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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第六章
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Tomorrow is another day.

 ヴィリエイリー。

 家名は知りません。


 本名かどうかも疑っていましたが、リリーナ君のお陰で本名だとわかりました。


 かつて奴隷になったエルフを解放するために内紛で暗躍し、その時の悪名が【最悪】――おそらく自分の次に貴族を殺したエルフでしょう。


 エルフからすれば英雄。

 エルフの奴隷を所持していた貴族や商人からすれば最悪の敵だったでしょう。


 個人的な活動に限界を感じたのか突然、革命軍に参加したと思ったら自分の部下になり、多くのトラブルを引き起こしてくれたバカです。


 そんなバカでもヴィリーに命を救われたエルフも多いんじゃないでしょうか。

 もっとも自分が見たエルフの奴隷は皆、ミンチになっていましたがね。


 自分が【戦略級】術式師になってからもヴィリーは終戦まで部下で在り続けました。

 そして内紛が終わった後も時々、顔を見せに来る関係です。


 旧知と言ってもいいでしょう。


 しかし、ヴィリーがどんな人間かわかっていても、どんな過去と理由を持っていたのか詳しく知りません。

 知るつもりもありませんでした。


「うぉおお!? なんだこりゃあー!?」


 ヴィリーは雄叫びと共に外に向かって窓枠を蹴りました。


 相変わらずの反応速度ですね。

 窓から外に出れば迫る氷の珠から身を隠すことができます。


 もっともベルガ・リオ・ラム・エアルアドはホーミング機能付きです。

 【自由操作】の技術を併用すれば執拗に相手を追い詰められます。


 校庭に着地したヴィリーの頭上から、飛び出していった氷の珠が降り注ぎます。

 しかし、それを知っていたかのように寸前まで引きつけておいて、右側に走り出しました。


「容赦がねぇにも程があんぞー!?」


 校庭に氷の珠が突き刺さる音と共に自分の窓から外に出ました。


 どうせヴィリーのことです。

 ベルガ・リオ・ラム・エアルアドは全て避け切られます。


 アレの何が厄介かというと、凄まじい精度を誇る回避能力です。

 【軟支配】を多重に展開することで驚異の空間認識能力を身に付け、確実に周囲の状況を理解し、もっとも最適な動きで『死につながる攻撃』のことごとくを避けてしまいます。


 あと戦闘勘もいいですからね。

 【軟支配】では認識できない攻撃ですら『なんとなく嫌な予感がする』という曖昧な理由で回避してしまいます。


 当然、術式だけで追い詰められるとは思ってもいません。


 ヴィリーにクリティカルな打撃を入れたい場合、まず『物理的に回避が不可能な状況』を作らなければなりません。


「というわけで追撃にウル・フラァプリム」

 

 これまた複数の小さな珠がヴィリーを追いかけていきます。

 しかし、ヴィリーに当てるものではありません。


 ヴィリーの周囲を取り囲んで、一斉に光が膨張し、周囲を光に染めていきます。

 簡単に言ってしまえば照明弾です


「ぐぁ!? 目がぁ!」


 激しい光によって、まず目を潰します。


「続いて、リオ・ラム・ペイル」


 次に動きを封じます。


 地面に手を添えて術式を使うと、まるで蛇のように冷気が這い、ヴィリーの足元を氷結させました。


「ウル・フラムセン」


 最後に戦闘行使力を奪います。


 光の線に撃たれたヴィリーは体をブルリと震わせて、地面に倒れました。

 さらに拘束術式もかけておきましょう。


 ここまでやれば普通の相手ならもう何も出来ません。

 ただし、それはヴィリー相手には通用しません。


 こいつの最悪なところは目的のためなら手段や労力を厭わないことです。


 目的に関してはわかりませんが、一つだけわかっていることがあります。

 自分と違ってヴィリーは『生きて達成されるもの』として目的を定めています。


 そのためにこいつは逃走のための手段を三つ四つ、軽く用意しています。

 

