの様子を伝えるためにも」


 ヴィリーはうんざりしたように体を脱力させ、話を手早く元に戻しました。


 ヴィリーの姉、リリーナ君の母親は確か内紛でミンチにされたんでしたっけ。


 ヴィリーの姉を買ったクソ貴族はヴィリーが千切り――串刺しでしたっけ?――にして、直接の加害者だった拷問官は自分が同じような目に合わせてやりました。


 ここまで考えて少し疑問が浮かびました。


「リリーナはどっちかというと先生と伯父さんがどういう感じで出会ったとか、どういう感じで遊んでたとか聞きたいであります」

「マジか? よっしゃ、話してやるか。アレはあー、基本、半殺しにされてた記憶しかねーよ! どうなってんだよ!」


 頭を抱えるように机に突っ伏すヴィリーでしたが、こっちは困惑でいっぱいです。


 どうしてこんな単純なことをリリーナ君とヴィリーの関係を聞いた時に思い出せなかったのか、ということです。


 もっと正確に言うと『関連の薄い情報を意図的に思い出さないようにする思考』でしょうか。

 いつからこんな思考をするようになったのか全然、思いつきません。


 過去から今までに様々な疑問が一瞬にして溢れましたが今は自分のことを考えている場合ではありません。

 重要なのはリリーナ君のこれからです。自分のことは適当にエドあたりに聞いておきます。


「まずリリーナ君の成績ですが」

「全力で聞かないふりッスね」

「黙らないとカブトムシのように頭をむしり取りますよ。リリーナ君の成績は優秀です。学園で最優秀と言ってもいいでしょう」

「マジか! リリーナやるじゃん!」


 リリーナ君は胸をぼよんと前に突き出しました。

 あ、リリーナ君でも一応、親類縁者に見栄を張りたい気持ちがあるんですね。


「ですが気分屋なせいかやる気の影響を受けすぎてしまう傾向があります。そのやる気を出す理由は大体、わかっています。仲間が関係することになると前に出て何かを行い、仲間に危害が加わるようなことがあれば我が身を顧みなかったこともありました。責任感がないわけでもなく、文化祭の時……、簡単に言うと法国の歓迎会ですね。その準備の時も一人でなんとかしようとして泣きそうに――」

