表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第四章
240/374

広がる疑心、その先に

 フロウ・プリムの明かりを挟んで、『暗黒』イグレシオは自分と向かい合っていました。


 『暗黒』イグレシオという女のことを自分はよく知りません。

 知っていることはリューミン八傑衆で一人、怪しげなローブで顔を隠しているくらいでしょう。

 もっともベルベールさんが学園の食堂を任せている以上、こちら側の敵ではないのでしょうが、敵でないなら警戒しないなどというのは甘えでしょう。


 左右の側頭部からニョキリと生えた乳白色の角。

 額まで捻れながら先端が向いており、どこかそういう装飾品のように見えます。

 しかし、年齢まではよくわかりません。

 自分よりも年下に見えるようで年上にも見えます。二十代、いえ三十代、年齢を感じさせない顔というか表現に困ります。

 肩まではだけた服に短めのスカート。

 分厚いチョーカーとアンダーが一体化しているのか露出感はほとんどありません。

 何より特徴的なのはあの眼。果実がドロリと腐ったような艶のない眼は見るたびに心に爪を立てます。


 正直な感想を言いましょう。


 イラついて仕方ありません。


「こんな時間に何をしているんですか? ただでさえローブを着て、妖しい風貌なのに。いい機会です。ついでに顔を隠す理由も聞いておきましょうか。貴方は色々と不審がすぎます」