 たぶん、登場する前から何らかを仕込んでいますので、周囲にも気を配らないとなりません。

 他にも胃の中に煙玉、歯には『相手を殺すため』の毒薬が仕込まれています。


 油断して近づけば予想もしない反撃を受けることにもなります。


 優秀な気配探知能力と空間認識能力、無駄に高い技術力からなる、本人の戦闘行使力以上の罠技術に警戒しないバカはいません。


 念には念を入れて、倒れている足元から近づきました。


 そして、ハリネズミみたいな髪を掴み、持ち上げます。

 なんか呻いていますが無視です。


「さて、ヴィリー。久しぶりですね」

「――がげげぇ!? この声はもしかして隊長!?」


 ちっ、やっぱり麻痺が解けていましたか。

 おそらく着弾と同時に抗麻痺薬か麻痺治しを飲んでいたんでしょうね。


「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってくんない? アレ? だって隊長、王都にいるはずじゃん? なんで? あ――いや違うんスよ、隊長。アレはちょっとした茶目っ気でして、ハイ。初対面にこう衝撃みたいなのを与えてみたかっただけなんスよ、あるでしょ、そういうことって。ほら、ここにいるのって王国でも優秀な人材だから初対面でバシッと決めておかないと舐められるじゃないスか」


 猛烈に言い訳を並べていますが、どうでもいいことです。

 強いて言うなら窓枠に足をかけるような行儀悪さが目についた程度ですが、それだけで上級術式を撃ったりしませんよ。


 ヴィリーだから撃ちました。


「別に自己紹介を咎めたいわけではありませんよ」

「え――ま、まさか、アレっスか? 隊長の術式具、倍額にして売ったのもうバレたんスか!? あ、アレもちょっと理由があったんスよ。帝国にスね、エルフが奴隷になってるっていうんで渡航のための賃金っていうか、向こうはこっちより犯罪に厳しいッスし、【キルヒア・ライン】とかマジめんどくさかったんで罠の買い足し分とかあって――」

「……転売までしていたんですか」

「あ゛ー!? もしかして知らなかったんスか!?」


 顔が引き攣るのを自覚していましたが、なんてことありません。


「あ、あ、あー! そうか、そうッスね! アレ、枕のことッスね。いや、だってどう見てもジークリンデの領主って隊長に惚れてたっしょ? 隊長もわざとはぐらかして餌を与えないことで飢えさせる的な? そういう作戦っしょ? で、ベルさんが隊長は長期間、家を出るって言ってたから保管するよりも家財の一部を『特定の顧客』に高額で売っぱらって、差額で新しいの買えばいいって言ったことッスか? いいじゃないですか、誰も損してないッスよ!」


 めきめきと腕に力がこもっているのがわかります。

 【獣のガントレット】もすでに発動済でバチバチと音を立てていますよ。


 道理でベルベールさんらしくない策だと思っていましたよ。

 お前も一枚、噛んでいたんなら納得の作戦です。


「違いますよ」

「……えー、じゃあ、留守居の双子に内緒で家庭菜園から野菜を盗っていったことッスか? それとも隊長を出汁にして冒険者の女の子を引っ掛けたことッスか? あとはー、あとは……、あ! 隊長の名前で色宿に泊まったことッスか? アレはランスが提案したんであってオレ様じゃないッスよ!」