「ちぇすと、であります!」


 突然、リューム・フラムセンが飛んできたので源素を集めて払いのけてやりました。

 何気に無詠唱でしたが目の前の源素の動きくらい察知できますよ。


「――泣いていましたのでやらなければいけないことに関してはとても機敏で敏感です。そういうところは繊細な面が見えますね」

「なんかもっと酷くなったであります! そんなの伯父さんに言うことないであります!」

「親側からは学園の様子がわからないでしょうに。だからこそ先生は親や親類縁者にリリーナ君の印象や行動を伝える必要があるんですよ」


 親からすればどんな情報も欲しいところでしょう。

 唇を突き出しているリリーナ君には悪いとは思いますが、そういう『親にも見せない性格』を教えて、それも踏まえて未来について考えてもらわなければなりません。


 仕事というのは才能があっても性格的に辛いと長続きしないものですからね。

 長続きしたとしても心が疲れ、辛い想いをさせてしまうと考えると才能と性格、そして当人と周囲の願い、この四つが合う方向性を見ていきたいものです。


「総じてムラが多い。これに尽きますね」


 自分の口を塞ぐために飛びかかってくる前にリリーナ君の頭を片手で抑え、結論を言い切りました。

 下の方でなんか悔し気な歯の鳴る音が聞こえてきたような気もしますが無視です。


 一方、ヴィリーはそんな様子を微妙な表情で見ていました。


「うっわ……、隊長、とうとう子供にまで手を出すように……」

「ははっ、言葉の使い方をちゃんと考えないと殺すと何度言ったでしょうね?」


 その言い方だと節操ナシみたいじゃないですか。


「その言い方、昔の隊長っぽいッスよ。」


 何とも言えない顔をされて、自分は肩をすくめました。


「さて、そんなリリーナ君の進路ですが……」


 リリーナ君が明確に未来を口にした瞬間は、最近のことでした。


 一人去っていくアルファスリン君の涙を止めるためにリリーナ君は己の未来を決めました。

 他の誰よりも曖昧でどうしたらいいかわからないような目標だったでしょう。


 泣く子を慰めるためについ出てしまった言葉だった、そんな一面もあったのかもしれません。


「見たいものとか食べたいものとか色々できて、あと他国のお姫様に会えるくらい有名になりたいであります」


 臆面もなく言い放ちましたね。

 そして、当然ながらヨシュアンクラスの中でもっとも険しい進路先でもありました。


「なんだ、有名になりたいのかよー。意外っちゃー意外だな。功名心とか出世なんかにゃ縁がないと思ってたのになー」


 ヴィリーは気楽に椅子の背もたれに体重をかけました。


 お前もそういうのと縁遠いから興味もないんでしょうね。


「ヴィリーはリリーナ君にどうなってほしいとか、こんな職業についてほしいとかないんですか?」

「ん? オレ様があれやこれや口で言ってもなぁ。なりてーもんになったらいいんじゃねぇッスか。あー、貴族だけはなってほしくはない程度でそんくらいッスかね。たぶん義兄もリリーナを応援するんじゃねぇッスか」


 親じゃないため、かなり放置しているように見えますがヴィリーの立場というより性格がこんなもので正しい対応です。


 もっとも良い言い方をすれば『子供の自主性を重んじている』ように見えなくありません。

 ですが他のエルフたちからすれば、せっかく人を学んだエルフを手放すでしょうか?


「まぁ、せっかく色んなことを覚えたのに里に就くんじゃなくて『綿渡り』になるつもりってーあたりで長老あたりがブーたれそうなくらいッスかね。それもリリーナが『こうなりたい』って強く思ってんならねじ伏せられるっしょ」

「ほよ? 村長ってそんな感じだったでありますか?」

「アレで結構、ビビりだからな! なんか『悟ってますぅ、めっちゃ歳取って偉いんですぅ』みたいな雰囲気全開だけどよ。消極的意見を出すことに関しては右に出るヤツぁいねぇとこを見るとわかりやすいよな!」


 ヴィリーは姉を探すために里を出て、仲間を救うために腐れ貴族と戦い、戦い続けるために自分たちと出会いました。


 こうした経歴や実際に一緒に行動したことまでは知っていても過程までは聞いていませんでした。

 エルフの長の悪口でしたが所感を聞いたのはこれが初めてなんじゃないでしょうか?


「んで隊長。リリーナが言うような良い感じの就職先ってあるんスか? 口利きで【タクティクス・ブロンド】になれるとか、騎士団長になれるとか」


 コネしか頭にないんですか、この爆発頭。


「先生の顔の広さで楽々、有名人でありますか?」

「ははっ、現実を舐めないようにしましょうね、森の中の箱入り娘」


 さて、ここからは具体的な就職プランを提示する時間です。

 言ってどれくらい記憶に残り、どれくらい言うことを聞くかは不明ですが言わないよりはマシでしょう。


「まず『どの職業が有名になりやすいか』から考えましょう。戦術、戦略の概念はわかっていますね? まず他国の姫に会うくらいの功績を一つの目標と捉え、そこに至るために己が持つものや相手の求めとなるものを考えなさい。とはいえ、今回は授業ではありませんので答えを言いましょうか」


 危うく授業モードに入りそうになりましたが父兄は生徒ではありません。

 あくまで生徒に対して、アドバイスを送るパートナーの立ち位置を崩してしまうわけにはいきません。


 そうしないと父兄は『親を差し置いて子供の将来に口を出す厄介者』として見られてしまいます。


 そう思われては例え生徒のためと心を砕いても、素直に話を聞いてくれません。


 ヴィリー相手なのが少し癪ですが、良い練習相手と考えますか。


「他国がその道の、それも三国一の第一人者としてリリーナ君を認識しなければなりません。そのためにはリスリア内でも有名にならないなりませんね。そのうえで王族が興味を引く――宮入りなどの視野も含めると比較的、目的を達成しやすい職業は医師や学者ですね。しかし、文化功績より武功の方が出世や人の目に触れる機会が多いことも考えると騎士も挙げられますね。学園はリスリア王国の人材確保も一つの目的としているので文官武官共々、ある程度、席が用意されています。時間こそかかりますがやる気次第では有名になれなくともアルファスリン君に会うことも可能ですよ」

「……あ、あぁ。い、いい、んじゃない、スかね?」


 士官の話をし始めた途端、ヴィリーが目を泳がし始めました。


「さて、何か隠し事があるなら今の内に吐き出した方がいいですよ? 吐き出す気がなくとも腹に二、三発、ヘイエルド・ウォルルムを纏った拳をぶち当てればポロポロ吐き出すと思いますけどね、臓物とかと一緒に」