「何をしていたか、だが。餌をやっていた。このウルプールについて知っているか?」


 見た目と違うダミ声のせいで違和感しかありません。


「何がです?」

「ウルプールは北方の原生生物だ。雪原が生息地でヤグーのソレとは比較にならない。なのに今まで元気だった理由がわかるか?」


 ヴェーア種の中でも有角種は肉体的に人とそう変わりません。

 代わりに強い適性を持ち、中でも不思議な技術を持つ種もいます。


 たしかヴェーアゴウトは……、思い出しました。


 咄嗟に『眼』を開き、視界を【源理世界】に移しました。


「ウルプールの食事に調整した冷血剤を混ぜ、この地でも生きられるようにしていた。食すつもりがないのなら、この土地で生かすのは無理がある」

「そうですか。ご親切にどうも。ですが、こそこそ夜中に与える必要もありませんね」

「昼の反省会が長引いた。いつもはあのエリエスという少女に冷血剤入りの野菜を渡していたのだが、間に合わなかった」


 こっちの警戒心とは裏腹に、呑気に話を続けるイグレシオ。


「ところで……、どうして警戒している」

「警戒しないわけにも行きませんよ。今の貴方は不審者です」

「そうか。てっきりコレが原因だと思っていた」


 イグレシオは自ら角を一撫でし、つまらなそうに言い放ちました。


「『ヴェーアゴウトは悪神の末裔』か? ただの角だというのに」

「そっちではなく『眼』こそが原因でしょうに」

「……博識だ。さすが教師」

「褒めても疑いは晴れませんよ」


 ヴェーアゴウトは他のヴェーア種と違い、長く、それこそ歴史的に忌避されてきた人種です。


 その理由が『魔眼』です。


 簡単に言えば、相手の精神に干渉する眼です。


 勘違いされがちなのが『魔眼』は見たものの心の表層に干渉するのであって、洗脳や意思に反した強制をする力なんてないことでしょう。

 以前、ポルルン・ポッカの森に行く途中で理性の表層を溶かされかけた時の状態に近く、しかし、圧倒的に格下の力です。

 力としては非常に弱い部類でしょう。


 自分のように精神抑制法が使える者、優れた指導者や人格者、心が強い者にはそう効きはしません。


 ですが、術式師にとって心の平坦化を乱されることは術式不全を引き起こす要因につながります。

 術式師でなくとも、見つめられるだけで心が不安になるような眼を見て、黙っていられるでしょうか。


 結果、ヴェーアゴウトは人の心を乱す悪神の末裔として教会に判断され、長い弾圧の中にいます。

 今もです。ヴェーア種への差別法がなくともヴェーアゴウトだけは未だに差別される対象です。


 彼女たちが生まれ持つ、その眼のせいで。


「いや、疑っているようには見えない」


 そして、先ほどから自分は『魔眼』の影響下にいます。

 気づいてから『眼』を使って直視を避けましたが、すでに影響は出ています。

 こうなると相手の『魔眼』を潰すか時間切れになるか、どちらかの手段でないと影響からは逃げられません。

 さすがに夜分に動物に餌をやろうとした、だけで目を潰すわけにもいきません。

 時間切れも相手から理由を聞いてからでなければ、こっちが不審です。

 なので影響を最小限に抑えるために『眼』を開いたままで話しています。


 それでも、どうしても抑制しきれない感情が表に出ようとしています。


 自分の中でもっとも深く、黒く、抑制するつもりのない感情。


「憎んでいるようにしか見えない」


 憎しみ。


 おそらく先のアルベルタのような顔も、憎しみが見せた見間違いです。

 人間の顔なんてそう大きく変わりはしないのですから、似た表情をしただけで誰かとよく似た顔だと勘違いすることはあります。


「『魔眼』に人を支配する力はない。強い力もない。ただ心の表面を撫でる程度。それでも貴様は『憎しみが表に出る』のか。私にふくむところはないだろ?」

「えぇ、ありませんね」


 イグレシオを憎む理由はありません。

 被差別対象であり、ただの料理人で、しかもベルベールさんのお墨付き。


 憎む理由なんて欠片もありません。


「顔を隠していた理由は理解してもらえたか」

「えぇ、多感な生徒たちに見せるわけにはいきませんね」


 少し影響がありすぎます。

 是非ともローブを着ていて欲しいですね。今すぐに。


「自覚があり、『魔眼』を抑制する術があるのならこちら側から何も言いません。それは国からも最初に雇われる時に言われたのでしょう?」

「そうだ」


 ここに居る理由に筋が通り、そして、身をさらすことへの悪影響を考えるととやかく言うこともありません。


「なら、いいですよ。疑いは晴れました」

「拷問しないのか?」

「無実の人間を斬るほどではありませんよ。これでも真っ当な人間のつもりでしてね。夜は危ないのでくれぐれも気をつけて――」

「嘘をつけ。『魔眼』を見て、そんな眼ができる人間が真っ当だとは言わせない」


 人が早々と話を切りあげようとしているのに踏みこみますか。


「黒い、人すらも食い殺そうする悪鬼の眼だ」

「話はそれだけですか?」


 少なくとも険しくはなっていると思いますよ。


「いや、興味がある。今この状態でしか聞けない話もある」


 『魔眼』の影響下でないと話せない内容も何も、自分にはなんの利益もありません。

 さっさと去ろうとしても背中を向けても、イグレシオは声をかけてきました。


「リューミンをどう思う?」


 足を止めたのは興味があったわけではなく、もっと単純な理由です。

 問われたら答えてしまう、教師の病気みたいな性質のせいです。ちくしょう。


「アレは光のような女だ。そうだな、私がリューミンの母の仇だと知っていたか?」


 仇。

 その言葉は無視しようとしても聞かざるをえない単語でした。

 一つ、ため息をついて自分はイグレシオに向き直りました。


「リューミンがソレを知りながら私を八傑衆に加えた理由。興味はないか?」

「聞いてどうするんです? 人の過去なんて」

「聞きたそうだからだ。見ろ」


 ヴェーア種とは思えないほど綺麗な手を見せてきました。

 料理人だから毛を剃っているんでしょうね。

 女性らしい細い手は小さく震えていました。


「今、私は殺されると思っている。表層に出てきた憎しみだけでこれだ。すぐに逃げて帰りたいのを我慢してまで話すのだ。それでも付き合えないか」

「……我慢するような話でもないでしょう」

「我慢してでも聞きたい、あるいは問いたいのだ」

「わかりました。話してください」


 ここからが本題だと言わんばかりにイグレシオも小さく足を動かし、話しやすい格好をしました。


「リューミンたちが住む料理界を表とするのなら、当然、裏もある。私は裏料理界の厨師だった」


 改まった話っぽかったのにやっぱり料理の話ですか。

 いきなり別方向からハードルを上げてきましたよ、こいつ。


「理由など大したことではない。ヴェーアゴウトは殺されないだけマシだ。流れ流れ辿りついたのが裏料理界だっただけのこと」


 可哀想に。心の底から同情しました。

 どんな罪人でもそんな人外魔境に放りこまれたりしませんよ。


 大体、裏料理界と言われてもまったく意味がわかりません。

 そもそも料理界自体が自分にとって謎の塊です。


 イヤなものだということだけはハッキリしていますが。


「首領バルバールが目指した支配は――」

「知っている前提で話を進めないでください。裏料理界について、まったく知りません」

「――ん? んん、そうか。なら表の料理界が人を幸せにして、健康にするものだとしよう。裏料理界は逆だ。人を殺す、あるいは不幸せにする料理を作るところだ。どちらも美味いものを作る場所であるが目指す目的が違う」