「殺すぞ、クソ野郎」


 今すぐこのクソを千切りにして山にバラまきたい衝動に駆られましたが、まだ我慢です。


「お前の罪は大量にあるが、もっとも罪深いのは――」


 瞬間、周囲に煙が充満しました。

 それと同時に指先に絡んでいた毛が解ける感触がありました。


 必死で話していたのは視界が回復までの時間稼ぎでしたか。

 いつの間にか足元の拘束も外していますし、すでにナイフで毛を切っています。

 この抜け目なさが内紛を生き抜いてきた証拠ですが――


「逃がすか」


 ――今回の【獣のガントレット】は黄属性の術式をこめています。

 この【獣のゲルブガントレット】は相手を痺れさせることもできますが本命は【接色】の効果を引き出しやすくするためです。


 何に繋げているかは簡単です。


「いってぇええ!?」


 もちろん、ヴィリーの頭部です。

 逃げようとしたところをグイッと頭を引っ張られたせいか仰向けに転がっていました。


「逃亡罪も付け加えてやる。その上で一番の罪は――」

「いや、ちょ、こんなのちょっとした茶目っ気ッスよ!」


 茶目っ気で転売や窃盗、名称詐欺しねぇよ。


「――リリーナ君を不思議生物にした罪だ」

「だから! ちょっと勘弁……え? リリーナ!?」


 そのまま顔面に下段突きしてやりました。

 盛大に手足を放り出して顔面を陥没させるクソエルフを引っ捕まえて、職員室に戻りました。


「お騒がせして申し訳ありません。ひとまず変な輩は退治しましたのでご安心ください」


 出迎えたのは微妙な顔をしたアレフレットと恰幅の良い女性。

 朗らかな笑顔のヘグマントに落ち着いた妙齢の女性。

 ちょっと困った顔のリィティカ先生にいつも通りのピットラット先生でした。


 シャルティア先生の姿が見えないのはまだ医務室から帰ってきていないからでしょう。


 そういえば赤ん坊の姿も見えませんね。

 学園長室でしょうか?


 そう思った瞬間、学園長室の扉が開き、赤ん坊を抱えた学園長が現れました。


 今朝はあんなに泣いていたのに、まるで反省したかのようにおとなしく学園長に抱かれています。

 というか寝ていますね。


 静かで結構なことです。


「シャルティア先生が遅れているようですが、ゾフィアから連絡は受けています。今回の議題の内容は後でこちらが入れておきましょう。では今、学園で起きている様々なことを説明しましょうか。その前にそちらのご婦人の紹介は済んでいますか? ヨシュアン先生」

「まだです」

「結構。では、まずアレフレット先生から」


 アレフレットが微妙な顔をしていますが、意を決したように指を女性に向けました。


「家内だ」


 恰幅のよい女性はニコリと笑うと頭を下げました。


「初めまして。私はエリノワール・フランクハインです。主人がいつもお世話になっているようで」

「初めまして、学園教師のヨシュアン・グラムです。アレフレット先生には――」


 何かお世話されたことありましたっけ?


「――様々な幅広い知識に助けられています。時には互いに案を出し合うこともありまして、良い同僚に恵まれたと感じています」

「なんだ、今の間は」


 アレフレットが眉根を逆立てていましたが、すぐに痛そうな顔になりました。

 足踏まれていますね、親指です。


 この瞬間、力関係を理解しました。

 アレフレットは間違いなく奥さんに頭が上がりませんね。


 次にヘグマントは『わかっている』という具合に胸筋を強調してきました。


「ふぅむ! もうわかっていると思うが俺の妻だ! 名をグラリア・ラーシーという!」

「初めまして、ヘグマントの妻グラリアです。夫がいつもお世話になっております。夫から来る手紙にはいつも皆様が優秀で、精力的に思慮深い方々だと書かれていたので、私も皆様に会うのを楽しみにしていました。これからも変わらず、良いお付き合いさせていただければと思います」


 丁寧かつヘグマントを立てる奥様ですか。

 見た目通り、物静かで思慮深い人ですね。


 むしろヘグマントの奥様というには……、いえ、逆だからこそ成立することもあります。


「初めまして、学園教師のヨシュアン・グラムです。ヘグマント先生には至らない点を助けてもらうこともあり、生徒のこともよく考えていらっしゃるのでとても頼りになる同僚です。こちらこそ末永いお付き合いをお願いしたいところですよ」