「ちが、違うんスよ! リスリア王国の所属になるってことはアレじゃないスか! 昔の知り合いとかいるじゃないスか!」


 胸倉を掴んで引き寄せるとヴィリーも慌てて言い訳をし始めました。


「一緒に娼館とかいくヤツとかもいるんで女の趣味がバレたらネタにされそうで嫌なんスよ」


 テメェの女の趣味なんぞ知るか。

 しかし、素直に喋ったのでとりあえず腹に【獣のガントレット】を叩き込んでおきました。


 練習相手が気絶したのでもう三者面談の形すら成していない部分については、全力で見ないフリをしました。


「ヴィリーのことはともかく士官も一つの可能性ですよ、リリーナ君。文官だけは個人的な理由でお勧めできかねますが」

「うーん、そういうのはいいであります」


 速攻、却下されました。

 まぁ、リリーナ君に士官が務まるか、と言われると能力的にはともかく、性格的には向かないでしょうね。


 仕事もせずに寝こけている公務員とかぶん殴りたくなりますから。


 しかし、もう少し自由度の高い職業で在野から、となるとかなり条件は絞られてきますね。


「そうなるとどの分野にしても、まずは領主や有名な商館などに顔と腕を知られないと話になりません。それには成功を前提条件に自らを売り込むことや機会を見失わない決断力、そもそも機会を機会だと認識できる情報力と分析力……、リリーナ君」


 そろそろ話に飽きてきた顔をしているリリーナ君の目を覚ますつもりで一度、名前を呼びました。


 呼ばれたリリーナ君は猫のようにピクリとちょっとだけ顔を上げ、じっと見つめてきました。


「ようするに自分から動いていかないと未来永劫、夢は叶いません」


 これに珍しくリリーナ君が眉を歪めました。


 嫌な言い方をした自覚はありますが、リリーナ君にとって痛い言葉だからこそ自分が言わねばなりません。


「やる気の差が激しいということは安定した成功は難しいということです。果物が売っている日といない日が店長の気分で決められている果物屋さんがあるとします。この果物屋さんでリンゴを買いたいと思う人は何人いるでしょうね?」


 もちろん、物流の遅い世の巷(ちまた)では時々こういうお店もなくもない話ではありますが、あえて言うまでもないでしょう。


「リリーナ君がやる気を出す出さないについては特に何も言いません。何故ならリリーナ君は大事なものをちゃんと理解していますからね。ただ信用とはとても地道で地味な、成功の積み重ねということだけはちゃんと覚えておきなさい。特に金の関わる物事では間違いなく、コレが物を言います」


 さて、多くの道がある中で士官は有名になる正当な手段です。

 個人的にお勧めできなくともリリーナ君がそう願うなら伝えようと考えていました。

 しかし、それを願わず、別の道から進もうというのなら自分は伝えなければならないことがまだあります。


「話を元に戻しますよ。リリーナ君自身、何になりたいか。興味があるものでも構いません。言ってもらえますか」

「んー、冒険者なんか面白そうであります。あと……、ちょっとだけ流れの曲芸師とかも、でありますなー」


 確かにリリーナ君の身体能力や性格は曲芸師向きですね。


 曲芸師とは意外な、いえ、そうですか。

 先月からリリーナ君は将来のため、アルファスリン君のため、どうしたらいいか、自分なりに考えていたのでしょう。

 色んなところを旅し、色んなものを見て、色んなことをして、それでいながら有名になれる道を探していたのでしょう。


 少々、贅沢な夢でしょうがそれでいいんです。

 夢は大きく、そこから現実的手段で削り取ってようやく足を踏み出していくものですから。


 何はともあれ、自分なりに何を目指しているかわかっているのなら話が早くて助かります。


「では今の内に何をするべきかわかりますか?」

「何かやらなくてはダメでありますか?」


 ある程度の概要だけなら生徒たち全員、知っているでしょう。

 しかし、実際に就職する時、学園側が具体的にどうするのか話をしていませんね。


「士官等、学園が斡旋する職業の場合、学園側から推薦状を書き、実際に定められた期間内にその場に赴き、後は就職先とのやり取りになりますね。例えば武官だった場合、期日内に騎士団の駐屯地か本部に赴き、そこで入団試練を受けます。合格すればそのまま入団ですね。斡旋外の職業だった場合は基本、君たちが自分から動いていかなければ無職ですよ」