 たじろがないでください。

 貴方たちの常識は世間一般での非常識ですからね。


「このウルプールに与えた野菜は裏料理界の技術の応用だ。もちろん、そのものの目的で使えばウルプールを体温で殺すこともできる」


 人を殺すための術式を守るために使い、生徒たちに教えているように裏料理界とやらの技術も同じことができるのでしょう。


「私とリューミンは幾度となく戦った。法国で、帝国で、そして王国でもだ。何度となく負け、その度にリューミンは言ったのだ。『わちきと共に料理で人を幸せにしないか』とな。おめでたい話だ」


 リューミンたちのあのテンションを思いだし、言い出しそうで納得しました。

 しかし、その言葉の重さをリューミンは知っているのでしょうか?


 それはグズグズの足場で踏ん張ってきた人を無遠慮に引っ張り上げ、見たくもない手足の泥に光を当てて直視させようとする傲慢な言葉ですよ。

 おめでたいといったイグレシオに、不覚にも共感を覚えました。


「アレは知らないのだ。狂ったように内臓ばかりを食す奇人、うつろな眼でスープを貪る豚、口に物を詰めこむ道具を作るために裏料理の技法があることを。我々にとって人は生産された料理を消費させるための道具でしかない。美味さは道具として成り立たせるための一手段だった。この世のさかしまはどう振っても救いようのない我々のようなものがいる」

「まるで料理を【魔薬】のように言いますね。ただ美味しいだけのものにそんな人格を壊す真似できるはずがありません」

「【魔薬】だ」


 その瞬間、自分は意識を切り替えました。

 今までイラつくがただの雑談だとばかり思っていた会話が、自分の領分だと理解した瞬間でした。


「アレらの素材は【魔薬】と変わらない」

「残念ですが、詳しく語ってもらいましょうか。その理由ができた」


 自分も足を組み替えました。

 体重が無意識に足の指に傾き、戦闘へと意識を持っていきました。


「らしくなった。そちらが素か」


 イグレシオも雰囲気の変化に驚きながらも、しかしというか、やはりというか、慣れているようです。


「と言ってもすでに裏から引いた身。裏料理界が確保していた流通経路も崩壊と共にわからなくなった。少しなら作れるが、材料が特殊だ。手元に【魔薬】はない」

「身の潔白を言葉で証明して欲しいとは思いません。必要なら処分するだけです。人を【狂化】させる薬を知っていますか」

「【アペリティフ・フランメ】のことか。あるいは【フィーア】か」

「【アペリティフ・フランメ】です」

「アレか。たしか先代赤鉄位だったな。アレの製作者は。だが、あの駄作の何が聞きたい?」

「駄作?」

「アレは料理に使えない。何を混ぜても味を主張する。何かに混ざることを拒否する味だ。なら分解し、料理に溶けこませるのだが……、作り方がわからない」


 この人たちは本当に料理しか頭にないんですね。


「途方もなく特殊な作られ方をしたのだろう。もはや専用の知識と機材がなければ生産できないだろう。となるとそのうち、なくなるな。失伝だ」


 できれば失伝したほうがいいでしょう。

 悪影響しかありません。


「先代赤鉄位と裏料理界に繋がりは」

「知らない。だが作られた【魔薬】の一部は裏にも流通されていた。【バンカーキーカーナム】や【艶】はまだ使えた。味の主張も控えめで混ぜやすく、少量で効果がある。塩と相性が悪いのが欠点だ」