 というか二人共、半殺しの変人を抱えた男相手に動じませんね。

 大人力が圧倒的です。


 しかし、どうして二人の伴侶が……、そう考えて思い出しました。

 そういえば二ヶ月ほど前、性犯罪関係の話を少ししましたね。


 そのときにアレフレットとヘグマントは妻を連れてくる、という話になっていました。

 グランハザードの商隊に乗ってやってきたとなると、これまた面倒な話になってきますね。


 少なくともグランハザードは『二人がこちらに来るのを知らされていた』ことになります。


 情報が少ない時点であれこれ考えるのは後にしましょう。

 少なくとも朧げですが、グランハザードと誰が関わっているのか見えましたので、後はその線を主軸に情報集めするだけです。


 さて、ここからは授業参観の話になりますね。

 ヘグマント夫人に一礼してから学園長に向き直ると、学園長はこちらを見ていました。


「ヨシュアン先生がまだですよ」

「誰か紹介するような人がいましたっけ?」

「貴方が手に持っている、その人のことですよ」


 あぁ、そういえば居ましたね。

 軽く忘れていました。


 後でみっちりと尋問しようと捕獲していたんでした。


「コレはヴィリエイリーというバカ……、失礼。自分の元部下です。リリーナ君の叔父に当たる人物で少々、問題があったように見受けられたので折檻しました。これ以上、問題を起こすようなら息の根を止めますのでお知らせください」

「む? 元部下ということは蒼刃遊撃隊の者かね?」

「えぇ。遊撃隊のスカウトでした」


 スカウトとして破格の性能を持っていることは否定しません。

 内紛の時、コイツが一人で作った罠が戦局を左右したこともありました。


 ただそれ以上に人格的に最悪の類なので、定期的にオシオキします。


「つまり、学園生徒の父兄ですか」

「本人そのものが愉快犯的思想家なので、父兄と拘らずに『本当のこと』を問い詰めるべきです」


 ヴィリーへの信用度がゼロなのは今更、言うまでもありません。


「タガが外れるのは結構ですが、被験者の家族から計画への反対者がいては全体の計画に歪が生まれかねませんよ」


 学園長からのお叱りはごもっともですが、自分からすれば疑問なんですよね。


 まず、このバカは基本、糸が切れた風船です。

 グランハザード商会と一緒に来たのか、来たとしてどういう経緯があったのか、それとも偶然現れたのか、そもそも今まで何をやっていたのか、わかっていることの方が少ない現状です。


 ヴィリーの言葉をそのまま信じるなら『ヴィリーはここが政府の施設だと知り』、なおかつ『自分とリリーナ君が参加していることを知らない』ことになります。


 グランハザードの思惑にヴィリーも関係しているのか、という部分も気になります。


 あぁ、そういえばヴィリーが義務教育計画をどう思っているか、という部分も聞いておくべきですね。

 やはり尋問は必然ですね。


 もしかするとヴィリーの情報からグランハザードの思惑がつかめるかもしれません。


「さて、それぞれの奥方にはお住まいを案内させたいのですが、危急の事情がありまして、こちらから案内を出しますのでお住まいで良人のお帰りをお待ちしていただきます。お二人はよろしいですか?」


 特に学園長に反対するつもりはないようで、エリノワールさんとヘグマント夫人はゆっくり頷きました。


「では、シェスタ」


 シェスタさんがわかっている、という無表情で立ち上がりました。


 シェスタさんに連れられてエリノワールさんとヘグマント夫人は職員室から出ていきました。


 ここから先は仕事なのでご遠慮願ったんでしょうね。

 学園で会議するアレコレは言ってしまえば教育のノウハウの塊ですので、会議内容は明かせません。

 会議録なんか鍵で厳重に保管されていますしね。


「さて、では始めましょうか。最初に周知事項があります。今日の昼に盗賊が学園に侵入してきましたが無事に事なきを得ました。しかし、それと同時期に商隊が学園に到着し、現在、四聖団が居留していた広場に滞在しています」


 その辺はそれとなく知っていたので教師陣に変化はありません。


「問題はその商隊――グランハザード商会の商隊が連れてきた人員が学園生徒の父兄だったことです。彼らは義務教育、いえ、教育の重要性というものをよくわかっていません。一部はよくわかっているようですが義務教育である必要性に疑問を覚えています。現状、疑問で済んでいるのは国政の実験だからでしょう。私は教育の重要性を父兄に伝えるために明日、授業参観をすることに決めました」

「――授業参観、というのは」


 アレフレットが少し困ったように眉を歪めて、身を乗り出しました。


「我々の授業内容を父兄に見てもらうことです。正しく参観ですね。父兄だと言っても授業を見せるのに抵抗を持つ方もいらっしゃるでしょうが、簡潔に言ってしまうと義務教育の教育方法は基本、秘匿し続けることは不可能です」