「むー、冒険者になろうと思ったらリリーナが好きな時期に冒険者になったらいいでありますか?」

「簡単に言ってしまえばそんな感じですね。この推薦状というのはどの就職先でも諸手を挙げてもらえる経歴書みたいなものです。学園で今までの学業の過程を収めたという証明書として卒業証書に書いてありますから、卒業証書が推薦状で証明書になります。もらったら失くさないように。再発行は面倒ですよ?」


 割と投げっぱなしなように見えますが就職先を自由に選びたいとリリーナ君が思っているのなら、これ以上はただのお節介ではなく過保護でしかありません。


「今からでもやることはたくさん、ありますよ。迷いや知りたいこと、疑問に思ったことがあるのなら助言くらいできます。例えば冒険者になるつもりなら近場に本職がいるのですから渡りをつけられますし、先生から見た冒険者たちの話もできます。曲芸師に関してはそうですね……、マッフル君のお父さんならよく知っているんじゃないでしょうか?」

「マフマフのお父さんでありますか?」


 二度ほど瞬いた後、リリーナ君はゆっくり頷きました。


 友達の父親が興味のある就職先を知っていると聞いて、少しだけリリーナ君もやる気になってきたようですね。

 少なくとも就職に向けて行動する程度のやる気でしょうが、余った時間を昼寝されるよりマシでしょう。


「最終的な判断は君がすべきです。あくまでリリーナ君の人生、リリーナ君の選ぶ道である以上、先生は責任、とれませんからね。それにリリーナ君の後悔もまた背負ってやれません」


 まだよくわからない顔をしているリリーナ君にこれ以上は難しいかもしれません。


「まぁ、夢を叶えるという最大級のわがままにどれだけの時間と労力をかけられるか、ただそれだけの話ですよ」


 これで三者面談は終わりです。

 リリーナ君は今すぐ行動に起こすみたいで、終わりを告げるとさっさと教室から出て行ってしまいました。


 残されたのは自分と、ぐったりとしているヴィリーです。


「一つ聞くぞヴィリー」


 あまりにも静かだったのでおそらく起きているとは思っていましたが、予想通りヴィリーは腹筋だけで上半身を起こしました。


「リリーナは知ってるッスよ。母親が死んだこと」


 こちらからではヴィリーの顔はわかりませんでした。


「でもあいつは心配する大人全員の前で『集落全部が母親で父親』だと言い放ったくらいッスからね。寂しかったかどうかはオレ様もよくわかんねーッスわ」


 いつも通りの声にどんな感情を隠しているか、そこは聞きません。

 

「なら言いたいこともわかっていますね」

「死に方については教える必要もねーっつーことッスよね。好きで言うようなもんでもあるまいし、本人だって知りたいとは思わねーッスよ」


 それだけ聞ければ十分です。


 自分は指を鳴らしてヴィリーの拘束を解く合図を出しました。

 今まで強固かつしなやかにヴィリーを捕まえていた白い毛がパラパラと床に落ちていきました。


「あと『オレっち』も聞きたいんスけどね」


 身体をほぐすように肩を回したヴィリーは何気なく、振り向きました。


「隊長、リリーナのヤツは学園での生活、楽しんでるッスかね?」


 ヘラヘラした顔でしたが瞳の奥は真剣そのものです。

 こうした瞳の奥に何かを隠す様子はなるほど、リリーナ君との血縁を思わせます。


「正直、恵まれているとは思っていますよ。たった一人、種族が違う中で笑って、思ってくれる仲間がいるということは」

「オレ様のようにッスか?」


 これに自分は肩をすくめました。


 あぁ、その通りです。

 あの【十年地獄】の中でヴィリーもまたたった一人の種族違いでした。


 そして、その性格故に周囲に友人がいました。


「性癖を知られるような友人はちょっと遠慮した方がいいですね」

「いやッスねぇ。そういうのがダチってもんじゃないッスか。例えば隊長がおっぱい大好き人間だってことも――」

「とっとと出ていけ、鎖骨大好きエルフ」


 言い終わらせる前に教室から蹴りだしてやりました。


 一度だけため息をついてセロ君の成績や資料を用意した時に、ふと気づきました。


「……拘束した後は消えたりしないワケですか」


 床に散らばっているモフモフの毛でした。

 このままだと見栄えも悪いので箒と塵取りで掻き取っておきました。


 次にヴィリーの拘束を解く時は外に放り出してからにしますか。


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