「味の情報は要りません」


 いちいち味について語らないでください。


「入手方法は」

「さて。最大の顧客だった我々がいなくなった今、どこが持っているか――国か、秘された錬成師か。あるいは密売屋の倉庫の隅か」


 思った以上に線が薄いですね。

 アルベルタはあまり裏料理界と接触していなかった、ということでしょう。

 しかし、それらは主旨に関係ありません。


「では貴方は【アペリティフ・フランメ】を――止めだ」


 自分はイグレシオの喉を二の腕で押すと、そのまま壁に叩きつけました。

 リオ・ブレドを手に使うと逆手持ちのナイフのような形状に設定し、イグレシオの耳に触れるか触れないかの距離に突き刺しました。


「嘘を吐いたと感じたら殺す。躊躇っても殺す。返答は短く。料理の話はするな。では質問する」


 痛みと苦しみで顔を歪めてはいても、平静を保っているように見えました。


「お前は【アペリティフ・フランメ】を誰かに渡したか?」

「いや、持っていない」

「ヴェーア種のメイドにだ」

「知らない」

「本当か?」

「足を洗った。少なくとも裏料理界とは関わりはない」


 精神的な動揺も、嘘をついている仕草もありません。

 暫定的に信じていいでしょう。


 自分はイグレシオを手荒く開放しました。


「もしも【アペリティフ・フランメ】を持っている者がいるとして、どんなヤツだと思う?」


 ゲホゲホと嘔吐いても待つつもりはありません。


「……わからない。ただ、【魔薬】の在庫を抱えていそうな組織は知っている」

「どこです」

「魔獣を信仰している、訳のわからない組織だ」


 先月、レギィのメイド、プルミエールは誰かに唆され解答用紙を奪い、【幸せになる薬】と称した【アペリティフ・フランメ】を飲みました。

 結果は犯人への手がかりを失うという大失態。


 さらに学園長から聞いた話ですが、この薬には魔獣信仰組織とやらが関わっているそうです。


 レギィへと渡すはずだった学習成績を入れ替えた犯人と一緒になっていてわかりづらいのですが、犯人は二人いるのです。


 学習成績を入れ替えた犯人が貴族院のスパイだったと考えると【アペリティフ・フランメ】を渡した犯人が魔獣信仰組織の者でしょう。

 では、魔獣信仰組織というのは一体、どんな組織でしょうか。


 これについては学園長は何故か口に出しませんでした。

 察しろ、か。あるいは言ってはならないようなことか。


 学園長が喋らない以上、どちらにしても魔獣信仰組織について聞いておかないと話になりません。


「その組織について、洗いざらい吐け」

「……アレは組織であって組織ではない」


 組織であって組織でない?

 全然、ピンと来ませんね。


「実態がない。あれは帝国にも法国にも、王国にもある。そもそもが組織かどうか定かではない」

「……そんな組織があってたまるか」

「だが、実際にある。少し例えるのが難しい」


 イグレシオはポツポツと魔獣信仰組織について語りました。

 要領を得なかったのはイグレシオ自体がよくわかっていなかったからでしょう。

 それでもわかったことを自分なりに頭の中で整理してみました。


 まず一つの村があるとします。村Aとしましょう。

 その村A全部が魔獣信仰組織だとしましょう。

 彼らは何もしません。普通の生活を営み、普通の生活の中で生きています。


 別の村、これを村Bとしましょう。村Bで邪悪な企みを思いついた者がいるとしましょう。

 そいつは村Aと同じ魔獣信仰組織です。

 ですが、そいつと村Aは無関係です。


 そいつが村Aへ魔獣に関する素材の提供を迫ると何故か村Aは協力的になります。

 そして、そいつが去るとまるで関係なかったように村Aの人々は普通の生活に戻ります。


 たしかに同じ魔獣信仰の村なのですから同じ集団のように見えます。

 しかし、村Aの人々と村Bの人々は実際、交易をしているわけでもなく、関わり自体がありません。


 組織とは言えません。

 彼らは命令系統が存在しませんからね。

 ですが、明らかに連携しているのです。


「そんなものをどうすれば……」


 正直、阻止しようがありません。


 潜在的な協力者が多数いて、しかも協力者同士に繋がりがないなんて国でも対処できません。


「ヤツらはどこにでもいる。この、学園の中にも」


 一番、最悪な思考。

 それは魔獣信仰組織の潜在的協力者が生徒だった場合です。


 生徒の脱落は義務教育計画の終わりと言ってもいいでしょう。

 その生徒を処罰しないといけない? 自分の手で?