 これは基本、教育というものが秘されるものだという認識のせいでしょうね。

 鍛治職人は跡取りやそれに匹敵する者には全てを教えますが、適当な弟子だった場合、決まった技術しか教えません。


 義務教育の教育方法は後者に近い性質があります。


「留学生制度を代表として、ある程度、教育方法の開示が求められます。しかし、現時点で全てを公開するつもりもありません。意味はわかりますね?」

「……結果だけを見せれば良い、ということですか」


 いつもならシャルティア先生が提案するようなアイディアを学園長自らが言い出したのはおそらくシャルティア先生がこの場にいないからでしょうね。


 自分に提案を振らなかったのは授業参観を提案したからでしょうね。

 あまり自分が提案しすぎる、あるいは『提案しすぎているように見える』のを避けたかったのだと思います。


 今更な話ですが、これに関しては自分でも気をつけています。

 例えば大きな全体のアイディアを提案しても、小さな現実的なアイディアには口を出さないようにしています。


 学園長もその辺に気づいているのでしょう。


 パワーバランスのためか、それとも自分に問題や責任を押し付けないためか、そこはわかりませんが学園長のことです。

 意味のない発言ではなかったはずです。


「授業中に起きたことですから皆さんの意見をまとめる場を用意できませんでした。その理由に父兄にシェーヴァーン領の領主がいた、とだけ説明しておきましょう」

「シェーヴァーン卿か……」


 アレフレットが苦い顔をしていました。

 何かあったのでしょうか?


 何故、アレフレットがそんな顔をしているんでしょうね。

 自分と同じようにリィティカ先生も不思議そうな顔をしていました。運命ですね。


「……シェーヴァーン卿は西方、海沿いの領地に強い発言力があるんだ。僕の居た領地でも同じように影響があったくらいだ。しかし、急な来訪だったんだから今日一日くらい……、いや、もしもシェーヴァーン卿が計画反対派だった場合、下手な対応は僕たちの評価だけじゃなく義務教育にも向けられてしまう、学園長の急な対応にも頷ける」


 アレフレットは説明しながら己を納得させるという、特殊な言い訳で心の平穏を保とうとしていますが、なるほど、合点がいきました。

 珍しく学園長が即決してみせたのは対応と時間こそが一番の武器だったからでしょうね。


 簡単に言えば心理学の一種です。


 一つのリンゴがあったとしましょう。

 ある商人はリンゴの良いところばかり話し、大きな声で熱烈にリンゴを売ろうとしました。

 ある商人はリンゴの良いところを話しましたが、悪いところも話しました。そして、リンゴを一番、美味しく食べられる手段を一人一人に話して売りました。


 どちらもただ売るのならば問題ありません。


 しかし、どちらが興味を惹かれ、親近感を持ち、長く売れ続けるかと言われると後者の方です。

 後者は『相手の立場に立って話している』から信用されやすいんですよね。


 クレティアスはこちらに不信感がありました。

 しかし、『こちらがどう対応するか』を提示したことで安心感を持ったはずです。

 学園から明確な答えは『予定』しか出していないのに、それだけで納得した父兄もいます。


 当日の細かい対応は今から決めるというんですから、一種の詐欺ですよね。

 しかし、そこに不快感を覚える人の方が少ないのがこの手段の利点です。


 良い風に言えば、待ち時間を穏やかに過ごしてもらおうという学園長なりのもてなしであり、明日までの時間を安心に過ごしてもらおうとしているのでしょう。


「ではそれぞれ、具体的にどのような授業を見せていくかの話をしてもらいますが、まずは学活を終わらせてから、再び戻って全員で意見を出し合ってましょう。そのときに問題になりそうな部分を指摘しあいましょうか」


 学園長の一言で自分たちは職員室から出ていきました。


 明日の授業内容ですか。

 シャルティア先生の言うようにテスト的な授業にしますが、それで済むんでしょうか?


 これから生徒たちに授業参観があると伝えた場合、どんな騒動になるんでしょうね。

 今から胃がキリキリしてきそうですよ。


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