「そんなこと、できるはずがねぇだろ!」


 つい壁を殴ったら穴が空きました。

 怒りに沸騰した頭に冷水をぶっかけられた気分です。


 あ……、まずい。無意識に強化術式を使っていました。

 後でもらったセメントで埋めておきましょう。証拠隠滅です。


「大体、どうしてそんな形態の組織が生まれる。ありえないだろ」


 自然に形成された社会集団は基本的に上下関係です。

 命令系統が存在しない社会集団はただの群れであり、効率的な生存手段を知らない群れは淘汰されるだけです。自然が一番の敵ですからね。

 村でも村長を筆頭に、それぞれの役割を持つ長による話合いで運営していきます。


 なので基本は閉鎖的です。

 もちろん、閉鎖し続けても緩やかな衰退しかありません。

 適度に外から血を入れるか、外に血を持っていくか、色々あるでしょう。


 しかし、例えば大規模な災害――大寒波のような広範囲に複数の村が同じように飢饉に見舞われるなどすれば話は変わります。

 内紛のように領主に搾取されるのも同じでしょうね。


 協力し合う土台が出来上がります。

 しかし、あくまで土台です。


 それだって協力的になる可能性は低いんです。


 村単位で物事を考えた時、それぞれの村長はまずこう考えます。

 自分たちの村の安全が第一だ、と。

 そのことに対して悪感情なんてありません。当然のことです。


 村を第一に考えたら立ち行かないような状況でないと手を結ぼうなどと考えません。

 こうして初めて上下の塊が二つ、横並びの組織が生まれます。

 純粋に協力し合うことで利益が生まれる関係が必要なのです。

 そうやって、組織同士の連携が培われます。


 そんな過程もなく、いきなり連携し合う村なんて聞いたことがありません。


 何を第一に考えたら、そんな意味のわからない連携が取れるんですか。


「昔からいたが気づかなかったのか。近年、成長したのかは知らない。当たり前のように現れて、魔獣の素材や【魔薬】を定期的に買う顧客。私の知っている魔獣信仰組織はそれだけだ。聞きたいことは終わったか?」

「えぇ、最悪の話です」


 学園長が口に出さないわけです。

 もしも学園長が『生徒たちにも協力者がいる』と言えば不審しか招きません。


 何よりも最悪は生徒たちを信用できないことです。

 たしかに何をしでかすかわからないので、そうした面での信用性はないかもしれません。というか最近では何か起こすものだと思っています。

 ですが、『あの子たちの頑張っている部分』まで信用できなくします。


 クリスティーナ君が、マッフル君が、エリエス君が、セロ君が、リリーナ君が信用できない教師を誰が信用するのですか。

 生徒に信じてもらえない教師に価値はありません。


 どうすればこの問題を解決できる? ベルベールさんに来てもらうか? しかし、ベルベールさんを欠いた国政は危険です。特にあのバカの身を守る者がいません。

 バカ王は暗殺に対して強い警戒心と本能があるので少しくらいの期間なら大丈夫でしょう。

 しかし、リーングラードまで往復二ヶ月ですよ?

 二ヶ月の間、バカ王の傍を自分とベルベールさんが離れるのは貴族院に好きにしてくれといっているようなものじゃないですか。

 

 他にもバカ王の曖昧かつ大雑把な指揮はベルベールさんの補助がないと伝わりません。

 頭がいいくせに説明に擬音が多いんですよね。

 『バーンと行ってガーンって行ってドカーンだ!』『伝わるか!』という作戦会議が何度あったと思ってるんですか。

 正直、国政が回らない可能性があります。

 

「なら、こちらからの質問だ」


 イグレシオの話を聞いている場合はありません。

 ですが、元々はイグレシオが話をしてきたのに聞きたいことだけ聞いて『ハイ、サヨウナラ』では筋が通りません。


「貴様がもし仇に仲間になれと言われたらどうする?」

「ぶち殺しますよ。当然ね」

「それが出来なかったら」

「反吐が出ますね。ついでに顔も見たくないので自分抜きで楽しんでもらいたいところです」


 誰が好き好んで黒色ゴキブリと肩を並べないといけないんですか。

 罰ゲームですか? バカ王主催ですか?

 エス・プリムぐらいじゃ足りません。ベルガ・エス・プリムです。


 そこまで考えて、ふと気づきました。


「同感だ」


 そんな相手をリューミンはどんな気持ちで仲間にしたんですか?

 母親の仇でしょう? 殺したって文句は出ませんよ。法律的にはいけないことですが。

 補って余りあるほど憎しみを持って当然です。


「なら、どうやって憎しみは本当に晴らせるのか?」


 その疑問に自分は答えられませんでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